108話
目覚めてみて、俺は驚いた。見慣れた連中が雁首揃えて、心配そうに上から顔を覗き込んでくる。
「えっと、こいつは何事なんだ……熊公のやつはどうなった?」
俺は最後に見た熊公がどうなったかを質問すると、視線はバラバラに動き出したが、確実にモモとエス、そしてマダムピンキーへ向けられていく。
「あぁ、そうなんだな。なんか察せたよ……そうか、俺は熊公を全滅出来なかったんだな……」
そう口にした俺にミルガニアさんが泣きそうな、いや、泣き出したまま怒りを露わにしてきた。
「何を馬鹿なことを言ってるのさ! グレーベアだよ! グレーベアの大群を相手に、生き残れるC級冒険者なんて皆無だよ……見つけた瞬間だって、生きてるか心配したんだよ!」
俺を見て涙を流すミルガニアさんの横から、モモとエスが不満そうな顔を向けてくる。
「先輩……な〜んで、ミルガニアさんが先輩を抱きしめて泣いてるんッスかねぇ……」
モモの言葉に、エスが横から「ギルティ……」と呟いた。
いきなりギルティってなんでだよ……
「テルテルファミリーは、相変わらず仲良しねぇ? ただ、テルテルボーイは、少し、いえ、かなり反省が必要になるわねぇ!」
「マダムピンキー、話が分からねぇって、いったいなんだってんだ?」
「そうよねぇ、ズバリ教えてあげちゃうわぁ、テルテルボーイッ! アナタったら、片腕はブランブランのダ〜ラダラ、全身もブラッディ〜ブラッディ〜、つ・ま・りッ! 死にかけ、取れかけ、ボロ雑巾だったのよぅ〜」
聞いてて、どれだけヤバい状態だったかが分かる。
「マジかよ……」
「えぇ、マジだったわぁ! だ・か・ら・治療師ギルドからも人を連れてきた──このマダムピンキーに感謝しなさ〜いッ! そして、何より……テルテルボーイのために動いたこの子達が、アナタの生きてきた証だと改めて、噛み締めなさ〜い!」
マダムピンキーの声に何故か、数名が顔を逸らした。
「ふん! 当たり前じゃないッスか! 先輩がいないとモモは退屈しちゃうから、助けるのは後輩として当然なんッスよ!」
「エスは、主様を助ける。確定案件」
モモとエスの言葉に俺は軽く笑った。それからミルガニアさん達からも色々と心配されて、むず痒い時間になった。
そうして、俺も多少は落ち着いた。
すぐに帰ると考えていたが、そこで予想外の行動が起こった。
突然、焚き火を始める『黒龍の息吹』は、そのまま近くの川から水を汲んでくると湯を沸かしていく。
「おい、何してるんだ?」
俺の質問にミラさんが返事を返す。
「怪我人は静かに待ってなよ。まずは体力を回復しないと、傷が塞がっても失った血が戻らないのはお約束みたいだからさ」
結局、俺は自分の身体が動けない事実を知ることになる。
ミラさん達が沸かした湯に食材を入れていくのが見えた。
スープでも作ってるのか、そういやぁ、今何時だ。夕方までに戻る予定だったんだがな……
視線を空に向けると、夕暮れの空が次第に暗くなり始めていた。
本来なら、夜になる前に森から出るべきなのに、こいつら……なんでスープ作ってんだよ……
そんな事を考えていると、モモが不意に俺のズボンへと手を伸ばす。
「お、おい!」
「静かにするッス……すぐッスから……」
俺のズボンのポケットから潰れかけた煙草とターボを取り出すと、くしゃくしゃになった袋から煙草を1本取り出し俺の口に煙草を咥えさせた。
「勝利の一服は、先輩の定番ッスから、それにモモしか、煙草がどこに入ってるか知らないッスから仕方なくッス!」
俺は煙草を軽く咥えたまま笑った。
煙草を吸い終わって、気持ちが落ち着くと周囲を再確認する。
よく見れば、スリンガーさんとナンシーさん、バギッドの姿が見えなかった。
