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第2話 出会

「どうしたもんかな…」


僕は寝ぼけ眼をこする。


「あの…」


背後から声がする。


「うわっ!…ヒュッ」


声をかけてきたのは小さな女の子だった。

深々とかぶったトンガリ帽子の下からのぞく顔は、昨日の子たちと同じく、日本人離れした顔立ちをしている。

日本では見慣れない、ナチュラルな金色の髪。

背中でおさげにまとめているが、くるくるとした癖っ毛がかわいらしく、おさげにまとまりきらず、ぴょんぴょん跳ねている。

背丈からして小学生くらいだろう。

「ヒュッ」って何かって、そこに天使がいたら皆こうなるだろ?な?


僕の声に驚いたのか、目をぎゅっとつぶり、きゅっと小さくなってしまった。

かわいいね。

ゲフン!ゲフンゲフン。冷静さを取り戻せ。

すぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…………。

はぁーーーーーーー……………


死んだばっちゃも口酸っぱく教えてくれたじゃないか。

ロリと接するとき、紳士であれ。

防犯ブザーに手をかけさすことなかれ…ってね。


「ごめん!びっくりさせちゃったね。迷子かな?」


自分も絶賛困っている身ではあるが、この子のほうが優先だろう。

親御さんとはぐれてしまったのだろうか。


「迷子じゃない、です。な、なにしてるのかなって…」

「なにって…はは。お兄さんもよくわからなくてさ。ここの住所ってわかるかな? 何県何市とか…」

「ナニケン…? ここは、エントリア王国の、城下町近くの祠で…」

「エント…うん?」


理解不能な単語の羅列に思考がストップする。

エントリア…?王国…? 城下町…?


「ご、ごめんね。もしかしてゲームの話してる?」

「げーむ…?」


からかっている、という訳ではなさそうだ。

ここは、外国なのか…?エントリア王国なんて国名聞いたことないが…。


「セシリア」

「え?」

「名前、セシリア、ですっ」

「ああ、セシリアちゃんって言うんだ。よろしくね」


セシリア…ときたか。

…もう、ここが日本であるという前提は捨てよう。


「セシリーってよんでくれると、嬉しい、です!」


にへら、と上目遣いで笑う天使。

はわわわ…

はわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ…………

好きだ―—―……………………。


いや、これは断じて性欲ではない。

僕は30代のオジサンだぞ。

こんな小さい子に劣情など抱かない。そこは誤解なく知っていただきたい。

純粋な「KAWAII」への敬意さ、うん。

父性?いや、それも違う。

この感覚…は…


うるんだ目でセシリアはこちらを見上げた。


「ッッッッッッッッッッッッッーーーーーーーーッーーーーーーー……………愛?」


ごめん、長かったね。

キモかったかな?

あと10秒待って。噛みしめてるから。


「ッ…………セシリー…僕のことはお兄ちゃんって」


ドゴォ!!!と、僕の右手が僕の頬を穿つ。


「はえ!?あのあのあの、大丈夫で…」

「大丈夫大丈夫…。自己制御プログラムが作動しただけ…」


心象風景のばっちゃが叫びながら僕をボコボコにしている。

ロリと!

接するとき!!

紳士であれ!!!


「僕のことはお兄ちゃんって呼んでくれないかな(このあたりについて教えてもらってもいいかな)」

「え…やです…」


ロリと!!!!

接するとき!!!!!!!!!

紳士であれ!!!!!!!!!!!!!


ばっちゃは僕に瞬◯殺をキメた。

K.O.


「ごめん、このあたりのこと教えてもらってもいいかな」

「えっ、あっ、はい」


***

いくつか確かめてみたが、ここが日本でないことだけは確信した。

逆に、セシリアの頭に「?」マークが大量に浮かんで目を回してしまった。

小さな子だし悪いことをしたな。

僕が不審者として通報される前に…

もとい、親御さんも心配されているだろう。


「あわわわわ…」

「ご、ごめんね。難しい事ばっかり聞いて。送っていくから帰ろうか」

「わっ」


背後の祠からけたたましい音が響く。


階段から波のように飛び出してくる「ナニカ」


――――これは見たことがある。


―――ドタドタと走る小柄な男達。緑色の肌に高い鼻。


――まさか、本当に…?


あれは、ゴブリンだ!


「逃げよう!」

「えっ」


少女の手をつかみ、走り出そうとした瞬間、

ゴブリンたちはすでに僕の周囲を取り囲んでいた。


退路がない。


これはもう認めるしかない。


僕は――「異世界転生」している!!


