118話
騎士達を先頭に騎士団の建物内に招かれた。よくよく考えれば、俺は焼きそばパンの一件なんかを考えても、騎士団に正式に招かれるなんて初めてのことだった。
そんな気持ちを知ってか知らずか、俺の前を歩く騎士が小声で喋りかけてきた。
「ホタルさんが商売と犯罪絡みなどの事件以外で騎士団にいるのは、見ていて不思議な気分ですね」
「その言い方だと、俺は焼きそばパンすら売りにこれなくなるじゃねぇか、それは勘弁してくれ、稼ぎが無くなるとマジに困るからなぁ」
「なんで先輩は、いつもそんなに脳天気なんッスか……頭がポカポカでお花畑が出来ちゃうッスよ。それに! モモは、はっきり言うッスけど、あの眼鏡の態度が本当にムカついたッス!」
怒り心頭なモモがエレガの口調を真似して下手くそなモノマネをすると、最初は我慢していた騎士達も次第に笑い出していく。
ただ、モモも調子に乗っていたのか、声のボリュームが大きくなる。
騎士達の笑い声とモモのモノマネで廊下が賑やかになると、少し先にある部屋の扉が突然開かれる。
騎士達の表情が一瞬で引き締まるが、モモだけは未だにモノマネを続けていた。
開かれた扉から出てきたのは、見慣れない顔のガタイのいい男だった。
男は無表情でモモに視線を向けると目を細めてから口を開いた。
「誰が連れ込んだ娼婦か知らんが、女を選ぶなら、もう少し頭を使いそうな女を選べ。安い女しか買えないなら仕方ないが、猿と変わらない女を抱ける奴の気がしれんな……嘆かわしい」
モモが踏み出す前に俺は男の前に踏み出していた。
「おもしれぇやつだなぁ? ウチのモモを猿と見間違えるなんてな、アンタの言い方だと猿と人間の区別があまり出来ねぇ可哀想な奴にしか見えないが? 眼鏡でも忘れたのか?」
「なんだキサマは、どの部隊の所属だ? いや……何処の所属だろうが構わん……上官に向かって口の利き方も分からぬような無能は、直々に処分してやろう、罪状は団規違反だ! 上官に対する無礼は万死に値すると骸になって後悔しろ!」
突然、叫ぶタイプかよ? てか、騎士様って奴なら、少しくらいは頑丈だよなぁ。
俺は長々と話してる男の剣の柄にあたる部分に掌を押し込む。
「な、キサマ!」
「悔しそうだな? 予定通りにことが進まねぇとキレるタイプらしいな……俺はそんな奴の鼻ぱしらをへし折るのが好きなタイプなんだよ!」
「何を! ぐあぁ!」
「武器を手にしてんだ! ヘッドバッドくらい正当防衛だろうが?」
鼻を抑えて、倒れる男が顔を真っ赤にさせて立ち上がる。
当然、次は剣を握ってやがる。本当に異世界って奴は、ヤクザよりずっとタチが悪いったらありゃしねぇな。
「モモ、悪りいんだが、指輪貸してくれるか?」
「え、先輩から貰った指輪ッスか?」
「おう、相手がふらついてる間に貸してくれ」
渋々といった表情のモモから“土人形の指輪”を借りた俺は、騎士が証拠品として運んでいた“ずた袋”を無理矢理借りる。
「あ、ホタルさん、それは証拠品ですから」
「ケチケチすんなよ。それにすぐに終わるからよ……今回は少しマジにやるからな」
フラつきが治まったのか、剣を握った男が鼻息荒く俺を睨んでから走ってくる。
「イノシシを引っぱたくのは、あんまり好きじゃねぇが、いくぞ、ゴラァ!」
俺は泥の入ったずた袋に片手を腕まで入れてから、指輪の能力を発動させる。
小細工なんて無しだ! 指輪に念じたのは単なる強度アップと圧縮だ。
鉄より硬くなった泥の塊を【身体強化】した拳として構えて、走ってくるイノシシ野郎に、ただ、叩き込む!
