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転生勇者(副業)の異世界旅行記《トラヴェローグ》  作者: 青咲凛
第3章 ナザレの夢魔 後編

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72. 肩慣らし?


 アレクが自分の身の丈ほどもある長大なハルバードを構えるのを見ながら、私は背後からこちらの勝ちを確信して見守るジュンに肩をすくめていた。


 大方、事前に体力を消耗させたり、私の戦闘スタイルを見極めて作戦を立てよう、とかいう魂胆なのだろう。

 あの勝ち誇ったような表情を見れば、嫌でも伝わってくる。


 にしても、Cランクか。


 サングラスをストレージに収納して、代わりに刀を取り出しながら、始まりの街にいるアイザックのことを思い出す。

 彼のランクはAランクだった。

 彼との試合を思えば、多少自分よりステータスが高い分野があったとしても負けることは無いだろう。


 悪くても苦戦はしないはずだ。


(相手もこっちを甘く見てるみたいだし)


 アレクの舐め腐った緑色の視線を受けながら、彼の脳内をトレースしていく。


 私の特技だ。

 相手の顔を見れば、何を考えているかはおおよそ予想がつく。


 あの大きく担ぐような構え方──持ち手の幅──重心──。


 こちらから攻めるには隙がない。

 いや、そもそもある程度熟練した戦士に隙がないのは当然だ。

 もし隙があるように見えるのなら、それは誘い以外に何でもなく、そこから相手の次の手というものは大体割り出せる。


 彼の構えも、まさに例に漏れることは無かった。


(あれを試してみるか)


