第15話 舞台裏
好都合だ……!
「再構成……!」
吹き飛ばされながら、無理やり魔法を叩き込む。
ミルフィーとの修行でレベルアップし、手に入れたゴーレムの固有魔法。
俺の持ち物一つと同じ性質に変わる
―—―マグマの中に落ちた。
熱い!痛い!痛い!痛い!痛い!熱い!
神経が沸騰し、思考が蒸発しそうだ。
だが、溶けない。
俺の体は、“別の性質”に変わっている。
選んだ性質は、ドワーフの『遮熱グローブ』。
皮膚は炭化を免れ、ゴーレムのコアは、絶望的な熱量に耐え続けている。
口に含んでいた小瓶を、歯で砕く。
クリスフィアスの氷結魔法。
冷気の渦が俺の体を冷やし、少しは状況がマシになる。
マグマの中をかき分け、死に物狂いで岩壁を掴む。
指先が剥がれ落ちるたびに土魔法で補修し、俺は地獄の底から這い上がった。
「ハァ……、ハァ……、ハァ………………ルゥ、生きてるか」
影から、ひらりと紙が舞う。
『出たら死ぬ』
簡潔すぎる生存報告に、少しだけ口角が上がる。
「ここまでは計画通り……。あとはこの灼熱地獄を耐えるだけか……」
ゴーレムは汗をかかない。
だが、熱いものは熱い。
地獄のサウナ編スタートだ。
***
どれほど時が経過したか、朦朧とする意識の中、待ちわびた時がきた。
マグマの一部が光る。
「ぶあぁ!」
マグマを割って、素っ裸の女が這い上がってくる。
”アグネア”だ。
「ちょっとーーー!アンタ、なんて事、もがもごもがげごが」
「静かにしろ」
飛び掛かってきたアグネアの口を押える。
「ルゥ、頼む」
アグネアの首を俺の壁から延びる手がつかみ、引き込む。
あとはミルフィーの偽装が終わるまで待機だ。
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*****
――昨日。
火山の麓の森を、俺は歩いていた。
「アグニ様」
ミルフィーに案内された先に待ち構える巨大な影。
森の中に、巨大な赤竜が横たわっている。
「ミルフィー……。それは?」
「”ヒトツ”、アルカ島の南の祠のボス、ゴーレムです」
俺は首を垂れ、自己紹介をする。
「少し、話しづらいわね」
赤竜が光に包まれると、その姿は人間そのものになる。
すらりとした長身に、燃え上がるような長い赤髪。
アグネアが成長したら”こう”なるのだろう。
ただ、その表情は暗い。
「申し訳ございません、お休み中に」
「いいの。”弔いの儀”の間は、ずっと休んでいるようなものでしょう」
「ヒトツ。アグニ様は、母君の中で唯一の”誕生派”なのです」
「”誕生派”、ね。我が子を失いたくない詭弁にすぎないのだけど」
「……お察しします」
アグニはうつむく。
「間引かれぬよう、与えられるものは全て与えたつもりだった。
けど、お父様はお気に召さなかったみたい」
「……ヒトツは、すでに二人の竜を救っています」
「本当……?」
「ええ、ですからお嬢様も、きっと」
アグニが縋りつく。
「お願い……アグネアを救ってちょうだい。生きてさえいてくれれば、それで……」
「もちろんです。では……」
俺は懐から小瓶を取り出す。
「卵を産んでください」
「……は?」
周囲の空気が絶対零度まで凍りつく。
ん?なんだ?
「失礼いたしました、アグニ様。ちょっと来い」
ミルフィーに首を掴まれ引きずられる。
彼女の高速の拳が、俺の頭を吹き飛ばした。
「なにをする」
「”なにをする”ではない!すまし顔でいいおって!な、な、な、卵を産めだぁ!?
