71. 雑魚?
昼食を終えた私は、マーリンを図書館まで迎えに行くまでにしばらく時間があるので、もしエラが魔族ではなかった場合に行う予定の作戦の下準備をするべく──もしそうでなくとも個人的に参加したいと思っていた──例の武闘大会の予選にエントリーしに来ていた。
「やっぱり広いなぁ……」
昨日はナザレに着いたばかりで、人込みの中からちらりと見えただけだった。
しかしこうやってエントリーのために改めて来てみると、その巨大な石造りの建築に圧倒される。
構造としては、かの有名なローマのコロッセオに近い。
白に近い淡い砂色の石を幾重にも積み上げた巨大な円形闘技場は、4層に連なる無数のアーチが規則正しく並び、見上げるほど高く空へと伸びている。
遠くからではあまり見えなかったが、2層目以降のアーチの間にはさまざまな石像が並んでいるのが麓から見えた。
サングラスを通して、鑑定画面が何の石像かを説明してくれる。
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アイテム名:初別天二十四節季の精の石像型ゴーレム
分類:防衛機構/芸術品
性能品質:低品質
芸術品質:高品質
耐久値:577/684
魔力量:1200/1200
潜在力:1/1
強化率:28%
追加効果:自立防衛(術者:現在不在)
売値:非売品
初別天二十四節季の精を模った6体1組の石像型のゴーレム。
非常時には在駐する神殿騎士団が魔力を籠めることで起動し、防衛活動へ割り当てられる。
石像の顔は、闘技場建設に携わった石工の顔が模されている。
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またなんか固有名詞出てきたな……。
おそらく神話関連のモチーフなのだろうがまあそれはいいとして。
神話に出てくる精霊かなんかの顔を、石工の顔にしてしまうのってなんというか、それは宗教的に大丈夫な奴なのだろうか?
こういうのって普通、偉大な功績を残した人とかの顔にするのでは……いや、この闘技場を作ったのも偉大な功績ではあるか。
明らかに24体以上ありそうな石像になんとも言えない表情を浮かべながら、私は戦士や冒険者たちがこぞって向かっていく東側の大門へと足を延ばした。
東側の門の手前には、巨大な凱旋門が建設されていた。
三連アーチの中央は馬車が何台並んでも余裕で通れるほど広く、左右には人が絶え間なく行き交う歩行者用の門が設けられている。
門の表面いっぱいに刻まれた精巧な浮き彫りには、剣を掲げる英雄や空を翔ける竜、咆哮する獣たちが生きているかのような迫力で彫り込まれ、その上部には金色に輝く獅子の紋章が掲げられていた。
多くの兵士や戦士、冒険者たちが、おそらくナザレに来た記念なのだろう、ワイワイとはしゃぎながら門をくぐったり、その周りで談笑している姿が目に入る。
中には一般市民らしい人と握手を交わしている人もちらほら見えた。
冒険者にとって闘技大会は、自分の名前を売るための絶好の機会だ。
どんな人物が出場するのか気になって覗きに来ている一般人にアピールして、少しでも覚えてもらおうと躍起になっているのだろう。
──などと考えていた時だった。
不意に、その凱旋門の一角に見覚えのある集団を見つけて、私は思わず駆け寄った。
「ジュン!」
人混みを縫って声を掛けると、4、5人のメイドに囲まれていた金髪の少女がくるりとこちらを振り返った。
「ユーリ!
やっぱり貴女も来てたのね!」
挨拶もそこそこに、私は自然とジュンの全身へ視線を走らせる。
一週間ぶりくらいだろうか。
久しぶりに会った彼女の装備は、以前模擬戦をしたときとは少し変わっていることに気が付いた。
「依頼を受けたついでにね」
「聞いたわ。
神殿から指名依頼を受けたんだってね。
もしかして、例の件かしら?」
例の件、というのは言わずもがな、勇者依頼のことを指しているのだろう。
勇者でもないのに神殿の抱える秘密を共有している彼女なら、おそらく神殿からの指名依頼と聞けば勇者関連という想像くらいはできたはずだ。
「まあ、そんなところ。
そっちは?」
「無論、大会目当てよ!
