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第14話 火竜の試練

「シルキー!貴方は立派な巫女になるわ!」


アタシは、生まれながらにして”最強”だった。


金の瞳は竜の証。

我ら竜人は片目にのみ、その瞳を宿す。

皆、右目にそれを持つ。

でも、アタシのソレは左目にあった。

鏡合わせの異端。

ただそれだけの違いで、アタシの世界は競争という名の色彩を失い、

代わりに「最強」という名の呪いが居座った。


卓越した戦闘技能。

誰も追いつけぬ速度で空を裂く翼。

底知れぬ魔力。

見ただけで全ての魔術を扱えてしまうセンス。


「貴方がいれば、この島は安心ね!」


周りからの期待の眼差し。

でも、アタシが輝けば輝くほど、周りの大人たちの関心は、

ミルフィー(おねえちゃん)から消えていった。


物心がついたころ、彼女はアタシのサポート役に徹するようになった。

使用人のような身なり、何でもアタシの言いなり。

たまのお叱りはあれど、本質的にアタシの言う事は逆らわない。

まるで奴隷。


大人たちが”そうあれ”と、口を閉ざしながら、無言で語るのだ。


―—―嫌だった。


アタシは知ってる。

ミルフィー(おねえちゃん)は、他人の心に寄りそえる。


アタシは知ってる。

ミルフィー(おねえちゃん)は、誰より優しい。


アタシは知ってる。

ミルフィー(おねえちゃん)は、誰よりも努力をする。


でも、アタシが瞬きする間に辿り着く場所に、

ミルフィー(おねえちゃん)は一生をかけても届かない。


姉の優しさも、努力も、アタシという「太陽」に塗り潰されてきた。


巫女の仕事を放り投げて大陸で修行をすると言い出したのは、100年前。


大人たちは口々に島を出ていくことを止めた。


竜は、膨大な魔力を必要とする。

島を出た竜の半数は野垂れ死に、

もう半数は、どこかのダンジョンで“飼われる側”に落ちる。


もっともらしい理屈でアタシを引き留めた。

―――見たこともない癖に。


彼らは魔王が攻め込んできた時の安全装置が欲しかっただけなんて、

最初からわかってた。


嫌だった。何もかも。


皆に望まれ、期待され、島の守護者として生きるだけの生も。

そして姉の生を食い尽くし続ける自分も。


―—―————…………。


「……最悪な夢」


目を開けると、湿った樹海の匂いが肺にまとわりついた。

アタシの隠れ家——大木の枝の上から、火山を登る巫女が見える。


アタシは天高く飛んだ。


***


「シルキー様……!」

「ご苦労様」


火山の頂上のぽっかりと空いた火口。

底を覗くと赤々と煮えたぎる溶岩。

足を踏み外せば火口に落ちかねない崖に、祭壇を作り卵を奉っている。

……()()()()()()


「ねえ、お姉様は?」

「そろそろいらっしゃるかと」

「じゃあ」


指先で空間をなぞる。

空間が割れ、そこから武器を取り出す。


「さっさと裏切者は殺さないといけないわねぇ」


傘の中棒に仕込んだ剣を抜き巫女に迫る。

咄嗟に身をかがめる彼女を無視し卵を切り裂いた。


「なっ……」

「ハ。やっぱりね」


卵は形を留められず、ざらりと崩れ砂となる。


「本物を持ってきなさい。殺すのは、その後」

「『殺すな』シルキー」


天からミルフィーが舞い降りる。


「チッ……」


本当に厄介な固有技能(ユニークスキル)

