112話
裏で動いていた存在の名前は“ガストン”って名前らしい。
「なぁ! ガストンだと!」と大きく動揺を露わにしたのはアルムさんだった。
「くっ、まさか、こんな所でまたガストンの名を聞くことになるなんて……誰か、すぐに騎士団支部に連絡を!」
指示を出そうとするアルムさんに、マダムピンキーが待ったを掛ける。
「連絡ならアタシの大切な部下がすぐに向かうわぁ、だから安心していいわよぅ」
部下って、まさか俺のことか? そんな事を考えていると、いきなり、最初にマダムピンキーに耳を切られたはずの男が立ち上がった。
しかし、その耳は赤い液体が付いているが、しっかりと繋がったままだった。
「マダムピンキー様。すぐに向かわせてもらいます。他に報告などはありますか?」
「そうねぇ、サンセルちゃんに、すぐに全員動かして大丈夫よって伝えなさい。あと、ダイルちゃんにも、大義名分は揃ったって伝言を頼むわね」
指示を聞いた男は、ボロボロにされた怪我人(二番目の犠牲者)を担いで街へと向かって行った。
「おい、マダムピンキー……夜は動かない方がいいって話じゃねぇのか?」
「あら、アタシの部下を心配してくれるなんて優しいじゃない、テルテルボーイ? でもあの子は大丈夫よ……商人は情報が命! あの子はそんな情報を集めるための存在なんだもの」
商業ギルドって、やべぇ組織なんじゃねぇか……
話が終わると、すぐにアルムさん達、討伐部隊が捕らえた男達を一箇所に集めて縛り直す。
それからは早かった。アルムさん達が回収した魔石を一定の距離で木に縛り付けていく。
「アルムさん、何をしてるんだ?」
「ホタル殿、この盗まれた魔石は本来、魔物から部隊の物資などを守ったり、魔物から身を守るための物なんだ」
早い話が、魔物避けのアイテムらしい。そんな品を木に巻きつければ増えた魔物達も近づいてこない。
そうして、広い範囲が確保されると次に討伐部隊が木々の伐採を開始する。
「道がなければ開くまで、ただし、人が通った痕跡と証言にあった道を見つけよ! 見過ごせば、厳罰だと改めよ!」
「「「はいっ!」」」
豪快に道を切り開き、森の奥へと無理矢理新たな道を作る討伐部隊に俺は言葉を失った。
なんなら、木こりが泣いて逃げ出すんじゃないかと思う程度には力任せな伐採だった。
「アルム討伐部隊隊長! 人が移動していた痕跡が見つかりました! 獣道に繋がってるようです!」
「おぉ! ザック、よくやった! 聞いたな、討伐部隊は全力で発見した道を突き開け! ここから見つけた存在はすべて敵である、慈悲を捨て、必要なければ、すべて切り伏せよ!」
アルムさんの指示を聞いて、一斉に動き出した討伐部隊の動きは早かった。
そうなれば、次に必要になるのは周囲の警戒になる。
『黒龍の息吹』からバギッドとミラさんが警戒を務め、すぐに戦闘音が俺の耳にも入ってきた。
「クソ! なんで騎士団が! 見張りは何してやがった!」
「ぎゃああああ!」
「ま、待て、やめ──うわぁぁぁ!」
酷い声だった。映画なんかで見た戦闘シーンがどれだけ美化されてたかを俺はマジマジと感じていた。
ただ、そんな断末魔が飛び交う中で、俺は聞きなれた声が発した叫び声に慌てて視線を向ける。
声の主は『黒龍の息吹』のスリンガーさんだった。
前衛について、バギッドとミラさんの守りを担当していたが、トラブルが起きたらしい。
「くっ、油断しましたね……鎧ごと切られるなんて思いませんでしたよ」
スリンガーさんの前に立つ大男がニヤリと夜空に照らされて笑っていた。
「おいおい? 冒険者がいるって聞いて、わざわざ、オレ様が出てきてやったのに、とんだ雑魚野郎じゃねぇか! 喜べ雑魚野郎、お前はオレ様、ガストン・ベシランテに殺されろやぁ!」
ガストンの手に握られた戦斧がスリンガーさんに向けられた瞬間、ミラさんが前に出ようとする。
しかし、ガストンの戦斧を受けて、吹き飛ばされたのは、ミルガニアさんだった。
スリンガーさんの前に入り、大盾をぶつけたミルガニアさんは盾ごと吹き飛ばされて木に叩きつけられた。
まだ、本調子じゃねぇが、俺が行くしかねぇ!