それに合わせてギアだって新調したんだから!」
言って、自慢げに仁王立ちしながら腰の大小を見せつけるように胸を張った。
「前のフルーレとマン・ゴーシュから変えたんだ?」
「ええ、アラストール商会が抱えている鍛冶師が新作を作ったのよ!
今回はそのテストを兼ねてるわ!」
ジュンは得意げな笑みを浮かべながら、腰の剣を軽く持ち上げて見せる。
私もつられてそちらへ視線を移した。
「へぇ」
見た感じ、鞘の形状から前回使っていた刺突剣からジャンルが変わって、細長い湾刀の一種のように見えた。
これまでが突くことに特化したものだったのに対して、斬ることも見据えた武器に発展している。
(サーベルと、もう片方はスティレットか……)
私が感心しながら眺めていると、ジュンはその反応を待っていたかのようにニヤリと笑みを浮かべた。
「そうだわ!
予選前に少し慣れておきたいと思っていたところなの。
もしよかったら、この後模擬戦の相手をしてくれないかしら?」
「いいよ、ちょうど体を動かしたいと思ってたんだ」
ここしばらく、戦闘らしい戦闘をしていない。
もちろん毎朝素振りくらいは日課の筋トレとランニングのついでにしてはいるが、それだけでは物足りなさを感じていたのだ。
私がニッと笑みを返すと、ジュンは『決まりね!』と嬉しそうに鼻を鳴らした。
***
闘技大会の予選エントリーを済ませた私たちは、さっそく模擬戦をするべくナザレの冒険者ギルド、その訓練場を借りることにした──が。
「さすがに、闘技大会前ともなると人が多いわね……」
肩をすくめるジュンに、メイドたちが『仕方ありません、別の場所を探しましょう』と提案する。
しかし。
「問題ないわ!」
言って、ジュンが多くの冒険者が訓練する中へ突っ走っていく。
何をするつもりだ?
そう、怪訝に眉根を寄せた直後だった。
彼女はスゥ、と大きく息を吸い込むと、懐から金貨を1枚取り出して大声で叫んだ。
「聞きなさい!
今から彼女と戦って、もし勝てた人がいたら、私から金貨を1枚進呈するわ!
ただし、その代わり負けたら今日1日の間でいいわ、しばらくこの訓練場を私たちに明け渡しなさい!」
「え、私!?」
唐突なジュンの宣戦布告に、思わず素っ頓狂な声が出る。
「いい案でしょう?」
「いや、勝手に決められても困るんだけど」
「いいじゃない、貴女なら楽勝でしょ、こんな雑魚の集まりなんて」
信頼しきった瞳で、声を大にして『雑魚』と言い放つ。
きっと、敢えて聞こえるように言っているのだろう。
おかげで訓練場にいた冒険者たちがぴくぴくと青筋を立ててこちらを睨んできている。
正直いって面倒なことこの上ない。
「それに、どうせ闘技大会に出るなら一緒よ。
ここで敗れるか、予選で敗退するかしかないんだし」
「おいおい、そいつぁ聞き捨てならねえなぁ、嬢ちゃんよぉ?」
その時だった。
ジュンの挑発に引っかかった大柄な赤毛の青年が、ハルバートを担ぎながらこちらに歩み寄ってきた。
顔に大きな十字の傷がある、緑色の目をした背の高い男で、私の2倍くらいの背丈はありそうである。
「あら、貴方が最初のお相手かしら?」
「いいぜ、受けてやるよ。
ガキの1匹2匹、躾けられねぇで冒険者なんてやってられねぇからよぉ」
鼻を鳴らし、じろりとこちらを見下ろしてくる。
サングラス越しに鑑定してみると、どうやら口先だけではないらしいステータス値をしていた。
……ちょっとまずいかもしれない。
が、自分より格上との相手はこれまで何度も経験してきた。
それに私の武器はステータスじゃない。
その低さを補完できるだけの、大量のスキルがある。
まあ、やれるだけやるしかないだろう。
「アレクだ。
周りからは赤雷って呼ばれててな、こう見えてCランクだ。
よろしく」
彼はそう言うと、黒い指ぬきグローブを差し出してきた。
「よ、よろしくお願いします……」
握手を返す──と、何やら軽く力を込められたので込め返してやると、彼は一瞬だけ眉を顰めた。
……手からなんか聞こえちゃいけない音聞こえたのは気のせいだと思いたい。
読んでいただきありがとうございました!
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