109話
アルムさん達が連れてきた……いや、引きずってきた連中を見て、俺だけでなく、その場にいる討伐部隊以外、全員がその光景に唖然とした。
「なぁ、アルムさん……なんで、そんな大量の人間を討伐部隊のアンタらが引きずって戻ってくるんだよ」
俺は動けないながらに、引きずられてきた男達を指差した。
「我々も何故、この魔物が増えた森に冒険者でもない奴らがいるのか気になって、質問をしたんだが、いきなり逃げ出したので、引っぱたいて連行してきたんだ!」
俺のいた日本なら、抗争レベルにやべぇよ……警察に相談案件まっしぐらの事案じゃねぇか……
そんな考えが頭に過ぎるが、一緒にいた『黒龍の息吹』の面々は複雑な表情をしていた。
「どうしたんだ、真剣な表情で、大丈夫だぞ? アルムさん達は少しおかしいが、悪い奴らじゃないからな」
俺の発言に討伐部隊の奴らが全員ショックを受けたらしいが、今は放置だな。
そんな発言にバギッドが返事を返してきた。
「討伐部隊がヤバいかどうかより、C級でも危ない状況になった森にあれだけの人間がいる事実が問題だって話だ」
苛立ちながらも冷静に説明するバギッドに『黒龍の息吹』のメンバーは同意するように頷いた。
「バギッドさんの言う通りかな、『黒龍の息吹』のリーダーとしては、すぐにでも冒険者ギルドに報告して、指示を仰ぎたいっていうのが私の考え」
ミラさんがそう口にすると、次にアルムさんが喋り出す。
「不安にさせたのなら謝罪する。ただ、今は夜が更けている。魔物達も活発になるだろうから、下手な別行動は控えてほしい。あくまでも騎士団側からの要望であり、強制でもない事を先に伝えておくよ」
凛としたアルムさんの姿に俺は驚かされてしまった。
「先輩……口が開いてるッスよ。次の煙草でも咥えててくださいッス……あと、誰に見惚れてるかもモモは知りたいッスね」
「エスも同意……主様、ギルティ……カウント2」
カウントってなんだよ! 何より、見惚れてねぇから!
煙草を咥えさせられ、火をつけられた俺は何も言い返せずに流れを見ていた。
アルムさんの話に『黒龍の息吹』は多少悩んだ様子だったが、内容的に、夜の移動は避けることにしたらしい。
それも冒険者稼業からしたら、当然の判断なんだろうなと思う。
話が決まると次にマダムピンキーがニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「話は決まったみたいねぇ……でも、時間は有限! 限られた資源と違って、流れ出した時間は戻らないし、救えない……そう、時の流れは正に、ファンタスティック! 未来に繋がる! インパクトゥゥゥゥ!」
マダムピンキー……言ってることは立派なんだが、正直、腹立たしいのはなんでなんだろうな……
ただ、そこでマダムピンキーは予想外の話をし始めた。
「なんなら、こうなる予想は既に数日前からついていたんだから、タイムイズマネーッ! 騎士団のサンセルちゃんとは話がとっくについてるのよぅ!」
「待ってくれないか! 商業ギルドマスター殿、そんな話は、我々、魔物討伐部隊は一言も聞いていないぞ!」
アルムさんが慌てた口調で確認すると、マダムピンキーは、“サイドチェスト”のようなポーズをしながら笑った。
「話す必要がなかったんじゃなく、話さないことが1番だと判断したんでしょうねぇ……サンセルちゃんは、頭が回るから、本当に食えないわぁ」
食えないって……マダムピンキーが口にすると変に背筋が寒くなるな……
「商業ギルドマスター殿、教えてくれないだろうか、何より、サンセル支部長殿とはどんな話をしたというんだ」
アルムさんがマダムピンキーに向かって詰め寄る形になると、マダムピンキーは真面目な表情で返答をする。
「落第ね……焦りにより、立場を弁えない暴走と推測のオンパレード、更に言えば、知らないことが本当に重要かを見極めることも出来てないわぁ……正直、期待はずれ、ノーゥゥゥ、インパクトッ!」
「商業ギルドマスター殿……些か、言葉が過ぎるのではないか? どのような経緯があり、どのような言葉が交わされたとしても、我々騎士団は侮辱した相手に対して笑って頭は下げれんぞ……」
アルムさんの雰囲気が変化したのが、素人目にも明らかにわかった。
それはマダムピンキーも感じたようだが、だからといって、焦る様子も発言を訂正する気もないことは明らかだった。
「ふふ、本当に素直ねぇ……ただ、喧嘩ってね、相手が強い場合……死んじゃう場合もあるのよ……アナタってば、まだまだ青いんだから無理に背伸びをしてすべてを背負い込む必要なんてないわよ」
「それが遺言で間違いないな……商業ギルドマスター、いや……クラクラム・ドピンキィィィィッ!」
アルムさん、何してんだ!
