第16話 ゼノ
「なあ、2点持っとった男が死んだんやろ?
なら、願いは俺らが叶えられるんちゃうん」
オレは巫女へ問いかける。
棚ぼたで転がり込んできた「勝利」の匂いに、口角が吊り上がってしまう。
「……生死の確認をします。
1週間かけても彼が現れない場合は、アナタ達を祖竜様の元にお連れしましょう」
「まどろっこしいなぁ……まぁええわ。仮にアイツが生きとった場合どうなるん」
「祖竜様に判断を仰ぎます」
「ハハ、そうか。ガーム行くで、観光でもしよや。隅々までな」
「いいのか?アイツらヤらなくてよ」
「ええ、ええ。キブンええから。どうせ生きとる訳ないやろしな」
ガームに耳打ちする。
「アイツら皆殺しにすりゃ、どっちにしろ俺らの勝ちや」
「ああ、そういうことか」
オレは「ほな!」といい、場を離れた。
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左目の金の瞳が、はるか眼下の火山を冷たく見下ろした。
アタシの中で考慮にも値しない、つまらない男だった。
それだけのこと。
でも
―――この胸の奥に引っ掛かる違和感は……。
「やめやめ」
あの男は殺した。それでいい。
アタシに生きている実感をもたらすのは魔王だけ。
ただ、奴の底も見え始めている。
”勇者”達と魔王を殺したら、アタシは何を目的に生きるのだろう。
凪のような生に意味はあるのだろうか。
波に足をかける。
「じゃあね、お姉ちゃん。元気で」
水面を蹴り、加速。
空を駆ける。
息抜きに、アルカ島によってリンゴでも齧ろうかしら。
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宿屋の古い階段が、ギィと音を立てて鳴った。
「ケレッゾ様~、ラビ様、ずっとグズグズっす」
リリが宿屋の階段を降りてくる。
「無理もないだろう。ペットが死んだんだ。そっとしておけ」
『”正気を失う魔法”をかけられたとして不問とす』という条件で、
逃亡兵の受け入れを宣言。
数人の騎士団が戻って来、その対応に追われる。
「優しすぎじゃないっすか?」
「俺達は戦力を失いすぎている。エントリアの兵は貴重だ。
それに奴隷どもの対応をしなければならないからな」
とはいえ、文面を丸切り信じる者も少ない。
どんな処罰が待っているとも、わからないこの文句の成果は芳しくはない。
「ほっといて帰っちゃえばいいんじゃないッスか?
どうせ王国専用船しか、この島は行き来できないんだし。置いてけば詰みっしょ!」
「それも一手ではある。……が、船の準備までに反逆でもされては叶わん。
確保も排除もやれるだけやったほうがいい」
ヒトツは生きてはいまい。
我々の要望は祖竜に伝える機会は失われた。
だが、魔石の供給量が減るわけではない。
姫さえ無事なら、それでいい。
早急に、かつ安全に彼女を国に返すことが今の至上命題だ。
とはいえ、船の修繕にはドワーフの協力を取り付けても、
1週間は要する見通しだ。
奴隷の襲撃は、あり得るだろう。
スラムの無法組織『13人』のゼノ、裏切りの騎士ガーム……。
「ハァ、いつになったら俺は休めるんだ」
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窓枠の木目に、涙が落ちて黒い染みを作る。
「ヒトツ……」
窓から外を見る。
この旅の中で何度も助けられた。
彼の献身は私の心の支えになった。
国に帰ってからも私を支えてほしかった。
「ううっ……」
枕を濡らす。
散っていった英霊と、彼の事で頭が堂々巡りになる。
祖竜との交渉の権利も得られず、ただ仲間を失っただけ。
こんな島、来るんじゃなかった。
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奴隷たちの拠点にオレとガームは戻り、”仕込み”をしていると、
数人の集団が近づく。
「なあ、ガーム。俺たちを仲間に入れてくれないか」
「あ?」
ガームの前に、顔見知りらしい騎士が三人。
「お前ら、この島を出るために騎士団を襲うだろ?じゃないと奴隷に逆戻りだ。
どう考えたって、お前らの勢力の方が人数も多い。
強い方に付くのは道理だ!」
「ほ~う」
「アイツらに勝ち目なんてねえ!なあ、頼む俺達もそっちにつかせてくれ。
国に帰ったら上には適当に報告して、きっといい思いをさせる!」
騎士たちが口々にオレたちに、いかに尽くすかをプレゼンする。
「ええ話やん。ガーム。受け入れよや」
「……ああ、そういうことか」
「一応オレらも、イキナリ100%信じるってのは、しんどいわ。
一人ひとり軽い”面接”してええか?」
「もちろんだ!」
一人をテントに招き入れる。
次の瞬間。
ガームが羽交い絞めにし、声を上げぬよう喉を切り裂く。
「合格やで~、嬉しいやろ」
崩れ落ちる騎士の頭を掴み、固有技能を発動する。
物言わぬ肉塊に過ぎなかった男が、
糸の切れた人形のようにガタガタと関節を鳴らして立ち上がる。
光のない瞳がゼノを見つめ、意思のない忠誠を捧げた。
「次、呼んできて~」
「おう」
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「ひい、ふう、みい……大所帯になってきたなぁ」
テントの裏に並ぶ死体の軍隊。
「えげつねえ能力だな。本当」
「俺だってこんなことしたないで。持たざる者の王の条件のせいや」
「楽しそうに殺してたじゃねえかよ」
「ククク、趣味と実益を兼ねとるだけや。
にしても、ルゥの死体を回収できんかったのは痛いなぁ、レアやったのに」
「影の中で死んでんじゃねえのか?」
「そんなとこやろなぁ」
この能力は、”持たざる者”を支配し、強化する能力。
奴隷やスラムの連中の統率を取るにはうってつけの能力だが、
海賊や騎士団など既に『何かに属している者』には効果がない。
言葉の通り、『何も持たない者』にしか効果は無い。
だから殺すのだ。
――死体であれば、何も持ってはいないのだから。
奴隷の陣営に海賊の生き残りがやってくる。
「なあ……アンタら……」
「いらっしゃいませ!お客様」
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「教えられることは十分伝えたつもりです。
……レベル20、ギリギリ間に合いましたね」
海岸に浮かぶ小舟に三姉妹とミルフィーが乗る。
三姉妹はもしものために、お口にチャック。
「地獄の特訓は当分は勘弁だ」
潮風が、焦げ付いた俺の体に心地よく吹き抜ける。
三姉妹とミルフィーを乗せた小舟が、海竜の牽引によって波を切り裂き始めた。
「では、健闘を祈ります」
「ああ、待っててくれ」
ミルフィーの出立を”誕生派”の巫女たちと見送った。
「現在はヒトツ様が2体、奴隷陣営が2体となっています。
祖竜様に判断を仰いだ場合、我々ではどうなるか……」
「そうか……じゃあ」
「ゼノを殺そうか」




