126話
騎士団で俺は、知らない他人と箱を通して話をつけた。
ただ、その後に俺はモモに殺される結果になった。
実際に【身体強化】が間に合わず、肋骨を1本砕かれた瞬間はマジに死んだと思ったからな。
まぁ、だとしても……モモがキレた理由も間違いないから、言い訳できねぇがな。
何より、しっかりと治療師ギルドに引きずってきてくれたみたいだしな……
俺と箱の間での会話──
『何が望みかね? 騎士団の支部長の座かね? 更に上の地位かね? 金だと言うなら、話が早いのだがねぇ』
「おいおい、やめようぜ? 腹の探り合いっていうより、餌を撒いて釣り上げようってのが、見え見えなんだよ」
『ふふふ、君は面白い存在のようだ……ただ、こちらも時間が惜しい。要件を言いたまえ』
「なに、話は単純だ! アンタの方からしたら、全部の責任をどうするかってのが問題になるんだろ? 話は聞いてんだ。なら、アンタの知らない襲撃犯は皆、死んだ。その際に襲撃犯に僕っ子も死んだってことにしろ!」
『こちらの知らない襲撃犯がすべて死んだとして、なぜ、テイユ・アナン視察官が攫われた話になるのかね? 何より、こちらとどう関係があるのかね……一般人君』
「単純だ! 俺がこいつを貰う! 新しい身分証くらい作れんだろ?」
俺は僕っ子本人から、両親も親戚もいないからこそ、必死に勉強をして、食べることも我慢して参考書を買い漁り、寝ることすら我慢して生きてきたらしい。
だからこそ、僕っ子には悪いが、この箱の先にいる奴は、僕っ子に対して興味も価値も見出していないんだと思う。
『ふふふ……ただ、それが出来たとして、やはり、こちらには、いい条件とは思えないのだがね』
「悩むような話じゃねぇだろうが? そっちは1人視察官を失う代わりに一般人を1人、俺に差し出すだけで、問題を解決できるんだぜ?」
『まるで悪魔の囁きじゃないか……わざわざ、他人に聞かせるような言いぶりまでして、その場にテイユ・アナン視察官もいるのだろうね……』
その後の話は、僕っ子と箱で話をしていき、俺は静かに展開を見守った。
その間、俺はモモから凄まじい勢いで下から睨みつけられジト目を向けられている。人助けだってのによ……
『そうかね……ただねぇ……テイユ・アナン視察官……その約束を守るという保証が得られないとねぇ』
「ぼ、僕は……死にたくないです……死ぬくらいなら……すべて捨ててでも、生きたいです」
『答えになってないねぇ……ただ、そうだね。こちらとしても、行き違いでずっと揉めているのもよくないからねぇ……キミの保証人は一般人君になるんだろうからねぇ……だから、賢いキミに質問しよう……キミは誰かね?』
「僕は……名無しです。逆にお聞きします……僕は、誰でしょうか……」
泣き出しそうな僕っ子は必死に声を抑えながら、質問をする。
僕っ子が積み上げてきた人生のすべてが失われていくようなやり取りだった。
砂浜に作られた砂の城が波に攫われて、最初から何も存在しないと自覚させられるような光景にしか見えなかった。
『ふふ、キミはやはり賢いようだな……ユエツ・アナン、それが今この瞬間から、キミの名前だ……アナンなど、よくある名だからね。間違うこともないだろう……それでは、二度と会わないことを願うよ。ユエツ・アナン君、そして一般人君、さらばだ』
ゴードンの握っていた箱から輝きが失われ、ゆっくりとひび割れると砂になり崩れていく。
「話はついたみたいだな」
「うん……アナンって名前が残ったから……良かった……僕、全部なくなっちゃったんだよね……ずっと頑張ってきて、ひっしに、が、頑張って……それで、それで……うぅ……うわぁぁぁ」
「大丈夫だから……僕っ……いや、アナン、お前はよく頑張ったからよ。むしろ、偉そうなこと言ったのに悪かったな」
「うぅん……あり……がとう……僕、いぎでるんだよね……いぎでるんだよね……」
頭を撫でて、軽く抱きしめてやると、ダムが決壊したように、アナンの瞳からは大粒の涙が流れ出していく。
我慢し続けたせいなのか、緊張の糸が切れたからなのか、俺に泣きつくアナンはただの幼い少女でしかなかった。
「泣くなってのは、無理だよな。むしろ、しっかり泣け。泣きまくったら、笑えるように考えてやるからよ」
「うん……うん……僕を……ごれから、よろじくお願いじます……僕、がんばるがら……がんばるがら……」
とりあえず、気絶したままのゴードンを放置して、俺達は中庭の倉庫を通って、水路から外に移動する。
その際にしっかりと水路に続く道は倉庫側から粉々に崩させてもらった。
逆恨みで水路から襲撃者なんてのは、ごめんだからな。
そんな水路の出口で突然モモに脇腹をツンツンと人差し指で突つかれる。
「なんだモモ? どうしたんだ」
「先輩? 物事にはケジメがあるッスよね?」
「まぁ、そうだな」
「それでなんッスよ……女の子をどんな理由があったとしてもッスよ……いきなり手篭めにするような種馬根性には天誅ゥゥッ!」
やべぇ! 【身体強──ぐはぁ……
ストレートに決まった。脇腹に拳がめり込んだって、息が……ばかやろう……手加減ってやつが、無理か……
「え、ええぇぇぇ! ホタルさぁぁん!」
アナンの声が響いてるが、モモ……が、マジにやべぇ……
そうして、俺は治療師ギルドで目を覚ました。
よく見れば、不思議な光景が広がっていた。
俺の側には腕組みして椅子に腰掛けるモモ。
不安そうに俺とモモの顔を見ているアナン。
腕組みして、プンスカしてるドレイクとパラ。
いつから合流したのか、ソマリとポメラ。
ティーポットから紅茶をカップに注ぐエス。
「なんで、ウチの連中がこんなにいるんだ? ってか、カイト達もだが、皆の飯は大丈夫なのか?」
俺の言葉に、呆れた表情を浮かべたソマリとポメラが返事をしてきた。
「ボロボロホタルは、相変わらずだな。むしろ、ボク達のご飯より、自分を心配するんだぞ?」
「間違いないぞ。オイラ達からしたら、ズタボロホタルの方が心配だぞ!」
次にエスが紅茶を手渡してくる。
「主様、モモから聞いた。種馬なら、先に手を出せ。序列は大切」
口にした紅茶を盛大にぶちまけそうになったが、言葉の意味を理解できなかったのか、ドレイクとパラはキョトンとしていた。
モモはエスの襟首を速攻で掴み、廊下に引きずられていく。
そうして、残された俺にアナンがキョロキョロしながら、泣きそうな目で見つめてきた。
「僕、手篭めにされるの……でも、覚悟はできてるから……」
「覚悟決めてんじゃねぇって、はぁ……エスのブラックジョークだ……本気にすんなよ」
色々と不安だろうが、アナンの安全を考えた結果だから、我慢してもらうしかないな。
その後、モモに叱られたエスが戻ってきたので、治療師ギルドにゴル金貨2枚、つまり俺の分とサンセル支部長の分を支払い治療師ギルドを後にした。
俺の左右後ろから、ウチの連中がぞろぞろと続き、朝市を逃していたので、とりあえず商店などで買い出しを再開することにする。
ただ、女性が集まれば、買い物に衣服なども含まれる。長い買い物になりそうだな。
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