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転生勇者(副業)の異世界旅行記《トラヴェローグ》  作者: 青咲凛
第2章 ナザレの夢魔 前編

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46. 二階級特進?


 先の決闘で敗れた服を、ギルドから貸し出された予備の受付嬢の制服に一度着替えなおして戻ってくると、応接室の空気が一瞬にして静まり返った。


「……」


 ソファに腰も下ろさず、立って控えていたマーリンが、こちらを見たまま固まっている。


 黒を基調としたギルド制服は、膝下丈のスカートに白いシャツ、その上から短いベストを重ねる形になっていた。

 胸元には簡素なリボン。

 動きやすさ重視なのだろう、思っていたより冒険者向けの実用的な作りだ。


 ただ問題は──。


「ご主人様……えっと、とても似合ってるぜ……?

 その……あー、うん。心なしか大人びて見える」


 彼なりに、すごく言葉を選んでいるのが伝わってきて、少しだけ胸の内に痛みが走る。


 胸元と腰回りが、若干ぶかぶかしている。

 服を着ているのではなく、着せられているような、そんな具合。


(受付嬢さん、皆背が高いもんなぁ……)


 身長149cm、体重45㎏。

 低い身長にスレンダーな体躯には似合わない、お姉さんボディ用に誂えられた制服に、私の体がぴったりとおさまるはずもなく、私はまくり上げられた袖の下から伸びる手で、彼の銀髪をくしゃりと撫でた。


「ありがとう、今度からはもっと言葉を選ぼうね?」

「いぇす、まいれでぃ……」


 そのままの目で、何か言いたげなアイザックを一瞥する。

 すると彼は、開きかけていた口をゆっくりと閉じながら受付嬢の方へと視線を移した。


「……さて、話の続きをしようか」


 アイザックの言葉に、受付嬢が一瞬安堵の表情を見せる。


「今回の決闘で、ユーリ、君にCランク相当の実力があることは確認できた。

 本来ならば、その戦闘能力と今回のダンジョン発見及び調査の成果の功績を見込んで二階級特進──と言いたいところだが、残念ながらアウラダ遺構窟に関してはその危険度及び歴史的価値から秘匿が妥当、という回答が、先ほどギルドマスターから得られた。

 よって、これを理由に昇格はできないものと、どうか了承していただきたい」


 話すにつれて、顔に真剣さが戻りゆく彼の顔を見ながら、私はソファに腰を下ろした。


「仕方ないですね。

 ちなみに、魔石の買取の方は?」

「それは買い取らせてもらった。

 Dクラスが1つ銀貨1枚、それが108個で、大銀貨4枚と銀貨12枚だな。

 ここから査定費用として大銅貨1枚を徴収して、大銀貨4枚と銀貨11枚、大銅貨59枚が取り分となる。

 金は君の言う通り、すべて彼に預けてあるから、あとで確認してくれ」


 彼の説明に、ちらりと背後のマーリンへと視線を向けると、彼は無言でこくりと頷いた。


「……さて、こんな結果に落ち着いて、それで終わりというのも君も不満だろう。

 せっかくの飛び級が、こっちの都合で帳消しになったんだからな」

「つまり、何か補填をしてくださると?」


 受付嬢が用意してくれたコーヒーを、喉が渇いたのでしぶしぶ口につける。


(あ、これコーヒーじゃなくてココアだ!

 甘さは控えめだけど……)


 甘さが控えめなのは、きっと砂糖が手に入りづらいからなのだろう。


 それでもコーヒーの苦みに比べれば幾分かマシだった。


 ありがとう、受付嬢さん!


