110話
全身を激辛ソースまみれにしたマダムピンキーが発狂する姿にモモとアルムさんもピタリと動きを停止した。
まぁ……気持ちは分かる、マダムピンキーが発狂してのたうち回る姿なんて、俺でも想像できねぇし、実際に目にしても信じられないが先に来る。
ただ、目の前にある現実は残酷だった。
全身ピンクのオカマなマダムピンキーが激辛ソースまみれで、エスに踏みつけられている。
「いや、カオスすぎんだろ……」
俺の心から自然と漏れた言葉だった。
「主様の好物(激辛ソース)を全身で味わう変態……始末推奨」
本気の殺気だと分かるくらい、エスの目がギラついていたので流石に止めておく。
それからマダムピンキーにトドメを刺そうとするエスを止めるのは大変だった。
「主様! 変態には鉄槌! 始末推奨!」
「エスは落ち着くッス! アルムさんも原因なんッスから、エスを止めるッスよ!」
「な、私もなのか! わ、わかった! 皆は捕らえた者達を逃がさないように見張りを! 残りは私に続け!」
「「「おおぉぉぉぉぉ!」」」
俺の目の前でマダムピンキーを中心に争いが勃発してやがる……
結局、マダムピンキーを討伐部隊の連中が近くの川まで運んでいく事になり、怒りが収まらなかったエスだったが、モモからの一言がかなり響いたらしい。
「いいッスか、エス! 今のエスがやってる行動は、先輩を困らせてるだけの、大バカポンコツ棒棒鶏ッス!」
「エス……モモに叱られた……棒棒鶏……」
モモに叱られたのが、ショックだったのか、エスは俺の横で体育座りをしている。
そうして、暫くしてから、マダムピンキーが激辛ソースを洗い流して戻ってきた。
また、エスやアルムさんがマダムピンキーに突っかかるんじゃないかと内心ヒヤヒヤする。
だが、俺の予想とは違い、真剣な表情のマダムピンキーは、エスとアルムさんを見つめていた。
夜の森に草木が風に揺れる音だけが流れたかと思えば、マダムピンキーが地べたに腰を下ろして語り出した。
「悪かったわねぇ。少し大人げなかったわ、アナタ達も真剣だからこその行動なのに……まぁ、ド・エスガールは完全に私情でしょうけど、謝罪するわぁ」
マダムピンキーが軽く頭を前に倒す。その行動にその場の全員が驚愕していた。
次に口を開いたのはアルムさんだった。
「私もすまなかった。いや、申し訳なかった。立場を弁えず、愚かな判断をして感情を剥き出しに暴れようとするなど、騎士にあるまじき判断だった。心から謝罪致します。商業ギルドマスター、クラクラム・ドピンキー殿」
アルムさんが頭を深々と下げると討伐部隊の連中も無言で頭を下げていく。
そうなれば、次はエスの番になる。
「エスも……悪かった、謝罪」
エスなりの謝罪が口にされると、次にマダムピンキーがその場の全員をグルっと見渡してから、深く息を吐いた。
「悩ましいわねぇ……本来なら説明してあげるのが優しさなのに……もどかしいわぁ……だから、少しだけ必要なことを教えてあげちゃうわぁ!」
マダムピンキーはそう口にすると次に俺へと視線を向けた。
「テルテルボーイ、先に言っておくわ……ダイルちゃんを恨まないであげてほしいの、ダイルちゃんもこうなるなんて、これっぽっちも考えてなかったんだもの」
「おい、マダムピンキー? なんで今、ダイルの名前が出てくるんだよ……」
「当然じゃない……アタシにテルテルボーイの救援を依頼したのはダイルちゃんなのよぅ。ただ、本来は合流して森の再調査をするって話だったのが、こんな形になって、なんとも言えないわぁ」
俺は話を聞いても……内容が分からねぇ。
「もっと分かりやすく話してくれないか?」
「そうねぇ……本来は他の冒険者が調査するはずだったのは、テルテルボーイも知ってるわね?」