「マジか…」


覚悟を決める。拳を握り、僕なりの臨戦態勢。

生まれてこのかた、人を殴ったことなど一度もない。

スクラ●ドを思い出せ。Gガ●ダムを思い出せ。

オトコノコには、やらねばならない時がある。


それは――

女の子を守る時だーーーッ!!


「おはようございます!! ボス!!」


拳は、まさかの言葉に空を切った。


「ゴブリン隊、本日も問題ありません! ゴブダックのところンで六男が生まれたようであります!ワハハハ!」


髭を蓄えたしゃがれた声のゴブリンが元気よく報告する。

ボス?ボスって誰だ?

僕の前にキレイに整列したゴブリンたち。

ボス?ボス?ボク?ボス?


……僕は、なぜ朝礼の報告を受けているんだ?


「今日も一ン日~~~!」

「「冒険者をやっつけろ! 冒険者をやっつけろ! 冒険者をやっつけろ! はい! ご安全に!」」


怒涛の勢いでやってきたゴブリンは、煙のように祠の中へ消えた。


行ってしまった……。


「ぼす」


セシリアが、こちらを見上げている。


「えへへ。いっぱい、しゃべれるようになって、嬉しい」


にへら、と無邪気に笑いかけてくる。

混乱している頭に吹き抜ける天使の笑顔。

癒される…。


なんとなく察していたけど…

なんか顔から肉とれても、全然平気だなとは思ってたけど…

腹もまったく減らないのは変だとは思ってたけど……


魔物側で転生してるのかよ!!


****


まずは、現状を受け止めるところからだ。

なが~い夢かもしれないが…。

夢にしては、妙に現実感がありすぎる。目の前の現実と向き合おう。

とにかく整理整理。


ここは、森の中にある祠。

どうやらその内情は、魔物たちの巣食うダンジョンらしい。

ダンジョンに足を踏み入れてみる。

そこら中でゴブリンが壁を掘ったり料理を作ったりしている。


右にゴブリン、左にゴブリン、奥にゴブリン、ゴブリンしかいない。

某スレイヤーがみたら狂喜乱舞するんじゃないだろうか。


ゴブリンのまとめ役が立派な髭を生やしているからなのか「ヒゲ爺」というらしい。

先ほど朝礼で報告してきた魔物だ。


「セシリーもゴブリンなの?」

「ちがうよ!セシリーは魔法使いなんだよ」

「ってことは人間?」

「ニンゲンなんかと一緒にしないで!」


怒っちゃった、かわいいね。


「ボスはゴーレムさん…だよね?」

「ゴーレム…なの?僕って」

「うん!」


そ、そうなんだ…。

僕も何かゴーレムらしいことができないかな。

砂利を手で触ると、記憶が蘇るような、当然そうできるような感覚。

念じると砂利はキレイな泥団子になった。


「マジか…」

「すごーい!ピカピカ団子だ!」


ちっちゃい子って泥団子がやたら好きだよね。わかるわかる。


「ねえボス。しゃべれるようになったし何かしたいことないの? 」


セシリアが、ニコニコ楽しそうに笑いかける。


「セシリー。あのね、僕は君の知ってるゴーレムじゃないよ。」

「ううん!そんなことない、よ。 ぜんぜんいっしょ!」

「うーん…。前のゴーレムは全然しゃべらなかったんでしょ?」

「そうだけど、一緒だよ! なんとなく!」


あまり前のゴーレムについて触れるのも可哀そうか、やられてしまったわけだしね。

小さい子の言うことだし、これ以上この話題に触れるのはやめておこう。


一通り祠の様子を見終えた僕たちは祠の外に出る。

木々が風に揺れ、鳥のさえずりが気持ちよい。

祠を少し離れると小さな花畑があった。


セシリアは僕に座るように言い、膝の上にちょこんと座って、楽しそうに鼻歌を歌って花飾りをつくっている。

完成したのか僕の頭に乗せ満足げだ。


平和な空間だ。

ゴブリンの巣食うダンジョンだという事さえ忘れてしまえば…。


深く考えすぎもよくないな。

僕はセシリアにぐわぁー!と威嚇すると楽しそうに逃げていく。

ま、細かい事は一旦忘れて遊ぼう!


