122話
──サンセル支部長視点──
長かったのだよ……この街に配属された日から、どれ程の太陽と月を見たのだろうね。
騒がしかった執務室には、静寂だけが残されていた。
本来の執務室はそういう場所であり、先程までの騒ぎが異常なのだね。それでも久しぶりに身体が熱くなってしまったよ。
引き継ぎ用の書類をまとめ、騎士団ライム支部がどのようにライムの街で存在してきたのかを書き記していく。
そんな執務室の扉が乱暴に開かれる。
「サンセル支部長! 失礼致します」
「ノックを普段から徹底しているはずのキミが騒がしいねぇ、どうしたのだね? エレガ副長」
額に汗をかいたエレガ副長に正直、驚いたのだよ。冷静で規律に厳しく、普段から騎士の誇りと正しさを重んじる堅物だと思っていたからね。
「サンセル支部長、何があったのかをお聞かせください! 私がいない間に、奴らが何かをしたのは明白でしょう!」
「落ち着きたまえ? 何があったのかも報告書を確認すれば済む話ではないか、違うかね?」
「支部長自ら部下に報告書など、それ自体が異常だと言っているのですよ!」
「まったく、初めて騎士団で見た頃のキミは他人に興味を示さず、他者に価値を見い出さない人間だったのに、時の流れというやつなのかねぇ?」
エレガ副長は、納得してくれないらしいね。喜ぶべきか、残念に思うべきか……こうなると残酷なのだよ。
「エレガ副長、1つ頼めるかね?」
「話し中です! いえ、失礼しました。ご用件は?」
「なに、テイユ・アナン視察官殿を今すぐに呼んでほしいのだよ。部下を何人連れて行っても構わないから、頼めるかね?」
「……承知いたしました。今の言葉ですと、護衛の騎士達は無用という判断で宜しいでしょうか?」
「その為に、部下を連れて行くようにと伝えたのだよ。その際に、しっかりと私が呼んでいると伝えるのだよ。いいね?」
エレガ副長が頭を下げてから、部屋をあとにした。
それから暫くして、エレガ副長がテイユ・アナン視察官を連れて戻ってきた。
「失礼いたします! サンセル支部長、副長エレガ、ただいま戻りました!」
室内に入ってきたエレガ副長と、その後ろからテイユ・アナン視察官がとぼとぼと歩いてきた。
そうして、確認をすれば怯えたテイユ・アナン視察官の表情に視線が向かってしまう。
「いきなり悪かったのだね。先程帰したばかりでのお呼び立て、大変申し訳ないのだよ」
「い、いえ……僕に用があるとのことで……」
怯えながら、そう答えたテイユ・アナン視察官を椅子に座らせると、エレガ副長は扉側に待機する。
「紅茶でよろしいですかな?」
テイユ・アナン視察官が頷いたので、人数分の紅茶を部下に頼んだ。
──テイユ・アナン僕っ子視点──
怖すぎだよ、なんで僕があんな目に合わないとならないのさ……
サンセル支部長の執務室で一般市民の2人に守られた後、一度騎士団の用意した宿屋に戻っていた。
護衛って言いながら、なんて役に立たない人達なんだ……実際に僕は死にかけたんだし、文句の1つも言わないと!
