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第16話 ゼノ

「なあ、2点持っとった男が死んだんやろ?

なら、願いは俺らが叶えられるんちゃうん」


オレは巫女へ問いかける。

棚ぼたで転がり込んできた「勝利」の匂いに、口角が吊り上がってしまう。


「……生死の確認をします。

1週間かけても彼が現れない場合は、アナタ達を祖竜様の元にお連れしましょう」

「まどろっこしいなぁ……まぁええわ。仮にアイツが生きとった場合どうなるん」

「祖竜様に判断を仰ぎます」

「ハハ、そうか。ガーム行くで、観光でもしよや。隅々までな」

「いいのか?アイツらヤらなくてよ」

「ええ、ええ。キブンええから。どうせ生きとる訳ないやろしな」


ガームに耳打ちする。


「アイツら皆殺しにすりゃ、どっちにしろ俺らの勝ちや」

「ああ、そういうことか」


オレは「ほな!」といい、場を離れた。


***

***


左目の金の瞳が、はるか眼下の火山を冷たく見下ろした。


アタシの中で考慮にも値しない、つまらない男だった。

それだけのこと。

でも

―――この胸の奥に引っ掛かる違和感は……。


「やめやめ」


あの男は殺した。それでいい。

アタシに生きている実感をもたらすのは魔王だけ。

ただ、奴の底も見え始めている。


”勇者”達と魔王を殺したら、アタシは何を目的に生きるのだろう。

凪のような生に意味はあるのだろうか。


波に足をかける。


「じゃあね、お姉ちゃん。元気で」


水面を蹴り、加速。

空を駆ける。


息抜きに、アルカ島によってリンゴでも齧ろうかしら。


***

***


宿屋の古い階段が、ギィと音を立てて鳴った。


「ケレッゾ様~、ラビ様、ずっとグズグズっす」


リリが宿屋の階段を降りてくる。


「無理もないだろう。ペットが死んだんだ。そっとしておけ」


『”正気を失う魔法”をかけられたとして不問とす』という条件で、

逃亡兵の受け入れを宣言。

数人の騎士団が戻って来、その対応に追われる。


「優しすぎじゃないっすか?」

「俺達は戦力を失いすぎている。エントリアの兵は貴重だ。

それに奴隷どもの()()をしなければならないからな」


とはいえ、文面を丸切り信じる者も少ない。

どんな処罰が待っているとも、わからないこの文句の成果は芳しくはない。


「ほっといて帰っちゃえばいいんじゃないッスか?

どうせ王国専用船しか、この島は行き来できないんだし。置いてけば詰みっしょ!」

「それも一手ではある。……が、船の準備までに反逆でもされては叶わん。

確保も排除もやれるだけやったほうがいい」


ヒトツ(あの男)は生きてはいまい。

我々の要望は祖竜に伝える機会は失われた。


だが、魔石の供給量が減るわけではない。

姫さえ無事なら、それでいい。

早急に、かつ安全に彼女を国に返すことが今の至上命題だ。


とはいえ、船の修繕にはドワーフの協力を取り付けても、

1週間は要する見通しだ。


奴隷の襲撃は、あり得るだろう。

スラムの無法組織『13人』のゼノ、裏切りの騎士ガーム……。


「ハァ、いつになったら俺は休めるんだ」


***

***


窓枠の木目に、涙が落ちて黒い染みを作る。


「ヒトツ……」


窓から外を見る。


この旅の中で何度も助けられた。

彼の献身は私の心の支えになった。

国に帰ってからも私を支えてほしかった。


「ううっ……」


枕を濡らす。

散っていった英霊と、彼の事で頭が堂々巡りになる。


祖竜との交渉の権利も得られず、ただ仲間を失っただけ。

こんな島、来るんじゃなかった。


***

***


奴隷たちの拠点にオレとガームは戻り、”仕込み”をしていると、

数人の集団が近づく。


「なあ、ガーム。俺たちを仲間に入れてくれないか」

「あ?」


ガームの前に、顔見知りらしい騎士が三人。


「お前ら、この島を出るために騎士団を襲うだろ?じゃないと奴隷に逆戻りだ。

どう考えたって、お前らの勢力の方が人数も多い。

強い方に付くのは道理だ!」

「ほ~う」

「アイツらに勝ち目なんてねえ!なあ、頼む俺達もそっちにつかせてくれ。

国に帰ったら上には適当に報告して、きっといい思いをさせる!」


騎士たちが口々にオレたちに、いかに尽くすかをプレゼンする。


「ええ話やん。ガーム。受け入れよや」

「……ああ、そういうことか」

「一応オレらも、イキナリ100%信じるってのは、しんどいわ。

一人ひとり軽い”面接”してええか?」

「もちろんだ!」


一人をテントに招き入れる。


次の瞬間。

ガームが羽交い絞めにし、声を上げぬよう喉を切り裂く。


「合格やで~、嬉しいやろ」


崩れ落ちる騎士の頭を掴み、固有技能(ユニークスキル)を発動する。

物言わぬ肉塊に過ぎなかった男が、

糸の切れた人形のようにガタガタと関節を鳴らして立ち上がる。


光のない瞳がゼノを見つめ、意思のない忠誠を捧げた。


「次、呼んできて~」

「おう」


***


「ひい、ふう、みい……大所帯になってきたなぁ」


テントの裏に並ぶ死体の軍隊。


「えげつねえ能力だな。本当」

「俺だってこんなことしたないで。持たざる者の王(レギオン)の条件のせいや」

「楽しそうに殺してたじゃねえかよ」

「ククク、趣味と実益を兼ねとるだけや。

にしても、ルゥの死体を回収できんかったのは痛いなぁ、レアやったのに」

「影の中で死んでんじゃねえのか?」

「そんなとこやろなぁ」


この能力は、”持たざる者”を支配し、強化する能力。

奴隷やスラムの連中の統率を取るにはうってつけの能力だが、

海賊や騎士団など既に『何かに属している者』には効果がない。

言葉の通り、『何も持たない者』にしか効果は無い。


だから殺すのだ。

――死体であれば、何も持ってはいないのだから。


奴隷の陣営に海賊の生き残りがやってくる。


「なあ……アンタら……」

「いらっしゃいませ!お客様」


***

***


「教えられることは十分伝えたつもりです。

……レベル20、ギリギリ間に合いましたね」


海岸に浮かぶ小舟に三姉妹とミルフィーが乗る。

三姉妹はもしものために、お口にチャック。


「地獄の特訓は当分は勘弁だ」


潮風が、焦げ付いた俺の体に心地よく吹き抜ける。

三姉妹とミルフィーを乗せた小舟が、海竜の牽引によって波を切り裂き始めた。


「では、健闘を祈ります」

「ああ、待っててくれ」


ミルフィーの出立を”誕生派”の巫女たちと見送った。


「現在はヒトツ様が2体、奴隷陣営が2体となっています。

祖竜様に判断を仰いだ場合、我々ではどうなるか……」

「そうか……じゃあ」



「ゼノを殺そうか」

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