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転生勇者(副業)の異世界旅行記《トラヴェローグ》  作者: 青咲凛
第3章 ナザレの夢魔 後編

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66. 親子?


 ナザレ沿岸の舶来品を主に扱う市場から内陸へ少し北上すると、地中海を通じて様々な食文化が流れ込む飲食街が顔を見せる。

 たとえばここイア・ユヴァル王国の東、海洋国家の小さな諸島の国で食べられる魚の頭が突き出したパイ──いわゆるスターゲイジーパイとか、更に東にいくつかの国を超えたところにあるらしいエデプタ・ラーヴァ連邦国から輸入されてきた揚げクレープみたいなものとか。

 そういう、少し変わり種のものが食べられる店が、この辺りには多く軒を並べていた。


「おいしいんですか、それ……?」


 見た目的には、個人的にはあまりおいしそうには見えない魚のパイにかぶりつく坂田に眉を顰めながら、私は揚げクレープを口に運んだ。


 結構胃もたれしそうな感じだなこの揚げクレープ……というか、餃子……?


 中身は干したフルーツやはちみつ、少量のシナモンと甘い感じでかなりおいしい。

 甘い餃子という感じだろうか。

 もちもちした生地に大量の油が染み込んでさえいなければ完璧だと思う。

 多分この辺は料理人のスキルが未熟なのだろう。


「ミートパイみたいな感じやな。

 魚感は正直微妙って言うか、正直頭と尻尾の飾りくらいや」


 言って、皿の上に転がった何かの魚の頭をフォークでつつく。


「ミートパイのミートが魚肉ハンバーグになったっちゅうたらわかるか?」

「……魚肉ハンバーグを食べたことないからわからないです」

「言うたら魚のハンバーグやな」

「それは聞けばわかるんですけど……」

「つまりやな……魚肉ハンバーグや」

「……おでんに入れる魚のつみれみたいな?」


 スキル〈名推理〉が発動して、なんとかからの言わんとしているところを言い当てる。


「そうそれ!

 魚の出汁の感じがまさに!

 パイなんがちょっともったいないくらいやで。

 ライス欲しなるわ、口パサパサするし」


 お金があまりないっていうからせっかく奢ってやったのに、なんていうか不評を聞かされると私が作ったわけではないのにちょっと腹が立つな。


「で、そろそろ嬢ちゃんの名前聞いてもええか?

 あとなんで儂の本名知っとった?」


 すっと目を細くする坂田。

 対して私は動じることもせず、淡々と種を明かした。


「私は鑑悠里。

 坂田さんと同じ日本人です。

 名前を知ってたのは、坂田さんのその時計と同じようなものを持ってるからです」

「あぁ、いつの間にか魔改造されとった儂の林檎時計!

 嬢ちゃんのもか!」

「私はスマホでしたけどね」


 言って、肩をすくめると、坂田は『なるほどなぁ』と何かに納得したように頷きながら次のピースへと手を運んだ。


「こっちに来とる同郷は儂以外にはおらんと思っとったわ。

 ほら、異世界もんのラノベってだいたい同郷出てくんのって結構後半やろ?

 やとしてもそこかしこで噂聞くはずやのになんも聞かんし、てっきり儂だけが唯一で特別なオンリーワンやと思っててんけど……なんかちょっと残念やなぁ」

「私も結構最近まで思ってましたよ」

「儂の他にも?」

「ええ、1人は秘密部隊の情報屋みたいなのが。

 もう1人は……」


 言いかけて、言葉が詰まった。


 あれ?

 そういえばリューも勇者なんだよな?

 だとしたら彼も異世界人?

 いや、でもケモミミ生えてたし……っていうかあの子の神器ってなんだ?

 そういえば見たことないな……。


「秘密部隊の情報屋!?

 うわぁ、儂なんかより偉い主人公やっとるやん!

 ダークファンタジー系の主人公やろ情報屋、しかも秘密部隊とか……ロマンありすぎ」


 詰まった言葉に関してはそこまで興味がないのか、それよりもむしろ最初に提示した方に対して何やらぶつぶつと感想を述べる。


「儂なんかあれやで? こっちの世界着た直後にようわからん濡れ衣着せられて神殿の騎士に追いかけまわされてやな、めっちゃ大変やった……。

 まぁ、わしには相棒がおったから結構楽できたけど」

「相棒?」


 私にとってのマーリンみたいなものだろうか?

 そんな風に思っていると、不意に背後から呵々、と笑い声が聞こえてきて思わず振り返った。


「それはそれは、嬉しいことを言ってくれるのう、坂田や」


 黒いセーラー服の、姫カットの女子高生。

 腰ほどまである長い黒髪の内側には、マゼンタレッドのインナーカラー。


 一瞬、彼女も同じく異世界に転生してきた日本人かと思ったが、その気配の薄さと、何よりサングラス越しに映る彼女の情報が人間ではないと告げていた。


「うまそうな菓子じゃのう。

 食ってもええか?」

「あ、ちょっと!?」


 答えるより早く、1つひょいと掴んで口に放り込む坂田の相棒。


「ふふん、判断が遅いのう、小娘や」

「こら、お(りょう)さん!

 人の物勝手に食べたらあかんやろ!

 ぺっしなさい、ぺっ!」

「いやぺっされても食べれないから!?」


 慌てる坂田のセリフに、私は思わず制止する。


「聞いたか坂田!

 つまり口に入れさえすれば(わし)のものと呼んで過言じゃないらしいぞ!」

「んなわけあるか阿呆!