巫女は慌てて場を離れる。


「ハァ、アタシはお姉様につく悪い虫を払ってあげてるだけじゃない」

「結構です。ワタシは考えを変えるつもりはないし、これ以上貴方に殺させない」

「はぁ……」


ミルフィーが”誕生派”になってしまったこと、

それだけは島を出たことで唯一後悔している。


アタシが大陸で見てきた現実を、あの人にも見せてやりたい。


この島の竜は強い。

大陸でも間違いなく上澄みに位置する力だ。

だが、大陸には竜が繁栄を極められるほどの魔力が―—―。


アタシは知ってる。

竜にとってはここが楽園。


だが、どれほど言葉を尽くそうとも、

外の世界に幻想(ゆめ)をみる者には意味はない。

過去、アタシがこの島を出る時に言われたことを、言う羽目になる皮肉。

嫌になる。


「ミルフィーさん」


火口にニンゲンの集団がやってくる。


「皆さまお待ちしておりました。儀式の準備をしておりますので、しばしお待ちを」


***


巫女が卵を火口の祭壇に供えた。

間違いなく竜の魔力を感じる。


「……観念したみたいね」


バツの悪い表情で火竜の巫女が、ミルフィーの脇に隠れる。

気づけばニンゲンが勢ぞろい。


「皆さん、良く集まっていただきました。これより火竜の”弔いの儀”を始めます」


巫女が言う。


「火竜アグネア様の望みは……改めてお伝えします。

『身を焦がすほどの苛烈な戦いに身を投じ、魔王軍を打ち滅ぼす事』です」


ドワーフから「やりたくねぇー」と声が上がる。


「本日まで、皆さんとの1対1の勝負を求められておりましたが、

願い奉り、儀式内容の変更を許可いただきました」


巫女の言葉と共に空間に炎が浮く。


火の精霊(サラマンダー)……、アグネア様の力の一部を引き継いだ存在です。多対多であなた方と戦ってもらいます。

また、魔王の代役として……シルキー様に努めていただきます」

「は?」


埒外の提案に素っ頓狂な声が出る。


「聞いてないわよ」

「自信がないのですか?シルキー」

「ッ……、ハァ。わかったわよ」


ストレスもたまってたし丁度いいわ。


「アタシに一発でも攻撃を当てられたら100万点ってことでいいわよ」


傘を構える。


巫女が礼をするとともに。戦闘の口火を切る。


半数がこちら目掛けて駆け出す。

そういえば”あの男”は……、火の精霊(そっち)に行くのね。

アタシの実力をしってるから当然か。懸命ね。


傘を薙ぎ、ニンゲンを一網打尽にする。


襲い掛かる刃をあえて受け、見せつける。

その刃はアタシには届かずはじけ飛んだ。


”絶対防壁”

この程度の攻撃がアタシの肌を傷つけられる道理はない。


「ごめんなさい、雑魚の攻撃は届かないようになってるの」


ストレス解消になるかしら。これ。

ハァ、つまらない。


***


見どころの在りそうなニンゲンを探す。


青い鎧の槍使い。

糸目の男。


……どちらにしようかしら。


「踊りましょう?」


幻影を動かし襲わせる。

糸目の男はかわし、鎧の男は幻影を槍で突く。


「少しは出来るわね」

「これでも騎士なんでな」


横から糸目の男が、幻影に切りかかる。


「ハズレかい。どうせなら騎士ごとイけばよかったわ」

「よそ見しないで」


アタシは蹴り上げナイフを弾き飛ばす。

血の気が引いた顔で糸目の男がこちらを見る。


だめだ、マシそうと思った彼らですら、結局は赤子の相手とかわらない。


「ハンデをあげる」


埃をはらい、彼らの前に立つ。


展開していた幻影全て回収する。

ガラスを割ったような音と共に、自分を包む結界も解除。

傘も捨てる。


「これなら愉しめるかしら……」

「舐められたものだ!」


迫る槍をかわす。

背後に気配。


「やぁ!」

「あら、王女様。はしたないわね」


くるりと身を捩り、手を叩き剣を奪う。

王女の背を押し、追撃を狙う、長刀を振るう女の動きを止めさせる。


「あはっ、あははは!」


無数の刃が空を切る音に合わせてステップを踏む。まるで円舞曲。

おちょくるように彼らの肌をなぞる。

ハンデをあげて、ようやく少しだけ楽しくなる。


「ニンゲンって弱いのねぇ」


目を細め、にやける。


圧倒的すぎる実力差で踏みにじっても、楽しくはない。

相手に勝ちの芽があって、はじめて一時の快楽が産まれるのだ。

でも、その快感も長くは続かない。


「……ッ」


背筋を、冷たい指先でなぞられたような嫌な感覚。”直感”


土の感触がわずかに変化したことを感じ、跳躍。


”あの男”だ。

何故”あの男”の攻撃だけ気づけない。


人の影の中に器用に死角を探り、魔法でアタシを狙ったようだが、

それが直接的な原因ではない。


地上に降り、地を蹴る。


どうでもいいわ。


”あの男”には手加減はしない。最高速で接近。

胴を蹴り上げる。


「ヒトツ!」


王女が叫ぶが、もう遅い。

この男は”あの時”アタシの逆鱗に触れたのだ。


あの”ゾクゾク”は怒りだ。

この男に触られたことへの嫌悪だ。


「ゴーレムでも溶岩の中は耐えられないわよねぇ」


耳元でささやき、空で男を火口に向かって蹴り飛ばす。

隕石と見紛う速度で、奴は落ち、火口に呑み込まれた。


やっぱり気のせいじゃない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「あはっ、あはははは!いい気味ね!」


地上に降り立ち、ニンゲンの相手を再開した。


***


日が暮れ、ニンゲンたちは息絶え絶えだ。

対照的にアタシは息一つきらさず、暇を持て余していた。


卵から気配が消える。

終わった。


「弔いが、完了しました」


告げられる、終了の合図。


「アグネア様は無事天へ還りました。皆様ありがとうございました」

「で、どっちの勝ちなんや」

「シルキー様に一撃入れたものはおりませんので……。

最も火の精霊(サラマンダー)を討伐されたガーム様が今回の貢献者となります」


奴隷達から歓声があがる。

どうでもいいわ。


アタシもこの島に用はなくなったわね。


——さて。

また魔王でも殺しにいきましょうか。

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