結果をいえば、相手の剣は真ん中から砕け、腹部に命中した俺の拳で壁まで吹き飛ばされて、イノシシ野郎がぶっ倒れている。
「うし! ホームラン! 場外にはならなかったみたいだな」
俺の行動に騎士達の表情が青ざめて固まっているが、正当防衛だから問題ないよな。
「って、先輩、服が切られてるッスよ!」
モモの声に身体を確認すると、確かに服に切られたような痕があった。
「服は切られたが、身体は無事だから安心しろって」
当たる前に剣を砕いたと思ったが、意外とやばかったのかもしれねぇな。
ただ、これだけ派手に騒げば、人も集まるわけで、騎士団で騒いだ以上、当然集まるのも騎士達になる。
「誰か! 視察官様の護衛騎士が倒れてるぞ!」
「大変だ、早く鎧を外して、治療師を呼べ!」
かなり大事になっちまったな……
俺達が壁まで吹き飛ばした男を遠目に見ていると、背後から笑い声が聞こえた。
「騒がしいし、戻ってこないと思ったら、クスクス、まさか、僕の護衛が壁に叩きつけられるなんてね。本当に初めて見る光景だよ」
振り向いた先には、金髪をポニーテールにした細身の女が笑みを浮かべていた。
そんな女の薄緑色の瞳が壁に叩きつけられた男から俺に向けられる。
「キミがやったのかな? 確かに大きな身体だけど、それだけだと、説明にならないよね? さぁ、僕の疑問に答える時間をあげよう。早く説明していいよ」
上から目線の女だな、ボクっ子ってやつか?
「おい、上から目線で話すのはいいが、ガキが大人に向かってそんな態度だと、100叩きにされちまうぞ?」
「な、僕に言ったのか……ひゃ、100叩きって……ふぅ、キミは僕が誰かわかってないらしいね。まぁ、よく見ればわかるだろうさ」
俺によく見ろと言わんばかりに軍服姿のボクっ子が胸を張る。
「あのなぁ……ガキが大人の真似とか、やめとけよ? いいか、いつか成長するはずだから、焦んなって、わかるよな?」
言葉の意味を理解したのか、胸元を両手で隠すと、キッとにらまれた。流石にぼかしたが、不味かったか?
「キミは、僕をバカにしてるのか! 僕が見ろと言ったのは、胸に付いている勲章の方だ!」
「勲章? おぉ、そっちか、確かに沢山あるな、よく集めて偉いじゃんか、そんだけバッジを集めたら立派な大人になれるな」
騎士団にも、ガールスカウトみたいやつがあったんだな。まぁ、騎士団だしな、若い奴らの為に色々とやってるんだな。
つまり、俺がぶっ飛ばしたやつが、僕っ子のガールスカウトの隊長みたいなもんだったのか?
「ひとつ、言っとくが、あんな大人になるなよ。あれはダメだ。上司がいるなら、マジに説教レベルに酷い教育しか受けてねぇ奴だったからな」
「な、なぁ……キミは、僕をまた……サンセル! なんなんだい、この男は! さっきから僕に対する当てつけか何かなのかい!」
僕っ子が出てきた扉に向かって、強い口調でサンセル支部長を呼び捨てにした。
ガールスカウトの教育をしてたのが、あの男なら、隊員もこのレベルか、ただ、大人を逃げるなんて、真似は俺は嫌いだからな。
俺は心を鬼にして、僕っ子の頭をペシっと叩く。
「おい、年上には最低限の態度ってもんがあるだろうが? いくらガキでも、サンセル支部長を呼び捨てはダメだろうが?」
「な、キミは……僕に手をあげたのか……僕はサンセルよりも、立場が!」
ペシ……
「だ・か・ら・サンセル支部長! わかったか?」
「は、話を聞かないか! 僕はサンセルの!」
ペシ……
はぁ、最近のガキは人の話を聞かねぇなぁ……まあ、俺もよく言われるから、気持ちはわかるが、俺みたいな大人になる前に直るといいんだがな?
「話を聞け! 僕は、偉いんだからなぁぁぁ!」
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