116話
朝日を全身に感じながら目覚めた俺は日課のソマリとポメラの大盛り弁当とカイト、グライの弁当を作る。
何をするにしても、この弁当がないと出先で空腹に泣く羽目になるからな。
肉々しい弁当に申し訳程度の葉野菜を添えて4人にしっかりと手渡して送り出していく。
「ホタル! ボク達もギルドに行ってくるんだぞ!」
「弁当ありがとうだぞ。ホタルの弁当を食べてオイラも頑張るぞ!」
「組長! しっかり焼きそばで稼いでくるからよ。組長も無理するなよな!」
「オレもガンジ親方の店に行ってくる。弁当ありがとう」
「おう! 全員無理すんなよ! 気をつけてやってきな」
朝食の片付けを済ませてから、セスとドレイクが家畜小屋の掃除に向かい、パラはエスと洗濯物を洗いに向かった。
「ふう、さて、俺も用意するとするか」
「先輩、騎士団に本当に行く気なんッスか? 最近誤認逮捕されたばっかりじゃないッスか、まさか……先輩、捕まりたい願望のドMッチーニになったんッスかぁ!」
朝からこいつは……はぁ。
「朝っぱら訳分かんねぇ、印象操作してんじゃねぇよ。ただサンセルのオッサンが心配なだけだ」
「はぁ、先輩って昔から無駄に律儀って言うか……お節介な性格ッスよね? 小さな親切大きなお世話って言われて、何度も酷い目にあってるのに……やっぱりドMなんッスか?」
「そのネタから離れろって、ったく。ただ顔出すだけの話だ。門前払いされたらすぐに戻ってくるっての」
「はいはい、わかったッスよ。今度こそ、すぐに戻ってくるんッスよ? また、モモが迎えに行かないといけないようなことになったら、皆も電気が使えなくなるんッスからね!」
モモがニカッと笑って、俺に人差し指をビシッと伸ばす。
「いやぁ〜そうですよねぇ。分かりますよ。天界でも、電子レンジが故障すると女神様から叱られますからねぇ……電気もガスも大切ですよねぇ」
いきなり俺とモモに向けて、耳に飛び込んできた声に振り向く。
客席に座りコーヒーを飲む天使の姿があり、俺とモモは互いの顔を見合せた。
「何してんだ! あの時の天使だよな!」
とりあえず、その場から大声で確認をすると、何故か、コーヒーの横に八段重ねのパンケーキが置かれており、シロップをたっぷりとかけた天使が美味しそうに口へと運んでいた。
「あぁ、すみません。朝食がまだだったもので、失礼しました。ですが、いい雰囲気の店内で食べるパンケーキとコーヒーは最高の至福かもしれませんねぇ」
店を褒められた……初めて褒められたよな!
「モモ、あいつ、センスだけはいい奴かもしれねぇな」
「いや、先輩……店を褒める人を全員いい人にするのは、本当にやめた方がいいッスからね! どう見ても、アレは店内で勝手に飲食してる怪しい奴扱いッスからね!」
モモが天使を指差して怒りを露わにすると、天使がニッコリ笑いながら、指をパチンと鳴らす。
天使と俺達の間に突然、ウィンドウが浮かび上がると天使が口を拭い、立ち上がる。
「いやぁ、こういった定番の演出ってなかなか出来ないので、やってみたかったんですよねぇ。さて、朝食も食べ終わりましたし、本題に入るとしましょうか、ホタルさ〜ん!」
一瞬で雰囲気が変化した事実を肌に感じた。
モモも感じたのか、既に構えをとり、いつでも天使に飛びかかれるように拳を握り固めていた。
「緊迫感が伝わりますねぇ? ドキドキですよねぇ……ですが、演出は派手なら、派手なだけ素敵ですよねぇ……ミュージックスタート!」
突然、ファンファーレが店内に鳴り響き、浮かんでいたウィンドウに映像が映し出されていく。
『なんじゃ? もう録画は始まっておるのか、相変わらず仕事が早いじゃないか』
『女神様、早く話さないと、録画ですから』
『わかっておる。さて、転移者よ。そちらの暮らしは楽しんでおるかな……』
ウィンドウに映し出されたのは、女神を名乗る女の映像だった。
「おい、天使……ひとついいか……」
「どうかされました?」
「いや、なんで、顔じゃなくて、パンケーキを映してんだ……声が女なのに、映像がパンケーキで内容が入ってこねぇんだが……」
今、俺とモモの前に映された映像にはパンケーキが次々に積み上げられていく様子が淡々と映し出されている。
タチが悪いのは、そんな映像に小悪魔的な声色の女が色々と語っているせいで脳がバグりまくってる事実だ。
俺の質問に天使が微笑む。
「知りたいですか? 知りたいですよねぇ……教えて差し上げますとも!」
急に悲しそうな音楽が流れ出すと、天使が両手を広げて語り出した。
「素晴らしい女神様の姿を見せるため、全身全霊を込めて、映像を修正して完璧な姿を余すことなく伝える映像が完成致しました!」
いや、最初とか間違いなくホームビデオレベルだったからな!
