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第4話 王国専用船

「姫様!」


ケレッゾが甲板に上がって来る。


如何に高レベルな戦闘技能を有しようとも、

対処の難しい状況を同時にいくつも背負わせれば、

人はだれしもオーバーフローする。


優秀な戦士であるがゆえに、オーバーフローした彼の行動は読みやすい。


「ヒトツ!!」


海賊の斬撃を交わし、地面から鋭利な土の塊を隆起させ海賊を討ち取る。

数は減ってきたが、依然劣勢であることに変わりはない。


奥に構えるのはいつぞやの船長と副船長だ。

土人形を彼らの背後に生成し、命じる。

「隙を作る、王女を攫え」

副船長はニヤリとほくそ笑んでいる。


雄たけびを上げ海賊が襲い掛かる。

それを合図に、リンリンから大量に買った爆薬と、俺の魔法を起動させる。


ドォオオン!!


轟音が響く。


船が振動し、大きく傾く。


「皆!掴まれ!」


揺れは、船をひっくり返さんとするほど強く、敵も味方も今は手すりにしがみ付くほかない。

海賊たちは駆けだしたタイミングに重なり、半数以上が荒波に攫われていった。


「親父ァ!ちっくしょう!」


シェスと数名の海賊が甲板に取り残されている

――いや、生き残ったというべきか。今は。


揺れる甲板の中、駆ける者がただ一人。

その足を砂化させ、決して転ばぬよう地面を握りつぶすように、走る。


「野郎……!」


シェスは咄嗟に剣を構えるも船の揺れに抗えずバランスを保つのに必死だ。


「……君たちはいいコマでしたよ」

「……!おま」


巨大な手を土で生成する。


ズン!!


その手はまるで蚊を叩くように彼らを押しつぶす。

手には、潰れた肉と血がへばりつく。

彼らを掴み、そのまま海へ投げ飛ばした。


揺れが収まり、皆が冷静を取り戻しつつある。


叫ぶ。


「俺たちの勝利だ!」


騎士団と船員たちは勝ち鬨をあげた。


***


「まずは姫様を救ってくれたこと、感謝する」


ケレッゾがこちらに頭を下げる。


「だが、貴様は奴隷(タグなし)だ。

封鎖の意味がわからんわけではあるまい。

警告もした。であるのに、ここにいる。意味は分かるな」

「はい」


跪き首を差し出す。


「エントリア王家のために、この命、捧げられるのであれば本望です」


ケレッゾは「良い覚悟だ」と言い、槍を構える。


「ダメよ」


凛とした声が響く。


「ケレッゾ。この方は、私の――エントリアの『運命』を繋ぎ止めてくださったのよ」


ラビリリスの瞳には、跪く男が、神が遣わした騎士のように映っていた。


「なっ……この男はタグ無しです!何をお考えか!」

「ヒトツは命を捧げる覚悟を示した。

それで十分じゃないかしら。それとも、私の言葉が聞けないの?」


彼は槍を引く。


「待遇は客人として迎えて。それ以上の無礼は私が許さない」

「……客人として、ですか?」

「彼のエントリアへの忠誠に疑いを持つの?」

「ですが!………はぁ、ついてこい」


ケレッゾに連れられて歩き出すと、ラビリリスはこちらに優しく微笑んでいた。


()()()()()


***


「わがまま姫が……はぁ。おい、お前。到着までは下層の個室を使っていい。

だがくれぐれも身の程を弁えた行動をしろ」

「もちろんです」

「明日の朝には到着予定だったが、浸水の状況がひどいらしくてな。

いつになるかわからん。ドラゴニアでは予定通り働いてもらう……」


彼がニヤリといやらしく笑う。


「……そうだ。浸水の対処を手伝ってもらうか。

緊急事態に奴隷も騎士も()()()区別はないよな?」

「……………はい」


力仕事を寝ずにやらされるのは予定外だった。


***


水浸しの下層をドワーフ達とバケツリレー。

マトモに歩けるようになるには、日が差しこむ時間帯となっていた。


「さすがに疲れたな……」


ポケットに忍ばせている魔石も1本が既にカラカラに干上がりかけている。

潮風が気持ちよく、船首の遥か先、小さく煌めく島が見える。


「あれが”結晶島”」


背後から凛とした澄んだ声。

とっさに跪く。


「や、やめなさい。貴方は私の恩人じゃない……」

「エントリアの民として当然の事です。恩に感じて頂くことなどありません」

「……では、”堅苦しいのはやめなさい”。普通に話したいのよ」


彼女はこちらに歩いてくる。

ケレッゾに見つかれば厄介だが……いまは彼女との親交を優先しよう。


「はい。ではラビリリス王女。王女殿下が何故”結晶島”に?」

「……むぅ。まだ固いわね」

「……では、ラビリリス様。何故”結晶島”に?」

「うーん……今はそれくらいで許してあげましょう。

あなた方も良く知っているでしょう。

そろそろ街では祭りで大騒ぎになるのだから。」


彼女は心底憂鬱そうな面持ちで手すりに項垂れる。


「この時期で大騒ぎ……。ああ、”祖竜祭”ですか?」

「……ええ。”祖竜様から頂けるエントリアへの恵みを祝う祭り”でしょう?

