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転生勇者(♀)の異世界旅行記《トラヴェローグ》  作者: 青咲凛
第2章 ナザレの夢魔

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40/50

40. 格上?


 しばらく休憩してSPもMPも万端になった私は、ボス部屋に向かう前にスキルポイントを割り振っておくことにした。


「使えるポイントは4点……前は〈自動回復〉に割り振る予定だったけど……」


 正直な話、これまでの戦闘はほとんどノーダメージだった。

 食らったとしてもかすり傷程度で、そのくらいならほとんど一瞬で完治する。

 骨折とかになると、多分数十分か1時間はは動けないだろうが、そこまでのダメージを受けた経験が今のところ初心者講習の頃くらいしかない。


 ほとんどダメージを受けない前提で動くなら、回復系は後回しにしてもいいのでは? と一瞬考える。


(ゲシュペンストの時は、確か片目と内臓破裂だっけ?)


 あの時はしんどかった。

 戦闘続行なんてできやしないレベルの負傷で、ウィンドウを操作するくらいしかできなかったのだ。


 あの時の再生にかかった時間がだいたい30分程度。

 当時のHPと各ステータス値を考えると、今となってはかなり成長しているから、もし同じ割合のダメージを受けた場合、復活にかかる時間はきっとあの時の比じゃないはずだ。


「短期的に見るなら、〈金属操作〉か〈障壁〉をマックスのレベル5に上げておきたいところだけど、有事の際に備えて回復スキルは今のうちにカンストしておきたいし……」


 しばらく悩むように、顎先に指を当てる。

 そうやって悩んで悩んで、悩んだ末、ユーリはこう結論付けた。


「まあ、何もポイントを全振りさせる必要はないか」


 というわけでそれぞれに1点ずつ割り振って、〈自動回復〉と〈障壁〉をレベル3、〈金属操作〉をレベル4に引き上げた。


 残りの1点は、何かあったときのために貯金しておこう。

 何も今全部使う必要はないのである。

 ボス戦で力が足りないと感じた時に追加すればそれで充分なはずだ。


 私はステータス画面を閉じると、いざボス部屋へと足を進めた。


 ***


 会談前の大広間へ続く入り口には、これまでのダンジョンの構造とは打って変わって、巨大な樫のアーチ扉が建てつけられていた。


「ここにも、なんか神話っぽいレリーフが刻まれてるんだな……」


 いかにもボス部屋前という雰囲気が漂う空間に、ごくりと喉を鳴らす。


 残念ながら詩文こそなかったが、2本の木に絡みつく巨大な蛇の姿が彫刻されている。

 さながら、イヴに知恵の実をそそのかしたシーンみたいだ。


(イヴはいないけど)


 2本の大樹に跨って絡みつく姿は、どこか鳥居のように見えなくもないが、多分気のせいだろう。

 とりあえず写真だけ取って、スマホはストレージに放り込んだ。


「さて、やりますか」


 重く軋む樫の大扉。

 頭上からあられのように振りかかる砂ぼこりに、思わずむせ返る。

 いったい、何年分の埃だろうか?


