119話
僕っ子の声が騎士団の廊下に響くとすぐに大勢の騎士達に俺達は取り囲まれた。
その中にはサンセル支部長の姿もあったが、額に手を当てて、苦悩の表情を浮かべているのが見えた。
「はぁ、説明を頼めるかね? なぜこの場に大男君がいるのかね」
サンセル支部長の言葉に、案内をしてくれていた騎士が前に出て敬礼をする。
「発言致します! ホタル殿は、騎士団の表門にて、騒ぎを起こしていた罪人の捕縛に協力していただいた為、話を伺う必要があり、同行していただいている最中であります!」
「ならば、なぜ壁際に、視察官護衛騎士団長のゴードン殿が倒れているのかね?」
「……は、はい! 視察官護衛騎士団長ゴードン殿ですが! ホタル殿のお連れ様であるモモ殿をその……」
俺に一瞬視線を向けた騎士を見て、俺は口を挟む気はなかったが、口を開く。
「モモ、悪りい。耳を塞げ、全力でだ」
俺の言葉にモモはしっかりと耳を両手で抑えたので、モモの頭を軽くポンと撫でてから、サンセル支部長に視線を向ける。
「ウチのモモを“猿”扱いしただけじゃなく、“娼婦”って抜かしたからだ。だから、ぶっ飛ばした」
説明をするとサンセル支部長は苦い表情を浮かべた後に、深い息を吐く。
「それならば、咎められないね。逆にあれくらいで我慢してくれた事実に騎士団として感謝するよ」
サンセル支部長の言葉に反応したのは、僕っ子だった。
「いやいや、ダメですから、何を言っているのかわかってるのかな? サンセル……支部長、今の話を聞いていれば、彼は一般市民、そんな彼が騎士に手をあげたんだ! 立派な犯罪者じゃないか?」
「犯罪者だ?」
俺の低い声に僕っ子が身体を一瞬ビクつかせた。
「そうさ、そうに決まっているじゃないか! 僕達、騎士団は日々、平和の為に働き、この“ネハン王国”に暮らす民を守る為に!」
「民を守る騎士が、俺のツレを娼婦扱いしたから、笑って許せってのか? なら、俺が本気で犯罪者になったら、あのバカ野郎をフルコンボしてもいいわけだな?」
そこまで、口にするとサンセル支部長が僕っ子の前に立ち、鞘に手を伸ばす。
「大男君、冷静になりたまえ。今の発言は不問になるように私からも最善を尽くすと約束しよう」
「サンセル、支部長……何を慌てているんだ? 僕からすれば、相手は彼とそのツレの少女が1人、つまりは2人を捕えるだけの話じゃないか?」
僕っ子の発言にサンセル支部長は視線を俺に向けたまま、返答を返す。
「失礼を承知でお伝えするが、大男君が本気になれば、どれ程の被害が出るか未知数なのですよ。更にお伝えするなら、あの少女、モモ君もエレガ副長を瞬殺することのできる人物です」
僕っ子の表情が厳しいものになると、僕っ子は片手を上に伸ばして声を荒らげる。
「サンセル! 今の発言は騎士団に対する軽視と取るが構わないな! たった2人を相手に騎士団に重大な被害が出るだと?」
「失礼ながら、事実です」
「そうか、サンセル……僕はキミの判断を見誤っていたらしいね……笑わせるな! 視察官護衛騎士は、即座にあの男を捕縛、必要なら、手足を切り落として構わない!」
騎士達を掻き分けて、服装の違う騎士達が俺の周囲を取り囲む。
僕っ子の言ってた視察官護衛騎士ってやつらしいな。
「確認だ。サンセル支部長? これは喧嘩か? それともガチか?」
俺の言葉の意味を即座に理解してくれたようで、サンセル支部長は諦めたように鞘から手を離す。
「喧嘩で頼むよ。大男君」
「ひでぇな、相手が手足を切るって言ってんのに喧嘩扱いかよ……」