 全快のアイザック戦からずっと考えていた技がある。

 相手がいないんでまだ一度も試せたことは無いが、ちょうどいい練習台にはなるだろう。


 刀を脇に構え、重心を落とす。

 あえて、相手の誘いに乗る突進の構えを見せて、更に相手の油断を誘う──。


「いざ尋常に──」


 介添人を受け持ってくれたジュンのメイド、エリーゼが手を上げる。

 両者の間に、緊張が張り詰めた──。


「開始──!」


 手が振り下ろされる。

 同時に、私はアレクの懐へと駆けこんだ。


「バカがッ!」


 待っていましたと言わんばかりにハルバードを振り回し、合わせに来るアレク。

 しかし、私も何の考えもなしに突っ込んだわけではない。


 彼の視界から、私の姿が掻き消える──。


「は!?」


 目を見開くアレク。

 同時、その両手から小刻みな振動が伝わり、もしやと穂先へと視線を移した──時には、既に遅かった。


 ひらりとハルバードの上に着地していた私は、その長い柄の上を一気に駆け進み、彼の顔面目掛けて膝蹴りを放っていたのである。


「鼠かよッ!」


 すんでのところで持ち手を切り替えながら、背を逸らして蹴りを回避。

 同時に鉄棒の要領でひらりと身を翻すと、私が膝蹴りから着地する瞬間を狙って石突による鋭い突きを繰り出してきた。


 私はそれを、背後を確認することなく刀で払い落し、足で踏みつける。


「やるじゃねえか」

「舌噛むぞ」


 踏みつけた柄に力を掛ける。

 ──と、急に重くなったハルバードを旋回させることで力を受け流し、柄を短く持ち替えて小刻みに連続突きを繰り出してくる。


 なるほど、長い武器でも短く持てばそういうコンパクトな動きができるのか。


 鋭く、速く、重い突きをすべて刀で打ち払う。

 アレクの突きは、ただ突き刺すだけのものではなかった。

 そのハルバードのフックや斧刃を巧みに操り、隙があれば遠慮なく私の刀を引き倒して地面に叩き伏せることを目的にしていた。


 故に、私は必然的にその側面を叩くしかなく、それが彼による誘導になっていることは明白になっていた。


「ッ!」


 数回のパリィの末、タイミングをつかんだのだろう。

 私が突きを打ち払うタイミングで、彼はハルバードを傾け、その平で刀を巻き落とした。

 踏み込みながら持ち替えられる手。

 長い方で斬りこみが来る──バックステップでは避けきれない──刀はすでに踏まれて封じられている──全部、予想通りの動きだった。


 ──一瞬、アレクが目を見開いた。

 しかしもうこの攻撃は止められない。


 私は長い柄による袈裟斬りに合わせるように刀から手を放し、その勢いを利用しててこの原理でハルバードを奪い取った。

 そしてそのまま、ハルバードの穂先を彼に向けて刺突する。


『体術スキル関連アーツ〈太刀取り〉を獲得しました』

『スキル〈槍術〉を獲得しました』


 咄嗟に身をかがめて回避しながら、私が地面に落とした刀をつまんで距離を取るアレク。

 数歩後退した彼は、乱れた呼吸を整えながら口元を吊り上げた。


「……ハッ」


 肩を震わせ、笑みを浮かべる。


「まさか武器を取られるとは思わなかったぜ。

 それに息1つ上げねえなんて、なんつうバカ体力だよてめえはよぉ?」


 その声音には、先ほどまでの余裕はなかった。

 代わりに宿っていたのは、獲物を見つけた獣のような高揚。


「鍛えてるんで」

「そうかい。

 悪かったな、ガキ扱いしたのは撤回する。

 ……ここからは本気でやろう」


 言って、アレクは私の刀を投げて返した。

 私もそれに倣って彼のハルバードを投げ返す──と、次の瞬間、彼の姿が視界から消えていた。


「っ!?」


 背後からの殺気。

 アレクの斬り落としにギリギリで気づいた私は、転がりながら刀をキャッチすると、続く鋭い横薙ぎを宙に跳んで回避する──が、直後再び鋭い切り落としが迫った。


 空中では躱せない。

 普通なら受ける以外の選択肢のない一撃。


 しかし、私にとってはそうではなかった。


「何ッ!?」


 彼の渾身の一撃を空中で翻るように回避した私は、ハルバードの上に着地し、そのまま彼の眉間目掛けて刀を突き刺した。


「やるじゃねえか!」

「どうもッ!」


 首を傾けて回避するアレク。

 その反動を利用して、短く持ち替えたハルバードを振り抜いてくる。

 私はそれを跳躍して回避する──が、今度は先ほどよりもさらに速くなった十字の斬撃が落下中の私を襲った。


 2連撃。

 ほとんど同時に放たれたそれを、私は真っ向から撃ち返す。


 見物していた冒険者たちが、わぁ、と歓声を上げた。


「おいおい嘘だろ、アレクの赤雷をなんでこうも容易く避けられるんだ!?」

「しかも2回連続だぜ?」

「まぐれ……ではなさそうだな……」


 私の着地の瞬間を狙って、更に足元への斬撃が繰り出されるのを寸でのところで躱す。


 こういう時、〈二段跳び〉なんてスキルを覚えていて本当に良かったと思う──が、そんなことを何度も許すほど相手も甘くはない。

 再度の着地の瞬間を狙って繰り出される横薙ぎを刀で受け、その反力を貰って追撃を試みる。

 すると相手もそれに合わせて長柄で薙ぎ払い、さらに速い斬撃を重ねてくる。


 さっきまでは2撃同時。

 それが数を重ねるたびに3、4と増えていく。

 増えた斬撃は次第に赤く輝く閃光を帯び始め──それが彼の赤雷の由来だと気づいたころには、私も同じく無数の斬撃をほとんど同時に撃ち返していた。


『剣術スキル関連アーツ〈五月雨斬り〉のレベルが2に上がりました』


 轟雷のような剣戟。

 やがて私の太刀筋が、彼の赤雷を追い越していく──。


「ぐ……この……ぉぉぉおおお!!!!」

「ッ──!!!!」


 アレクが咆哮を上げる。

 こちらも声にならない叫びで相対する。


 だめだ、息が持たない。

 そろそろどこかで見切りをつけなければ。


 不意に、彼が眉を顰めた。

 ハルバードを操る手が一瞬硬直する。


「ッァア!」


 その隙を、私は見逃さない。

 拍子を越した刀が槍の長柄を押さえつけて、アレクの動きを止めた。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 お互い、荒い息を上げて睨み合う。

 今、彼が得物を引いて距離を取れば、次の瞬間には彼が攻撃を繰り出す間もなく胸をこの刀が貫くだろう。

 一方で押し返せば受け流され、下段からの斬り上げで体は真っ二つ。


 そういう、立ち位置。


「王手……か……」


 ようやく、息を整えたアレクが息を吐きながらぼやいた。


 最後の最後。

 そこでようやく、前々から試したかった技を成功できて安堵する。


「じゃあ、私の勝ちってことでいいのかな?」

「ああ、どうせこれ以上はどうやっても俺が致命傷を負いかねん。

 攻めても引いても死ぬったぁ、なんてやつだ。

 それにてめぇ、俺の赤雷を真似しやがったな?」

「真似っていうか、似たような技を私も持ってただけだよ」

「そうかい、考えることはみんな同じか」


 肩をすくめ、そこでようやくハルバードを下げて見せるアレク。

 私もそれに倣って刀を鞘に納めた。


 かなりギリギリの試合だったが、何とか勝ててよかった。


「次は勝つ」

「臨むところだ」


 右手で握手を求める彼の手を握り返し、ニコリと笑みを浮かべる。

 今度の握手は、最初と違って優しかった。


 ……優しかったというか、あれ?