では、ヒトツ。問題よ。恵みとはなにかわかる?」

「魔石でしょう。その採掘のために俺たちが乗っているのですから」

「その通り。私が乗っている理由を聞いたわね。答えは古くからの慣習よ。……ハァ」


ため息をつき。さらに項垂れた。


「おとぎ話の時代からね、エントリア王家は年に一度祖竜に挨拶に伺うの。

そして、エントリアの魔石供給の年間量を決める」

「そんなに憂鬱になるイベントですかね?」

「……ヒトツ、貴方は仮に魔王が死んだ後の世界を想像したことはある?」


彼女の眼は真剣そのものだ。


「魔王が……死ぬ?ハハハハ!ありえないでしょう。ここ千年状況は変わっていないと聞きますよ」

「千年変わらなかった状況が、明日変わらないなんて誰が保証できるの?」


その言葉はそれが近い将来起こると言わんばかりだ。


「……仮に魔王が死んだら、人間同士の世界の覇権をかけた争いになる……とか?」

「あなたのその直感は正しい。私もそう思うもの。

……いえ。この世界に住まう人間であれば誰しも直感しているのかもしれないわね」


潮風が彼女の髪を揺らす。


「エントリアは弱い。ちっぽけな島国なのだから。

でもね、ただ弱いだけなら、どれほど良かったか」

「……というと?」

「魔王亡き後、大陸の魔力がどうなるか、わからないの。

専門家の見立てでは”魔王に汚染された大陸の魔石はそのまま霧散する”って説が有力になりつつあるの。

そうならなかったとしても、魔王だよりだった魔力の分を補う魔石供給のインフラを作り直す必要がある」

「そうか……」

「わかったかしら。その時エントリアは世界で唯一魔力を自給自足できる国となる。

一時的かもしれないけれど、圧倒的なアドバンテージを得るわ。」


間違いなく、エネルギーの奪い合いの矛先となるのはエントリアとなるだろう。


「とはいえ、仮にそうなった時、中途半端な戦力じゃ、大陸の国々が徒党を組んで攻め込んできたらアッサリ負けてしまうでしょうね。

戦いになるにせよ、そうならないにせよ私たちは、少しでも多くの魔力を保有して、戦力の拡張も見越す必要がある」

「今のままじゃ、足りないんですね」

「ええ。ぜんぜんね。海の向こうの”かの国”に攻められるだけでパァよ」


彼女は顔を上げる。


「ヒトツ。貴方、タグ無しだったわね……」

「ええ」

「辛かったでしょう、今まで。

……私はね、少なくともエントリアでは、そういう差別は無くしていきたいの」

「……難しいんじゃないでしょうか。国民全員の価値観を変える事に等しい。」

「そうかもね。長い時間がかかったっていい。

エントリアに住まう、エントリアを愛してくれる民であれば、そこに貴賤は無いと思うの」

「ははは、理想論ですね」

「ええ、そうよ。でも、一人残らず戦力にしないと、大陸の国々には勝てないから」

「なるほど、それが目的ですか」

「……あっ、でも私は心の底から”そう”思ってるわ!」

「ははは、そういうことにしておきますよ」

「むぅ~!」


むくれたラビリリスがポカポカと殴ってくる。


「あのね、ヒトツ。貴方さえよければ。国に戻ったら私の私設兵団に入らない?

騎士団……とはいかないけれど。

そこはタグの有無にかかわらず純粋な戦闘能力だけを追い求めている組織なの。

まだまだ小さいけれど……」

「ありがとうございます。ですが、俺はすこし”やる事”がありまして。」


彼女はシュンと小さくなる。


「それが済んだら是非」


……今はこれで十分だ。


その言葉でパァっと顔が明るくなった。

表情がコロコロと変わって面白い人だ。


「あのね、親しい人は私の事”ラビ”って呼ぶの」

「はぁ」


急な話題転換。


「ヒトツも呼んでいいわよ!”ラビ”って!」

「恐れ多すぎて無理です」


またもやラビリリスがポカポカと殴ってくる。


「”結晶島”についたら、採掘がんばってね」

「ええ、ありがとうございます」


関係は良好。

ここまでは計画通りだ。

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