56. 新技?
翌日、私たちはEクラスダンジョン、スカロ山巣窟にやって来ていた。
「いいんだな、私は何もしなくて?」
木々がまばらに生えた、小高い山の中腹。
いや、山というよりは巨大なすり鉢だろうか。
中央には湿地帯が広がっていて、その周囲を囲むように地面がぐるりと盛り上がっている。
その内側の斜面に、スカロ山巣窟の入り口はあった。
人が数人並んで歩けそうな大きな洞窟だ。
「ああ、すまないが今回は譲って貰う」
あの後──マーリンが、もしかすると触媒無しに魔法が使えるかもしれないと宣った後のことだった。
彼は、今しがた自身で組み立てた仮説を実証したいばかりにそんなことを提言してきたのである。
(まあ、Eクラスならそんなに心配しなくても充分だろう。
感覚手にはあの地下水道とたぶんそんなに変わらないだろうし)
マーリンはあの地下水道でもかなり余裕を見せていた。
あれよりちょっとくらい強い魔物がいたとしても、多分彼なら大丈夫だろう。
「なら、私は後ろからついていくよ。
危なくなったらその時は容赦なく加勢するからそのつもりで」
「わかった」
短く頷くと、マーリンは腰のワンドを抜いて先頭を歩き始めた。
普段なら──と言っても、彼とダンジョンに潜るのはこれが2回目だが──私が前衛として先頭を歩いていた。
彼はその後ろについて歩き、私の援護をするのが地下水道の時に決まった連携の基本である。
しかし、今はこの場にはマーリン1人しかいない前提の場。
私は危険になったら介入するとは言ったものの、なんというか、徐々に自分の子供を始めてのお使いに出した母親の気分になってくる。
スカロ山巣窟の内部は、その外側と比べて思った以上に気温が低かった。
外は初夏の日差しで汗ばむほどだったというのに、こんなに涼しかったら温度差で風邪をひいてしまうかもしれない。
岩肌から滴る水滴の音が、静寂の中にぽたり、ぽたりと響いている。
壁質は土というより岩肌に近い。
鍾乳洞どは異なるが、何か巨大な蛇のような生き物が通り抜けた後のように広いダンジョン内には、人が通れる場所を残して壁際には石筍がにょきにょきと目立つ。
おそらく自然形成ではないのだろう。
その証拠に、ところどころ人工物の残骸が見て取れた。
(あれは……滑車?)
赤錆でボロボロになった残骸を鑑定して、私は心の中で呟いた。
この質感からして泥炭を掘っていたとはとは考えづらい──が、多分何かの鉱山だったのかもしれない。
「思ったより広いな……。
足元のぬかるみに注意しよう」
彼の声が反響して、奥へ奥へと吸い込まれていく中、彼はさらに奥へ奥へと進んでいく。
しばらくの間は魔物の気配は全くと言っていいほど訪れなかった。
〈気配察知〉のスキルには、確かに無数の反応がある。
だが、その大半はまだかなり遠い。
──そう、思っていた時だった。
マーリンは不意に足を止めると、前方の地面に目を凝らした。
「……来たか」
誰にともなくつぶやいて、杖を構える──と、直後、その地中からまるで鈴のように丸く太った錦柄の金魚が飛び出してきた。
「……っ!」
顔をしかめながら、マーリンが杖を下から上へと振り上げる。
すると、金魚の真下の地面が急速に盛り上がり、角柱が地面と地上を繋いだ──が、ドンギョは地中を泳ぐ。
土の柱などまるで意に介すことなく、ドンギョは柱から飛び出して──は、来なかった。
柱が、いつの間にか鉄の塊に変わっていたからである。
「はぁ……。
ぶっつけ本番だったけど何とかなった……!」
盛大に息を吐き、魔法を解くマーリン。
鉄の柱が土に還り、中から魔石だけが転がり落ちてくる。
その様子を見て、私は彼が何をやったのかを察した。
五行思想だ。
おそらく彼は魔法の属性を五行──木・火・土・金・水──に分類して、その5つをローテーションさせて属性を変える、というのをやっていたのだろう。
ちょうど神殿で祀られていた神様も五行の属性に対応しているし、この発想を彼が思いついても不思議はない。
まさか、あの魔方箱からこんな使い方を発想するなんて思いもしなかった。
(確かに五行思想は天地開闢の1節を術式に持っているマーリンとは相性が良さそうだな)
これによって彼は自信をつけたのか、ずんずんとダンジョンの奥まで進んでいった。
ドンギョが出てくれば土の柱に吞み込んで鉄に変えて埋める。
スライムに関しては礫弾で弾き飛ばすいつもの戦法。
たまに出てくるスケルトンも、うまく洞窟という地形を利用した戦い方であっという間に最奥まで到達してしまった。
それにしても、私でも気づけなかったドンギョの気配に気づけるなんて、やはりマーリンは優秀だと言わざるを得ないかもしれない。
これまでの彼の戦績で、ドンギョの気配に気づけたのは彼だけだった。
私はと言えば、地中にいる間に限ってあの魔物だけ気配を手繰れなかったのである。
おそらく、地中に潜っているのではなくて土中を泳いでいるというのがより正確な表現だからかもしれない。
泥の中に潜って息をひそめているのではなく、土がある部分とレイヤーを少しずらした部分にいるせいでその気配に気づけなかったのだ。
マーリンが気付けたのは、おそらくそのドンギョの魔力そのものを感知しているせいだろう。