 この手粉砕骨折してない?

 大丈夫?

 ちゃんと骨ある?


 心配して彼の方を見上げてみると、さわやかな笑みの奥に脂汗が見えた。



現在の悠里のステータス


 +++


■ステータス■

 名前:鑑 悠里 Lv.12

 性別:女

 種族:異世界人 Lv.1

 職業:ノービス Lv.1

 称号:〈異世界人〉Lv.1

    〈臆病者〉Lv.2

    〈何にも束縛されない〉Lv.2

    〈無謀な挑戦者〉Lv.2

    〈導師見習い〉Lv.1

    〈追跡者〉Lv.1

    〈暗がりに潜む者〉Lv.1

    〈呪術医見習い〉Lv.1

    〈樵見習い〉Lv.1


 HP:120/120

 MP:300/300

 SP:270/270


 筋力:102

 活力:13

 速度:13

 知能:31

 感覚:19


 残りステータスポイント:0


■スキル■

◇武術系◇

 〈剣術〉Lv.5

  └〈偃月殺法〉Lv.1

   〈聖柄の太刀〉Lv.1

   〈居合抜き〉Lv.3

   〈鎧徹し〉Lv.1

   〈五月雨斬り〉Lv.2

 〈体術〉Lv.1

  └〈空気投げ〉Lv.1

   〈投擲〉Lv.1

   〈卍蹴り〉Lv.1

   〈蝦蹴り〉Lv.1

   〈太刀取り〉Lv.1

 〈槍術〉Lv.1


◇魔術系◇

 〈呪詛マスタリ〉Lv.1

 〈魔法〉Lv.1

  └〈術式理解I〉Lv.1

 〈結界〉Lv.1

  └〈反転結界〉Lv.1


◇身体操作系◇

 〈身体操作マスタリ〉Lv.1


◇防御・回復系◇

 〈自動回復〉Lv.5

 〈食い縛り〉Lv.1


◇耐性系◇

 〈驚愕耐性〉Lv.1

 〈痛覚耐性〉Lv.2

 〈負傷耐性〉Lv.4

 〈転倒耐性〉Lv.1

 〈気絶耐性〉Lv.2

 〈トラウマ耐性〉Lv.1

 〈脱水症耐性〉Lv.1

 〈熱中症耐性〉Lv.2

 〈精神攻撃耐性〉Lv.1

 〈拘束耐性〉Lv.1

 〈呪詛耐性〉Lv.4

 〈隷属無効〉Lv.1

 〈恐怖耐性〉Lv.3

 〈不意打ち耐性〉Lv.1

 〈閃光耐性〉Lv.2

 〈麻痺耐性〉Lv.1

 〈粉塵耐性〉Lv.1

 〈冷気耐性〉Lv.1

 〈病魔耐性〉Lv.1

 〈瘴気耐性〉Lv.1

 〈日光耐性〉Lv.1


◇隠遁系◇

 〈忍足〉Lv.2

 〈気配隠蔽〉Lv.2


◇感知系◇

 〈洞察〉Lv.2

  └〈名推理〉Lv.1

 〈気配察知〉Lv.5

  └〈霊感〉Lv.1

   〈先の先〉Lv.1

 〈魔力感知〉Lv.1

 〈遠見〉Lv.1

 〈暗視〉Lv.1


◇生活系◇

 〈交渉〉Lv.2

 〈高速思考〉Lv.4

  └〈並列思考〉Lv.3


◇ギフト系◇

 〈水神の加護〉Lv.1

  └〈水中呼吸〉Lv.1

   〈水上歩行〉Lv.1

   〈水袋勁〉Lv.1


 〈木神の加護〉Lv.1

  └〈成長促進〉Lv.1

   〈効力増強〉Lv.1

   〈笑桜勁〉Lv.1


 〈火神の加護〉Lv.1

  └〈二段跳び〉Lv.1

   〈燃焼無効〉Lv.1

   〈火鳥勁〉Lv.1


 〈土神の加護〉Lv.1

  └〈障壁〉Lv.3

   〈土圧無効〉Lv.1

   〈捻央勁〉Lv.1


 〈金神の加護〉Lv.1

  └〈金属操作II〉Lv.1

   〈即死耐性〉Lv.1

   〈拡金勁〉Lv.1


 〈五行神の加護〉Lv.1

  └〈気功法〉Lv.1

    └〈遠当て〉Lv.1

     〈沈墜勁〉Lv.1

     〈纏絲勁〉Lv.1

     〈十字勁〉Lv.1


 残りスキルポイント:0


 +++



読んでいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いいたします!


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