セ、セ、セ、セクハラだ!!ありえない!!」
「いたって真面目だ」
「バカなのか貴様!じゃあなんだ、貴様は必要があれば『ここで全裸になれ』なんて無理難題を言われたら脱ぐのか!それと同じことだ!」
「必要があれば、脱いでも構わないが」
「ヘンタイか貴様!?」
ミルフィーが息を荒げている。
どうしたというのだ。
「ま、まあまあミルフィー……話を聞いてみましょう。
そんなに大声じゃ、離れた意味無いわよ……」
混沌とした状況を何故かアグニが仲裁する、これが母の本能だろうか。
「明日、シルキーは火竜の弔いの試練を監督しに来るんじゃないか」
「……ッ、ええ。最後の試練、当然来るでしょう」
「それに加えて、おそらくは全勢力が火竜の儀式に集結する。
そんな中からどうやって火竜を連れ出す」
「それは……」
「『結果、そうなったらいいな』で望むには、あまりに勝算が薄い。
だから、卵の偽物を置く」
「偽物でいいなら、何も本当に産む必要はないでしょう」
ミルフィーが冷静さを取り戻していく。
「シルキーがハリボテに気づかないと思うか?」
ミルフィーの問いに、俺は冷徹に首を振った。
「ああ、気づくだろう。だから『気づかせてやる』んだ」
人は、自らの知性で正解を掴み取った瞬間に、最大の隙を見せる。
隠し事を見破った瞬間に人は成功体験を得る。
それに酔った脳は、その直後の綻びに対するガードが緩くなる。
「今回の策は、『二段構え』だ。
人は、最初に出されたものほど疑う。
それも『相手が騙してくるかもしれない』なんて疑っているなら尚更な。
念入りに念入りに調べるだろう」
俺は土に触れ、火竜の卵とそっくりな模型を作る。
「最初にコイツを置いておく。
そして、嘘を看破させ、精巧な偽物を『負けを認めたような顔』をして置く」
模型を叩き、砂に変えて見せる。
「シルキーのような天才なら尚更だ。『自分の目で見破った』というバイアスが、その奥にある本物の嘘を真実へと昇華させる。
人は、自分が『真実を暴いた』と確信した時が、最も騙しやすいからな」
「き、貴様は……詐欺師なのか?」
「馬鹿いうな。社長だ。こういうのは、自分が騙されないために覚えているんだ」
小瓶をアグニに渡す。
「というわけで、産んでくれないか。」
「ええと、そういわれても……。そんなプリっとでるものじゃ……」
「その小瓶は”排卵促進剤”だ。今産んでも無精卵だろう?問題あるまい。
オオトカゲ用だから貴方に効くかはわからないが……」
「デリカシーが無いのか貴様は!」
後ろからミルフィーにまた顔を吹き飛ばされた。
***
一晩明け、森を訪れると、顔を真っ赤にしたアグニが、森の奥を指をさしていた。
「サイッテー……」
昨晩からミルフィーが敬語を使ってくれないのは何故だろう。
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「よく耐えましたね」
ミルフィーが岩のほんのわずかな隙間に降り立つ。
「終わったな」
「ええ」
彼女に腰を抱かれ、高く飛ぶ。
俺はやり遂げたのだ。
ドラゴンの三姉妹を仲間にすることができた。
さぁ、あとは魔力の確保だけだ。
「勝者は誰になったんだ」
「ガームという奴隷の男です」
森を跳び越え、すぐに隠れ家へ辿り着く。
「……~~~ぁーーせーーーー!!」
背後から声が聞こえる。
うん。元気元気。
隠れ家にあっという間に辿り着き、その扉を開く。
「お父様~~~!!」
ヴェネノの突進。
「社長か」
少しこちらを見ると、すぐ本に目を落とすクリスフィアス。
「騒がしくなりましたね、ここも」
ミルフィーが肩をすくめる。
胸の奥で、ようやく“やり遂げた”という実感が形になる。
「あ、お父様が笑ってる!」
***
影から素っ裸の女が転がり出る。
「ア、アンタねえ……!」
ミルフィーがそそくさと彼女に服を着せはじめた。
あの精神空間であった時と同じ、軍服のような服。
「アタシに”あんな事”言っておいて!もう二人契約してるってどういう了見よ!」
「なにか問題があるのか?」
「あるわよ……だって、『お、お前が欲しい』とか言ってたじゃない!
あんなのッ……!あんなのッ……!」
「俺はお前が欲しい、変わりはなくな」
「な、な、な、なななな」
スカウトの際、評価を適正に伝えることは必須。
だが、詳細に『貴方の〇〇をこう評価しました』などと、
懇切丁寧に説明していては興ざめだ、熱量が伝わらない。
鉄則は、『まずは愛の告白のように、熱い思いをダイレクトに伝える事』
詳細は後ほど話せばいいのだ。
俺にとって渾身の「最高の人材へのスカウト」を口にすると、
髪と同じくらい顔が赤くなっていく。
「”刻印”を受け入れてくれないか、アグネア」
「ひゃい……」
オーバーヒートしたらしく、頭から煙がでている。
どうやら、やっと勧誘成功らしい。
おい、君たち。何故そんな目で見る。
おい、ヴェネノ。なぜ笑顔で毒を纏う。
おい、ミルフィー。なぜ今、その槍を研ぐ必要があるんだ。
おい、クリスフィアス。目をそらさないでくれ、たぶん今から―――




