117話
天使のせいで、無駄に疲れたが、俺は騎士団に向かうことにした。
予想外だったのは、モモのやつが何故か付いてくると言い出したことだ。
俺が騎士団に向かおうとした時に洗濯物を干していたエスとパラが戻ってきた。
「主様、騎士団?」
「おう、サンセルのオッサンが心配でな」
「礼には礼を……女騎士も主様を心配してた」
「そうだな。アルムさん達にも改めて礼を言わないとだな」
ここまでは普通の会話だったんだが、エスが俺の肩をガシッと掴むとジト目で口を開いた。
「主様、エスはモモの同行を進言」と言ってきた。
それにモモが何かを思い出したかのようにハッとした表情を浮かべた結果、今に至る。
俺の横を歩くモモはルンルン気分ってやつなのか、ご機嫌な雰囲気が鼻歌からもわかる。
「なぁ、モモ? あんなに騎士団に向かうのを嫌そうにしてたのに、なんでそんなに嬉しそうなんだ?」
俺が声を掛けると頭の後ろで手を組んだままのモモから、ジト目を向けられる。
「本当に女心が分かってないッス……鈍感も行き過ぎたら単なるクソ野郎ってそろそろ自覚して欲しいッスねぇ……」
「女心がどうしたってんだ? 最後の方がよく聞こえなかったんだが?」
「先輩に期待したモモが間違ってたっス……期待は絶望の片道切符ッスから……まぁ、先輩が選んだのが、タイタニックだとしても、モモはついて行くッスけどね」
酷い例えだな……流石の俺も沈む前提の船になんか乗らねぇっての……
「例えに異議ありだが、どちらにしても着いてきてくれるって話だよな。昔から、そう言うところには感謝してるからよ……ありがとうな、モモ」
「うーん。最近、モモの耳は聞こえづらくなってるみたいッス……だから、もう1回ッス! 先輩、プリーズアフタミーッス!」
耳に手を当てて、ニヤニヤした表情のモモには、とりあえず、デコピンをプレゼントだな。
「酷いッス! 手を出していいのは、モモだけで先輩は出したら、犯罪なんッスよ!」
「はいはい。わぁった、わぁった」
不服そうなモモと軽く会話をしながら、俺達は騎士団へと向かっていく。
いつもの大通りを抜ければ、騎士団というところで、俺達は足を止めた。
騎士団の門の前で20人程の男達が喚き声を上げていたからだ。
よく内容を聞いてみれば、抗議をするようにプラカードを掲げたガラの悪い連中が大声で怒鳴っている真っ最中だった。
「支部長は、騎士団を辞めやがれ!」
「そうだ! 街を危険に晒した騎士団なんか要らねぇんだよ!」
「「そうだ、そうだッ!」」
「「騎士団解体! 騎士団解体!」」
正直、見ててうんざりすると言うよりも、苛つく感覚を覚える。
ただ、騎士団側は、気にする様子はなく門を守る騎士達も完全に無視を決め込んでいるのが見てて伝わってくる。
当然、抗議をしている連中からしたら面白くないらしい。1人がずた袋のような物を“ドス!”とその場に置く。
徐ろに、ずた袋に手を突っ込んだ男は、泥の塊を門番の騎士に向かって投げつける。
「や、やめないか! 騎士団に対するこの様な行動は、処罰対象に──うわ!」
騎士の顔に泥玉が命中すると笑い出す男達、ただ、それでも門を守る為に騎士達は動かずに耐えていた。
男達が笑う姿に、血液が沸騰しそうになっていると、モモからいきなり、腕にパンチを食らった。
「いっ! モモ、何すんだよ」
「モモはイラついたッス! 絶賛人気爆発のスプラッターマウンテンをぶちかまして、人生を3回は終了させてやるッス!」
「待て! 人生ってのは基本1人、1回なんだよ!」
「なら、1回限りのスプラッターマウンテンッス!」
モモの肩を掴んでいた俺の手をつねって、抜け出すと、一瞬で全力疾走を決めていく。
次にモモを目で追った時には、豪快に拳を男達の背中に叩きつけていた。
はぁ、ありゃ……明日は痛みで動けねぇだろうな。
「ぐぎゃ! 腰がぁぁぁ!」
悶絶する男の仲間達がモモを取り囲む。
流石に、見てる場合じゃねぇな……死人が出る前にモモを止めねぇと、ったく。
モモが次の男に殴りかかる前に俺も動き出す。
「随分と派手な泥遊びじゃねぇか? ただ、悪戯も度を超えたら笑えねぇぞ?」
「テメェもこのチビ女の仲間か! 調子に乗りやがって!」
はぁ……溜め息しか出ねぇ。なんでこういう連中は、いつもモモの逆鱗に触れたがるんだかなぁ。
「モモは、チビじゃないッス!」“バキ!”
「立派な!」“ゴキッ!”
「レディーッス!」“ボキッ!”
モモが一言発する度に被害者が増えていく光景に、俺はモモを押さえにかかる。
「離すッス! 先輩はこんな場面でモモに発情するケダモノだったんッスかァ!」
「人聞き悪い誤解を振り撒いてんじゃねぇ! これ以上やったら、こいつらの全身がマジにスプラッターになっちまうだろうが!」
「骨は砕けても! スプラッターみたいに肉まみれにはならないッスよ!」
「危ない表現してんじゃねぇよ!」
俺達の周りでは、気絶した男達が転がっている。当然、俺が手を出した奴は1人もいない。
「どんな理由があっても、レディーに掴みかかる先輩はケダモノの送り狼ッス!」
「レディーが聞いて呆れるレベルでバーサーカーじゃねぇか! 送る家どころか、俺の店で皆暮らしてんだから、自宅だろうが!」
騎士団の前で騒いでいると、門が開き、騎士達が駆け出してくる。
騎士達の先頭にはイケメン眼鏡の姿があり、苛立ちからだろうか、明らかに眉がピクついていた。
予想はしてた……むしろ、見慣れた光景になり始めてるから、言われなくてもわかってんだがな……
「エレガ副長! 騎士団に対する建物、並びに騎士への暴行を働いた犯人の捕縛が完了致しました! それでなのですが、またホタル殿もその場におりまして……どうなさいますか?」
複雑そうな苦笑いを浮かべた騎士にイケメン眼鏡が指示を出した。
「何をしている……不本意だ、不本意だが……騎士団の為に身を挺して、戦った一般市民を中へ、礼を言わねばならないからなぁぁぁぁ!」
明らかに歓迎されてる雰囲気じゃないのは言うまでもないな。
「エレガ? 別に俺達に気を使わなくていいぞ。ただ、サンセルのオッサンの顔を見に来ただけだからよ」
俺の一言がいけなかったのか、眼鏡を掴んだエレガにより、眼鏡が軽くひび割れるような“パリ”という音が聞こえた。
「気にするな。一般市民……騎士団では、騎士の為に奮闘した者に、礼をするのが当然とサンセル支部長も仰っていたからなぁ!」
そう言い、イケメン眼鏡が門に向かって歩いていく。
「何をしている。早く、そこの一般市民の2人を連れてこい! しっかりと熱い紅茶をごちそうしてやれ!」
申し訳なさそうに、俺達を案内する騎士達に俺は同情した。
あの言い方だと、カップを持てるかすら怪しいよな。心配して来たが、後悔先に立たずってか……
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