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転生勇者(副業)の異世界旅行記《トラヴェローグ》  作者: 青咲凛
第2章 ナザレの夢魔 前編

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50. スパイ?


「野郎ども散れぇ!!」

城壁を築く魔法シフル・アルミトラース!!」


 全員が地面に伏せた、次の瞬間だった。

 ──ドン! と太鼓を叩いたような音が響いた。


 盛り上がる土壁。

 しかしそれが完成するよりも早く、日差しを浴びて黒く輝く鉄球が、それを超えてこちらにやってきた。


(間に合わなかったか──!)


 盗賊たちが一斉に散らばる中、緩慢な時間の流れる中で、私は刀身に〈障壁〉を纏わせた。


 ──放物線。

 ──直径約50cm。

 ──アイーダは頭に血が上って見えていないのか、リーダーらしき長髪髭面の男を追いかけている。

 ──おかげで砲弾からは避けられそうだ。


(あれが榴弾じゃなければの話だけど──!)


 馬車から飛び出し、砲弾を斬る──断面は──発火──。


 飛び飛びの思考。

 もはや文章を作っている暇などなかった。


 〈並列思考〉で万一の場合を考慮して用意していた〈障壁〉が、斬撃と同時に砲弾を包む。


 二重展開──内側から〈障壁〉で酸素のみを選択的にシャットアウト──砲弾内部の発光が鳴りを潜める──後方の安全確認──だめだ、このままだとジュンたちに当たる──〈金属操作〉で静止──だめだ、思っていたより効かない──ならもっと細かく──斬る──!


「──ッ!」


 二等分された砲弾を、さらに半分に斬る。

 さらに半分。

 さらに半分。

 半分、半分、半分、半分──。


 一息の間に無数の斬撃が砲弾を通過し、その直後から〈障壁〉による破片の隔離が行われた。


 その分割の数──数十。


 1つの斬撃の終点が、次の斬撃への準備を担うことにより、滑らかに繋がれた薄紫の閃光は無数の斬撃となって砲弾を砂に変えた。


『スキル〈高速思考〉のレベルが4に上がりました』

『高速思考スキル関連アーツ〈並列思考〉のレベルが3に上がりました』

『剣術スキル関連アーツ〈五月雨斬り〉を獲得しました』


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ……」


 思った以上にスタミナを消費したことに驚きつつも、何とか被害を出すことなくその場を乗り越えたことに安堵する。


「マーリン、あとは任せた。

 私向こう相手してくる」


 気配で、向こうで次の砲弾を用意しているらしいのを察してマーリンに言いつける。


「任せるってどうすれば──」

「とりあえず武器だけは私が何とかするから、あと拘束と尋問!」


 直後だった。


 盗賊たちの腰から、握られていたはずの鉈や斧が、まるで見えない何かに引き抜かれるように宙へ浮かび上がる。


「──は?」


 誰かが間の抜けた声を漏らした。


 刃が、ひとりでに後退する。

 いや違う。

 自分たちから逃げていく(・・・・・)


「お、おい待て!?」

「ちょ、待てよ!?」

「なんだこれ、なんだこれぇ!?」


 慌てて掴み直そうとした盗賊の掌を、柄がするりとすり抜けた。


 まるで武器そのものに意思が宿っているみたいに、金属たちは一斉に私の背後へと集まっていく。


(量があるとさすがに重いか……。

 持てる重さが多分筋力値依存なんだよなぁ……)


 カチャカチャカチャ、と無数の鉄が鳴る音。

 唖然と立ち尽くす盗賊たち。


 しかし今は構っている余裕はない。


(守りながらって結構大変なんだな……)


 私は〈二段跳び〉で壁を越えると、重すぎる分はストレージへと格納した。


 ──さて。


 私は、森の中に〈気配察知〉の探索範囲を広げた。


 2発目の装填を始めたということは、1発目が不発だったことを見抜かれたということに他ならない。

 目視するには遠い距離であるにもかかわらず、この迅速な対応を考慮すると、おそらく敵側には観測班がいるはずだ。


「見つけた」


 残しておいた鉈を、何かスコープらしきものを使って観測していた男に向けて射出する。


 ──手応え。


 ギリースーツは視覚を欺く分には向いているかもしれないが、当人の気配隠蔽能力が弱ければ簡単に見抜かれるというのは、なかなか不憫だと思わざるを得ない。


(急所は外したか……)


 直前で、殺人への恐怖心が邪魔をしたのだろう。

 こちらの命を狙ってきたのだから、相応の覚悟はしかるべきだが──あとで騎士団に引き渡せばいいか。


 倒れた男を遠隔で、投げた鉈を変形させて細長くすると、ぐるぐる巻きにして近くの木に縛り付けておく。


 ……〈金属操作〉が筋力値依存なら、私も素手で鉈をあんな風に扱えるってこと……なのだろうか?


