107話
──ミルガニア視点──
アタイが慌てて、森に向かおうとした瞬間、門の前で派手な服のオッサンに止められた。
見た目から、ヤバい人だと理解してアタイはそのオッサンを睨みつけた。
「誰だよ! 今アタイ達は急いでるんだ!」
邪魔されたと判断して強まる口調、ただ、その派手なオッサンは人差し指を自分の唇に当ててから、わけのわからないポーズを取り始めた。正直、不快感を感じる。
「ダメねぇ……焦りは冷静な判断と事実を捻じ曲げるのよ! そう、それは残念すぎるバッドゥゥゥ・コールッ! 今アナタに必要なのは、テルテルボーイに向かう情熱よりも、ゲットゥゥゥ・トリートメントゥゥッ!」
「アタイが分からない言葉を並べるな!」
「わかってないわねぇ? 怪我人がついてきても邪魔になるだけって言ってるのよぅ、そんな非生産的判断は、まさに! ナンセンス! 付いてきたいなら、治療師を連れてきてるから、治療してからにしなさい。モフモフガール!」
ホタルさんが大変なのに! なんなんだよコイツ!
「それくらいにするッスよ。マダムピンキーの言い分もわかったッスから、とりあえず、ミルクタンクさんは治療を受けるッス!」
「アタイの名前はミルガニアだ! モモ! 間違えるな!」
数分でアタイは怪我人扱いになり、治療師ギルドの女から治癒魔法を受けることになった。
「我々、治療師ギルドは金さえ貰えれば治療はするが、ゴル金貨1枚だぞ? 追加料金になるんだが、本当にいいのか、商業ギルドマスター?」
「構わないわよ。チャチャッと治しなさい。悩むよりも、決断が大切な瞬間が今なんだから、間違った決断はノーサンキューッ! 正しい判断こそ、エクセレントゥゥゥッ!」
モモの会話からわかった。この変なピンクのオッサンが商業ギルドのマスターらしい……ありえない。
それでもアタイの足は無事に動くようになった。むしろ、全身の傷が消えて驚いた。
「さて、ミルガニアさん。早速ッスけど、早く先輩の居場所に案内するッスよ!」
モモに言われて、アタイが先頭を走ろうとするとスリンガーさんが前に立った。
「装備も無しに先頭を進むのは無理ですよ。後ろから指示を頼みます。ミルガニアさん」
「わかった。森の入口付近にも魔物達が沢山いるから、注意して」
アタイ達はすぐにホタルさんの元に向かって走り出した。
森に入ると予想通り、雑魚の魔物達が数でアタイ達を襲ってくる。
驚いたのは魔物の数じゃなく、スリンガーさんの更に前に飛び出した3人の姿だった。
その3人はアタイ達『黒龍の息吹』のメンバーじゃなく、モモとエスって呼ばれた女の子、それにあのピンクのオッサンだった。
「行くッスよ! エスは無理しなくていいッスからね!」
「心配……要らない。モモよりエスは強者」
「あらあらぁ〜! 2人とも元気にパワフルガールじゃなぁ〜い! アタシもしっかりと刻んであげる、正真正銘のインパクトゥゥゥッ!」
森そのものが薙ぎ払われるんじゃないかと素直に感じた。
モモの拳はスキルで強化されて、ビッグボアが殴り飛ばされていくし、エスって子は影を操るのか、黒い刃が無数に見え隠れしてる。
ピンクのオッサンは単純に格闘センスだけで魔物が粉砕されてるし……
その様子にナンシーから小さな声が漏れた。
「なんなのよ……あのバケモンみたいな連中、ウチらC級より、絶対に強いじゃん! 商業ギルドのマスターなんて見た目から、化け物じゃん! なんか自信失うわぁ……」
「それにはオレも同感だな、モモが馬鹿みたいな強さなのは、前に見たが、あとの2人もやべぇ、そんなヤツらがホタルのために動くんだから、怖いったらありゃしねぇ」
ナンシーさんとバギッドさんの会話にアタイを含めて、ミラさんとスリンガーさんが頷く。
「でもさ、私達が前に森を通った時はこんなに魔物はいなかったはずなのにさ、本当に魔物の数がおかしいよな?」
ミラさんがそう呟くとスリンガーさんも同意するように頷いた。
そう、アタイ達も移動の際に森を抜けて行くなんてのは、冒険者である以上は日常茶飯事なんだ。
だから、今回もホタルさんが調査に行くって聞いて気楽に手伝うと言ったのに、弱い自分が情けない……
「ミルガニアさん! このまま、まっすぐでいいんッスかァァ!」
いつの間にか、先頭にいたモモから叫ばれてアタイはすぐに向かう方向を伝える。
今は考えるよりも、ホタルさんを助けることだけ考えないと……待ってて、ホタルさん。
──ミルガニア視点終了──
──ホタル視点──
はぁ……格好つけて、ミルガニアさんを逃がしたが、数だけはいっちょまえにいやがるなぁ。
既に何十匹ぶっ飛ばしたか分からねぇのに、イノシシの次は熊かよ。
「おいおい、流石の俺も、熊と相撲なんて金太郎みたいな事は初めてだってのによぅ」
ぐうぅぅッ! フゥゥゥッ!
俺の言葉なんか知らねぇってか……
「前に猿公と喧嘩になったが、次は熊公ってか? 言っとくがなぁ! 日本男児のロマンにランキングつけるとな、絶対に“熊とタイマン”が上位に入るってことを教えてやらぁ!」
俺は全身に【身体強化】を発動させる。
本来なら素手でシンプルにぶつかりてぇが、生憎と熊公は団体さんみたいだからな、少しくらいは多めに見てもらわねぇと割に合わねぇ。
3m近い巨大な熊公が手を振り上げる。
高さだけの感覚なら、俺の倍はあるんじゃないかと感じる高さから、力任せの一撃がガードした俺の腕に衝撃を与える。
骨が軋むような感覚が痛みになった瞬間、熊公からもう片方の腕を腹部目掛けて下から振り上げられる。
「ヤバ!」
そんな声が口から漏れた瞬間、腹部に焼けるような痛みが走り、ギリギリで後ろに飛んだはずの俺の腹部はシャツに鮮血が滲み出していた。
「痛ぇ、今のはマジにヤバかったぞ、ただ、やられっぱなしで終わるほど、この佐乃村 蛍は、大人しくねぇぞ!」
俺は熊公に殴り掛かる。厚い脂肪と毛皮、皮膚まで硬いときてる。本当に化け物だな、ただ、どんな熊でも、闘うって決めたら、狙う場所は1箇所しかねぇ!
「くらいやがれ!」
【身体強化】をした状態で地面を蹴り、飛び上がり、熊公の鼻に目掛けて、拳を叩き込む。
熊公がよろめき、尻もちをついた。
「痛てぇよな! ただ、俺は最初に言ったはずだ! 食材に成りたいやつは掛かって来いってな!」
熊公が起き上がる前にボコボコにする。
脇腹がかなり痛ぇが、気にしたら身体がもたねぇ。
「さて、熊公が1匹ノックアウトだ……次の熊公、早く来やがれ、アドレナリンが出てるうちに食材にしてやっかんなぁ!」
そこからの記憶は曖昧で、俺が次に目を覚ました時、最初に目にしたのは、クネクネとマッスルポーズを決めるマダムピンキーの姿と俺を取り囲む見慣れた連中の心配そうな面だった。
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