125話
騒がしく噂と事実が入り交じるライムの街で噂を確認する為に野次馬根性の住民などは騎士団に話を聞きに走り、新たな騎士団長であるゴードンについて調べ始める。
僅かな時間で俺の耳にそんな話が入ってくるのだから、情報は金であると同時に客引きの道具になるのだと、商人や街の連中を見て再確認させられた。
そんな俺達は、治療師ギルドでサンセル支部長が横になるベッドを見ながら、部屋のソファーに腰掛けていた。
「ふぅ、治療そのものは無事に終わりました。傷が小さいにも関わらず、深く抉れてたから、連れてきて正解だった。ただ、貴方達は本当に……非常識な人だ」
治療師ギルドの姉ちゃんから非常識という太鼓判を押されたが、今回はしゃあねぇよな。
以前にモモの傷を癒した治療師の姉ちゃんが、ジト目を向けてくる。
顔を隠したまま、目だけが見える状態からのジト目は破壊力ありすぎるんだがな……
「悪かったって、騒ぎが落ち着いたら、しっかりと支払うからよ」
「当たり前です。治療師ギルドでツケにて治療しろなど本来はありえないですからね。対象がサンセル支部長だから、例外中の例外です」
手厳しいが、サンセル支部長だからってのがいいじゃねぇか。そんだけ騎士団とサンセル支部長が積み上げてきた結果だろうからな。
「先輩? それよりもそこでビクビクしてる生意気だったガキンチョはどうするッスか?」
少しトゲのある言い方が気になるが、いや、明らかにトゲどころか、釘バットくらいの威圧感があるんだよな。
「モモ、そう言うなって、それに今頃は、騎士団も大騒ぎだろうからな……サンセル支部長の迎えが来たら、俺達も動かないとだろ?」
「動くって! 先輩……また、無駄に首を突っ込むんッスか……いつか伸ばした首がスパってされたら笑えないんッスけど」
「むしろ、先に俺達に喧嘩を売ってきたのは、あっちだからな、まだ100倍返しにはほど足りねぇからな!」
勢いで話を進めていると、治療師ギルドの扉が乱暴に開かれる。
「ホぉぉぉタぁぁぁルぅぅ! サンセル支部長は無事なんだろうなぁぁぁ!」
相変わらず元気なやろうだな……
呼ばれたので、とりあえず廊下に顔を出し、イケメン眼鏡のエレガを手招きしてやる。
泥汚れが酷いな……見舞いなら、少しは綺麗にしてから来いよな……衛生概念って言葉を知らねぇのか?
「よう、イケメン眼鏡。サンセル支部長ならこの部屋だ。早くこいって」
「言われなくてもすぐに行く! それと、イケメン眼鏡じゃなく! エレガだ!」
エレガは勢いよく室内に入ってくると心配しながら、サンセル支部長に向けて涙を流している姿はなんとも言えねぇな。
「そんじゃ、サンセル支部長は任せたぜ。俺は喧嘩の続きをやってくるからよ」
「何を1人で行こうとしてるんッスかぁ! モモも行くッスよ」
「マスター! ドレイクも行く!」
「組長、パ、パラも!」
いや、ドレイクとパラはダメだろ?
少し悩んでいると、そこに震えた手が伸ばされる。
「ぼ、僕も……関係者だから……」
「いや、僕っ子は十分に頑張っただろうが? 今から向かうのは、お前にとって嫌な場所でしかねぇぞ?」
「それでも……僕の仕事は……騎士団の視察官で、揉めてるまま帰るなんて、できないから」
はぁ……真面目か! 本当に、喧嘩に向かうって言ってるのになんでそうなるかなぁ。
話し合った結果、ドレイクとパラが納得しないので、仕方なく2人をエレガに任せることにした。
「お、おい! なぜお前のところの子を置いていく! サンセル支部長の警護の為に来たんだぞ! 待て、ホタルーーー!」
俺とモモ、ついでの僕っ子を連れて、俺達は騎士団に向かう。
騎士団の前には既に大勢の野次馬が集まって騒ぎになっていた。
ただ、1つ違和感があったのは見張りがいるはずの門に誰も立っていないことだ。
とりあえず、そこら辺にいる野次馬に話を聞けば、門を閉ざしたまま、騎士団からは動きがないという事実だった。
「誰も出てきてないのか?」
「あ、あぁ、ずっと話を聞きたくて、門の前にいるが、誰1人出てきてねぇよ」
なら、エレガの奴はどうやって出てきたんだよ?