(いつの間にそんな怪力になったんだろう)


 などとそんなことを考えていた時だった。


 ──2発目の砲弾が、こちらへ向けて放たれたのである。


(私1人なら斬る必要はないか)


 薄紫色の〈障壁〉を展開し、砲弾を受け流す。

 着弾し、爆風が襲い掛かるが受け流しに使った半透明の壁がそのまま防壁になって身を護った。


(次弾装填まで約1分か)


 それが、どれほどのものなのかはわからなかったが、私が知っている近代兵器と比較すると充分に粗末な性能であることは明らかだった。

 とはいえ、今まで見てきたこの世界の文明レベルを比較すれば、たかが一介の盗賊が持つには過ぎた代物であることは揺るぎない。


「それだけ時間があれば充分か」


 聞きたいことは、制圧してから改めて聞けばいい。


 私は重心を低くすると、刀を腰溜めに構えて大砲使い目掛けて走った。


「来たぞ!」


 少し遠くで、そう叫ぶ声が聞こえた──が、すぐにその姿も目と鼻の先である。


「うぇ!?」


 ──腹に峰打ち。

 ──気絶する盗賊A。

 ──連弩を構える盗賊B。

 ──〈金属操作〉で鏃を止める。

 ──弦が固定された矢に裂かれて驚く盗賊B。

 ──驚いている隙に滑り込んだ鉈が足の腱を斬って拘束する。

 ──背後から盗賊Cの攻撃。

 ──ひらりと躱して組み伏せる。


 ここまで2秒──。


「いくつか聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


 組み伏せながら、口の中に手を突っ込む。

 こういう怪しい奴は大抵、奥歯かどっかに毒薬を仕込んでいつでも自害できるようにしているものだ。

 スパイ物とかだと、死体を敵に渡すのはご法度だから、そういうのは演出ってことが多いんだけど、たぶんこいつら下っ端だし、大した情報もないだろうから死んで逃げる可能性あるんだよね。


「ほらあった」


 奥歯に仕込まれていた錠剤っぽいのを、とりあえず鑑定してみる。


「ふむ、各種毒草のブレンドってところか。

 しかも即効性があって胃液と反応して蛋白質を溶かすって、イカれてんねぇ君たち」


 とりあえず危険なのでストレージへ収納する。

 すぐに捨てないのは、とりあえず証拠品として押収しておくためだ。


「で、何か言い訳はある?

