第6話 勝利
「やったぞ…」
横穴からゴブリン達が顔をのぞかせる。
僕は土を硬化させた外装を解放し、砂の中から飛び出す。
「俺たちの勝利だ!」
勝鬨あげた。
皆が声をあげ喜ぶ。
「セシリー、やったよ!女の右手ふっとばした!」
「ああ…そうだね。」
ゴブリンが危険になったら僕が大暴れして、逃げることを覚えさせる。
イキナリボスが出てきて面食らった冒険者に、強力な一撃を見せつければ引いてくれる!かも…という実に安直な作戦。
僕の一撃に加え、セシリーの一撃があったこそ彼らは戦意は完全に喪失したように思う。
「ありがとね、セシリー」
「にへへ。シャチョーがバーン!ってしたから狙いやすかったんだ!それにね。それにね。殺さなかったよ。偉い?セシリー、偉い?」
「ああ、偉い偉い」
セシリーが僕に撫ででほしいのかガッシリと僕の腹をホールド。
わっしゃわっしゃ、その癖っ毛を撫で回すと嬉しそうに目を細めている。
セシリーの魔法の痕に目線をやると地面が黒焦げになり、底が見えぬほど抉れている。
魔法ってすごいんだな、いつかは僕も土魔法以外も使ってみたいな。
***
ゴブリン達と喜びを分かち合い、僕はヒゲ爺と墓前にゴブリンの死体を運んだ。
「ごめん、ヒゲ爺。結局5人、犠牲が出て…」
「いいんぢゃ。」
ヒゲ爺は石に彼らの名前を刻む。
「天と地なんぢゃ。今までに比べれば。殺され続けることと、撤退させたというのは」
ヒゲ爺が天を見上げる。
「ワシらも、もしかして勝てるンかのう…。奪われ続けるだけじゃ、無くなるンかのう」
「ああ、約束するよ」
「………ちょっと泣く。一人にしてくれ」
素直な人だ。
僕はそっとその場を立ち去った。
「シャチョーーー!」
「ゴブサック君。どうしたの?」
「これ、冒険者が置いてったやつ」
彼はパンパンに中身の詰まったカバンを指さしている。
これは、お手柄だ!
人間の情報や、攻略のヒントになるかも。
はやる気持ちで鞄を開けると、ぐちゃぐちゃに割れたガラス瓶と、用液まみれで水浸しの状態だった。
「あちゃあ。…うん?」
キラリと光る何かを見つける。
サイドポケットにそれは入っており、取り出してみると1枚のコインだった。
「ふーむ…」
「なにそれ、なにそれ」
物珍しそうにゴブリン達とセシリーが見上げる。
「セシリー」
「うん?」
「明日、お出かけしようか」
「するぅ!」
***
一夜明け、僕はセシリーと出かけるための準備をしていた。
昨日のコイン。考えるまでもなく人間の通貨だろう。
せっかくのチャンスだ。
外に出て人間の町の調査と、ダンジョンの役に立ちそうなものを調達しようじゃないか。
僕は冒険者の服装を思い出しつつ、セシリーの手持ちの服からそこまで不自然でないものを選ぶ。僕の服装に似たエスニックな民族衣装だ。
しかし、セシリーは「こっちがいい!」と言って聞かないので、しかたなく黒のワンピースを選んだ。
うーん。
マジで天使のようにかわいいな。
ローブにトンガリ帽子をかぶった姿でないセシリーを初めてみたが、首に痛々しい棘のような物が何本も刺さっている。それは首輪のようでもあり、ただ触れると生物の熱を感じられた。
セシリーはくすぐったそうに「や!」と言い手を払った。
「セシリー、これって」
「魔女だからネ!」
ふんす!と鼻息をたてる。
彼女も人間とは根本的に違う部分はあるのだな。
人間っぽい見た目だから彼女と町に行こうと思ったが、これはちょっと…大丈夫かな。
今更おいていくと言っても許してはくれまい…。
「ま、案外、他人のことなんて、しっかり見てないもんだよな!」
「ごーごー!」
セシリーが僕の背中に乗る。
僕たちはコインを握りしめ、ダンジョンから出た。
「オォ。お出かけけ?」
「ヒゲ爺。ちょっとお出かけをね」
「しばらく襲撃もネェだろし、羽伸ばしてきンな」
「うん、ありがとう」
「ン?待った待った」
ヒゲ爺が腹巻を外す。
「首見られたら一発アウトぢゃろ。巻いとけ」
「にへへ、ジィジィの匂い」
「いいんだ…」
彼女はマフラーのように首に腹巻をまく。
ちなみに背負ってる僕の距離でも、めちゃくちゃ加齢臭(?)がするんだが!?
