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第5話 ギルド

「ロードライト・ヴェサリウス様ですね…。パーティー名が…」

「ロードライト、で頼むわ。家の名前は嫌いなんだ。パーティ名は「ゼバーハ」な」

「ありがとうございます。「ゼバーハ」ですね…。南の洞窟への探索許可が下りています。本日より3日間自由に攻略してください。クエストにつきましては…」

「1件だ。タ村から依頼が出てた、そのダンジョンのゴブリンの数減らし」

「はい、確かに。報告期限は今週中となっておりますので…」

「オーケィ」


金髪碧眼の美丈夫。歩けば女が振り返るこの俺、ロードライトは許可証をスタイリッシュに受け取り受付を去る。


田舎の屋敷を飛び出した甲斐があったってもんだ。

冒険者を志すためにはるばる海を渡り、ギルド総本山に訪れ、冒険者試練を死に物狂いで突破し、晴れて認定。

認定式の現場で、同期オンナノコ冒険者に手あたり次第声をかけ、このパーティーを結成したのだ。


「ちょっと。カンジ悪くない?」

「うるさいねぇ、ザバホック。駆け出し専用クエストなんだ。気楽にいこーぜ」

「はぁ。そこはどうでもいいわよ。話を最後まで聞かないのが、ありえないって言ってんの。」


格闘家の女、ザバホックはむくれている。

男のような名前と裏腹に、その見てくれは可愛らしい町娘でしかない。

ウェーブのかかった短めの茶髪に日に焼けた薄褐色の肌が健康的な印象を振る舞う。

しかしその実、服を脱げば筋肉モリモリ腹筋バキバキの格闘ガサツ女である。

脱がせられたことは、まだないが。恐らくはCカップといったところか…。


「あの、仲良く…仲良く…」

「はー…。リィンも言ってやってよね」

「わーったわーった。次からは最後までちゃんと話を聞きまーす」


リィンと呼ばれた魔術師の少女が気まずそうにローブのフードを深く被り目線を隠す。

巨乳だから彼女には、より熱心に声をかけた。

勧誘の際にザバホックが冷ややかな視線で俺をみつめていた気がするが、気のせいだろう。

F…G…くっ…!バケモノ級だ…!この俺のバスト看破の魔眼を持ってしても図り切れない実力者と見ている。


「ぐふふ、作るぞハーレムパーティー…。冒険者になれば、色んな国に行き放題…各国に現地妻を作って…でへへへへ。冒険者ってだけでついてくる女もいるんだ。いつだってオイシイ思いをいくらでも…」

「はぁ…」


ガチン!という音と共に世界が回る。

頭を思い切りザバホックに殴られた。


「いてえ!何しやがる!筋肉ダルマ!」

「なんでこんな奴が冒険者になれちゃったのかなって悲しくってね…。はぁあー…。顔”だけは”いいからパーティーに登録しちゃったケド。本当サイアク。一回登録すると当分解消できないなんて聞いてないわよ…」

「ええと…事前に説明されてましたよ…」

「脳筋だから三歩歩いたら忘れるんだろ」

「あんですって!?」


ガチン!


「ッツ~~~…、いちいち殴んなよ!」

「余計な事しか言わないからでしょ!」

「あの…喧嘩は…やめて…ください……」


***


南の祠に行くため、馬車に乗り込みエントリアの城下町を三人は経つ。


「「タ」村だって?聞いたことねえナァ。一文字の名前の村なんて、なんかおもしれー。アハハ」

「アンタが島の事知らなすぎるだけでしょ。南の祠が近くにあるのは玉に瑕だけど、リンゴが名産のいい村よ。いろ~んなリンゴ料理をふるまう朝市が有名ね。女子人気すごいんだから」