 視界左下の通知を無視して髪や服についた砂埃を払いのけ、わずかに開いた隙間から忍び寄ってくるやや黴臭い冷気に眉を顰める。


『スキル〈粉塵耐性〉を獲得しました』

『スキル〈冷気耐性〉を獲得しました』

『スキル〈病魔耐性〉を獲得しました』

『スキル〈瘴気耐性〉を獲得しました』

『スキル〈冷気耐性〉により状態異常:凍結の妨害に成功しました』

『スキル〈病魔耐性〉により状態異常:肺炎の妨害に成功しました』

『スキル〈瘴気耐性〉により状態異常:自殺願望の妨害に成功しました』


「……」


 続く通知に、思ず眉間に皺を寄せる。


 しょっぱなからなんちゅうデバフを仕掛けてくるんだここのボスは……まだ扉明けたばっかりだぞ……。


 おそらく、過去に挑んだ冒険者がいたとするならこの時点でほとんどが一発退場していたに違いない。

 そう思うとなんというか、まともにクリアさせる気がないのか、ともしここに運営がいたならクレームを投げていた気がする。


「あるいは、私みたいな人を選別するためのものだったりして」


 私みたいにスキルをポンポン獲得できる人がいるかは、少し疑問ではあるけど。


 扉の奥を覗き込んで、気配を探る。


 中はこれまで以上の巨大な空間になっていた。

 どこかの教会を思わせるような巨大な廊下のような長方形の大空洞。

 左右には太い柱が列をなして並び、その最奥に巨大なアーチ門が閉ざされている。


 おそらく、地下2階行きの階段を護る──名づけるなら階層守護者とでもいうべきボスモンスターを倒せば通れるようになる仕様だろう。


 そして、肝心の階層守護者はと言えば──


「……いた」


 床にはいないようなので、だったら天井か、と見上げた時だった。

 1本の柱に巻き付いて、擬態して隠れている様子を視界にとらえた。


 大樹をいくつも束ねたほどもありそうな胴回り。

 その全長はおそらく100mを超える。


 無策で奥の扉に近づけば、天井から飛び降りてきて退路を断つ算段だったのだろう。


「鑑定」


 調べてみれば、どうやら階層守護者の名前はスウバーンというようで、レベルは42。

 今の私がレベル12だから約4倍のステータス差がある。


 レベルの数字だけを見れば。


(なんだあの膨大なHP……というか、活力のステータス値が高すぎるな……)


 活力は防御力と最大HPに影響する数値だ。

 これが高ければ高いほど硬いということになる。

 参考までに今の私の活力は13だが、スウバーンは520だった。


 多分、普通の攻撃ではHPを1点も削ることはできないだろう。

 狙うとしたら、テンプレ的には目か口の中、あるいは内臓といったところだが……。


(古典的には一寸法師戦法か? いや──)


 ──魔物の内臓なんてどうなってるかわからない以上、やるべきではないだろう。

 やはり狙うなら目か口か。


 ここで引き返して、勝てそうなレベルになってから再挑戦してもよかった。

 普段の私なら、きっとそっちを選んだだろう。

 わざわざ死線をくぐる必要なんてないからだ。


 しかし今の私は──はっきり言って、命の危険というものに飢えていた。


 自分より強い敵と戦いたい。

 戦って勝って、もっともっと強くなりたい。

 もっともっともっと、戦闘を楽しみたい。


 そんな前世から持ち越したゲーマー魂が、私をその樫の扉の向こうへとそそのかした──。


「……」


 金色の瞳が、天井からこちらを見下ろした。

 その頭上に回転する車輪のような光輪が、わずかに光を湛え始める。


 気づいたか、こちらもお前を捕捉しているという事実に。


 漏れ出す殺気の冷たさに、内臓がひっくり返りそうになる。

 自然に重心が上がるのを自覚して、私は腰の刀の鞘に手をかけた。


 ──深呼吸。

 重心を落として、すべての神経を〈気配察知〉にゆだねる。

 世界が引き延ばされるような感覚が、部屋全体を水槽に注ぐ水のように満ちていく──刹那。


「──!?」


 私の体は宙を舞っていた。


(何が──!?)


 考える暇なんてない。

 姿勢を制御し、滑るように着地する。


 目の前には土煙。

 割れた石畳が瓦礫の山となって盛り上がり、そこに1体の巨大な蛇が鎌首を持ち上げていた。


 頭上の車輪が回り、部屋全体が虹色の輝きを帯びる。


(突進で吹き飛ばされた? いや、ダメージは特に──っ!?)


 立ち上がろうとして、ふらついた。


 見れば、足が変な方向にひしゃげていた。

 鞘を握っていた腕も、いつの間にか肘から先がなくなっている。


 痛みがなかったのは、傷口が凍っていたからか。


「──ッ!?」


 あとになって痛みが溢れだす。

 ひしゃげた脚が軋みを上げて元の形に戻りだし、はじけた腕の傷口は、徐々に血が混じった氷が解け始めている。


 その再生に伴う痛みたるや、経験したことのない激痛に、私は声にならない声を上げる以外に何もできなかった。


「ぐぅ……ッ」


 速い。

 いや、そうじゃない。

 最初の殺気が強すぎて、突進の気配をかき消されていたのだ。


「ふふ……ふはは……!」


 痛くて苦しくて仕方がないはずなのに、なぜか自然と笑いがこみあげてくる。

 まるで、そうでもしない限り正気を保って居られないかのような。


 ジッ、とこちらを見つめたまま微動だにしない蛇。

 その青黒い鱗と対照的な、金色に輝く頭上の車輪に照らされる顔からは、一歳の表情を読み取ることはかなわなかった──が、わかる。


 こいつ、私が回復するのを待ってやがる。


「いいねぇ、見下しちゃってまあ……」


 無造作に右手で刀を抜いた。


 左腕の断面の肉が盛り上がり、骨が伸び、筋繊維が絡みついていく。


 レベル2の頃の性能とは大違いだ。

 これなら──まだやれる。


(腕1本に約1分、足はだいたい40秒くらいってところか)


