111話
俺達はマダムピンキーから、今回の魔物調査その物が、冒険者ギルドが魔物討伐に掛かる費用を領主から引っ張る為のクエストだった事実を唐突に説明された。
「わかったかしらぁ? この結果は誰も予想してなかったものなのよ。なにより、ダイルちゃんだけじゃないわ。サンセルちゃんも焦ったでしょうね、討伐部隊を承認する他ない事態なんだもの……」
マダムピンキーがそう口にすると、アルムさんが一歩前に出て質問を口にした。
「先程の話から、サンセル支部長殿もこの一件を知っている事は理解した。恥を忍んでお願いしたい、商業ギルドマスター殿、何故、我々に事実を隠されたのかが、どうしても知りたいのだ。頼む」
アルムさんは深く頭を下げていた。当然ながら、立場を考えれば、マダムピンキーはこの質問をつっぱねることも出来る。
ただ、俺の目には、マダムピンキーが優しく微笑んだように見えた。
「仕方ないわねぇ……サンセルちゃんに怒られちゃいそうだけど、教えてあげるわぁ。
「優しさに感謝する。商業ギルドマスター殿」
「森に不審な動きをしてる連中がいるって話が事前にあったのよぅ。当然サンセルちゃんも動きたかったでしょうねぇ、それでも騎士団が普通に動いたら、目立つからって悩んでたもの、だから、冒険者ギルドのダイルちゃんに適当な人選をさせたのよ」
「なら、最初から、我々、討伐部隊に事前の説明を貰えれば!」
「だ・か・ら・青いわねぇ……普段と違う情報が入れば、人は余計な動きをするものよ……そんな僅かな違和感を悪いネズミ達はしっかりと嗅ぎ分けるの……だから、重要な内容ほど、現場には出せないし、出さない選択が上に立つ人間には必要なのよ……わかったかしら、ガンバるガール?」
「ぐっぅぅぅ……確かに、サンセル支部長殿なら、そう判断されるだろう……事実を教えていただき感謝する」
そこまで話が済んだ段階で、『黒龍の息吹』のミラさんがゆっくりと手を伸ばす。
「あの、壮大な話みたいだから、聞きにくいんだけど……あの捕まえてきた連中って、なに?」
すっかり忘れてた! 捕まえてからずっと縛り上げたままの連中がいたな。
ミラさんの質問にマダムピンキーは冷たい声色で返答した。
「そいつらが今回の魔物騒動の元凶よ……しかも、騎士団から持ち出された保管品を使って悪さをする最悪なネズミなんだから、本当に嫌になるわよねぇ」
騎士団から持ち出されたと聞いたアルムさんが再度口を開こうとした。
しかし、マダムピンキーはアルムさんに人差し指を立てると、発言を中断させた。
「この話は、これ以上はトップシークレットよぅ……内容の深い部分まで知ったら、ガンバるガールが屍ガールになっちゃうかもしれないわぁ」
「な、私が死ぬと言うのか!」
アルムさんの反応に対して、マダムピンキーは優しく笑った。
「世の中には、知らない方がいい事実と、知ってはダメな事実があるのよ……今回は後者なのよ……諦めなさいガンバるガール」
そうして、話が強引に戻される。ただ、マダムピンキーが怖ぇ。単純にやべぇ怖さしかねぇんだよ……
「捕まえた連中の話だったわねぇ? きっと、討伐部隊でも見慣れた物を身に付けてるはずよぅ」
徐ろに立ち上がったマダムピンキーは、1番近くに転がっていた男に歩み寄り、力任せに上半身のシャツを剥ぎ取る。
咄嗟に俺は側にいたモモとエスの目を両手で塞いだ。
「先輩! 見えないッス!」
「主様、ポッ……」
「見なくていいやつだから、じっとしてろ!」
そうして、シャツが引き裂かれた男の上半身が露わになると、紐に繋がれた小さな石がネックレスのようにつけられていた。
小さな石を見たアルムさんが男の側に駆け寄ると、力任せにネックレスを引きちぎる。
「おい、キサマ! 何故、キサマが魔物討伐用の魔石を持っている!」
アルムさんの怒気を孕んだ声が森に響く。しかし、男は無言のまま微動だにしない。
それから、一斉に討伐部隊が捕らえた男達の身体検査を開始する。
大量の石が回収され、アルムさんは落胆したように膝をその場についた。
「騎士団から、これ程の量の魔石が紛失していたのか……何故、今まで誰も気づかなかったんだ……」
そんなアルムさんの声にマダムピンキーは厳しい表情で返事を返した。
「なんでか分からないわよねぇ、ただそれはサンセルちゃんも同じ……いえ、寧ろ更に驚愕と落胆したと思うのよ……だからこそ、アナタ達が出撃せざるを得ない状況で、情報を出さない選択になったのよ」
改めて語ったマダムピンキーの視線はそのまま、転がる男達に向けられる。
「身内の話を他人に聞かれてしまうのって、やはり良くないわぁ……そんな悪い耳はお仕置しないとよねぇ……」
そこからの流れは残酷、いや、残虐と言うべきだった。
結果として、俺は両手をモモとエスにしっかりとあて、ミルガニアさんまで俺に抱きついてくる始末だった。
因みにミラさんはスリンガーさんに、ナタリーはバギッドの背に隠れてしまった。
そんな中、冷静だったのはアルムさんだった。
「何をしている! 捕縛した犯罪者だとしても、暴行や拷問など許されることではないぞ! 商業ギルドマスター殿!」
「わかってるみたいねぇ……でも、これは必要なことよ。耳が無くなっても、目がなくなっても喋れば済む話なのよ、だって街に戻れば治療師が傷を癒せるわ……ただ、喋らない子はダメよね? だって……躾ても無駄だもの」
言ってる事は分かる……ただ、俺も今のマダムピンキーの選択を肯定するなんて出来ねぇ。
「テルテルボーイ……今はダメよ? これは騎士団と頼まれたアタシの話なの……結果的に巻き込まれたテルテルボーイはかなりアンハッピーでしょうけどねぇ」
しかし、そのやり取りに対して、アルムさんは静かに握っていた手を解くのが見えた。
「わかった。ならば、私も見守ろう! ただし、死者が出るようなミスがあれば、我々はアナタを拘束する他なくなるぞ、商業ギルドマスター殿!」
「いい返事ねぇ。及第点をあげちゃうわぁ。さぁ、アナタはもう耳が無くなったわぁ……次はアナタの番ねぇ……」
最初の男が片耳から血を流し、意識を失うとマダムピンキーは次の男へと向かった。
そうして、次の男はマダムピンキーに触れられる前に口を開いた。
「全部話す! 全部話します! オレたちは、騎士団の試験に落ちたり、解任にされた奴らの集まりだ! ただ、最初からこんな計画を考えてたワケじゃねぇんだよ!」
ただ、マダムピンキーは「それは、もう知ってるのよねぇ……」
「頼む、助け、助けてくれぇぇぇ、誰かこいつの手を止めてくれぇぇぇぇ!」
二番目の男の断末魔に似た絶叫がその後の男達の口を壊れた扉のように開いたままにさせた。
閉ざすことすら許されない現状に男達が我先に、裏で動いていた存在の名前を口にしたのは言うまでもない。
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