39. 慢心?
レベリングを兼ねて再評価した戦闘スタイルを試しながらダンジョン攻略を進める。
地図を確認しながら進むと、どうやら魔物の強さは地下行きの階段に近づくほど強くなるみたいで、魔物の種類も数も連携の質も、徐々に高くなってきていた。
「キィィィィイイイイ!!!!」
しばらくして、天井の高い大部屋に入った時だった。
大人の男性ほどもあろうかという巨大な蝙蝠が、高い天井からこちらに向けて滑空してくるのを、私の視界が捕らえた。
(蝙蝠4、骸骨2、野犬3……ちょっと多いな)
視界の端で、骸骨の眼窩に灯る青白い火が揺れる。
同時に、野犬たちの筋肉が収縮し、石畳を蹴る予兆が見えた。
(先に蝙蝠を落とす)
頭上から迫る巨大蝙蝠へ、待機させていた手斧を2本同時に射出する。
蝙蝠は鋭く翼をひねり、斧を回避──したが、その回避先に3本目が滑り込んだ。
「ギィッ!?」
悲鳴を上げながら落下する蝙蝠A。
蝙蝠B、C、Dは手斧を警戒していったん空中に退避を選んだようなので、そちらを上空に釘付けにするために〈並列思考〉と〈気配察知〉を併用して相手にしながら、突っ込んでくる骸骨と野犬に集中する。
(野犬の方が速いけど──)
奥の骸骨Aが、他の骸骨の突進の隙間を縫って狙うように、身長ほどもある弓を構えている。
あれは警戒するべきだ。
私は突っ込んできた野犬Aの鉤爪を刀でいなし、続く野犬Bの飛び掛かりを身をかがめながら潜り込むようにして、その腹を縦に両断した。
その刀が抜けるか否かのタイミング。
そこを狙って、私は刀に〈障壁〉を纏わせて強化し、かつリーチを伸長させる。
そこに突っ込んできた野犬Cが、不意を突かれて串刺しになり、2体まとめて煙になった。
──直後、わずかな弦音が鼓膜を掠める。
「来ると思ったよ!」
野犬の煙で視界を閉ざされた闇の中から、突如現れる鏃を、ただ首を傾けるだけで回避すると、背後から襲い掛かって来ていた野犬Aの眼球に突き刺さってその足を止めた。
矢をつがえなおす骸骨Aの気配。
もう1体の骸骨は──
〈気配察知〉を走らせ、骸骨Bの居場所を探るが見当たらない。
逃げたか?
そう思っているうちにも2本目の矢が放たれる。
〈障壁〉で矢を弾く。
(逃げた、とは思わない方がいいよね……ということは、そこから考えられる戦略は──)
背後から襲い掛かる、目に矢を受けた野犬Aを、振り返りざまに斬りつけて煙に変えた直後だった。
上空で手斧を相手にしていたはずの蝙蝠の1体が、骸骨Bを乗せて急降下してきたのである。
(手斧は他の蝙蝠に使ってる、手持ちはハンマーとスパナが3つずつ──)
だがこれ以上は魔力の消費が大きすぎる。
私は〈金属操作〉をあきらめて、ストレージから松の木を抜き出した。
「まぁ、リーチならこれで充分だろ」
突然現れた巨大な樹木を前に急停止できるはずもなく、2体が松の枝に貫かれて即死する。
──弦音。
「おっと、油断はしてないからね」
飛来した3回目の矢を、ただ半身を反らすだけで回避する。
正直言って、〈高速思考〉の影響で緩慢に映る視界の中では弓矢は遅すぎる。
簡単に軌道を読めるし、故に最小限の動きで回避できる。
まだお昼前に相手した野犬の礫弾の方が体感3倍くらい速い。
私は骸骨Aが4本目をつがえる間に、上空でちょこまかと逃げ回っていた蝙蝠3匹を仕留めると、次の矢が放たれる前にその懐に潜り込んだ。
これで終わり。
そう確信した一撃だった──が。
「──ッ!?」
突如、骸骨は弓を手放して腰から短剣を引っ張り出してきたではないか。
(弓はブラフ!?)
慌てて〈障壁〉で脇腹をガードし、何とか短剣による突きを防ぐ。
ただし刀の動きは止めない。
そのまま突っ込んで、肋骨の中に浮かぶ魔石を狙う──が。
「避け──!?」
私が短剣に対して使った〈障壁〉による反力を利用して、骸骨は刀の間合いから逃れた。
「こいつ、思ったよりやるじゃん……」
他の魔物はもうすべて仕留めた。
それなら──全力を注いだって問題はないだろう。
私は刀を腰溜めに構えると、骸骨に向かって突進した。
骸骨の眼窩に灯る青白い炎が、わずかに揺れた。
それは恐怖というよりもむしろ──歓迎。
「カタカタカタ……!」
不気味な笑い声のように顎を鳴らしながら、骸骨は低く身を沈め──迎え撃った。
(カウンター狙い──!)
