120話
奇跡の出会いがあった。1人の僕っ子なガキンチョを巡り騎士団と争う先輩は優秀にして完璧な仲間と共にクソッタレな飛び込み騎士と戦い、僕っ子に仕方なく手を伸ばす。
「約束だからな!」
涙を流す僕っ子は先輩の手に掴まれ、身を委ねる。誰にも邪魔されることのない約束を果たし続ける為に、無限の繋がりが生まれた瞬間だった。
優秀な仲間の美少女は陰ながら、アドバイスをしていたことも忘れない。
「どうッスか? 今の先輩のやってることを正当化した素晴らしい報告書だと思わないッスか!」
未だに、100叩きの真っ最中だった俺の横で、モモが騎士相手にポエムみたいなことを言いまくっていた。
困り果てる騎士を尻目に俺も僕っ子へのお仕置として始めた、100叩きパート2も198回目に入り、残り2回で終わろうとしている。
「ごめんなさい……謝る、反省した……サンセルさんを呼び捨てにしないから、もう……叩かないでぇ……痛いの」
少し可哀想になってきた……なにより、あと2回くらいサービスしても問題ないよな。
「先輩……あと2回ッス、しっかりやるッスよ。やらないなら、モモがやるッス」
僕っ子がビクっと身を震わせて、早くやれと急かされたので、軽く叩き終わらせた。
「うぅ……僕にこんなことを、でも、今回は許すからな、許したから、もう近寄るなよ!」
俺の手から離れた僕っ子は必死に距離を取り、視線を逸らして溜め息を吐いているサンセル支部長の元に移動する。
「サ、サンセル支部長……あ、い、あの方は誰なんだ! 普通に一般市民と言ったのに!」
「ですから、お伝えしたはずです。大男君、いえ、ホタル君は、規格外であり、過去の報告を確認した際には、ビッグエイプの単独討伐、盗賊の捕縛、魔物が暴走した際には、グレイベアを少なくとも3体を討伐と……わかっているだけで、疑いたくなる内容ばかりですよ」
俺に聞こえるように説明するサンセル支部長が視線を俺に向ける。
「ただ、まさか……私の見てる目の前で、すべてを実行するとは思わなかったがね……はぁ」
当然ながら、今の状況は軽く言って最悪だ。
ボコボコにした、僕っ子の護衛騎士達、俺と拳で対話した騎士団の奴ら、溜め息混じりのサンセル支部長、その横で姿勢を低くしてジト目の僕っ子。
「はぁ……大男君、あまり言いたくないのだがね……大人しく捕まってくれるかね? 喧嘩として認めた対象は男性騎士のみなのだよ。テイユ・アナン視察官は対象外なのだよ」
「いや、ていゆあんな? って誰だ?」
「テイユ・アナンだ! 僕の名前を間違えるな! 一般市民!」
勢いよく、俺に注意をするアナンの背後にモモが移動するとありえない速度で両手を掴み、動きを封じる。
俺も含めて、その場の全員が慌てたがモモは勝ち誇ったように笑った。
「女の子同士の、スキンシップは男子禁制ッス! ゆっくり仲良くなるッスよ、ねぇ、アナンちゃん?」
「や、やめ、だ、誰か……」
絶対にアナンが助けを求めたように見えたが、サンセル支部長が視線を逸らしたので、俺もそれを受け入れた。
「さ、さて、大男君、素直に捕まってくれるかね?」
「はぁ、それは酷くねぇか、後出しジャンケンは嫌いなんだがな?」
「すまないね。ただ、喧嘩の対象に女性を含むような外道だと思ってなくてねぇ。言葉の通りの外道ならば、残念でならないのだがね」
ただ、朗らかな笑みを浮かべるサンセル支部長に俺も笑みで返す。
「わぁった降参だ。むしろ、男がそんな笑みを浮かべる時は別の話があるんだろ?」
そうして、俺は牢屋ではなく、サンセル支部長の執務室へと通された。
