1-11話、物の価値と悲しき病?
街の外に広がる不思議な光景、俺が焼いた猿公ステーキを無言で食べ終えた爺さんは、静かにフォークとナイフを置く。
周囲の視線は俺同様に爺さんに集中していた。
「若いの? この肉を漬けたワインを味見させて貰えないかね?」
「構わないが? グラスがないぞ?」
「そのワインは、しっかり払わせてもらうから、安心してくれ」
俺は言われるまま、ワインボトルをそのまま手渡す。
「ん? これは」
そんな爺さんの言葉に俺は慌ててコルクを抜くため、ワインオープナーでコルクを引き抜いていく。
「なんだその道具は? それに何故、ワインの栓をそんなに深く締めるんだ」
「待て待て、爺さん。はっきり言うが、そこまで俺も知らねぇんだ。ただこのワインを仕入れただけだからな」
手に持ったワインオープナーを爺さんへと手渡す。
「爺さん。せっかくだからワイン代を貰うなら、こいつはサービスでやるよ。店に売る程あるんでな」
「変わったやつだな。だが、気に入った! この1本を金貨1枚出してやる! 他の奴らの通行料もワシが出してやる!」
「お! いいのか、爺さん!」
「構わんさ、ただしだ! 若いの、街に入る手続きが済んだら少し付き合え! お前さんとはしっかりと話をせねばならんらしい。内側で待っておるからな」
それだけ言うと爺さんは馬車に乗り、ドルミールの街に入っていった。
俺が爺さんを見送ると、モモとアルムさんが傍へと駆けてくる。
「やったッスね。全部モモのおかげッスね」
確かにモモの言葉がなかったら、俺は今回諦めてただろうな。あんな風に言い出すのは予想外だったが、モモの髪を守れて一安心だな。
「ホタル殿、よくアッラノーマ殿を説得してくれた。色々と伝えていなかったせいで本当にすまない」
アルムさんと兵士連中には、後でしっかりと話を聞くとして、今は素直にドルミールの街に入ることにする。
理由は会話ができても、俺とモモはこちらの文字を読めてもまだ書けない。
つまりは、アルムさん頼りだからだ。
そうして、爺さんの助けを借りて、俺達はドルミールの街に無事に入ることが出来た。
「ホタル殿。無事に街に入れたな。本当にすまなかった」
そう言いながら、アルムさんは俺に頭を下げる。
俺は静かに手を伸ばす。
「ホタル殿……」
「一文無しのままだと、宿屋にも泊まれないんだろうが、爺さんから貰った金貨は貸しだ。宿屋を手配して、モモを休ませてくれ」
「何から何まで本当に……申し訳ない。首都『ライム』に戻った際にはすべてを支払うと騎士の名誉にかけて誓おう」
「おう、俺はあの爺さんに呼ばれてるから、少し行ってくる。ご丁寧に馬車を停めて待ってるからな」
俺に再度深く頭を下げてから、走っていくアルムさんを見送ると、停車されている爺さんの馬車へと向かう。
馬車の扉をノックしようとすると、馬車の扉が先に開く。
「若いの、窮屈だろうが乗りなさい。色々と聞きたいのでな」
俺は肩を窄め車内に座る。それを合図に馬車がゆっくりと動き出していき、俺は爺さんに行き先について問い掛ける。
「どこに向かってんだ?」
「決まっておるじゃろう? 交渉のため、ワシの商館に向かっとる。本来ならこの場で話を詰めたいが、焦るとすべてを逃す場合もあるからな」
笑いながらギラギラな目を向けてくる爺さんに俺は軽く笑いそうになる。
そこから俺は逆に爺さんへと質問をすることにした。
「なぁ、爺さん? さっき金貨1枚をワインに支払ったが、ありゃ大袈裟だ。実際にこ《・》の《・》街なら、普通のワインで何本仕入れられるんだ?」
「普通のワインならか? 一般的なワインなら、金貨で70本ってところか? いい物ならお前さんのワインのように1本で金貨と変わらない価値になるだろうがな」
そこから、色々な物や日常品の値段を質問してわかったのは、硬貨の価値だ。
『ネハン王国』で使われてる硬貨の価値は大体がこんな感じだった。
金単位
ゴル金貨を25万円
金貨が5万円
銀貨1万円
大銅貨1000円
銅貨100円
最初の話で爺さんが言ってた一般的なワインが銅貨7枚、700円くらいだと考えると、俺の渡したワインが金貨一枚は、ぼったくり価格だな。
「爺さん、悪い。後で同じワインを9本用意させてもらう」
俺が突然そう口にすると爺さんは驚いた表情を見せた。
「ふむ、なら9本すべて買おう。ただ、最初は金貨1枚を出したが全部で金貨7枚にして貰えんか? さすがに、信頼関係が薄い今の状態で口約束ができる限界の額になるのだが」
逆に俺は驚いた。正直、爺さんが商会の頭で大丈夫なのかってレベルに疑いたくなる。
俺は貰い過ぎた分の釣りが出せないから、現物支給で話を終わらせたいだけなんだが……
「やはり、厳しいか……ワシとしても安い金額で買い叩くような真似はしたくないが、こればかりはなぁ」
「ちげぇよ! さっきから、いいか、爺さん! そんなすぐに金を出すとか言ってたら本当に経営が傾くぞ!」
俺の声に爺さんは不思議そうに首を傾げる。
「はて? 若いの、お前さんは勘違いをしておるな。この世界に商人は星の数よりも多い。わかるか?」
「商人が多いのは今の言い方で伝わった。だがな!」
「まあ待て待て、話は最後まで聞かぬか若いの。大なり中なり様々じゃ、騙す輩と奪う輩、損する者と虐げられる者おる。だからこそ、価値ある物を正当に評価するのがワシの商人道なのじゃよ」
な、何言ってんだ! つまり、自分が信じたら突っ走るし、価値があるかも自分次第で決めて、損得感情とかで生きてるって話か?
「はぁ、話は何となく理解した。だから言うがな、今話した9本のワインは金貨に対して、俺が爺さんに渡す正当な本数だ! だから、今回は追加の支払いは要らねぇ」
本当に人が驚くと口が開くらしいな、爺さんの表情で即座に理解できた。
「そうか、若いの……お前さんはやり手だな。こちらとしては乗るしかない大船じゃないか。無償でこれほどの品を渡す馬鹿はおらん」
なんか、語り出したな……なんで年寄りは、自分の世界をすぐに広げまくるんだ……
「つまり、お前さんは、金貨よりも商人との繋がりを優先すると……実に結構! ワシはお前が改めて気に入ったぞ!」
「そいつはどうも……」
「ただ、残念だが……お前さんの願いはワシでも今は叶えられんだろうな」
あ? 俺の願い? なんだそりゃ。
「お前さんの連れの娘っ子が言ってたが、“毛死病”に効く薬品や薬草は未だに発見されておらんからな」
「誰が、ハゲだって……俺はベリーショートだぁぁぁぁ!」
モモのやつ! 絶対に後で100叩きだからなぁぁぁぁ!




