59. 容疑者?
「今回君にお願いしたいのは2つだ。
リューから話があったかもしれないが、まず1つは勇者部隊への加入。
そしてもう1つは勇者部隊員としての仕事だ」
勇者部隊。
先ほどから彼の言っているそれは、おそらくリューが先日話していた魔王討伐のための仲間集めに関係しているのだろう。
彼は言っていた。
もはや魔王の復活は止められるものじゃない。
なぜなら魔族がもはや隠れてこそこそする段階ではなくなったからだ、と。
これからは魔族による被害が増え始める。
そうなれば魔王復活は時間の問題であり、今のうちに仲間を集めて備えるのだ。
「具体的には、勇者の発見と部隊加入の斡旋。
それから魔族が起こした事件の収拾と星影の回収が主な任務だ」
「星影?」
どこかで聞いたことのある言葉に、思わずオウム返しする。
「魔王の体を構成する素材みたいなものだと思ってもらえればいい。
我々はそれを回収して、星光の輝きを持って浄化する──そうやって、地道にだが魔王の復活を阻止してきたのだ。
今となっては、もはや単なる弱体化の措置としか言えなくなってきたがな……」
彼の言葉に小首をかしげる。
その言い方だとまるで、魔王の体の材料が世界各地に散らばっていて、魔族と勇者部隊がそれらを取り合っているみたいな構図に聞こえたからだ。
「あれ、魔王って封印されてるんですよね?
リューから聞きましたけど、たしか人の『魔王の存在は御伽噺だ』っていう認知を触媒にしてるって」
「ああ、だからその認知を揺るがされると、その隙間から星影が侵食してくるんだよ」
なるほど、そういう理屈か。
回収とか素材とかいうからわかりにくくなってはいるが、星影は物理的に存在している物体みたいなものというよりも魔力的なものだと思った方がいいのかもしれない。
星影というタイプの魔力的な何かがあって、それを星光の輝きとやらで浄化する。
聖女ものによく出てくる瘴気みたいなのと似たような概念なのだろう。
「じゃあ、その星影はどうやって集めるんですか?」
「知らん」
「……は?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
当たり前だ。
星影の回収を命じておいて、その収集の仕方は知らないというのだから、そんなのどうしようもできないじゃないか。
困惑するのも当然の帰結である。
「勇者にしかできない話だからな。
正直言って、ただの人間である私には、その理屈は理解できない。
だが、リューが言うには神器で星影を回収できるみたいだぞ。
やり方については神器によって異なるから詳しくはどうとかは言えないが」
申し訳なさそうに答える彼に、私はなるほどと頷いた。
やり方は神器によって異なる。
それだけを聞けば、私の場合はどういう形で回収されるのかはなんとなく想像がついてしまったkらだ。
(スマホの機能が、ゲームのメニュー画面みたいなものだからたぶん、クエストの報酬かドロップアイテムだろうな……)
おそらくそういう経緯で星影が回収されるのだろう。
浄化についてはどうなのかはさておき。
「こんな説明で済まないが、どうか部隊に加わってくれないだろうか?
もちろん報酬は出す」
ジャックの真剣そうな眼差しに、私はマーリンと視線を交わした。
勇者依頼の概要は把握した。
他にはもう聞くべきこともなさそうだし、この辺でいいだろう。
「そういうことなら、冒険者ギルドを経由してもらってもいいですか?」
もともと、そういうつもりだった。
私にとっては、いつ封印が破壊されるかも知れない魔王のことよりも、まず目先の、自分たちの住処である家を維持していくことが重要だった。
勇者の話はそのついで、いや、むしろそのための手段の1つなのである。
世界滅亡の危機を、私が加わったところでどうにかできるとは到底思えない。
というかむしろ神殿としてはまず戦力としての頭数を増やすことが魔王討伐について重要な割合を占めているようにも思える。
ならばその頭数に加えられる代わりに──この世界の都合を押し付けられる代わりに──少しくらい自分たちのわがままを聞いてくれたって罰は当たるまい。
「ギルド経由?