「補填、というかな。

 Dランクに飛び級は難しくとも、Eランクに昇格するのに誰も不満を言わない代案があるんだ」


 言って、彼は控えていた受付嬢から1枚の依頼書を受け取って机の上に提示した。


「隣街のトゥバハンの近くに発生したEクラスダンジョン、スカロ山巣窟の討伐だ」

「Eクラス?」


 Dクラスならさっき聞いた。

 単体で村を滅ぼすレベルだと。

 じゃあ、Eクラスはそれより低いということだから、多分──


「スタンピード──ダンジョンから魔物が溢れだしても、さほど周囲に被害が出ない、きわめて浅いダンジョンだ。

 ちなみに、君が潜ったダンジョンは下手をすればBクラスに分類されるかもしれないな」

「……ちなみにBクラスというのは?」

「1つの領地が滅亡の危機だな」

「……」


 アイザックの返答に、私は思わず顔をひきつらせた。

 単体で村を滅ぼすレベルが数百もいれば、確かにその規模の被害があってもおかしくはないだろうなぁ……。


 それから私は、アイザックから依頼の詳細について聞くことになった。


 最寄りの街トゥバハンが、ここ始まりの街から西に馬車で半日進んだところにあるとか、例のスカロ山巣窟なるダンジョンが、そこからさらに西に半日行ったところにあるとか。


「と、遠くないですか……?」

「遠いな。だが、上を目指すなら早いうちに遠征も経験しておいた方がいいぞ。

 この先稼いでいくなら、近くでコツコツ雑魚狩りするより、護衛依頼を受けた方が名声も実力も多く手に入る」


 言われて、私はなるほどと首肯する。

 たしかに護衛依頼は依頼主が間近で働きを目視するから、正当な評価が得られやすい。

 そうすると名声は普通に街中で受ける依頼よりも正確に広まるし、何よりあのパーティの護衛が良かった、という口コミが広まれば指名依頼も増えてくる。

 実力の上がりやすさという面でもそうだ。

 何かを護りながら戦うという行為は、何も護らなくていい状況よりも格段に神経を使う。

 周囲の状況把握や緊急時の対応などがマルチに求められ、結果として戦闘中における視野も広がるし技量も上がるというものだ。


「ということは、今回はトゥバハン行きの行商人などを護衛するのも、ついでにやる感じですか?」

「ああ。ちょうど護衛用のパーティを募集している行商人がいてな。

 その人枠に推薦しようと思っている。どうだ?」


 その口ぶりから察するに、護衛依頼はきっと複数のパーティで行うのが一般的なのだろう。


 複数のパーティ……。


 少し、嫌な予感──というよりは、むしろそうあってほしくないな、という願望のようなものが脳裏をよぎる。


「あの、私たち以外のパーティって、どんな方が来る予定なんですか?」

「どんなだったかな……。

 エイミー、リストあるか?」

「はい、少々お待ちください!」


 言って、受付嬢が応接室を後にする。


(エイミーって、ああ、今回もセコンドになってくれた人か)


 やっぱり服が同じだと見分けがつきにくいな、と肩をすくめた。


 エイミー、エイミー、エイミー。

 ちょっとあわただしい感じの受付嬢……。


 これからもよくお世話になりそうな気がするし、何とかして覚えておこう。


 そんな風に心の中で繰り返し彼女の動きを思い出していると、しばらくしてエイミーが書類を抱えて応接室に戻ってきた。


「こちらです」

「ありがとう」


 アイザックが書類を受け取り、視線をくぐらせる。


「依頼主の名前はパック商会。

 取引物は主に果物で、今回は森林檎(メラ)山柑橘(シトラス)を卸しに行くそうだ。

 行程は行きの半日、食事は向こうが負担するから持っていく必要は無し。

 ただし水袋等は各自で持参すること。

 報酬は1人当たり銀貨2枚」


 聞いたことのある果物の名前が出て、少しだけ興奮する。


 森林檎(メラ)

 つい数日前に、猫探しの一件でミネルバさんの家で飲んだのが確か森林檎(メラ)茶だった。


 あのほのかに甘いお茶を思い出すと、また飲みたくなってくる。


(お金ができたことだし、帰りに買っていくか)


 ちょうど、ストックしておくお茶を用意しておかなければと思っていたところだし。


 続いて、アイザックがページをめくる。


「それと、今回護衛を担当するパーティは、槍使いの獣人で構成されたEランクパーティの剛毅雷鳴。

 それから珍しい少女とメイドで構成された新顔のFランクパーティ、アラストールの2つだな」


 彼の口から放たれたその最後の名前を聞いて、私はやっぱり、とうなだれた。


 間違いようもない。

 このパーティは、あの金髪の少女、ジュンのパーティだったのである。


読んでいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いいたします!


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