 刀を霞に構え、切っ先をその目玉に向ける。

 声も体も震えが止まらないが、武者震いだと思えば少しはましだった。


「……戦いはそうでなきゃ」


 こうして、私はスウバーンに向けて突進した。


現在の悠里のステータス


 +++


■ステータス■

 名前:鑑 悠里 Lv.12

 性別:女

 種族:異世界人 Lv.1

 職業:ノービス Lv.1

 称号:〈異世界人〉Lv.1

    〈臆病者〉Lv.2

    〈何にも束縛されない〉Lv.2

    〈無謀な挑戦者〉Lv.2

    〈導師見習い〉Lv.1

    〈追跡者〉Lv.1

    〈暗がりに潜む者〉Lv.1

    〈呪術医見習い〉Lv.1

    〈樵見習い〉Lv.1


 HP:120/120

 MP:120/120

 SP:150/150


 筋力:29

 活力:13

 速度:13

 知能:13

 感覚:19


 残りステータスポイント:0


■スキル■

◇武術系◇

 〈剣術〉Lv.5

  └〈偃月殺法〉Lv.1

   〈聖柄の太刀〉Lv.1

   〈居合抜き〉Lv.3

   〈鎧徹し〉Lv.1

 〈体術〉Lv.1

  └〈空気投げ〉Lv.1

   〈投擲〉Lv.1

   〈卍蹴り〉Lv.1

   〈蝦蹴り〉Lv.1


◇魔術系◇

 〈呪詛マスタリ〉Lv.1

 〈魔法〉Lv.1

  └〈術式理解I〉Lv.1

 〈結界〉Lv.1

  └〈反転結界〉Lv.1


◇身体操作系◇

 〈身体操作マスタリ〉Lv.1


◇防御・回復系◇

 〈自動回復〉Lv.3

 〈食い縛り〉Lv.1


◇耐性系◇

 〈驚愕耐性〉Lv.1

 〈痛覚耐性〉Lv.1

 〈負傷耐性〉Lv.2

 〈転倒耐性〉Lv.1

 〈気絶耐性〉Lv.2

 〈トラウマ耐性〉Lv.1

 〈脱水症耐性〉Lv.1

 〈熱中症耐性〉Lv.1

 〈精神攻撃耐性〉Lv.1

 〈拘束耐性〉Lv.1

 〈呪詛耐性〉Lv.4

 〈隷属無効〉Lv.1

 〈恐怖耐性〉Lv.3

 〈不意打ち耐性〉Lv.1

 〈閃光耐性〉Lv.2

 〈麻痺耐性〉Lv.1

 〈粉塵耐性〉Lv.1

 〈冷気耐性〉Lv.1

 〈病魔耐性〉Lv.1

 〈瘴気耐性〉Lv.1


◇隠遁系◇

 〈忍足〉Lv.2

 〈気配隠蔽〉Lv.2


◇感知系◇

 〈洞察〉Lv.2

  └〈名推理〉Lv.1

 〈気配察知〉Lv.5

  └〈霊感〉Lv.1

   〈先の先〉Lv.1

 〈魔力感知〉Lv.1

 〈遠見〉Lv.1

 〈暗視〉Lv.1


◇生活系◇

 〈交渉〉Lv.1

 〈高速思考〉Lv.3

  └〈並列思考〉Lv.2


◇ギフト系◇

 〈水神の加護〉Lv.1

  └〈水中呼吸〉Lv.1

   〈水上歩行〉Lv.1

   〈水袋勁〉Lv.1


 〈木神の加護〉Lv.1

  └〈成長促進〉Lv.1

   〈効力増強〉Lv.1

   〈笑桜勁〉Lv.1


 〈火神の加護〉Lv.1

  └〈二段跳び〉Lv.1

   〈燃焼無効〉Lv.1

   〈火鳥勁〉Lv.1


 〈土神の加護〉Lv.1

  └〈障壁〉Lv.3

   〈土圧無効〉Lv.1

   〈捻央勁〉Lv.1


 〈金神の加護〉Lv.1

  └〈金属操作〉Lv.4

   〈即死耐性〉Lv.1

   〈拡金勁〉Lv.1


 〈五行神の加護〉Lv.1

  └〈気功法〉Lv.1

    └〈遠当て〉Lv.1

     〈沈墜勁〉Lv.1

     〈纏絲勁〉Lv.1

     〈十字勁〉Lv.1


 残りスキルポイント:1


 +++



読んでいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いいたします!


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