その事を質問するとスリンガーさんは、治療師を街に送っていったらしい。
バギッドとナンシーさんは、周辺の見張りと軽く探索をしているらしい。
そこら辺の判断はやはり、C級冒険者パーティーだと再確認させられるな。
スリンガーさんが戻ってくると、その背後には騎士団の姿があった。
俺が小首を傾げると、騎士団の中からアルムさんが顔を出した。
「ホタル殿! 大丈夫ですかぁ! 魔物達に襲われたと聞いて、このアルム・ニヤンキ! サンセル支部長殿に頼み、我が魔物討伐部隊を連れて、参上致しましたぞ!」
森の木々が揺れるのではないかと思うような大声に俺は呆気に取られていた。
「な、な、なぁ! なんでアルムさんが現れるんッスかぁ! 今更、来ても遅いッスよ!」
明らかにガルガル言いたそうなモモと、自信満々な表情を向けるアルムさん。
ただ、このアルムさん達の到着は俺達にとっては助けになった。
傷が塞がり、再生した俺だったが、神経が繋がった分、激痛に耐える結果になっていたからだ。
「さて、ホタル殿を街に運ぶのは簡単だが、我々には、討伐部隊としての仕事もある。すまないが、少し待っててほしい」
アルムさんは部下の連中に素早く指示を出していた。
魔物達に対して、アルムさんの部隊が次々に討伐を開始する。
冒険者とは違った魔物特化の討伐部隊って、肩書きはダテじゃないと、素直に感じてしまった。
アルムさんの指揮で森の中に入っていった討伐部隊、その後、すぐに魔物達の咆哮と断末魔が響き、普段のダメダメなアルムさん達しか知らないこともあり、俺は何度目かになる驚きを露わにしていた。
「アルムさん達、すげぇな……」
そんな呟きに、ミラさんが返事をしてきた。
「ホタルさん知らないの? 騎士団は2パターンあって、対人専門と魔物専門に分かれるんだよ。ただ、どちらにも対応できるのが、各隊のリーダーに選ばれるらしいから、あの女隊長さんは優秀なんだろうな」
「ミラさん、俺の知ってるアルムさんと他の連中は、単なる酒飲み問題児でしかねぇんだよ……挙句の果てには、猿公のワイン漬けばかり作れって言われてたからな」
「うわぁ〜……それは、なんとも言えない思い出だね……でも、私には凄い人達にしか見えないけどね」
そんな会話をミラさんとしていると、森の奥から突然「誰か! すぐに来てくれぇッ!」とアルムさんの部下から叫び声が聞こえた。
アルムさんが数名の部下を引き連れて、声の方角に消えていく。
それから、すぐに別の叫び声が森にこだまし、似たような声が至るところから聞こえてくる。
「なんだってんだよ……リアルホラーはマジに勘弁なんだがな」
「先輩……モモも物理的に倒せない相手は苦手ッスよ……」
俺もモモも、根本的に物理で解決できない相手は苦手だ。
ただ、そんな心配は杞憂だったらしい。森から戻ってきたバギッドとナンシーさん、その後ろからアルムさん達も姿を現す。
普通に戻ってきたはずのアルムさん達だったが、その手に引きずられてきたものが問題だった。
「なあ、アルムさん……なんなんだよ……それ」
俺は、アルムさん達が引きずってきたそれから視線が離せなかった。
俺の見間違いでなければ、ボロボロな状態の人間だった。
いや、正確にはボロボロにされた人間なんだと、アルムさん達が武器を手にしていることからも、すぐに理解できた。
「ホタル殿、いきなり驚かせてすまない。森の魔物達を始末していたら、こいつらが怪しい動きをしていてな、怪しきは捕らえよ! これが騎士団の基本だからな!」
ドヤ顔のアルムさん達に俺は愕然とした。
いや、無罪だったら、ただの暴行事件じゃねぇか!
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