「ですが、悲劇が起こったのです……」
ダダダダーン!
「この天使、一生の不覚……編集した映像の上から、音声をそのままにパンケーキの焼きあがり映像日記を重ねて録画してしまったのです!」
『と、本題だな。女神として楽しませてもらった礼に褒美をやろう、感謝するがよい』
ウィンドウには未だにパンケーキの七段目が重ねられていた。
『ルーレットで選ばれたのは、ツレの娘のスキル強化らしい。内容はこれじゃ、説明するよりも、見た方が分かりやすかろう、天使よ。しっかりと内容を映すのだぞ』
未だに喋り続ける女神の音声は何かを見せるように天使に指示をしていた。ただ、映像は八枚目のパンケーキにカメラがアップになっている真っ最中だった。
『以上じゃ、転移者よ。また良い余興を見せれば褒美をくれてやる。せいぜい頑張るがよいぞ』
音声が消えると同時に八段重ねのパンケーキが完成する。
「おい! なんなんだよ、これ!」
「先輩、あの天使やっぱり、ただのおバカなんッスよ!」
俺達の声に天使が目を細めて、一歩前に足を出す。
「言いたいことは分かりますが、人間にミスがあるように、天使にもミスはつきものですよ。本来は映像だけで伝えるつもりでしたが、わざわざ出向いたのも優しさなんですよ」
「絶対嘘ッスよ! あいつ、多分、映像が消えたことを女神に言ってないだけッスよ!」
天使は次に胸ポケットから、折り畳まれた紙を取り出すと、何もなかったかのように読み始めた。
「此度の魔物討伐の映像は良き退屈しのぎになったので、スキルルーレットにて、褒美を与える。選ばれたのは【遠距離サポート『距離無制限』】となった。連れの娘のスキルが強化された事を喜ぶがよい。以上です」
天使はそう言うと、再度ニッコリと笑みを浮かべてきた。
「それでは、失礼いたします。スキルの説明は不要でしょうが、モモさんのスキル【サポート】の距離が無制限になりました。個人的には、都合がよすぎる気もしますが……ルーレットの内容がこれですからね……はは、よい異世界ライフを……」
天使は1枚のメモを置いて消えていった。
メモを手に取り、内容を確認する。
・連れの娘──スキル強化。
・転移者──スキル強化。
・現地の部下──スキル強化。
☆レディーファーストにつき、枠の幅を2倍にするように(内緒で!)
そう書かれた内容が二枠ずつ配置されたルーレットの絵が描かれていた。
「たぶん、俺が転移者で、連れってのがモモ、現地の部下はドレイクって感じか? マジに書き方も適当すぎんだろ……」
どちらにしても、天使が来なかったら気づけねぇっての……てか、2倍はズルいだろ……
お読みいただきありがとうございます!
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