***
僕たちのダンジョンを取り囲む森を抜けると、村が見えてきた。
村は森と街道に挟まれている。
何も考えずに森の木々の間から入村しては不審者丸出しだろう。
迂回しつつ人気のないことを確認し、森を抜け街道へ。
村に入ると活気ある声、朝市だ。
マトモな人間との初めての接触。
僕たちが魔物だとバレないだろうか。ドキドキするな…。
「あのう」
「あん?入り用かい?」
ほっ…。普通な反応だ。
ちょっと感動。
「そこのリンゴを二つ…。」
「あいよ。銅貨2枚ね」
「はいはい」
金ピカコインを渡してみる。
「おいおいおいおい。なんだいこりゃ」
「え?」
「リンゴ2個買うのに金貨で支払うバカがいるか!両替がめんどくせえだろ!銅貨ねえのか?」
「ちょっと今、大きいのしかなくて…」
「はぁ、メンドクセエな。今忙しいんだ。また後でこい」
あらら、門前払い。
これは金貨ということでいいのね。メモメモ。
「ねえねえ」
セシリーが袖をひく。
「いつ殺す?」
「殺さないよ!?」
セシリー的には今日はニンゲン殺戮パーティーに出かけていると思ってるのか…。
「あのね、セシリー。今日はそういうんじゃないんだ。人間の情報を収集して、僕たちのダンジョンをより強くするためにだね…」
「ぶー」
セシリーの「人間なら誰彼構わず殺してしまえばいい」という価値観の矯正も徐々にしていかないとね…。
害をなす者はもちろん敵認定で良いのだが、無差別に矜持なく殺すのは違うだろう。
「つまんない。つまんない。つまんなーーい。…けどシャチョーとお出かけだし…きょーはトクベツ。ゆるす!」
僕は一旦胸をなでおろした。
***
朝市の様子を観察し、金貨は大体日本円の10万円ほど、銀貨が千円、銅貨は百円くらいの感覚であるということが分かった。
基本的に銅貨と銀貨のやり取りが主。
金貨での支払いを受け付けているのは、高価なアクセサリー類を取り扱う出店くらいであった。
せっかくなのでセシリーに髪飾りを買い、金貨を崩す。
「ワァ…!ワァ…!わぁ~~~~~~~~~~~~!」
「似合ってるよ」
楽しそうにくるくる回っている。
道行く人に自慢し始めてしまった。生暖かい目で村人は褒めてくれている。
それ、ニンゲンだけど、いいのかセシリーよ。
「母様以外から初めてプレゼントもらった!にへへ」
「そうなんだ…」
お母さんは?などとは聞くまい。
「このお出かけで、セシリーをプレゼントだらけのジャラジャラちゃんにしちゃおうかな!」
「やったーーーーーーーー!!」
ご機嫌な彼女と、今度こそリンゴを二つ買い、かじる。
「うん。普通においしいな」
「んー変なの、うえ」
セシリーはぺっとかじったリンゴを吐き出してしまった。
「セシリーって好きな食べ物とかあるの?」
「魔力!」
「魔力以外で」
「んー…、食べるってあんまりしないからわかんない。あ、でも森で取った鳥のシンゾウ?は美味しかったかも」
「うん、お肉派なんだね」
かわいいからヨシ!ハツ、おいしいもんね。
どんな食べ方しているかは質問も想像もやめておこう。
街を散策していると宿屋から見覚えのある顔が出てくる。
消耗しきった青い顔の男。
隻腕の女。
背負われる女。
「ふふ、にへへ。にへへへへ」
セシリーが恍惚な表情で彼らを見る。
「殺さないも、イイかもね。シャチョー」
僕は何も答えられなかった。
***
彼らが馬車に乗り込むと、村人も相乗りしていく。
資金はまだまだ潤沢だ。城下町まで足を延ばしてみるか…。
セシリーの手を引き、馬車に早足で駆け寄る。
「馬車に乗りたいんですが…次の便っていつ頃になりますか?」
「え?さぁ…30分後にはくるんじゃないかな…」
昨日の襲撃で僕ら二人は顔を見られてはいないはず…問題はない、か?