因みにモモのやつは、何故か僕っ子ことアナンとゲスト用の応接室に移動した。
あの様子だと、ガチに僕っ子の方が心配なんだがな。
「すまなかったねぇ。大男君、実を言えば、私も限界なのだよ。今回、視察官が送られた事実を考えれば、この支部とも別れの時が近いのだろうね」
「なぁ、サンセルのオッサン。そんな隠居みたいな言い方すんなよなぁ、聞いてるこっちが滅入るっての」
「ふふっ、大男君からそんな言葉を掛けられてしまうなんてね。実際に大男君が騒がなければ、あのゴードン騎士団長がライム支部を兼任する予定だったのだよ……」
話を聞いてて、げんなりした。
何より、あのゴードンってやつが支部長とか、ありえないだろうが……
「そうなったらどうする気なんだよ?」
「そうだねぇ。実際に支部長の任を解任されれば、事実上の解雇扱いだろうね。今回はライムという大きな街で騎士団の信頼を失墜させたのだからね」
俺が来る前に話は決まってたらしいな。むしろ、決まった話を伝えるためにアナンが送られて来たって感じらしいな。
「オッサン、マジになんにも出来ねぇのか?」
「買い被りすぎなのだよ。支部長としての立場は、然程高くないのだからね」
僅かな沈黙だった。静寂なんて優しい言葉を使えれば嬉しかったが、そんな雰囲気じゃねぇな。
しかし、そんな静まり返った十数秒は瞬く間に消え去る。
ノックも何もなく、勢いのみで開かれた扉、廊下から入ってきたのは、僕っ子だった。
「頼む! 一般市民、この女から僕を助けろ、いや助けてくれぇ!」
「ア、アナン殿?」
サンセル支部長にしては、あまりにマヌケな声を上げる。
「サンセル支部長! 早く、一般市民に僕を助けるように言うんだ!」
「待つッス! まだ教育途中ッスよぉぉぉぉ!」
僕っ子の表情が涙目になり、俺の背後に回り込み、小動物のように震えている。
「モモ、それくらいにしてやれって……ガキを教育って言葉でイジメるのはマジに良くねぇぞ?」
「先輩……その言葉はモモの中で宣戦布告ッスよ? タイタニックよりも戦艦大和扱いで沈めるッスよ?」
「いや、お前、例えが船ってどうなんだよ。他にも色々あるだろうが……」
その後は、モモが好きなだけ海老パーティーを許すことで話がまとまった。
俺の背後でモモにジト目を向ける僕っ子に俺は視線を向ける。
「見てたら分かるだろうが、話はついたぞ?」
「あ、あぁ、か、感謝するぞ。一般市民……ありがとう」
そんなやり取りに、サンセル支部長が咳払いをする。
「扉の前の君達も、見物はやめたまえ、まだ職務があるだろう? 違うかね」
開かれた扉から室内を覗いていた騎士達が慌てて駆け出していった。
その後はモモと僕っ子を交えて、話し合いが再開する。
話し合いの中でサンセル支部長に本気で止められたが、僕っ子には支部の件について、再確認させて貰った。
当然ながら、僕っ子は早い話がただのメッセンジャーに過ぎなかった。
逆に言えば、支部長クラスの人間に解任などを言いつける場合、謀反が起こる可能性が少なからずあるらしい。
その事実はサンセル支部長が、落ち着いた声で語ってくれた。
「私を確実に支部長から蹴落とす方法がわかるかね? テイユ・アナン殿?」
「あ、当たり前じゃないか! 僕は選ばれた視察官なんだよ! 本部からの通知書を渡して、解任を伝えれば済むじゃないか」
「過去にそんな綺麗な形で騎士団長や支部長を辞めた存在などいないのだよ……」
それは俺が今まで聞いたサンセル支部長の発した声で一番低く、重苦しいものだった。
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