「ザバホックちゃんはこの島の由緒正し~い、ぶじゅちゅ家の出身でちゅもんね~、くわちくて偉いでちゅね~」

「何よ?」

「田舎のジョーシキ知ってるだけで偉ぶるなってハナシ」

「あ?」

「お?」

「喧嘩は…喧嘩は………」


車内の雰囲気は最悪だ。

ザバホックは何かにつけて俺に突っかかってくる。

俺の実力を知らないから、こんな態度を取るのだ。

ダンジョン攻略でいっちょ剣士としての実力を見せつけて惚れさせようじゃないの。


「アイツと違ってリィンちゃんは、大人しくてきゃわいいよねぇ~。出立前の買い物デ・ェ・ト。なんで付き合ってくれなかったのよ~」

「え…生理的にムリです………」

「ショック!」


バッサリと切り捨てられのけぞる。


「……まあ、ちょっとお仕事の話しようか」


俺のその言葉でパーティーの雰囲気が変わる。

流石は難関の冒険者試験を突破した連中だ。

そこらの荒くれもの上がりの傭兵などとは違い、オンオフのスイッチもしっかりしている。


「俺は事前に説明した通り剣士だ。雑魚をどんどん斬る前衛役だな。格闘家のザバホックも同じだよな?」

「ええ。アタシも前衛ね」

「リィンちゃんは魔術師って聞いてるけど、得意な魔術ってなんなんだい?気を付けたほうがいいことはある?」

「えっと…初級魔術は一通り。…得意なのは風魔術と回復魔術です…ね。風魔術は空間を切り刻むので……敵に当たっているときは巻き込まれないように注意してください……」

「そりゃすげえや、聞いてる感じ中級のレベルに達してるんじゃないか?」

「はい…」

「すごいわね!?銀等級並みじゃない!?」

「えへ…神学校で…4年留年した甲斐が…ありますね…」


微妙な間。


「え、待って。神学校って入学は最低でもハタチからじゃなかったっけ…。リィンちゃんって…あのー…、今何歳…?」

「あっ、ごめんなさい、ごめんなさい。キモいですよね、十代のお二人と同年代ヅラしてこのパーティーに参加して。今すぐパーティー抜けま…」

「ごめん、なんでもない。この話は終わり!」


リィンがブツブツと独り言しか言わなくなり、車中の雰囲気は地獄に変わった。


***


「ふうー、ついたな」


エントリア城下町から馬車を走らせ1時間余りで「タ」村に到着した。


「打ち合わせ通り、今日はもう宿屋で各自休息でいいわよね」

「ああ、じっくり身体を休めてから明日に臨もうぜ。でも、もう一つ選択肢があるぜ?俺とアツーゥイ夜を過ごしてくれても」

「おつかれ」


ガチン!と頭が揺れる。


「痛ぇーんだってば!」


ザバホックは宿屋の方に歩いて行った。

リィンが馬車から大量の荷物を下ろしている。


「リィンちゃんさぁ。行きにも思ったけど、そんなに荷物いるかぁ?タダのゴブリン退治だぜ?」

「念には念を…です」

「はぁ…。何持ってきたの?」

「えとえとえと…、怪我をしてもいいようにポーション15本と……私はオド効率が人一倍わるいので…、オドソース30本と……」

「そんなに飲んだらおしっこ行きたくなんない?大丈夫?ダンジョンってトイレないの知ってる?」

「え、キモ。何想像してるんですか。キモキモキモ」

「リィンちゃんって毒吐くときだけ、すっごい流暢だよね」


荷下ろしを手伝い、馬車に料金を支払う。


「まぁ気楽に行こうぜ!なんてったって生還率99.99%のダンジョンなんだ」

「でも私くらい不幸体質なら……0.01%を引く可能性だって…」

「だーぁいじょうぶだって!いざとなったら俺が体張って逃がしてやるよ!」

「あっ、それは勿論と利用させてもらいますケド」

「お、おう…」


俺の口説き文句が何一つ通用しないんだよなぁ…。


「リィンちゃんはさ、戦闘経験ある?」

「いえ、ずっと神学校の研究室にいましたから…」

「どーしてまた冒険者なんかに?べつに研究者やってりゃよかったじゃん」

「…………親が」

「……………まさか、魔物に殺された…とか?」


神妙な面持ちで彼女は口を開く。


「これ以上留年するなら学費は出さないって去年言ってきまして…また留年しちゃったので学費稼ぎに…」

「あ、まだ学生なんだ…」

「ごめんなさい。ちゃんとした理由もあるんですが、ヴェサリウスさんへの好感度がまだマイナス5兆なので話せません」

「俺どんだけ嫌われてんの!?」

「ご自身の行動を振り返ってみては?」

「ええっ!?」


俺たちが宿屋に入るとザバホックは受付前の食事処で一足先に酒を愉しんでいる。

自由なヤツ。


「俺も一緒に呑んでいい?」

「死んでもイヤよ。アンタがここで飲み食いするならアタシは別の店にいくわ」


トホホ。なんでこんなに嫌われたんだか。


***


翌朝、俺たちはギルドに紹介された案内人を雇う予定だったが、全員大怪我をしているため案内人がいないと言わてしまうプチトラブルはありつつ、

地図を片手に森をかき分け、なんとか目的の祠に辿り着いた。


「さて、と」


各自武器のチェックやストレッチを行う。

ここからは初仕事だ。頭をお仕事モードに切り替え頬を叩く。


「皆、ここからが俺たち「ゼバーハ」の初クエストだ。俺たちの伝説はここから始まるんだ!」

「クサいわね」


ザバホックふふっと吹き出す。


「ま、長い付き合いになっちゃうのは仕方ない!って昨日諦めたわ。せいぜい頑張ってよね」