 ただの盗賊じゃないんでしょ?」

「……っ!」


 ギッ、と睨みながら抵抗を続ける盗賊C。

 顎を開いたままにしておかないと、今にも舌を嚙み切って自害しそうな勢いである。


 仕方ない、こういう時はあれを使おう。

 最近まであんまり使ってこなかった〈呪詛〉スキル──〈夢の檻〉を。


 これでいったんいい感じの夢を見てもらいつつ無力化して、いい感じのところで改めて口を割らせればいい。


 私は彼が眠ったのを確認すると、近くの大砲と砲弾をストレージに収納して、残りの捕虜を──あ、1人死んでる。


「いくら即効性の毒ったって、溶けるの早すぎるでしょ……」


 ゲロのような酸っぱい臭いが、鉈で縛っていた盗賊Bの死体から洩れているのを見て眉を顰めた。


「それにしても……」


 人の死体を見た後なのに、あまり動揺していない自分に少し驚く。

 多分、〈驚愕耐性〉のせいだろう。


「私、なんかどんどん人間やめて言ってる気がするなぁ……」


 じゃあそれでも勝てないアイザックはいったい何者なんだ、ってなるけど。


 私は自嘲気味に呟くと、2人の捕虜を引きずって馬車まで戻ることにした。


現在の悠里のステータス


 +++


■ステータス■

 名前:鑑 悠里 Lv.12

 性別:女

 種族:異世界人 Lv.1

 職業:ノービス Lv.1

 称号:〈異世界人〉Lv.1

    〈臆病者〉Lv.2

    〈何にも束縛されない〉Lv.2

    〈無謀な挑戦者〉Lv.2

    〈導師見習い〉Lv.1

    〈追跡者〉Lv.1

    〈暗がりに潜む者〉Lv.1

    〈呪術医見習い〉Lv.1

    〈樵見習い〉Lv.1


 HP:120/120

 MP:120/120

 SP:170/170


 筋力:50

 活力:13

 速度:13

 知能:13

 感覚:19


 残りステータスポイント:0


■スキル■

◇武術系◇

 〈剣術〉Lv.5

  └〈偃月殺法〉Lv.1

   〈聖柄の太刀〉Lv.1

   〈居合抜き〉Lv.3

   〈鎧徹し〉Lv.1

   〈五月雨斬り〉Lv.1

 〈体術〉Lv.1

  └〈空気投げ〉Lv.1

   〈投擲〉Lv.1

   〈卍蹴り〉Lv.1

   〈蝦蹴り〉Lv.1


◇魔術系◇

 〈呪詛マスタリ〉Lv.1

 〈魔法〉Lv.1

  └〈術式理解I〉Lv.1

 〈結界〉Lv.1

  └〈反転結界〉Lv.1


◇身体操作系◇

 〈身体操作マスタリ〉Lv.1


◇防御・回復系◇

 〈自動回復〉Lv.5

 〈食い縛り〉Lv.1


◇耐性系◇

 〈驚愕耐性〉Lv.1

 〈痛覚耐性〉Lv.2

 〈負傷耐性〉Lv.4

 〈転倒耐性〉Lv.1

 〈気絶耐性〉Lv.2

 〈トラウマ耐性〉Lv.1

 〈脱水症耐性〉Lv.1

 〈熱中症耐性〉Lv.1

 〈精神攻撃耐性〉Lv.1

 〈拘束耐性〉Lv.1

 〈呪詛耐性〉Lv.4

 〈隷属無効〉Lv.1

 〈恐怖耐性〉Lv.3

 〈不意打ち耐性〉Lv.1

 〈閃光耐性〉Lv.2

 〈麻痺耐性〉Lv.1

 〈粉塵耐性〉Lv.1

 〈冷気耐性〉Lv.1

 〈病魔耐性〉Lv.1

 〈瘴気耐性〉Lv.1


◇隠遁系◇

 〈忍足〉Lv.2

 〈気配隠蔽〉Lv.2


◇感知系◇

 〈洞察〉Lv.2

  └〈名推理〉Lv.1

 〈気配察知〉Lv.5

  └〈霊感〉Lv.1

   〈先の先〉Lv.1

 〈魔力感知〉Lv.1

 〈遠見〉Lv.1

 〈暗視〉Lv.1


◇生活系◇

 〈交渉〉Lv.1

 〈高速思考〉Lv.4

  └〈並列思考〉Lv.3


◇ギフト系◇

 〈水神の加護〉Lv.1

  └〈水中呼吸〉Lv.1

   〈水上歩行〉Lv.1

   〈水袋勁〉Lv.1


 〈木神の加護〉Lv.1

  └〈成長促進〉Lv.1

   〈効力増強〉Lv.1

   〈笑桜勁〉Lv.1


 〈火神の加護〉Lv.1

  └〈二段跳び〉Lv.1

   〈燃焼無効〉Lv.1

   〈火鳥勁〉Lv.1


 〈土神の加護〉Lv.1

  └〈障壁〉Lv.3

   〈土圧無効〉Lv.1

   〈捻央勁〉Lv.1


 〈金神の加護〉Lv.1

  └〈金属操作〉Lv.4

   〈即死耐性〉Lv.1

   〈拡金勁〉Lv.1


 〈五行神の加護〉Lv.1

  └〈気功法〉Lv.1

    └〈遠当て〉Lv.1

     〈沈墜勁〉Lv.1

     〈纏絲勁〉Lv.1

     〈十字勁〉Lv.1


 残りスキルポイント:1


 +++



読んでいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いいたします!


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