113話
サンセル支部長の行動は早かった。既に目的地がわかっているような流れで騎士団が隊列を組み、森の奥へと進んでいく。
「大男君……君達は此度の戦いに付き合う必要などないと私は思うのだがね?」
「水くせえな、乗り掛かった船ってやつだ。最後まで付き合わせろよ。旅は道連れって言うだろうが?」
「そんな言葉は初めて耳にしたが、大男君が同行したいなら構わぬよ……ここからは総力戦になるからねぇ」
正直、周りを見渡せば、騎士団に冒険者ギルド、マダムピンキーも含めりゃ、過剰戦力にしか見えねぇが、それでも厳しい表情を浮かべてやがるな……
サンセル支部長と軽く会話を終わらせるとダイルの奴が俺の側にやってきた。
「ホタル、今回は済まなかったな、流石のオレもこの展開は予想出来なかった。すまん!」
冒険者達もダイルの行動に目を見開いて驚いていた。
「あのギルドマスターが、謝りやがった!」
「ダイルマスターが……今回のクエストでオレたち死ぬのか……」
「人の心があったんだな……ギルマスにも」
冒険者達の会話に震え出すダイル。
「テメェら! タダ働きになりたくなかったら、無駄口叩いてねぇで! 魔物の首を持ってこい!」
騒がしくも、俺達は森の中を進んで行く。
サンセル支部長が足を止めたのは、森の中心部分に広がる湖だった。
俺も初めて来る場所であり、透き通った水が川に流れていく様子は、今の過剰戦力を前にすると、あまりに場違いに感じた。
「位置で考えればここしかありえないのだよ……エレガ副長、ガストンはまだ目覚めないのかね?」
「残念ながら、何処かの危険人物がかなり強く殴ったようでして……」
イケメン眼鏡がモモに視線を一瞬向けてから、サンセル支部長に向き直る。
「それは仕方ないねぇ。ダイル。悪いのだが、君のところの人員も探索に協力してもらえないかね?」
「構わねぇよ。サンセルとオレの仲なんだよ。遠慮すんなって、気楽にやろうや」
そんな会話の後に周辺の探索が始まる。
俺達や『黒龍の息吹』も探索に参加することになる。
探しているのだから、当然のように魔物達が姿を現す。
ただ、少し違っていたのは現れた魔物達が俺の相手をしたグレイベアだけじゃない事実だった。
冒険者達から、叫ばれた“レッドベア”という言葉に俺は何度目になるか分からない苦笑いを浮かべていた。
そんな強力な魔物達も、この場にいる冒険者と騎士団による数の暴力により、無惨にねじ伏せられていった。
次第に範囲が狭まる中で、ダイルが初めて、腰の剣に手を伸ばす。
「見つけた、野郎共! 周囲を固めろ! 一気にくるぞぉぉぉッ!」
ダイルが叫ぶと同時に握られた剣が一本の木に突き立てられる。
その瞬間、木に意識が芽生えたかと疑いたくなるように震え出し、地上に木の実が降り注ぐ。
不思議な光景だったが、俺はそこから先の出来事に言葉を失った。
地面に落下した木の実が突然魔物の形に変化したかと思うと、奇声を上げてダイルに向かって襲いかかっていった。
「やべぇだろ! まさか、この数の分体を作れるなんてなぁ! とっとと片付けるぞ!」
ダイルの指示で冒険者が動き出す。
「我々も傍観者になるワケにはいかないねぇ。騎士団構え! 総員突撃ィィィッ!」
大量の魔物を前に冒険者と騎士団が協力して戦う姿は圧巻だった。
「先輩、モモ達も向かうッス! 熊殺しの二つ名をもらうチャンスッスよ!」
「お前なぁ……」
ガストンの時は止めに入って、熊には突撃しようって、おかしいだろうが……
「主様……モモはおかしい。休暇推奨」
「わかってる、ただなぁ……向かってくるなら、ぶっ飛ばさないとな」
数頭の熊公が俺達に目掛けて駆け出してきた。
当然、俺達は降りかかる火の粉に優しさなんか持ち合わせてねぇ。
しっかりと熊公には、モモの二つ名になってもらう。
横を見れば、『黒龍の息吹』の面々がパーティーでグレイベアを討伐していた。
今更だが、治療師がいない状態で格上の魔物を相手にする勇気は本当に凄いと思う。
次第に魔物が減っていくと、ダイル、サンセル支部長、マダムピンキーの3人はダイルが最初に切りつけた木の側へと集まっていた。
騎士や冒険者もただならない雰囲気に動きを止め、次の行動を見守っているのがわかった。
「さて、サンセル、ピンキー、準備はいいよなぁ?」
「当然よぅ、あとマダムをつけなさい……ダイルちゃん……本気で足腰砕いちゃうわよ?」
「2人は相変わらずなのだね。ただ、今からは無駄口は無しなのだよ」
サンセル支部長の言葉にダイルとマダムピンキーが頷いた。
木に向けて、マダムピンキーが握った拳を豪快に突き出す。
ダイルの時と同じように木が凄まじく震えると、次に地鳴りが起こり、3人が立っていた地面がひび割れて粉塵が舞い上がる。
「来たわねぇ!」
「そのようだね……」
「そんじゃ、今回はサンプル無しに斬り刻むとしようかぁ!」
地面から姿を現したのは、巨大なナメクジのような魔物だった。
背中には俺達が見ていた木がそのまま残されており、薄く透き通った身体の中には複数の魔物達が丸呑みにされたかのように包まれて、保存されているように見えた。
「先輩、あれ……モモは無理ッス」
モモの声が俺の耳に届くと同時に、サンセル支部長とダイルが剣で魔物を切りつけていく。
「テメェら、ボサっとすんな! こいつを斬り刻むのが、仕事だろうがぁぁぁ! 金が欲しけりゃ武器で叩き切れやぁ!」
「不本意だが、騎士団も続きなさい! この魔物が生きていることが、騎士団の恥なのだからね!」
2人の言葉に一斉攻撃が開始される。見た目通りの動きで、攻撃を回避することが出来ない魔物は瞬く間に動かなくなり、全員が武器を下ろす頃には、朝日が顔を出していた。
その後、俺達にサンセル支部長が呟いた。
「騎士団が保管していた魔物の破片が迷惑をかけたね。深く謝罪するのだよ」
詳しい話は分からなかったが、その一言で俺の長かった1日が終わったんだと安堵した。
夕方までに戻るはずが……とんだ残業じゃねぇか、命の危機も考えたら笑えねぇ1日だな。
お読みいただきありがとうございます!
もし少しでも『蛍とモモの掛け合いが面白いな』『続きが気になる』と思ってくださったら、ページ下部の【☆】や【ブックマーク】で応援していただけると、ハゲみになります……!(毛根的な意味で)
☆ギャグが笑えなくても、クーリングオフは勘弁してください。




