62. 拠点?
急遽第3章を書き直したので、第60話のサカモト・リョーマの衣装、及び第61話後半の事件概要の共有シーンが変更になっています。
詳しくは該当シーンをご覧ください。
勇者部隊の任務はただ1つ。
3人の容疑者の中から魔族を探し出し、討伐すること。
つまり、暗殺任務である。
とはいえ、現代日本でぬくぬく過ごしてきたこちらの身としては、個人的に何の恨みもない人間──魔族だけど──を殺すというのはかなり抵抗のある行為だった。
故に、私が提案するのは討伐では無く捕縛。
あるいは、星影のみを選別して回収、浄化する作戦。
要するに街全体に結界を展開して、星影だけを選別し、裏の位相にいったん収納して後でまとめて浄化するという魔道具を設置するというものだった。
この提案に、最初服部やカエデは懐疑的だった。
本当にそんなことができるのか、と。
私もこれに関しては思い付きだったのでできる保証はなかったが、その後、マーリンにできそうか尋ねてみると、理論上はできなくはないとの回答だった。
「だが、そのためにはご主人様の神器と同じ、術式のレコーディング機能が必要になってくる。
設置に関しても、個人的な行動だけでは無理だ。
少なくともナザレの神殿長に許可を取る必要が出てくるだろうし、時間もかかる」
「それなら問題はないぞ」
マーリンの懸念に、服部が口を挟んだ。
「なんたって勇者部隊は神殿の裏組織だ。
街の神殿長相手くらいなら簡単に動かせるし、今回のその作戦が本当に実行できるならうちの上司は喜んで支援するだろう。
魔族をこの世から滅するのは、神殿の悲願でもあるからな。
それに長期的に見てもそういう手段ができるのならこっちとしても頼もしい」
4人が顔を見合わせ、こくりと頷いた。
「それじゃあ、マーリンは例の魔道具作り。
その間にユーリは容疑者の中から魔族を見つけ出すというのを同時並行で進めよう」
服部が、決まりだと言わんばかりに手を叩く。
こうして、私は魔族探し。マーリンは保険の作戦を実行するための下準備へと駆り立てられたのであった。
***
会議が終わると、私たちはカエデからナザレ滞在中の部屋へと案内された。
どうやら勇者依頼遂行中は、喫茶眠り猫の客室を貸してくれるらしい。
しかも宿泊料は勇者部隊持ちでタダ。
ラッキーだね。
「喫茶店なのに客室なんてあるんですね。
まるで宿屋みたい」
「部屋はいくらでも増やせるんですよ。
マスターの神器の能力なので、間取りとか家具とかは結構自由自在なんです」
「へぇ、いいなぁ」
喫茶店の奥に隠れていた落ち着いたブラウンの階段を上り、2階、3階と登っていく。
白い壁には小さな絵画が何枚か飾ってあって、柔らかな照明もあってかなりお洒落だ。
前世にこんな店があったら1泊いくらになるんだろう?
「ティッシュとかの消耗品に関してはお金がかかるんですけど、今必要なものとかってあったりしますか?」
「うぅん、そういうのは私も神器から買えるので大丈夫ですね。
マーリンは? 何かいる物とかある?」
振り返って、後ろからついてきていた彼に問いかける。
「それなら、紙とペンはありますか?
今回の術式を設計するのに使いたくて」
「ええ、大丈夫ですよ」
「それくらいなら私が用意するよ?
作戦を提案したのこっちだし、これくらいは──」
「──作戦に必要な物資でしたら経費で落ちるので、ユーリちゃんは気にしなくて大丈夫です!」
「お、おぅ……」
なんだ、いきなり馴れ馴れしいな……。
ともかく、経費で落ちるならお言葉に甘えさせてもらうか。
「マーリン、他には?」
「じゃあ、あればでいいんですけど、ナザレの地図──正確な距離がわかる物と、それから定規、分度器、あとコンパスもお願いします」
「はい、承りました!
それじゃああとで用意して持ってきますね!」
言って、3階の奥の角部屋にたどり着いた時だった。
カエデは足を止めると、白塗りされた木の扉を開けて中に案内した。
暗めの赤い壁紙がされた、五角形のワンルーム。
奥の壁にはナザレの景色を一望する上げ下げ窓があって、その手前には落ち着いたメープルの勉強机とガラス製の照明器具があって、右側の壁には柔らかそうなマットレス付きのベッドとクローゼットがあった。
「こちらがマーリン君のお部屋になります。
鍵はドアノブに魔力を少し流せばかかりますので、部屋を出る時には必ずかけるようにしてください」
「ありがとうございます」
その鍵のシステムも神器の設定なのだろうか?
この店の中ではすべてが思い通り、みたいなことを服部は言っていたけど……部屋を増やしたり家具を出したり、ホントに便利な能力だ。
私と違って生活力に極振りされている。
礼を言って、部屋の中を物色し始める。
「布団柔らかっ!?