石畳を蹴り、矢のように加速する骸骨の身体。
〈先の先〉による動作の先読みが、骸骨の剣筋を伝える──投擲だ。
「ッ!」
刀で短剣を打ち払いながら上段に掲げる。
骸骨は脳天をさらしたまま、短剣を投げた状態で居ついている。
(隙──)
私はそのまま刀を振り下ろし、骸骨の頭蓋を叩き割らんとした。
しかし、その時私には見えていなかった。
その大きな頭蓋が死角になって、もう一方の手で矢を掴んでいたことを。
「っ!?」
投擲される、1本の矢。
引き延ばされた視界でも、これほどの近距離では間に合わない。
人の肉を貫くには十分の威力を以て突き上げられたそれは、やがて私の喉を貫き──
「──残像だ」
「!?」
貫いたはずの私の姿が掻き消える。
直後、骸骨は驚いたような顔で──と言っても骸骨なので表情は分からないが──こちらを凝視した。
叩き割られる頭蓋。
砕ける魔石。
煙になったそれを見下ろして、私はふぅ、と息を吐いた。
「期待してたより弱かったな……」
あの最後に見せた隙が罠だというのは、さすがに分かりやすすぎた。
だから咄嗟に〈認識阻害〉で幻影を作り出して背後に回ったのだが……。
「さすがに釣りだと思ったのにな」
わかりやすい隙。
すなわち、次の私の行動の誘導だと思った。
だから当然、〈認識阻害〉を見破ってくる前提で背後に矢を投擲なり突き刺してくるなりすると思っていたのに、まさか見破れずにやられてしまうとは。
『ステータスレベルが12に上がりました』
視界左下の通知を横目に、少しフラストレーションがたまる。
もっと……もっとぎりぎりの戦いがしてみたい。
敵の数が多くなって、連携が巧みになってきたのはいいが、1匹が弱すぎる。
鑑定してみてもここら辺の魔物は平均レベル15前後だから、いい感じにやりあえると思っていたのに、ほとんどが一撃で死んでしまうのは何というかもったいなくて仕方がない。
「どれだけHPがあっても、魔石を砕かれれば一撃で死ぬっていうのがなぁ……」
面白みに欠けるというかなんというか。
でもまあ、雑魚っていう設定なんだしそれはそれで仕方ないと言えば仕方ないか。
私は伸びをすると、落ちた魔石を回収し始めた。
マップによれば、とりあえず目的地に設定した地下2階への階段があるらしい大部屋まであと少し。
階段がある部屋は今までと比べ物にならないくらいの大空洞が画面に映し出されていることから察するに、多分ボスでも控えているのだろう。
なら、今はそっちに期待しておこう。
どうか、ボス戦があっけなく終わってしまいませんように。
現在の悠里のステータス
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■ステータス■
名前:鑑 悠里 Lv.12
性別:女
種族:異世界人 Lv.1
職業:ノービス Lv.1
称号:〈異世界人〉Lv.1
〈臆病者〉Lv.2
〈何にも束縛されない〉Lv.2
〈無謀な挑戦者〉Lv.2
〈導師見習い〉Lv.1
〈追跡者〉Lv.1
〈暗がりに潜む者〉Lv.1
〈呪術医見習い〉Lv.1
〈樵見習い〉Lv.1
HP:120/120
MP:120/120
SP:150/150
筋力:29
活力:13
速度:13
知能:13
感覚:19
残りステータスポイント:0
■スキル■
◇武術系◇
〈剣術〉Lv.5
└〈偃月殺法〉Lv.1
〈聖柄の太刀〉Lv.1
〈居合抜き〉Lv.3
〈鎧徹し〉Lv.1
〈体術〉Lv.1
└〈空気投げ〉Lv.1
〈投擲〉Lv.1
〈卍蹴り〉Lv.1
〈蝦蹴り〉Lv.1
◇魔術系◇
〈呪詛マスタリ〉Lv.1
〈魔法〉Lv.1
└〈術式理解I〉Lv.1
〈結界〉Lv.1
└〈反転結界〉Lv.1
◇身体操作系◇
〈身体操作マスタリ〉Lv.1
◇防御・回復系◇
〈自動回復〉Lv.2
〈食い縛り〉Lv.1
◇耐性系◇
〈驚愕耐性〉Lv.1
〈痛覚耐性〉Lv.1
〈負傷耐性〉Lv.2
〈転倒耐性〉Lv.1
〈気絶耐性〉Lv.2
〈トラウマ耐性〉Lv.1
〈脱水症耐性〉Lv.1
〈熱中症耐性〉Lv.1
〈精神攻撃耐性〉Lv.1
〈拘束耐性〉Lv.1
〈呪詛耐性〉Lv.4
〈隷属無効〉Lv.1
〈恐怖耐性〉Lv.3
〈不意打ち耐性〉Lv.1
〈閃光耐性〉Lv.2
〈麻痺耐性〉Lv.1
◇隠遁系◇
〈忍足〉Lv.2
〈気配隠蔽〉Lv.2
◇感知系◇
〈洞察〉Lv.2
└〈名推理〉Lv.1
〈気配察知〉Lv.5
└〈霊感〉Lv.1
〈先の先〉Lv.1
〈魔力感知〉Lv.1
〈遠見〉Lv.1
〈暗視〉Lv.1
◇生活系◇
〈交渉〉Lv.1
〈高速思考〉Lv.3
└〈並列思考〉Lv.2
◇ギフト系◇
〈水神の加護〉Lv.1
└〈水中呼吸〉Lv.1
〈水上歩行〉Lv.1
〈水袋勁〉Lv.1
〈木神の加護〉Lv.1
└〈成長促進〉Lv.1
〈効力増強〉Lv.1
〈笑桜勁〉Lv.1
〈火神の加護〉Lv.1
└〈二段跳び〉Lv.1
〈燃焼無効〉Lv.1
〈火鳥勁〉Lv.1
〈土神の加護〉Lv.1
└〈障壁〉Lv.2
〈土圧無効〉Lv.1
〈捻央勁〉Lv.1
〈金神の加護〉Lv.1
└〈金属操作〉Lv.3
〈即死耐性〉Lv.1
〈拡金勁〉Lv.1
〈五行神の加護〉Lv.1
└〈気功法〉Lv.1
└〈遠当て〉Lv.1
〈沈墜勁〉Lv.1
〈纏絲勁〉Lv.1
〈十字勁〉Lv.1
残りスキルポイント:4
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読んでいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いいたします!