「いきなり、悪かったな。あんがとよ」
俺は野次馬との話をモモと僕っ子に伝える。
「って、ことで、誰も騎士団から出てないらしい……強行突破ってのもなぁ」
俺の言葉に僕っ子が手をゆっくりとあげる。
「えっと、中に入るだけなら、僕とサンセル支部長が逃げてきた通路があるよ……」
俺とモモは僕っ子の発言に頷いた。
「それだ!」
「それッス!」
とりあえず、僕っ子を脇に担ぎ、移動しようとすると、モモがシャツをガシッと掴んできた。
「先輩! モモも体力温存のために先輩が連れて行くッス!」
いきなりの発言に俺は動揺したが、悩むのもダルいので、2人を担いで移動を開始する。
サンセル支部長を見つけた水路に辿り着くと悩まず中に走っていく。
勢いで突撃したが、結果、俺は狭くなる通路で身を縮めて進むことになっていた。
「先輩……肩幅を縮めるッス!」
「無茶言うな……むしろ、頭が削れるから、引っ張るな」
「頭はもう諦めるッス! 頭部から髪がなくなっても、あまり変わらないッスよ!」
そんなやり取りをしながら、最後には物置の扉を内側から蹴破ることになったが、無事に騎士団の中に侵入することができた。
「さて、新しいライム支部の支部長さんに、身内を襲ってくれた落とし前ってやつをしっかりと払ってもらうとするか!」
「だから、先輩……それじゃ、単なるヤクザ屋さんッスよ……はぁ、本当に戦闘民族ハゲチャビーッスか?」
とりあえず、コミュニケーションの拳骨をモモにプレゼントしてから、俺達は騎士団の中を案内無しで進むことにする。
ただ、騎士団の中を進むにつれて、俺達は首を傾げることになる。
普段、賑わっていたはずの訓練場にも食堂にも、騎士の姿がなかった。
「先輩? 来る場所間違えたんじゃないッスか? 誰もいないッスよ」
「だな? いや、ただなぁ……騎士団で間違いないよな?」
とりあえず、サンセル支部長が普段使ってた部屋に向かえば、廊下まで響くような怒りに満ち満ちた大声が聞こえてきた。
「話が違うではないか! キサマの指示に従い、長い時間を掛けて、クソガキのお守りをして来てやったというに! これでは何一つ意味がないではないか!」
『騒がないでくれたまえ……ゴードン君。ただねぇ、君達は幾度もチャンスがあったにも関わらず、テイユ視察官を生かしているじゃないか……違うかねぇ?』
「ですが!」
『ですがは、いらないのだよ……ゴードン君。早い話だ。テイユ視察官を何とか──』
ダメだな……無駄にデカい声で喋りやがって!
「邪魔すんぞ!」
「なんだキサマ! や、やめ! ぐぁ──」
『どうしたのかね、ゴードン君?』
部屋に入ると、室内にはゴードンしか居なかった。
ゴードンの手には四角い箱が握られており、箱から声が聞こえてきていた。
「箱の先にいるのが誰か知らねぇが? ゴードンは疲れて寝ちまったぞ? それより勝手に切るなよ? 通信系の魔導具だよな、切ったら騎士団が一般人に負けたって言いふらしてやるかんな!」
『ッ! ふぅ……話を聞こうじゃないか、一般人君。何かね?』
「単純な話だ。アンタらも今回の裏情報は表にしたくねぇんだよな?」
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