そんな俺とサンセル支部長の会話に我慢の限界を迎えたのか、僕っ子が「かかれ!」と指示を出す。
俺の背中にモモが移動してくる。
「先輩、だから……騎士団なんか、ほっとくべきだったんッスよ! モモの話を聞かないから!」
「わぁってるって、今回はモモが大正解だったな、さて、やり過ぎんなよ?」
「大丈夫ッスよ。軽く地獄体験ツアーを開いて閻魔様にサイン会でもしてもらう予定ッスから」
「はぁ、あと【身体強化】は防御力にしとけ、いいな!」
「わかったッスよ。先輩は心配性なんッスから、【身体強化】防御力ッス!」
不安しかない返事を聞きつつ、俺とモモは動き出す。
【身体強化】はお互いの防御力を上げる形で使用する。
モモの本来の身体能力を考えれば、防御力を上げるだけで鉄の拳が出来上がる。
正直、【身体強化】を攻撃力に全振りしたら、騎士団が間違いなくホラー映画の1シーンみたいになっちまうからな。
騎士の剣が腹部を擦るが、皮膚を切られた感覚は1ミリもない。
剣が効かないとわかると、騎士達にも動揺が見え隠れしていくが、だからって同情なんざ、あるはずもないので、しっかりと鎧が凹む程度に殴らせてもらう。
「ぐぁぁぁぁ!」
「何なんだ、剣が効かない……うわぁぁぁ!」
「視察官、こいつらは、ぎゃああああ」
1人、また1人と、眠らせていき、ライム騎士団支部の連中にも一応確認をする。
「俺と喧嘩する気がある奴はいるか?」
そんな問いに、ライム支部の騎士達は覚悟を決めたように素手で向かってくる。
素手の相手には、しっかりと拳での対話をしていき、時間は少し掛かったが、僕っ子の前まで俺は移動する。
サンセル支部長が僕っ子の前に立つが、それでも俺の足は止まらない。
「サンセル支部長、悪りいんだが、俺の喧嘩だ。確か、喧嘩の仲裁は自警団の仕事で、騎士団は喧嘩の仲裁まではしないんだよな?」
「そういう訳にもいかないのだよ……ライム支部を預かる身としては、視察官を護るのは当然だからね」
そこまで話して、俺とサンセル支部長は会話を終わらせた。
俺が拳を構え、サンセル支部長が剣を抜く為に前傾姿勢になる。
だが、そこにゴードンって呼ばれていた視察官護衛騎士団長が割り込み、サンセル支部長を真横から吹き飛ばした。
「ぐわ!」
「どきやがれ! こいつを斬るのはオレだぁぁぁぁ!」
「上等だ! テメェなら、手加減なんざしねぇんだよぉぉぉぉ!」
騎士団の壁が酷く揺れ、ゴードンは再度、壁とキスをさせてやった。
「さて、僕っ子? サンセル支部長も吹き飛ばされて、護衛は全滅、あとは親玉のお前だけだな?」
「な、わ、わかってるのか! 僕を殺したりしたら、大問題になるんだからな、冷静になれ、そう……謝れば今回は許すよ。僕は寛大だからね」
俺は軽く笑みを浮かべてから、僕っ子に手を伸ばす。
「や、やめろ! やめ、うわぁ、離せ!」
しっかりと片手で僕っ子を抱えると、その場で座り込む。
「約束だからな、俺の故郷だと、悪い子には、昔から100叩きが基本なんだよ!」
今はどうか知らねぇが、俺は古い人間だから、問題なし。
それから、数字を数えていき、ライム支部の騎士達が視線を逸らす中で、しっかりと100叩きを進めていく。
「痛いってばぁ……僕は偉いのに……バカ、バカ、バカぁぁぁぁ!」
「まだ反省がねぇな……追加で20回くらいか?」
「先輩、甘えはダメッス。100叩きは何回追加でも100叩きッスから、もう100回ッスよ!」
「や、やめ、やめろってばぁぁぁ!」
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