宿屋につき、護衛騎士用に用意された部屋の扉をノックする。
返事が返されたので、扉を開くと、治療師ギルドの人間を呼んだのか、ゴードン護衛騎士団長がベッドに腰掛けて酒を飲んでいた。
部下の騎士達も同様に酒臭く、本当に護衛なのかと疑いたくなった。
「なにをしているんだい! 君達は僕の護衛だったはずだろう!」
僕の声に、ゴードンさん達が怖い顔をして睨んできた。
「これはこれは、視察官殿、無事に帰ってきたようで安心しましたぞ。いやぁ、よかった……」
口で語る言葉が終わると手に握られた酒瓶が口に運ばれていく。
当然普通ならありえない行動であり、僕は不信感を通り越して、嫌悪感すら感じてしまった。
「君達は、護衛なら最後まで僕を守るのが当然じゃないのか! それが酒を飲んで……おかしいよ!」
僕は間違ってない。むしろ、はっきりと言わないと、立場を勘違いしたままになると、僕のこれからの仕事にも支障がでるからね。
「言いたいことはそれだけですかい? それなら、お引き取りください。視察官殿」
「な! 僕は!」
「帰れって、護衛の任務は、基本、ライムの街に入るまでと、支部内でのみってアンタの上司からも言われてんだよ。それとも、四六時中一緒にいたいのか?」
「……わかった。もういい。本部に戻った際には、酒のせいなどと言い訳をするなよ!」
返事を聞く前に、護衛騎士の部屋から出て扉を閉める。
室内からは怒気を含んだようなゴードンの声が聞こえたので用意された隣の部屋に戻ることが出来ず、慌てて宿屋から外に向かって駆け出していた。
宿屋を出ると、ライム支部の刺繍がされた制服を着た騎士達が宿屋の前に集まっていて、僕の存在に気づいたのか、眼鏡を掛けた男性が歩いてくる。
「失礼、間違っていたら申し訳ないのですが、テイユ・アナン視察官殿でよろしいでしょうか?」
「え、あ、そうだけど……」
「そうですか。大変申し訳ないのですが、サンセル支部長が視察官殿に話があるとのことで、お迎えにあがりました。お手数ですが、ご一緒に来ていただけないでしょうか?」
僕は本来なら、護衛を呼ばないとダメだってわかってる。それでも、今の護衛達は、僕の為に同行するわけないんだ。
「分かりました。同行しますので、案内を」
騎士団の馬車に乗り、帰ってきた道をまた騎士団へと向かうことになった。
──サンセル支部長視点──
「呼び出して悪かったのだよ。ただ、タイミングを考えれば、今はこの場にいた方が安全だと判断したのだよ」
「安全って、僕には……護衛騎士が……」
「……1つ忠告なのだよ。身近にいる他人ほど厄介な存在はいないのだよ……意味が分かると助かるのだがね」
「そ、そんなわけ……僕は、将来を期待されて……」
この様子だと何か、あったらしいね……
「本来なら、護衛もいるかと思っていたが、エレガ副長の服が綺麗な状態のままだからね。何があったか話して貰えると嬉しいのだがね」
そこから、話を聞いてみれば、護衛騎士と言いながら、なんとも嘆かわしい。
「不安だっただろうね。先に言うべきか分からないがね。この場にキミを傷つける者はいないのだよ」
「……話はないみたいだね、それなら僕は帰るよ。護衛もいないまま、この場にいたら、サンセル支部長が変な疑いをかけられるだろうからね……」
震えた手で強がるアナンの姿は見ていて痛々しいものがあった。
「エレガ副長。アナン視察官殿に部屋を用意してくれ、見張りには女性騎士を、わかったね」
「了解しました。失礼いたします」
その日の夜中、騎士団にアナン視察官の護衛騎士がやってきた。
「サンセル支部長! ただいま、門の前に視察官殿の護衛騎士だという者達が視察官殿を出せと騒いでおります!」
騎士の1人が報告に来て、私は軽く溜め息を吐いた。
「やはり、静かに朝を迎えるなどありえないのかもしれないねぇ……」
執務室から門に向かい、護衛騎士達の前に出る。
「申し訳ないが、視察官殿は、疲れて眠られているのだよ! なので、視察官殿にはライム支部にて休んでいただく! 明日の朝には引き継ぎも済むのだから、お引き取り願おう」
そう伝えて私は執務室に戻ることにした。
お読みいただきありがとうございます!
もし少しでも『蛍とモモの掛け合いが面白いな』『続きが気になる』と思ってくださったら、ページ下部の【☆】や【ブックマーク】で応援していただけると、ハゲみになります……!(毛根的な意味で)
☆ギャグが笑えなくても、クーリングオフは勘弁してください。




