115話
森での魔物騒動から数日が経って、騎士団は自分達の非を告白するように、魔物達が増えた理由をライムの街に伝えた。
俺からしたら潔いことだと思うが、住民の見方は様々だった。
本来なら黙っていれば、騎士団は単なる魔物討伐で済んだ話だろうと思う。
ただ、それは俺が知るサンセル支部長の性格を考えれば、ありえないとすぐに察した。
そこまでは普通に街を歩けば、騒ぎになっているので嫌でも耳に入る。
買い出しに来ていた俺とパラも市場のおばさんから噂話を散々聞かされて、時間を取られていた。
「だからねぇ、きっと、騎士団で支部長さんじゃなくて、裏の支配者がいるって、あたしは考えてるのよ」
空返事で頷いていれば、とうとう裏の支配者まで現れる始末に俺は苦笑いを浮かべていた。
「組長、そろそろ行かないと、お肉屋さんのおじちゃん、お店閉めちゃうよ」
話に飽きたのか、パラが分かりやすく移動するように俺の手を引っ張ってきた。
「あら、パラちゃん悪かったわねぇ。はい、オマケのハクサン(白菜)だよ。そんじゃ、ホタルさん。また来とくれよ」
八百屋のおばちゃんの店が見えなくなるとパラが笑いかけてくる。
「組長、パラえらい? 組長を助けたのよ」
少しお姉さん風な雰囲気で上目遣いのパラが質問をしてきたので、俺は頭をポンっと撫でてやる。
「もう、組長、またパラを子供扱いする……パラ、お姉さんになってるのに」
なってるって、まだまだ子供なんだがな。はは。
「また笑ってる! 組長は乙女心が分からないんだからぁ!」
まるでママゴトのようなセリフに笑いそうになるが、パラなりに本気で怒ってるのかもしれないよな。
「ありがとうな、パラ。俺はこんな立派なお姉さんは初めて見たなぁ」
「そうだよね。組長はやっぱり見る目があるよ。へへ」
機嫌が直ったみたいで俺も一安心しながら、残った買い物を進めていく。
ただ、パラみたいな子を連れていると、アホな奴が現れるのがお約束らしい。
路地を曲がってすぐに、数名の男達が姿を現すとナイフを手に俺を睨みつけてきた。
「なぁ、おっさん? オレ達ってば、金がなくてさぁ……有り金とその嬢ちゃんを置いていってくれよ?」
そんな男達の笑い声が聞こえると流石に呆れてしまった。
騎士団が身内事でバタバタしてるせいか、街にはこんな馬鹿な奴らが溢れ始めているらしい。
俺が呆れる反面、パラは不安そうに俺の足にしがみついている。
「組長……組長……」
「大丈夫だ。ただ、パラは目を瞑っててくれ。見てるだけで、痛くなっちゃうからな、わかったか?」
「うん。わかった……組長、早く終わらせてね……」
パラが両手で目を隠したのを見てから、俺は指をバキバキと鳴らす。
そこからは無駄な会話は無しに【身体強化】で容赦なくぶっ飛ばす。
ナイフの使い方は素人だし、脇も甘い……何より……
「人を刺す気なら、ナイフを振り上げてんじゃねぇッ! この三下がぁぁぁッ!」
しっかりと最後は頭突きでチンピラを沈めてやった。
「組長〜強い! パラも言う! ナイフは振るうんじゃねぇ〜! さんしかが!」
三鹿になってんじゃ……いや、言わないのが優しさか……
上機嫌なパラを連れてその場から移動することにした。
「組長、あの“さんしか”さん達はどうするの?」
「あぁ、そうだな……あのままってワケにいかないか……はぁ、パラ? 悪いんだが寄り道をしていいか?」
パラから許可を貰ったので、チンピラ達を一纏めに縛り、騎士団まで担いでいくことにした。
なんとも冷ややかな視線を感じつつも、日々、問題を起こしてきた俺は気にせずに歩いていく。
そんな姿で歩いていれば、自然と騎士団側から姿を現してくれた。
「街で、恐ろしい顔で笑いながら、少女を連れ、複数の男を担いだ大柄の男性が人攫いを働いているとの報告があり、来たのですが……ホタル殿でしたか」
騎士団からの言葉を聞いて、流石の俺も苦笑いを通り越して、怒りが込み上げてきた。
「誰の顔が怖いってんだ?」
「いえ、失礼しました……それより、何があったのかだけでもご説明をお願いできますか……ははは」
そこから適当に話を進めると、騎士団は用意してきた縄をチンピラ達に縛り直していく。
「本当にありがとうございます。今は騎士団もバタバタしていまして、本当に情けない限りです」
騎士団が情けなく頭を下げてきたので、俺も軽く頭を下げる。
「なぁ、聞いていいか? 騎士団は今どうなってんだ?」
「え、あはは……実を言えば、かなり複雑です。騎士団の管理体制を疑われ、騎士団本部からもサンセル支部長に対して責任追及が行われていると言いますか……」
「おい、話し過ぎだぞ……いくらホタル殿でも、話し過ぎれば、問題になるぞ」
もう1人の騎士から注意が入り、喋っていた騎士が黙った。
聞いたらマズい話だったらしいな。ただ、サンセル支部長が吊し上げってのは、いい気分がしねぇな。
俺もそれ以上の話を聞くことはしなかった。
長い買い物になったが、パラと手を繋いで俺はゆっくりと街を歩いていく。
「ねぇ、組長? なにかあったの、顔がね怖いよ?」
「おいおい、パラ……俺が怖いのか?」
「違うの、組長の顔がね、目がドヨンって、口がギーってなって、うーんだからだよ!」
パラのめちゃくちゃな説明に俺は何とも言えなかった。
「いや、大丈夫だ。心配させてしまったみたいだな。悪かった」
「大丈夫ならいいよ。組長、しゃがんで」
「ん?」
「はやく、しゃがんで!」
言われるまま、俺はパラの前にしゃがむ。
すると、俺の頭をパラがペシペシと叩き出した。
「組長、元気になって。沢山ペシペシするからね」
「なんで、ペシペシなんだ?」
「え? モモ姐がねぇ、組長がいない時に心配してたら、教えてくれたの」
──モモとパラの会話──
「組長……帰ってこない……パラ、嫌われちゃったのかな」
店の中で外を眺めていたパラにモモが歩み寄り、発言したらしい。
「大丈夫ッスよ! むしろ、先輩の元気が無くなってたら、モモがしっかりと頭をペシペシ叩いて、元気を注入してあげるッス! だから、パラは先輩を笑顔で待っててあげるッスよ!」
そんな会話があったとパラから言われて、更に深い溜め息が漏れた。
「まさかの、また……モモかよ」
「え? パラ、間違えた……元気あげれなかった……」
不安そうに視線を向けてくるパラの頭を優しく撫でる。
「いや、元気はもらったよ。ただ、別に頭をペシペシって叩く必要はないから、むしろ、笑顔を見せてくれたらそれだけで、十分だからよ」
「パラが笑えば、元気になるの? なら、毎日笑うね!」
色々とパラの中で誤解があったみたいだが、少しは誤解も解けただろうと思う。
そんな俺は、騎士団の中で起こってる問題が頭から離れない。
自分で言うのもあれだが、我ながら面倒くせぇ性格してるよな。
俺は頼まれた訳じゃないが、明日、改めて騎士団に顔を出してみることに決めた。
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