「お前ら、すぐにスリンガーさんを連れて引け! そいつは俺がやる!」
俺の声にピクリと反応したガストンは、こちらを見て、口角を吊り上げた。
「おいおい、マジかよ! こいつは嬉しい誤算じゃねぇかぁぁ! ハゲ野郎! テメェのせいで、オレ様がどれだけ酷い扱いをされたか、不公平だよなぁ! だから、テメェも苦しんで潰れろやぁ!」
向き合った俺にガストンが戦斧を手に向かってくる。
未だに、足が僅かに期待を裏切る中で地面を踏み締め構える俺、そんな俺の横からモモとエスの2人が飛び出してきた。
「何してんだ! お前ら!」
「うるさいッス! 怪我人は黙ってモヤシでもかじって待ってるッス!」
「主様、モヤシってなに? モモは謎……でも主様は休む。休暇推奨」
マイペースな2人が前に出たことで、ガストンの怒りが血管に浮き出ていた。
「ふざけた奴らが、オレ様をバカにしやがって!」
怒りを露わにして、更に勢いを増したガストンの戦斧がモモとエスに振り下ろされる。
ただ、モモは前に身を屈め、【身体強化】を即座に発動させた拳をガストンの顎に目掛けて、打ち上げた。
そんなモモをサポートするようにエスが影を操り、ガストンの手足を固定する。
逃げ場の無くなった状態から、モモの【身体強化】された拳がガストンの顎を強打すると、勝負は一瞬で終わっていた。
いうなら、全身を固定された状態でショベルカーに顎を叩かれたようなもんだ。俺でも意識が吹き飛ぶのは間違いない。
首謀者であるガストンが、余りにあっさりと倒されたことで、逃げようとしていた者、戦う気になっていた者、その場にいたすべての動きが固まっていた。
「さぁ、掛かってくるッス! モモはまだまだって……なんで撃沈してるんッスかぁぁぁぁ!」
殴ったモモ本人以外だったみたいだな……
それから、一時間もしないで、夜の闇が支配するはずの森に松明の灯りが溢れ出していく。
そこには騎士団だけでなく、冒険者ギルドの奴らの姿もあった。
「ホタル! 無事かぁぁ! テメェら! 冒険者ギルドから金はしっかり出してやる! 魔物討伐の騎士団に負けんじゃねぇぞ! 気合い入れろやぁ!」
「「「おおぉぉぉぉぉ!」」」
ダイルのうるせぇ声が聞こえて、俺は苦笑いを浮かべた。ライムの街にいるギルドマスターは、なんで現場に出たがるんだかなぁ……普通に自由人過ぎねぇか。
「まったく、賑やかだな。ただ……それだけの事態になっているのも、また事実なのだがね。そうは思わないかね? エレガ副長」
「お言葉ですが、サンセル支部長自らが、この場に出向く必要などないかと……」
「エレガ副長……この私が命じた指示で部下が動いているのだよ。君は手を伸ばせば助けられるのに、伸ばすはずの手で紅茶を飲むことを優先するのかね?」
「失言でした。サンセル支部長のお考えが正しいと発言を撤回させていただきます」
結局、サンセルのオッサンまで来たのかよ……
「大男君、久しぶりだね。今回は我々騎士団の判断の遅さを笑ってくれたまえ」
俺にそう口にしたサンセル支部長に俺は軽く苦笑いを浮かべた。
「いや、笑わねぇよ。アンタみたいな立場になると色々とあるだろうからな……とりあえず解決って話でいいんだよな?」
「いや、まだだね。まだ我々、騎士団にはやらねばならない仕事が残されているのだよ。森の魔物が増えた根本を叩かねばならないからねぇ」
それだけ口にしたサンセル支部長は、俺の前から移動すると騎士団に指示を出していた。
夜の森はまだ静かにはならないらしい……
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