マダムピンキーの話を要約する。
ダイルが話していた、王都からきた三馬鹿冒険者が本来は調査をするはずだった。
ただ、そんな三馬鹿冒険者が戦闘不能になった結果、ダイルは俺に白羽の矢を立てた。
すぐにマダムピンキーに俺が森の調査に向かう話が持ち込まれる。
──森への調査依頼をした直後(マダムピンキー視点)──
冒険者ギルドから少し離れた裏路地の酒場にアタシは足を運んだ。
当然、1人でお酒を楽しむためじゃないわぁ。アタシを呼び出せる男なんて、そうはいないもの……
「わりぃ……クラム、予定が狂っちまった」
「ダイルちゃん……呼び方……頭をかち割っちゃうわよ……」
「冗談に聞こえねぇな、はぁ……マダムピンキーってのは、言い難いんだがなぁ」
アタシに対して、気軽に喋りかけているのは、冒険者ギルドマスターのダイルちゃん、ただ、予定が狂ったってのが引っ掛かるわ。
「普段から、頭の中で金を弾いてるアナタが焦るなんて珍しいわねぇ?」
目の前に置かれたグラスの酒に口をつけ、喉に流し込んでいるとダイルちゃんは苦虫を噛み潰したような表情で口を開いたの。
「実は……例の依頼に使うはずだった冒険者パーティー『ダーククロー』が使えなくなった……」
「そんな事は冒険者稼業なら、よくある話じゃない? 何が問題なのよ」
「いや、成り行きでホタルの奴を……調査に向かわせることになったんだよなぁ……はは」
予想外のテルテルボーイの名前にアタシはダイルちゃんの首を掴み上げて宙吊りにしてたわ。
「面白くないジョークを言うじゃな〜い? アタシの大切なギルドメンバーだって、ダイルちゃんも知ってるわよねぇ?」
「ま、待て、依頼内容は軽く魔物の数を確認するって内容に変更したから……ゲホゲホ」
手を離すと同時に咽るダイルちゃん。
「はぁ……短気すぎだろうが……流石のオレもホタルの奴に、危ねぇ仕事はやらせねぇよ! 軽く数を見て、やべぇってなったら、ホタルなら逃げられるからな、その為にわざわざ1人任務にさせたんだからよ」
「ダイルちゃん……もし、テルテルボーイに何かあれば、ケツの毛1本まで毟って、テルテルボーイよりもテルテルボーイにするわよ?」
「わかってるって、ホタルに何かあれば、治療師ギルドの代金だろうがなんだろうが、冒険者ギルドが負担してやるって、だから、落ち着けよ」
そうして、アタシ達は酒を手に話を続けたわ。時間が流れて、そろそろお開きって感じになった時、アタシのギルド証にベリーちゃんから通信が入ったわ。
《ギルドマスター、至急お伝えしたい内容が!》
《どうしたのよ、ベリーちゃん? マダムピンキーと呼びなさいって言ってるじゃないのよぅ》
《至急なんです! 今、モモさんから連絡がありまして》
ベリーちゃんの言葉にダイルちゃんの顔が豹変して、会話に割り込んできたわ。
《おい、ホタルになんかあったんじゃねぇだろうな!》
《誰ですか、それより、ギルドマスター、ホタルさんに同行していた冒険者から、森で大量の魔物と遭遇した結果、ホタルさんが囮になりその場に残ったそうです……指示をお願いします》
《わかったわ、すぐに街の門に向かうわ。ベリーちゃんはプリティガールにそう伝えて》
通信を切り、アタシは街の入り口へ向かったわ。
「まじかよ! ピンキー、オレもすぐに向かう」
「ダメよ……ダイルちゃんが動いたら、目立ち過ぎるわ……もしも、罪悪感があるなら、治療師ギルドから人を派遣させなさい……ダイルちゃんにしか出来ないでしょうからね。あと、マダムをつけなさい……」
テルテルボーイ……アタシが行くから待ってなさい。死んだら、生き返らないと後悔するくらい身体に色々しちゃうわよ!
──マダムピンキー視点終了──