いいのか? 報酬が一部、ギルドに天引きされるが……。
うちに入って直接依頼を受ければ全額入るぞ?」
ジャックのその言葉に、思わず意思が揺らぎそうになる。
「……ちなみに、依頼の頻度と報酬の金額を聞いてもいいですか?」
「頻度については決まった周期があるわけではないね。
君が入るとしたら実行部隊だし、下調べとかは他の非勇者隊員が行うことになる。
だがその分給与は大きいぞ。
今後は魔族との戦闘も増えていくだろうから、依頼1回につき最低でも金貨1枚は保証されている」
依頼が不定期ともなれば、やはり目下の課題となっている固定資産税の支払いの当てにするにはリスクが大きそうだ。
やはりここはギルドの貢献度稼ぎに利用して、今後の事業展開の踏み台になってもらう方がよほど利用価値がありそうな気がする。
マーリンも同じ考えの様で、勇者部隊に入ることについては否定的な様子だった。
「そうか、君がどうしてもというのならば仕方あるまい」
言って、ジャックはカップの中身を飲み干した。
「ならば希望通り、勇者部隊としての任務は冒険者ギルドを通して連絡しよう。
ただ、詳しい任務内容はギルドに伝えることはできないことについては容赦してもらいたい」
「わかりました」
勇者であることは知られてはならないからね。
私は首肯すると、『じゃあついでに』と口を開くジャックに耳を傾けた。
「じゃあついでに、今回君にする予定だった依頼の内容についても、ここで話していこうか。
依頼を受けてからだと二度手間になるからね。
今回は特別に許してもらえるかい?」
「ええ、もちろん」
彼の言葉に、そういえばここに呼ばれた理由は部隊参加のお願いと任務の通達だったことを思い出す。
「今回君に受けてほしい任務は、ナザレに潜伏している魔族の討伐だ」
「ナザレに魔族が?」
一瞬、視線をマーリンの方に向ける。
「ああ、調査によればナザレの神殿中枢部が星影に汚染されていることが最近明らかになってな。
数年前から司祭の様子がおかしいことは報告されていたが、最近になってそれが魔族によるものだという証拠が手に入ったのだよ。
そこで君はナザレに潜入して、どこに魔族がいるのかを突き止め、可能であればそのまま討伐してほしい」
「魔族の証拠って?」
「星影を露出させるのに用いられたと思われる装置の存在だよ。
地下水道の時もあっただろう?」
言われて、ああ、と思い出す。
あの反転結界の触媒。
そういえばあれの術式の中に星影がどうとか描かれていたことを思い出す。
おそらく、今回もあの時と似たような仕掛けが施されていて、勇者部隊の諜報員に発見されたのだろう。
「今のところ、触媒を仕掛けた容疑者が3人候補に挙がっている。
残念ながら星影そのものは勇者にしか感知できないものだから、あくまで容疑ではあるのだが──」
言って、ジャックが女性神官の1人に目配せすると、机の上に3人分の写真が用意された。
(私、人の顔区別できないから似顔絵なんか出されてもわからないんだけど……っていうかこの世界に写真なんてあったんだ……)
左から、女性、女性、男性。
私にわかるのはその写真の人物の性別と髪型くらいである。
ここは、マーリンに任せた方が良さそうだな。
そう思って彼の方を振り返ってみると、マーリンは目を丸くして、驚きを隠せないでいる様子だった。
「マーリン、この中に知ってる人でもいたの?」
尋ねてみると、彼はゆっくりと頷いて真ん中の女性を指さした。
腰まである、銀色の長い髪。
おそらく図書館のような場所で撮影されたのだろう、手に大量の本を抱えている、すらりと背の高い女性。
「この人……俺の、魔法の先生だ……」
その言葉を聞いた瞬間、私の胸の中で何かがざわついた。
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