淡々と魔物を処理しては魔石を回収していく彼の様子を少し離れた位置から観察しながら、私はそんな考察を立てた。
「マーリンには簡単すぎたか」
〈気配隠蔽〉を解除して、私は最奥を護る扉を前に。なんだか肩透かしを食らったような顔をしている彼に声をかけた。
「ああ、魔方箱から着想を得た魔力の使い方が、あまりにも便利すぎるせいだな」
「ん? 魔力の使い方? 魔法の使い方とかじゃなくて?」
「まだ俺は1回も術式に触れてないぞ」
言われてみれば、いつも魔法を使う前に唱えていた呪文っぽいものを、今日はまだ耳にしていなかった。
「ということは、術式の模倣?」
「それとも少し違うんだが……」
少し難しそうな顔をするマーリン。
「従来の魔法は、これまで魔力に術式を籠めることで制御していた。
だが俺が今回試したのは魔力そのものを触媒に、属性を付与させて操っているだけに過ぎないんだ。
まだ少し、術式を込めた場合の方が消費魔力量の効率は高いんだが、今回のような使い方に限って言えば、まだ誤差のレベルだな。
もう少し研究が必要そうだけど」
「魔力そのものを触媒に……そんなこともできるんだな……」
「たぶん、誰もやったことないと思うな。
魔力ってのは、あくまで動力でしかないっていうのが古典的な理解だから……」
肩をすくめるマーリン。
魔法のことについてはまだわからないことだらけだが、こういう話をしているときの彼はなんだか生き生きしていて見るのが楽しいから私は好きだ。
なんというか、かわいげがあるというか。
子供は、好きなことに全力であるのがやはり一番だよな、うん。
私はニコリと微笑むと、彼の背中を軽く叩いた。
「それなら、この調子でボスも攻略できそうだな」
「ああ、すぐに終わらせるから見ててくれ」
彼は少しうれしそうな表情を見せると、目の前の大きな門を押し潜った。
現在の悠里のステータス
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■ステータス■
名前:鑑 悠里 Lv.12
性別:女
種族:異世界人 Lv.1
職業:ノービス Lv.1
称号:〈異世界人〉Lv.1
〈臆病者〉Lv.2
〈何にも束縛されない〉Lv.2
〈無謀な挑戦者〉Lv.2
〈導師見習い〉Lv.1
〈追跡者〉Lv.1
〈暗がりに潜む者〉Lv.1
〈呪術医見習い〉Lv.1
〈樵見習い〉Lv.1
HP:120/120
MP:120/120
SP:180/180
筋力:57
活力:13
速度:13
知能:13
感覚:19
残りステータスポイント:0
■スキル■
◇武術系◇
〈剣術〉Lv.5
└〈偃月殺法〉Lv.1
〈聖柄の太刀〉Lv.1
〈居合抜き〉Lv.3
〈鎧徹し〉Lv.1
〈五月雨斬り〉Lv.1
〈体術〉Lv.1
└〈空気投げ〉Lv.1
〈投擲〉Lv.1
〈卍蹴り〉Lv.1
〈蝦蹴り〉Lv.1
◇魔術系◇
〈呪詛マスタリ〉Lv.1
〈魔法〉Lv.1
└〈術式理解I〉Lv.1
〈結界〉Lv.1
└〈反転結界〉Lv.1
◇身体操作系◇
〈身体操作マスタリ〉Lv.1
◇防御・回復系◇
〈自動回復〉Lv.5
〈食い縛り〉Lv.1
◇耐性系◇
〈驚愕耐性〉Lv.1
〈痛覚耐性〉Lv.2
〈負傷耐性〉Lv.4
〈転倒耐性〉Lv.1
〈気絶耐性〉Lv.2
〈トラウマ耐性〉Lv.1
〈脱水症耐性〉Lv.1
〈熱中症耐性〉Lv.1
〈精神攻撃耐性〉Lv.1
〈拘束耐性〉Lv.1
〈呪詛耐性〉Lv.4
〈隷属無効〉Lv.1
〈恐怖耐性〉Lv.3
〈不意打ち耐性〉Lv.1
〈閃光耐性〉Lv.2
〈麻痺耐性〉Lv.1
〈粉塵耐性〉Lv.1
〈冷気耐性〉Lv.1
〈病魔耐性〉Lv.1
〈瘴気耐性〉Lv.1
◇隠遁系◇
〈忍足〉Lv.2
〈気配隠蔽〉Lv.2
◇感知系◇
〈洞察〉Lv.2
└〈名推理〉Lv.1
〈気配察知〉Lv.5
└〈霊感〉Lv.1
〈先の先〉Lv.1
〈魔力感知〉Lv.1
〈遠見〉Lv.1
〈暗視〉Lv.1
◇生活系◇
〈交渉〉Lv.1
〈高速思考〉Lv.4
└〈並列思考〉Lv.3
◇ギフト系◇
〈水神の加護〉Lv.1
└〈水中呼吸〉Lv.1
〈水上歩行〉Lv.1
〈水袋勁〉Lv.1
〈木神の加護〉Lv.1
└〈成長促進〉Lv.1
〈効力増強〉Lv.1
〈笑桜勁〉Lv.1
〈火神の加護〉Lv.1
└〈二段跳び〉Lv.1
〈燃焼無効〉Lv.1
〈火鳥勁〉Lv.1
〈土神の加護〉Lv.1
└〈障壁〉Lv.3
〈土圧無効〉Lv.1
〈捻央勁〉Lv.1
〈金神の加護〉Lv.1
└〈金属操作〉Lv.4
〈即死耐性〉Lv.1
〈拡金勁〉Lv.1
〈五行神の加護〉Lv.1
└〈気功法〉Lv.1
└〈遠当て〉Lv.1
〈沈墜勁〉Lv.1
〈纏絲勁〉Lv.1
〈十字勁〉Lv.1
残りスキルポイント:1
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次回の更新は明日の朝6時です!
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