「皆さんの足を引っ張らないよう……頑張ります……!」


それぞれが意気込みを語る。ううん。なんだかジーンとくるなぁ。


「じゃあ、皆!!円陣くもう!!」

「結構よ」

「あ、そういうのはちょっと」


ヒラリとかわされる。くそう。


「じゃあ、いくぞ」


ダンジョンに足を踏み入れる。

遠くから聞こえる鈴の音。

このダンジョンはこの仕掛けで冒険者の襲撃を感知している、事前にギルドの資料で予習済み、予定通りの事象だ。

この音につられてゴブリンが沸いてくるハズ。


このダンジョンは先人たちによって完全な地図が公開されており、ボスの間ですら、どのように進めばたどり着く判明している。

ギルド様様だ。


階段を下りていくと、広い空間に一定間隔で松明がともされており、薄暗いながらも、なんとなく全容が把握できる。

洞窟の壁には無数の横穴があり、奥には人間の通れるほどの大穴がある。

ボスの間までアリの巣状の構造をしているらしい。


今回の目的は、入り口洞窟から1層奥に行った『低層』と呼ばれるゴブリンの間引き。

ゴブリンが増えると、奴らは祠を出て、農作物を荒らす、家畜を襲う、子を攫うなど、やりたい放題荒らしまわり村に被害がでてしまうのだ。


「きたわよ」


ザバホックの声と共に横穴から小さな影が飛び出し俺に向かって飛んでくる。


「ちっ」


剣でその塊を受け止める。


ゴブリンだ。

はじかれたゴブリンは距離をとりこちらを威嚇する。

他の横穴からも気配を感じる。

十匹はいる。


「気持ち悪い…」


リィンが不快感を露わにする。


「シャドウ・ゲイル」


距離を取っていたゴブリンが悲鳴を上げ黒色の血をまき散らし倒れた。


「すげえぜ!リィンちゃん。一発とはね!」

「油断しないでください」

「わかってる…よっと!」


横穴から飛び掛かってくるゴブリンをまた剣で受け止め弾き返す。

ザバホックの方を見ると新たに現れたゴブリンの相手をしている。

余裕そうだ。


「どうよリィンちゃん!怖がる必要なかったろ?」

「うう、ゴブリン並みにキモい」

「あのねえ!?」


しかし妙だ。

階段をおりてすぐの、大空洞にしてはゴブリンが多くないか?

小道に入ってから出没することが多いと聞いていたが、数が増えているのだろうか。


「ザバホック、何匹やった?」

「まだ0よ」

「ほーん、俺2匹」

「私は3匹です」

「じゃー、あと5匹でノルマ達成な!俺とリィンちゃんでヤっちまって、ザバホックはヤキトリにしようぜ!」

「やっぱ性格悪いわねアンタ!」


ノーダメージでは行かせてくれないか。

剣を交えるたび、肉は裂け。投石によるダメージで地味に消耗してくる。


「リィンちゃん、そろそろ回…」


ゴブリン達の攻撃が止んだ。


「なんだ…?」


群れが一歩引き、空気が変わる。

まるで“何かに道を譲るように”。


「なん、だ…?」


ビリビリと洞窟が揺れ、砂が降る。

異常事態に皆身をかがめると―――


ドゴォォオオオオン!!!


大空洞の地面が激しく揺れたと同時に、轟音が響く。


「なんだぁ!?」


地面から巨大な手。

巨大な土の塊が隆起する。

その土の塊は徐々に人型をかたどっていく。

だが人というには余りにも大きい。


「ゴーレム!?」


馬鹿な。

ボスは最奥の間にいるはずだろ?

ゴーレムの討伐は銀等級パーティの仕事…。


「ロードライト!」


ガチン!と音とともに思考が現実に戻される。


「呆けるな!」

「…悪い」

「やることは変わらないわ。ゴーレムを倒せばいいだけ。銅等級にだって討伐実績はある」

「それは連隊を組んでるからだろ!」

「細かいことは…」


揉めている俺たちの目の前に巨大な手。

実践不足、ほんの一瞬でも目を離せば命取りなのだ。

振り下ろされる巨大な手が眼前に迫る。


死。


くそ…まだ冒険者になったばかりだってのに。


後ろからドンと押された。


俺とザバホックは転がる。


「リィン!」


リィンがプレス攻撃に叩き潰された。


「なんで…」


バチバチバチ!

豪音が轟き、紫色の稲妻がザバホックの右腕を貫いた。


「ぐっ…!」


一瞬、何が起きたのかわからなかった。

ザバホックの右腕が黒炭となり、腕が千切れ転がり、ボタボタと血が噴き出る。


絶望による静寂。


「くっ…そぉおお!」


頭に血が上った俺は、気づけばやみくもにゴーレムに対し突っ込んでいた。

刃はその土に歯が立たず、はじかれ闇に消える。

間髪入れずにゴブリンの刃が俺の肉を削っていく。


「ああ…ああ…来るな…来るな…!」


俺の足に切りかかるゴブリンが弾き飛ばされ転がる。

満身創痍のザバホックが蹴ったのだ。


彼女は俺の頭をコンと叩き、激痛に耐え唇に血を滲ませ息を整えこちらに言う。


「逃げる…わよ…」


ゴーレムは追撃する様子は無く、こちらの様子をうかがっている。


動ける俺が何とかしないと。

ザバホックがゴブリンにけん制している間に、リィンの鞄を下ろさせ彼女を背負う。


「くっそがぁあああああああ!」


情けなさ、悔しさ、恥ずかしさ、様々な負感情が渦巻く自分を一度押し込め

今はとにかく階段を駆け上がった。

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