「モモッ! エスッ! 止めろ!」
「言われなくても、止めるッスよ!」
「御意! 止める」
アルムさんに向かっていったのはモモだ。
素早い身のこなしのアルムさんに対して、確実に対応しており、アルムさんもモモを前に抜刀せずにいた。
視線をエスの方に向けるとマダムピンキーと向き合う形で互いに睨み合っている。
「主様から貰えた命令、至福……だから、止める!」
「あらあら? 無口なプリティちゃんかと思ったら、意外にお喋りもできたのねぇ、テルテルボーイのために愛を貫くアナタは、正にラブリー! 素敵すぎるインパクトゥゥゥゥ!」
「うるさい……主様に愛があるのは当然、分からない方が、愚か……会話すら無駄」
そこまで、口にしたエスが睨み合いをやめ、マダムピンキーへと駆け出す。
「あら、残念ねぇ……もう少しお利口な判断が出来るタイプかと思ったのに短気ねぇ……怒りっぽいとシワが増えちゃうわよぅ!」
エスに合わせるように動いたマダムピンキー。
鍛え上げられたマダムピンキーの腕がエスに伸ばされるとそれをエスが回避する。
一瞬、ヒヤッとするようなやり取りに、俺は動かない身体を無理矢理動かそうとするが、動かない現実がもどかしい。
だが、次のエスが取った行動に俺は驚愕する。
「主様に心配をかけるのは、愚者……エスは愚者にならない」
そんな声と共にエスがポケットから1本の小瓶を取り出す。
俺に一瞬、エスからの視線が向けられたように見えたが、次の瞬間、マダムピンキーの拳が小瓶を破壊する。
破壊された小瓶の中身が勢いよくマダムピンキーの全身を包み込むように広がっていく。
「あらあら? 何かの毒薬かしら、でも残念ね、実に残念だわぁ! このマダムピンキーに毒は意味ないのよぅ! 何故って、鍛え上げた肉体と筋肉がすべての毒素を弾き飛ばすのよ……なんと素晴らしい……イン……あ、ぎゃああああぁぁぁ!」
突然のマダムピンキーの絶叫にその場の全員が動きを止める。
当然ながら俺もマダムピンキーに視線を向ける。
そんなマダムピンキーの身体には、真っ赤な液体がこれでもかと言わんばかりに付着していた。
「主様の好物が……許さない!」
俺はエスの発言に激辛ブリトーを思い出して、口の中が一瞬で辛くなるのを感じた。
それは同時に、あの激辛ブリトーのソースを全身に浴びた事実を目の当たりにして、マダムピンキーの絶望と痛みを俺自身も感じずにはいられなかった。
お読みいただきありがとうございます!
もし少しでも『蛍とモモの掛け合いが面白いな』『続きが気になる』と思ってくださったら、ページ下部の【☆】や【ブックマーク】で応援していただけると、ハゲみになります……!(毛根的な意味で)
☆ギャグが笑えなくても、クーリングオフは勘弁してください。




