130話
俺からサンセルのオッサンに引っ越し祝いとして【店舗収納】に入れたままになっていた屋敷を取り出して、新たに建物を建てるはずの予定地に設置する。
言い方が正しいかは俺自身疑問だが、屋敷を置くっていうのは、人生初の経験だ。
俺の行動を見張る為、この場に同行していたベリーさんが目を見開き驚いている。
「なんですか、これ! ホタルさん、何がどうして、廃墟が消えて、こんな屋敷が姿を現すんですか!」
大興奮してるみたいだな。まぁ、デカい屋敷だからな! 我ながら太っ腹なサプライズだと思う。
ただ、ここで1つ、いや、幾つかの問題が浮き彫りになる。
「よし! これで問題なく、サンセルのオッサン達に拠点が用意できたな! 常連の為に大盤振る舞いの大サービスってやつだな!」
豪快に笑い、日の光を浴びて堂々たる姿の屋敷を見上げているとモモからの痛烈な一撃を食らわされる。
「先輩、バカ笑いの殿様アクションみたいな笑い方の最中に言いづらいッスけど、これじゃ絶対に喜ばれないッスよ……排水、つまり水回りが繋がってないじゃないッスか」
「誰が殿様リアクションだよ、ただ……確かに、水周りが使えないってのはダメだよな? 前に天使からはズルは禁止って言われたしなぁ」
腕を組んで悩む俺にエスが背後から囁くように声を掛けてきた。
「主様……話ある」
そう言われた俺はエスに連れられ、モモとベリーさんから少し離れた位置に移動する。
「話って、なんなんだ?」
「はい、主様に提案。ダンジョンから、属性魔石を回収、設置すれば問題解決」
エスからの提案を聞き、俺は軽く悩んだ。
単純にエスの力を使って、属性付きの魔石ってやつを作れたとして、それはかなりズルい気がするんだよな?
「主様……また、馬鹿な考え……愚かな選択」
「言いたい放題だな……違ぇっての!」
俺の考えを説明するとエスは不服そうな視線を向けてくる。
「主様。とりあえず試す。ダメなら諦める」
そこまで口にするとエスは両手を重ねてから、パンッと手を鳴らす。
俺とエスの間に宝箱が出現する。
エスは悩まずに宝箱を開き、2つの宝玉と見間違うような真っ赤な玉と青い玉を差し出してきた。
渡された属性魔石を手に俺は屋敷の中に向かっていく。
室内に入るとすぐに後ろをついてきていたエスが一番奥にある部屋を指さす。
「あっちに何かあるのか?」
「主様、屋敷なんかには……属性魔石を置く場所がある」
エスの言葉に俺よりも先に反応したのは、一緒に屋敷に入ってきたベリーさんだった。
「ホタルさん、今のは普通の魔石って意味で……エスさんの言い間違いですよね?」
「いや、普通にこの2つの魔石のことだろ?」
「はい。主様の手にある水玉と炎玉を指した発言……主様、無知」
サラッとディスられたよな? いや、まぁ……無知なんだろうけど、流石に酷くねぇか?
「まぁ……知らないことを知るために人は必死に生きてんだよ。だから、説明頼む」
「主様。属性魔石はダンジョンのレアドロップ。魔物の魔石は短期、属性魔石は永久、理解した?」
エスの説明が雑すぎたので、後にベリーさんが教えてくれた。
魔物から手に入る魔石は、色々な魔導具などに使えるが時間経過で力を失うらしい。
逆に属性魔石はその属性のみにしか使えないが、永久機関として動き続ける。その為、高額なレアドロップ扱いになるそうだ。
「そうなのか? すげぇな……エス? この魔石って何個かあるか?」
「主様、何故? 2つあれば屋敷は十分使える」
「いや、ほら、それがあれば温泉なんかも作れそうだろ」
「主様……」
「先輩……」
「ホタルさん……」
何故か、全員から酷く残念な人間を見るような視線を向けられた。
いや、マジに温泉とか良くないか? などと言える雰囲気じゃないので、笑って誤魔化す羽目になった。
それからすぐ屋敷に属性魔石を設置する。
屋敷の台座には魔石を登録することができたので、悩まずに結びつけを行う。
「ま、待ってください! ホタルさん、あぁ……魔石を登録しちゃったんですかぁ……なんてことを……」
俺の行動に膝をついて、へたり込むベリーさんに唖然としていると、説明をし始めた。
「属性魔石は、1つでもオークションが賑わうほどの品なのに……何故、悩まずに……」
普段の冷静さが嘘のようにベリーさんの砕けた言葉に俺は再度、唖然としてしまった。
オークションとかは分からないが、とにかくサンセルのオッサンもこれくらい使いやすくしてあれば、十分だよな。
その後、ベリーさんが慌てて、マダムピンキーに連絡を取り始める。
再度、ギルド証越しに話をすることになってしまった。
『はぁ、やらかしてくれたわねぇ……テルテルボーイ? ベリーちゃんから話を聞いて、本当に衝撃的すぎるインパクトゥゥッ! まったく、その屋敷の扱いにすごく困っちゃうじゃない?』
「なんか、悪いな……ただ、俺はサンセルのオッサン達に気分よく仕事をして欲しいだけだからよ」
『相変わらずの無欲ねぇ……でも、そんなテルテルボーイの気持ちは素敵すぎて、感動のパ〜ラダァァイ〜ス! なら、サンセルちゃんと話を進めるのよぅ!』
『うむ、よく分からないが色々としてくれたようだね、大男君。感謝するのだよ。
ただ、今の状態だと屋敷の代金が支払えないのだよ。君のことだから、代金はいらないと言い出しそうだが、それはこちらとしては、受け入れられないのだよ』
「相変わらず、頭が硬ぇな? だからって、サンセルのオッサンには悪いが今更俺の方も引けねぇぞ?」
『困ったねぇ……』
「なら、サンセルのオッサン? これからも常連として、飯を食いに来てくれよ。それで屋敷の問題は解決だな!」
強引に話を終わらせる。長引くとマダムピンキーとサンセルのオッサンが話を蒸し返しそうだからな。
「主様……ご準備を」
そんなエスの言葉に俺が軽く首を傾げるとすぐ屋敷に、マダムピンキーとサンセルのオッサンがやってきた。
通信しながら走っていたのか、扉が乱暴に開かれた瞬間、心臓が飛び出るかと思うほどの音が鳴り、視線を扉側に向けた。
「テルテルボーイ。聞いてた以上に立派でびっくりしちゃったわぁ。こんな屋敷を一瞬で建てるなんて、秘密があり過ぎ、デンジャラ〜ス!」
「いきなりすまないねぇ。話を聞いて、急いで来たのだが、立派な造りに驚いたのだよ」
話を切り上げたのに、なんで商業ギルドマスターと、元騎士団の支部長がこんな自由に出歩いてんだよ……
「話は済んだだろ? それよりも家具は必要な物をそっちで用意してくれ、俺はあくまでも建物を用意しただけだからよ」
「いや、先輩、普通は家具を少し都合するくらいが、祝いの品だと思うッスよ。むしろ、家具でも祝いすぎなんッスからね」
それから何故か、俺の価値観や常識について、散々モモから説教をくらった。
最後にはエスやベリーさんまで俺に言いたい放題だったのは、マジに納得できねぇ、いや、流石に理不尽だろう……
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