***


「おい」


セシリアと森できゃいきゃい遊んでいると、

どこからやってきたのか、ガラの悪い男たちが三人、僕らの前に現れた。

セシリアはさっと僕の影に隠れ、裾をつかむ。


「こんなところで何やってる。冒険者でもねえなら、街に帰んな。」

「えっ?あっ…」


ドキリと思い頬に手をやると、いつの間にやら肉の欠けは回復しており人間らしい輪郭に戻っている。

よかった。昨日の子供たちのようなトラブルは避けられそうだ。


急な来訪者に面食らったが、大人との会話に安堵する。

とはいえ、自分が魔物側だと判明している手前、どう接するのが正解なのか…。


「チッ」


二人目の男が、僕を見下すように睨む。


「おい、兄貴。コイツら、『タグ無し』じゃねえか?」


『タグ無し』…?

彼らの雰囲気が変わる。

三人組の目線はこちらに対する侮蔑となった。

逃げたほうがいいか?

でも、この世界の情報を聞き出したい。


「『タグ無し』…? 僕は城下町のちりめん問屋で社長をやっている者だが?」

「ちり…?」

「知らないのか? 町ではちょっとした有名人なんだが。行く先々で社長社長って、みんな僕の袖を引いてね…」

「嘘つくんじゃねえ!」

「おっ…と…」


鈍く光る金属製の剣の切っ先が僕の頬をかすめる。

そっか。あるよな…剣。

異世界だもんな…。

自身の死を強制的に意識させられ、足が震える。


「タグだよタグ! まさか家に置いてきたなんて言わねえよなぁ!」

「家に置いてきた」

「ありえねえんだよ、そんなこと!」


リーダー格の男が激昂する。


「『タグ無し』の分際でナニ俺達と対等に口聞いてんだよ…。はぁ、犬のクソを踏んじまったくらい…最悪の気分だぜ!!」


そっちから話しかけてきたクセに。なんて身勝手な奴。

彼は剣を振り下ろし、セシリーのローブを割いた。

男の表情が、露骨な怒りに変わる。


「土下座しろ」

「え?」

「『タグ無し』ごときが口きいて、すみませんでしたってよぉ!」


リーダー格の男は怒り、仲間の二人はこちらをニヤニヤと見つめる。

それで済むなら、いくらでも頭は下げるが…

これ以上の情報も引き出せなさそうだし、仕方ない。

膝をたたみつつ…


「す、スミマセンでした。『タグ無し』は失礼します…」


キレイな土下座をみせる。

セシリアの背をたたき、退散を促す。


「けっ。これだから『タグ無し』は。それでも男かよ。情けねえ」


仲間の男が僕を煽り砂を蹴り上げ、僕たちを見下す。


「スラムの住民がナメた口きいてっと、痛い目みるぞ? いいからさっさと、その薄汚ねえガキ連れて失せろ」


いかにもな三下感満載な三人組がまくしたてる。


薄汚いガキ…?


……今、なんて言った?


――プッチーン


「おい」

「あ?」

「僕をいくらバカにしても構わないけどなぁ」


男の首をつかむ。


「げぼぉ」

「俺の部下をバカにするやつは、誰一人として許!!」


ポイッ。


「さん!!」


男は、はるか彼方へ吹き飛んでいった。


「なっ…」


呆気に取られている残り二人の首根っこをつかみ、


「お前らもだっ!!」


ぽいぽいっ。

二人は星になった。


「ふぅー…スッキリした。」


……………しまった…やりすぎた…。

…僕ってこんなに短気な性格だったっけ。

勝手にセシリアを部下扱いしちゃったし…。


「わぁ…!!」


セシリアが、目をキラキラさせてこちらを見上げる。


「つよーーーーーーーーーーい!!! しゃちょーーーーーー!!」

「社……ま、いっか!」


「お兄ちゃん」がよかった…ン゛ン゛ン゛!!

なんでもない。


まあ、やってしまったものは仕方ない。

この祠が僕の新天地だと覚悟しよう。


***


ダンジョンに戻ると、ヒゲ爺がボロボロになっていた。


「なっ!?おい、大丈夫か?」

「ぐぅ…面目ねえ。」

「何があった?」

「冒険者に入られてンよ……。ちきしょう!ゴブダックのやつ、六男が生まれたばっかだってンのに……ちきしょう!」


そうか、さっきの男たちは冒険者の道案内役だったのか…!

気づけなかった自分に腹が立つ。

ヒゲ爺が、力なく地面を叩いた。


「……弔いの花を供えに行くよ」

「……ありがてぇ…。え?…ン?あれ?ボス…?」


涙を流していたヒゲ爺がギョっとした表情でこちらを見る。


僕は傷ついたゴブリンたちを見て回った。


「……ゴーレム(ボス)が、しゃべってる……」

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