「この便で大丈夫です。」
「あいよ。お連れさん含めて銀貨1枚ね。」
馬車の荷台に座るとセシリーが僕の膝の上に乗り顔を腹にうずめ、丸まってしまった。
「どうしたの?」
「ニンゲン臭すぎ…」
ちょっと申し訳ない事したかな。
「おーおー、見せつけてくれるね」
男がこちらに話しかけてくる。
間違いない。昨日の冒険者だ…。
「すみません。連れが体調不良でして」
「ハハ!奇遇だな。こっちも連れが体調不良なんだ」
「おい」
隻腕の女が男の冒険者を睨みつける。
「誰のせいで、こうなったと思ってる」
「…わかってるよ」
「痛っ…はぁ…、はぁ…、自暴自棄になるのはわかるけど、これ以上イラつかせないでくれ」
「…ああ」
バツが悪そうに男は窓の外に視線をやった。
隻腕の女に寄りかかる眼鏡の女の意識はなく、彼女が支えている。
「ツレが悪かったな。私はザバホック。そこのバカはロードライト」
「彼の神経を逆なでてしまったようだ。こちらこそすまない」
「ははは。謙虚な人だ」
ザバホックはこちらを見つめる。
「お連れさん、大丈夫か。私がもっている薬を分けようか…?」
「いや、お構いなく。「妹」は体調不良とはいってるけど、最近構ってなかったからイジけてるだけなのかも」
「妹さんだったのか。てっきり親子かと」
「僕、そんな老けてます…?」
「はは。冗談さ、全然兄弟に見えるよ」
痛みに耐えているのだろう。膝を握る手はかすかに震えており、額に脂汗が浮かんでいる。
「お話していて大丈夫ですか?傷に障りませんかね」
「いや、話していた方が気がまぎれるんだ。逆に相手をしてくれてると助かる」
「俺が相手にならなくて悪かったな」とロードライトと呼ばれた男がボヤいていたが、ザバホックは気にも留めていない。
「あなた方は冒険者なのでしょうか」
僕は話を切り出す。
「え…?ああ、もちろん。このタグを見ての通り、そうだよ。」
彼女が首にかけるタグをこちらに見えるように振るう。
「駆け出しも駆け出し。最初のクエストに失敗してこのザマさ」
「それは…、災難でしたね」
「いや、私たちが未熟だった。それだけだ」
彼女がこちらをマジマジと見、こちらに手招きをする。
小声で彼女は耳打つ。
「君たち、タグは?」
「…訳アリでして…」
「………そうか。エントリアは特に差別主義者が多い。スラムの医者にかかるんだろうけど、うっかり城下町には入らないように気を付けてね」
痛みに耐えながらも彼女はニコリとこちらに微笑みかける。
「チッ、なんだ。『タグなし』かよ。口きいて損したぜ」
キッとザバホックが睨むとまた彼は視線を逸らす。
ロードライトのせいで車内に知れ渡ってしまったが、どうやらこの荷台には過激な差別主義者はいないようだ。助かった。
1時間ほどが経過し、馬車はエントリア城下町に辿り着く。
男はぐったりとした女を背負い、足早に去っていった。
「いいんですか、一緒に行かなくて」
「ああ、軽薄そうに見えるが責任感はそれなりにある奴だ。これからいろいろと駆けずりまわるんだろう」
「いや、そうじゃなくて、貴方も病院に行かなくて」
「え?ああ。勿論いくよ。……それよりも、お父様になんて言い訳するかの方が憂鬱でね」
腕の事なんて、それに比べればといった様子だ。
「これじゃ道場を継げないじゃないかー!とか鉄拳くらうんだろうなぁ。ハァ。」
「怖いんですか?お父様って…。」
「そりゃもう…。君たちがタグをもってたら道場に連れて行って紹介してもよかったけど。ゴメンネ、アタシはいいんだけど…。」
ザバホックは正門の手前にある、テントやトタンでできた住居の集合体を指さす。
「道場は定期的に教会と合同でスラムで炊き出しをしてるんだ。もし見かけたら声かけてね」
ザバホックは「じゃあね」といい、城下町に消えていく。
タグ、か…。
僕は地面に手を翳す。
僕のゴーレムとしての能力について、いろいろとわかってきた。
先日のようなゴーレム然とした外装を土で作り上げる能力。
そして、こんな時の便利能力、それは。
ズズズ…と土が塊始める。
『模倣土人形』
ザバホックの首から下げていたタグと全く同じ形を土から精製した。
これを首からかけていれば不自然じゃない、と。
ありがとうザバホックさん。よく観察できたよ。
有効期限は半日程度。
時が過ぎれば砂に戻ってしまうが、今日一日の城下町への入場チケットとして考えれば十分だろう。
馬車の荷台からフラフラとセシリーが降りてきた。
「おいおい、本当に大丈夫?」
「しゃちょお…臭いし揺れるし…う…うぷ…」
「え?」
「ピロロロロロロロロ」
「わぁぁあああ!?」
エチケット袋代わりにされた僕の服はドス黒い魔力のゲロまみれになった。




