第18話 三姉妹
「ケレッゾ!」
血まみれの麻袋を被せられた、彼が椅子に座らされている。
――私は、ゼノを睨みつけた。
「ようこそお越しくださいました」
わざとらしく、仰々しい挨拶をするゼノ。
「これより、世にも珍しい!
王国騎士の処刑を執り行わせていただきます」
奴隷たちの雄叫びが上がる。
「何……あれ……」
声を上げない集団が、広場の奥に並んでいる。
あれは……死体!?
肉はただれ、鼻を突く腐臭が風に乗って届く。
まるで糸で吊られたように、ふらふらと揺らめいていた。
「俺の軍隊、かっこええやろ。
まぁ予定よりちょっと早いけど、ええか。
せっかちで困るわ、女は」
「リリ!」
「はぁー、覚悟は決めました。行きますよ」
「パーティーの始まりや!」
ラビリリスと騎士団が奴隷の軍勢に飛び込む。
奴隷一人一人の戦闘能力は大したことはない。
一騎当千の覚悟で臨めば……!
「よぉ、お姫様」
迫る巨体。
「俺の事覚えてるか?」
「ガームでしょう、逆恨みの」
「おお!おおお!姫が俺の事を覚えて……!
殺しがいがあるねえ」
「下がって!」
リリがガームの斧を受ける。
交わる剣戟。
ガームとの力の差に消耗していく。
海賊の死体が、背後から私の腕を掴む。
「しまっ……」
「げへへ」
その隙にガームが私の首を切り裂いた。
「ああ!、ついに……ついに王族をぶっ殺した!!
ああ……ああああ!!キモチイイ!!」
斬られたはずの身体で、私はそのまま奴を斬り返す。
「ぐがあああ!痛え!!」
「が……」
遠くで倒れる、騎士フルドの声。
「あ……?」
ガームの顔が狂喜の笑みに変わった。
「そういうことか!」
***
――また一人、倒れた。
私の能力「高潔なる騎士団」。
致命傷を負うたびに、
配下の騎士に肩代わりさせる最低な常時発動型スキル。
私と契約した者がいる限り、
私の「死」は強制的に「無傷」へと巻き戻される。
騎士が一人倒れるたびに、
私の傷が吸い込まれるように消えていく。
消えた血痕の数だけ、仲間の命が消えている。
私は倒れることすら許されない。
この地獄の舞台で、最後の一人になるまで踊り続けるしかない。
ボロボロの体で、奴隷の数を少しずつ減らす。
が、全ての攻撃を避けられるわけでは無い。
「あは、アハハハハ!これで何人目だ!」
「……21人よ」
「ギャハハハ!なんとも思わねえのかよ!」
「罰は受けるわ」
足を矢で打ち抜かれ、またガームに胸を裂かれる。
「アタシの番っすか……」
死体たちに取りつかれたリリは目を瞑る。
「式神」
リリの胸が裂け、鮮血が噴き出す。
――だが次の瞬間、その隣にもう一人のリリが立っていた。
「姫様、もう後がないですよ」
「わかっているわ」
「おーおー、面白い事してくれるなあ。
なんで二人いんのキミ……。
ああ、そういうこと。作りモンかお前」
騎士フルドとリリの死体にゼノが触れると、
それは、ゆらりと立ち上がる。
「ヒメサマー、ヒドイデスー。イタイデスー。あははは」
「貴様ッ……!」
死体をおもちゃのようにゼノが動かす。
「ドウシテ、ヒメサマー。アタシタチダッテ、シニタクナイデスー。
アヒッアヒッアヒャヒャ」
「外道……!」
剣を握る手が血でにじむ。
「そろそろ飽きてきたわ。終わらせよか」
ゼノが手を叩く。
「殺しつくしたるわ。――行き」
その命令に死体たちが突進を始める。
「そうだな。そろそろ飽きてきた」
聞き覚えのある声。
ああ、貴方は。
「ヒトツ―――?」
***
***
死体の軍勢の動きが止まった。
まるで糸が切れた操り人形のように。
「あ?なんやこれ」
「ちゃんと話すのは飛竜の試練以来だな」
死体の軍勢の中、俺は深く被ったフードを脱ぐ。
「なんやお前……、生きとったんか……」
「ちょっと細工をさせてもらった。
お前のブラック経営には皆ついていけないそうだ」
ゼノが必死に動かす指先から、魔力の糸が霧散していく。
「残念だったな。
こいつらの『転職先』は、もう決まっているらしい」
「は?……お前1人生きとったところで、
この状況はなんもかわらんで」
奴は焦り、何度も指を動かす。
「チッ、なんなんや、これは。
お前……一体なにをしたぁ!!」
「ククク……実に面白い能力だな」
「あ?……お前まさか……」
動く死体に施したのは“刻印”。
彼らが魔力で動く魔物と定義できるのであれば――
賭けだったが、どうやら、完全に俺の支配下に下ったらしい。
「”死体を操る能力”というのは」
「……ッ、全然違うわボケ!!」
ゼノが青筋を立て切りかかる。
ガームや奴隷も一斉に襲い掛かる。
「お前に敗因を教えてやろう」
「あ?」
「未知のものに不用意に近づきすぎだ」
ガームとゼノに俺は触れる。
「固有技能、『万魔殿』」
三人の姿がラビリリスの目の前から消えた。
***
***
暗転、そして気づけば薄暗い洞窟……?
「おい、ガーム。なんやここ」
「し、知らねえよ」
「ようこそ、我がダンジョンへ」
意趣返しと言わんばかりに仰々しくお辞儀をする男。
「気味悪いトコ連れてきやがって。
おいガーム、やるで。数的有利はこっちや。」
「おう」
武器を構える。
「ははは、ボスと戦いたいなら、
俺の自慢の部下を倒してからにしてもらおうか」
奴が指を鳴らすと、閃光と共に急激な冷気が襲う。
「はあ、社長。本を読んでる最中だよ」
氷の中に突き落とされたかのような、突き刺すような冷気。
地面に光る魔方陣が現れ、吹雪が吹き荒れる。
その中に女。
「なんや……お前」
「三災、〝氷〟クリスフィアス。覚える必要はない。
終わるのだから。お前たちはここで」
気づけば靴が地面に張り付いている。
まずい、と直感した瞬間。
「良いとこどりしないでよ~お姉ちゃん」
背後から声。
「三災の〝病〟ヴェネノ。よろしくねえ~」
振り返ると何が起こったのか、女から目が離せない。
「良い感じに効いてるっぽいね」
「な……あ……」
視界の端に映るガームも同様、口が動かない。
体の自由に動かなくなる。
「初陣がこんな雑魚なんて、アタシたちも舐められたものね」
死角から聞こえる声。
「喋れないのね。ああ、可哀そう。冥土の土産に教えてあげる。
アタシは三災が〝炎〟アグネア。」
ズドン、と音だけが響いた。
「せいぜい冥府で宣伝しときなさい」




