128話
朝の目覚めと共に大きく伸びをして、1階に降りる。
日課の弁当を作っていく。
弁当箱に詰めるためのおかずを作る俺の横でアナンが不器用な手つきで必死に出来上がったおかずを並べている。
「うぅ、モモさんの代わりに頑張ってるけど、僕って、盛り付けの才能がないみたいだ……ホタル、僕はダメ人間だ」
「朝っぱらから弱気になるなって、モモも最初の頃は、似たようなもんだったからな。なあ?」
「2人とも、朝から無駄口ばっかりだと、朝食前に縫い付けちゃうッスよ? あとモモは斬新な美的センスだっただけッス!」
モモは俺達の横にある調理場で朝食の用意をしてくれている真っ最中だ。
忙しい朝に飲食店の厨房は本当に助かる。まあ、人がいればの話だがな。
そんな出来上がった朝食はエスがフロア側に運んでいき、バタバタと皆が集まってくる。
アナンは遠慮がちで、アタフタしてたがそんな姿を見たドレイクとパラが色々と教えていた。
「アナンちゃん。マスターは皆でご飯が好きなんだよ」
「うんうん。組長は毎日美味しいご飯を作るんだよ」
そんな2人に、モモが決めポーズを取ると自分自身に親指をグッと指す。
「今日の朝食は、モモが作ったッスゥゥゥ!」
まぁ、賑やかだった。
そうして、皆が朝食後に出かけていく。
俺が洗い物をしていると、エスから声を掛けられた。
「主様、お客。追い返す?」
「いや、ウチは飲食店だからな……客を追い返すなんて絶対にダメだからな……」
エスに注意をしつつ、今現在、店内には俺しかいない。
この時間、モモとドレイクの2人はゴーレム工房で色々と作りまくってる真っ最中だ。
パラとアナンはエスの手伝いで、大所帯の洗濯を担当してくれている。
そして、店に入ってきたのは──
「お邪魔するのだよ。大男君」
「サンセルのオッサン! もう身体の具合は大丈夫なのかよ」
「ホタルゥゥゥッ! キサマ、またサンセル支部長にそんな呼び方を!」
後ろから、イケメン眼鏡のエレガが大声で怒鳴ってきた。しかし、そんなエレガにサンセル支部長が微笑みながら、手を上げた。
「エレガ、もう私は支部長ではないのだよ。それと今日は朝から食事を食べに来たのだが、時間的に非常識だったのだね」
「はは、大丈夫だって、サンセルのオッサン達なら俺は大歓迎だからよ。エレガも、それに他の連中もまぁ座ってくれよ」
サンセル支部……いや、サンセルのオッサンとエレガ、それと騎士団の連中がズラズラと入ってくる。
「おーい! エス! パラ! モモとドレイクを呼んできてくれ!」
外に向けて声を出すと先にパラがトタトタと走ってくる。
「組長、すごい! 人がいっぱいいるーーー! セスも、呼んでくるねぇ〜!」
店の中に人が溢れている光景にパラが牛舎の世話をしているセスまで呼んできてくれた。
そんな中、逆にアルムさん達が配膳を手伝うと言い出し、水を配っていく。
そうしている間に、モモ達が戻ってきたので、久々に飲食店モードに入る。
「ホタル殿! 早速なのだが、注文を聞いてきて良いだろうか?」
アルムさんの声に俺も笑いながら返事を返す。
「頼む! モモは俺のサポートを、ドレイクとパラは、おしぼりを配ってくれ、エスとアナンは皿の用意をしてくれ」
各々ができる仕事をこなしていき、ドリップした珈琲をエスとアナンが席に運ぶ。
厨房側の俺とモモはフワフワのチーズオムレツとサラダ作り、ベーコンやウィンナーなどを焼いていく。
「Aセット先を出すから頼む! Bセットの目玉焼きを焼き始めるぞ」
朝食メニューは全部で5セットある。
・Aセット──チーズオムレツ・トースト・ミニサラダ。
・Bセット──目玉焼き・ウィンナー・トースト・ミニサラダ。
・Cセット──スクランブルエッグ・ベーコン・トースト・ミニサラダ。
・ホットドックセット──ホットドック・ミニサラダ。
・サンドイッチセット──サンドイッチ・ミニサラダ。
すべてのセットにドリンクが選べる為、珈琲以外にも数種類の飲み物を用意しているが、サンセルのオッサンが珈琲を選んだからなのか、ドリンクだけは皆、珈琲になった。
賑やかすぎる朝食ラッシュを肌に感じながら、すべてのメニューをなるべくバランスよく出していく。
「ふぅ、やっと終わったな。モモ、みんなもお疲れ様だな」
「本当ッスよ、普段は閑古鳥ッスから、いきなりの本気モードは、デスゲームッスよ」
そうして、ウチの連中に感謝しつつ、カウンターに腰掛けて、珈琲を飲んで一息入れる。
普段なら一服するタイミングだが、まだ食べてる客がいる以上は我慢だな。
「大男君、いきなり悪かったねぇ、事前に連絡してから来ればよかったのだろうが、配慮が足らなかったね」
背中側からの声に振り向くと、どこか優しげな……いや、むしろ、何かから解放されたような表情のサンセルのオッサンが珈琲カップを手に立っていた。
「気にすんなって、予約は大切だけどよ。イレギュラーがあるから、飲食店なんだしよ」
「そうかね。座らせてもらうよ」
サンセルのオッサンが腰掛ける。
「我々に我慢する必要はないのだよ。アルムから聞いているのだよ。“いっぷく”とやらを大切にしているのだろう?」
「流石にそれは……」
「構わぬよ。ただ、よければ、いっぷくとやらに、私も付き合わせて貰えないかね?」
俺はポカンっとしてしまった。それからすぐに胸ポケットに手を伸ばし煙草を取り出して、一本差し出す。
「すまないね……君とこの葉巻を口にするのは2度目だね……不思議なものなのだよ」
「そうだな、初めてライムの街に来て、すぐに騎士団に連れてかれたからな」
サンセルのオッサンとたわいない話をしながら、俺は疑問を口にする。
「まぁ、色んなことがあるよな……それで、聞きそびれたんだがよ? 騎士団の連中を連れてどうしたんだ? まさか、復帰することができたのか?」
「ん? 騎士団にかね? あはは、むしろ、逆だと言う他ないねぇ。まったく、独身の馬鹿共が騎士団を辞めたと、治療師ギルドに来てねぇ、本当に……馬鹿すぎる話だと思うのだよ」
「あぁ! 全員辞めてきたのかよ!」
「家族がいる者は少なからず、騎士団に残ったね。ただ、騎士団に愛想を尽かした者は別の職に、残ったのが、今ここにいるというわけだね」
頭を抱えたくなる程の脳筋……いや、これが義理ってやつなのか……
「それで、これからどうすんだ?」
「む、これからか──」
サンセルのオッサンに話を振ったが、俺は待ったを掛けた。
「悪い、モモ、今日は少し飲みながら話したいんだ。グラスを用意してくれ、酒は俺が出すからよ」
「先輩、座ってていいッスよ。モモが選んでくるッスから、あと他の人には出さないッスよ! 先輩とサンセルさんだけッス!」
しっかりと念を押された後、モモは俺のコレクションケースから、一番高い酒を持ってきた。
「先輩、ヤロウが最高の話をする時は、いい酒で話せって、モモのママが言ってたッスから、今日だけッスよ」
そうして、俺はサンセルのオッサンが手にしたグラスに最高の酒を注ぎ、軽く互いのグラスを鳴らした。
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