うちのと全然違う……」
どうやら気に入ったらしい。
「ユーリちゃん、普段どんなところで暮らしてるんですか?」
「始まりの街近くの牧場……を改造して住めるようにしたところですね」
「家持ってるんだ!
え、こっち来てまだ2週間なんですよね!?
ちっちゃいのに実は意外と強かったり?」
「ちっちゃ!?
……まぁ、はいそれなりには……」
なんだか薄々感じてきたけど、この子もしかして私のこと子ども扱いしてないか?
少なくとも私あなたより年上なんですけど?
不服そうに首肯する私に、マーリンも同じことを考えたのか思わず吹き出しそうになるのを必死にこらえているのが視界の端に移った。
こいつ……。
「それじゃあ、次はユーリちゃんのお部屋に案内させていただきますね!」
カエデはマーリンが首肯するのを見届けると、鼻歌交じりに私の手を引いた。
***
「それにしても、部屋数が多いですね……」
階段をのぼりながら、私はカエデに口を開いた。
「そうですね。
勇者部隊の隠れ家でもありますから」
「ということは、勇者部隊はナザレを本拠地に?」
「あ、そっか。
これからお仕事するならそういうことも教えておかないといけないのか」
疑問に思う私に、カエデはぽんと手を叩きながらこちらを振り返った。
「眠り猫は、基本的にはどの街からでも出入りできるんですよ」
「……どういうことです?」
「うぅん、説明が難しいんですけど、眠り猫は一種の異世界みたいなものなんですよ。
ほら、ゲームとかで建物に入るとマップが切り替わるじゃないですか。
あんな感じで、他のマップと隔絶されたところにあるイメージと言いますか」
眉間に指先を当てながら、何とかうまい具合に説明しようと唸るカエデ。
「なるほど。
そのマップ同士の接点が、実はいろんな街にあって、そこを通ることで眠り猫にたどり着くようにしている、と?」
「そんな感じです!」
それで、その接点に直接たどり着けないようにするために、結界を使って隠匿している……と。
「入り口を隠す結界も、街によって違うんですよ!
ナザレは街が複雑なので路地の複雑さを触媒にしてますけど、街によってはどこどこの店でなになにを買って、どこどこの通りのなになにでまた別のなになにを買って──とかもあります」
「それお店の場所と売り物が変わったら使えなくなりません?」
「ええ、ですから定期的に変更を加えてるんですよ。
パスワードと一緒です!」
な、なるほど……。
もし行き方がばれてもそのパスワードみたいなものを変えてしまえば、相手は永遠にたどり着けなくなるという設計か。
防犯意識高いな……。
「ちなみにこの結界もマスターの神器の能力です」
「便利すぎない?」
だってそれ、まるまる1個の世界を作ってるのと変わらないじゃないか?
この喫茶店にいる限り攻撃を受けたりもしないし、欠点らしい欠点もない。
「さ、着きましたよ!
ここが今日からユーリちゃんのお部屋です!」
そうして案内されたのは、4階廊下のちょうど真ん中あたりの扉だった。
他の扉と変わらず、白塗りの木製の扉。
真鍮製のドアノブを促されるままに回すと、マーリンの部屋とほとんど同じ風景が広がっていた。
違っているのは、ベッドシーツの色と、窓から見える景色くらいだった。
たぶん、この分だと外の景色も自由自在なんだろうなぁ。
窓際に歩み寄り、眼下を見下ろす。
そこに広がっていたのは、まるで絵本をそのまま切り取って並べたような街並みだった。
白い石造りの小さな家々が石畳の道に沿って肩を寄せ合い、窓枠や扉は水色や桃色、若草色といった柔らかな色で塗られている。
建物の高さはどれも2階から3階建て程度。
急な坂道に合わせて段々に並んだその姿は、まるで誰かが巨大な棚の上にドールハウスを並べたようだった。
「こっちの景色も同じナザレですけど、ユーリちゃんは女の子なのでナザレの観光名所、人形通りにしてみました!」
「人形通り……なるほど、言い得て妙ですね」
菓子屋、仕立屋、雑貨屋、喫茶店。
軒先には木彫りの看板や陶器の飾りが吊るされ、店ごとに異なる意匠の小さなバルコニーが通りへ張り出している。
その姿をこうして遠くからぼんやりと眺めていると、そのかわいらしい景観も相まって、まるで通りを歩く人々が人形のように見えてくるのだ。
「ちなみにここから見える一番近いお菓子屋さん。
小麦色の水槽って名前なんですけど、あそこ私のお気に入りなんです!
お魚をモチーフにしたクッキーがたくさんあって、かわいい上においしくて!
あ、私のお勧めはチョウチンアンコウのバタークッキーです。
滞在中に機会があれば、是非寄ってみてください!」
「か、考えておきます……」
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次回の更新は明日の朝0時です!
是非読みに来てください!