 お前が出した奴を鑑さんが食わんでも儂が食うんじゃ!」

「「それは流石にキモい!!」」


 やや暴走気味な坂田の発現にぞっとしたものを覚えながら、私は彼女と声を揃えて返した。


「じょ、冗談やんか……」

「じゃとしてもやって善いことと悪いことがあるじゃろうが……」


 盛大なため息を吐きつつ、さりげなくもう1つ私の皿から揚げクレープをかっさらう少女──の手をすかさず止める。


「ほしいなら言ってください、注文するので」

「ソレハカタジケナイノウ」

「わぁ、棒読み。絶対思ってなさそう」


 ベルでウェイトレスを呼びつけ、同じものを彼女にも注文する。


「あ、あとケーキとかあったらそれも頼む」

「お龍さん、さすがに遠慮せぇや……。

 ここのケーキ安くても大銀貨1枚やで……?」

「えー? でも奢ってくれるんじゃろ?」


 ちらり、と大きな赤い目をこちらへと向けてくる(りょう)

 しかし残念だったな。

 お前がショタでないなら私にその戦略は効かんのだよ。


 私は確信犯な彼女に鼻で笑うと、きわめて冷徹な回答を返した。


「奢るとは言ってませんよ?」

「ガビーン!?」

「お龍さん、それちょっと古いで」


 半笑いでそう返す坂田。

 しかし、2人が食べてる中で彼女だけ何も食べていないというのは流石に可哀そうではある。

 決して、その潤んだ瞳に負けたわけではないが、仕方ないので妥協案を提示することにした。


「揚げクレープだけなら奢ります」

「ぐぬぬ、仕方あるまい……ここは負けといてやるとするかのう」

「そんな言い方するならやっぱりなしで」

「後生じゃ! すまぬ! ゆるしてお姉さまぁ!?」


 芝居がかった様子で泣いてすがってみせる龍。

 こいつにはどうやらプライドというものがないらしい。


 私は肩をすくめると、狼狽するウェイトレスに揚げクレープを1皿だけ追加注文すると、さてと坂田に向き直った。


「話を戻しますけど──これが、坂田さんの神器の能力なんです?

 つまりその、サポートキャラの召喚、みたいなのが?」


 引っ付いてくる龍を押し退けながら、私は坂田に眉を顰めた。


「神器? あぁ、時計のことか。

 なんやかっこいい呼び方するから一瞬何のことかわからんかったわ」


 魚のパイを呑み込みながら、坂田は首肯して見せた。


「そ。正確には人工精霊の作成と召喚。

 まあ、作れんのは1枠だけなんやけど──あとはまあ、テンプレな異世界人特典機能みたいなもんやな。

 翻訳とかアイテムボックスみたいなんとか」

「ということは、さっき急に出てきたのは召喚したから?」

「いんや?」


 否定する──と、龍はにやりと笑みを浮かべてその場から姿を消して見せた。

 空中に、彼女が掴んでいた揚げクレープだけを宙に浮かせて。


「非実体化──儂は恰好ええから霊体化って呼んどるんやけど──そんな風に姿消せんのよ。

 この間中は物理的な影響全部すり抜けて、使えるんは簡単な低出力の念力だけになる」

「ポルターガイストですか」

「そんなところじゃな。

 まあ実際は手で掴んどるだけじゃが」


 言って、再び龍が姿を現した。


「だとしてもかなり有用な機能ですね。

 隠密とかには持ってこいじゃないですか」


 姿を消せる上に壁もすり抜けられる。

 さらに霊体化していてもアイテムを持ち運んだりもできるらしいとなるとその運用は無限大だ。

 おそらく私の神器同様、機能の結合もできるだろうからストレージ機能も彼女は利用できるはず。

 だとしたら誰も入りこめないところに侵入して、機密文書を持ち出したりとか余裕なのではないだろうか。


「そうやなぁ。実際、お龍さんには騎士からの追跡撒くのによう役に立ってもろたし、儂ゃもうお龍さんなしでは生きていかれへんわ」


 そんな風に感心していると、坂田はうんうんと頷きながら感慨深げにそうつぶやいた。


「嬉しいのう。

 そんなに言うなら、お前のそのパイも残り貰ってええか?」

「これはだめ」

「ケチんぼじゃのう」

「お龍さんに渡したら全部なくなるやろ、儂の食うもんなくなるっちゅうねん!」


 言って、パイの乗った皿を取り上げる坂田。


「一口くらい良かろうが!

 減るもんじゃなし!」

「減るんだよ、食いもんは!

 改めてごめんな、鑑さん。うちのがクレープ食べちゃって」


 皿を抱え込むようにして龍から距離を取りながら、坂田は申し訳なさそうに頭を下げた。

 どうやら彼は普段からこの調子で相棒に振り回されているらしい。


「いいですよ、過ぎたことですし」

「ほら、鑑さんも怒っとる! お龍さんも謝り!」

「なぜじゃ? 今許してくれたじゃろ?」

「方便じゃ方便!

 こういう時は謝るんが筋や!」


 完全に保護者と問題児の会話だった。

 しかも困ったことに、問題児の方は反省という概念をどこかへ置いてきたらしい。


 彼がこちらの世界に来たのは、おそらく2年前。

 ともすればこの人工精霊も多分生まれてから2年しかたっていないのだろうと思うと、もはやこの現場は育児そのもののような気もしないことは無かった。


「しゃあないのう……。

 勝手に食ってすまんかったな鑑殿」

「いやいや、これくらい謝ってくれれば大丈夫ですから」


 唇を尖らせながらも、素直に謝る龍の姿に、私はどこかほほえましいものを感じて謝罪を受け入れる──が、直後。


「謝りさえすればまたくれるんじゃな?

 いいことを聞いたのう」

「「違う違う……そうじゃ……そうじゃない……」」


 やっぱり、謝罪を受け入れるのは少し早すぎただろうか?


読んでいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いいたします!


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