44. 実力?
冒険者ギルドに向かった理由は、ランクに関する規定や指名依頼などについて確認しておくためだった。
最初の方でなんかさらっと聞かされたような聞かされなかったような気がしたので、せっかくなのでこの際に改めて話を聞きに行くことにしたのである。
「ちなみに、マーリンは何か知ってる?」
「いや、ランクがFからAと、その上にSランクがあるってことくらいしか知らないな」
「あー、私もそんな感じかも」
正直、これまであんまり興味がなかったから微妙だけど、マーリンの説明だけを聞くといろんなラノベのテンプレ設定とあまり変わらなさそうだ。
でもとりあえず聞いておこう。
予想外のオリジナル設定とかあったりすると困るから。
というわけで冒険者ギルドにやってきたわけだが──
「特にないですよ。
たくさん依頼をこなしてもらえれば、ギルド貢献度と依頼達成率に合わせて自動的にランクが上がっていきます」
「じゃあ、指名依頼については?」
「特に規制はないですよ。
名声さえあれば最低のFランクだろうとも指名依頼を受けられます。
ちなみに指名依頼はギルド貢献度が高く設定されていますので、たくさんこなすとランクアップも早くなります。
まぁ、その分失敗するとペナルティも大きいのですが」
どうやら心配する必要はなかったようだ。
「ペナルティ?」
「ギルド貢献度の低下割合が通常の依頼失敗よりも大きく、0になるとギルドを追放され、二度と冒険者になれなくなります」
「それは……諸刃の剣ですね……」
そう考えると、勇者依頼を冒険者ギルド経由にするのは止めた方がいいか?
……いや、今の状況でこれ以上の代替案はやっぱり思い浮かばない。
チラリ、と背後に控えるマーリンへと視線をくべると、彼もどうやら同じ考えなのだろう。
ここは賭けるしかあるまい。
「ええ、ですからこそ、高ランクの冒険者ほど名声のためにいろいろな営業をしている方が多いんですよ。
一番多いのは、闘技大会で優勝するとかですね。
一番シンプルですし、強大な魔物を相手にする職業柄、一番指名依頼を受けやすいですから。
あ、そういえばちょうど来月にナザレの方であるみたいですよ」
カウンターの下から1枚の広告を引っ張り出してくる。
ナザレというとマーリンの故郷か。
個人的には、彼の過去のことを考えるとあまり踏み込みたくない土地だが──。
「参考にしてみます。
あ、依頼にない魔物の魔石って買取やってたりしますか?
北の森で討伐したものとかあるんですけど」
とりあえず、これに関しては保留にしておこう。
闘技大会なんて今すぐ関係のある話ではないしね。
「はい、やってますよ」
「じゃあお願いします」
ストレージから、アウラダ遺構窟で討伐した魔物の魔石をつぎつぎと取り出してカウンターに並べだす。
ほとんどが例の赤い野犬の魔石だったが、大蝙蝠や骸骨もそこそこある。
大きめの石くらいのサイズから拳大まで、様々な魔石のかけらが並べられていくのを、受付嬢が唖然としながら見守っていく。
「……あー、すみません、まだあるんですけど、多分カウンターに乗り切らないです」
「……ちなみに、あとどれくらい?」
「この倍くらい、ですかね」
受付嬢の顔が、青ざめていくのを見上げる。
もしかして、私何かまずいことでもやっちゃったのだろうか?
「……あの、ユーリさん」
「はい、なんですか?」
震える口調に若干の警戒心を抱きながら、彼女の手招きに応じて耳を寄せる。
「この魔石、大きさからしてほとんどDクラス級なんですけど、これホントに北の森にいました?」
「……もしかして、いたらまずいレベルですか?」
「少なくとも、周辺の街にスタンピードの警告を出して準備しないといけないくらいには」
「……ちなみにその、Dクラスっていうのは?」
「単体で村が滅ぶレベルです。ちなみにこの村というのは自警団が常駐している前提での話ですね」
「あー……」
まずい。
話を逸らすつもりが、私が隠そうと思っていたダンジョンの存在を明るみに出さざるを得ない方向に話が進みそうになっている。
マーリンには、一応リューたちが帰った後で雑談混じりにではあるが北の森にダンジョンがあったという話はしている。
そこで危険な魔物──階層守護者と戦って死にかけた話も一応しているので、彼もこの話が一般に広まることについての危険性はおそらく承知しているはずだった。
というわけで助けを求めるように彼に目配せすると、マーリンは仕方ないというように肩をすくめながら助け舟を出した。
「例の件を話すんだったら、相応の責任者に話を通したほうがいいんじゃないか?」
「やっぱり?」
「だって、あのダンジョンの話だろ?
だったらこれ以上は無理だろ、流石に」
「あぁぁぁぁぁ……そうするしかないかぁ……」
きょとんと小首をかしげる受付嬢を前に、私はすべての魔石をストレージに戻しながら、申し訳なさそうな表情で改めて口を開いた。
「すみません受付嬢さん。
ちょっと上の人呼んでもらっていいですか? それと応接室の準備も。
多分、他の冒険者の方に聞かれると厄介なんで……」
「しょ、承知いたしました、少々お待ちください……!」
彼女は慌ててそう言うと、近くの受付嬢にカウンターを代わって、急いで応接室の鍵を持って案内した。
***
「にわかには信じられんな」
応接室にやってきたのは、スキンヘッドに眼帯という見覚えのある風体の男だった。
私の推察が正しければ、あれはたぶん初心者講習で教官を担当していた元Aランク冒険者のアイザックだ。
「第一、君にDクラスをそう何十体と討伐できるほどの戦闘能力はないだろう?」
「地下水道の件で鍛えられましたので」
「馬鹿も休み休み言え、あんなところで多少冒険したからってそこまで強くなるものか」
再度求められた説明を聞き終えてなお、彼は半信半疑どころか全く完全に疑っている様子で顔をしかめた。
これは……もはや何を話しても言葉だけではきっと信じてもらえないに違いない。
そういう態度は何というか──少し、イラっと来る。
「なら、試してみますか?
口で説明するより、そっちの方がずっと早いでしょ?」
私の煽るようなセリフに、ピクリと眉を持ち上げる。
「……言うようになったな。
ちょっと戦い方を覚えたからと言って、少し慢心になっているんじゃないのか?」
「慢心していると思うならどうぞ叩きなおしてください。
こっちだって死ぬ思いをして強くなったのにそれを否定されるのは頭にくる」
私の言葉に、アイザックが片方しかない目を大きく見開かせた。
そして、すぐに冷静さを取り戻すように長く息を吐くと、少し間を置いて扉付近に控える受付嬢に目配せした。
受付嬢がこくりと頷いて部屋を後にする。
「……なるほど、言い分は理解した。
ならば再戦といこうか──今度は手を抜かんからな?」
ぶわ、とアイザックから重い殺気のようなものが溢れだす。
しかしこんなものは、スウバーンから受けた殺気に比べれば優しいものだ。
ちょっとビビらせて前言撤回させよう、という魂胆が丸見えの殺気だから、というのもあるだろうけど──もはや、それくらいのことでビビるような昔の弱い私はもうこの世にはいなかった。
「臨むところです」
私は飄々とした態度で頷き返すと、用意されていたコーヒーに口をつけた。
……前言撤回。
コーヒーの苦みに関してはちょっと昔の自分が残ってたみたい。
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