38. 自分勝手?
回廊を抜けると、一気に魔物たちのレベルが強くなった。
手斧を咥えて受けるしか能のなかった野犬は、ついにその爪で叩き落とすことを覚えたし、わざと体を囮にしてその筋力で食い込ませて攻撃を防ぎつつ、別の固体に私を襲わせるという連係プレイまで見せてきた。
「くっ……!?」
野犬の突撃をいなし、腹に蹴りを入れる。
手斧を相手にしていた野犬が吼え、中空に表れた礫弾がこちらを襲った。
「鬱陶しい!」
〈障壁〉で礫弾を弾きつつ、再度突進してくる野犬の側面に一撃を加えては後退するのを繰り返す。
正直、〈並列思考〉なしではかなりきつかっただろう。
〈高速思考〉のおかげで動きが緩やかに見えているからこそ何とか対処できる野犬の連携に歯を食いしばりながら、私はついにその足を切断することに成功する。
前足を失った野犬が、石畳の上を滑るように転がった。
だが、それでも怯まない。
断面の肉が盛り上がり、みるみるうちに形を取り戻していく。
「再生速度が速い……!」
舌打ちしながら距離を取る。
その隙を逃さず、背後に回り込んでいた別の1匹が喉元めがけて飛びかかってきた。
私は咄嗟に身を沈め、その牙を紙一重でかわす。
頬を掠めた熱い感触に、数本の髪が宙に舞った。
低くなった姿勢のまま床に手をつき、体をひねる。
回転の勢いをそのまま脚に乗せて蹴り上げると、野犬の顎が鈍い音を立てて跳ね上がった。
そこへ、中空で待機させていた手斧が一閃する。
斧刃が胴体を寸断。
魔石が破壊され、煙となって大気に溶けていく。
『体術スキル関連アーツ〈蝦蹴り〉を獲得しました』
「あと2匹……!」
しかし、そう呟いた瞬間だった。
左右に散っていた野犬たちが、同時に動いた。
1匹が正面から。
もう1匹が壁を蹴って頭上から。
「挟み撃ち……ッ!?」
狭い廊下では逃げ場がない。
振り下ろされる鉤爪。
閃く顎。
私は〈障壁〉で頭上の鉤爪をいなすと、正面から襲い来る野犬に向かって受け流しつつ、バックステップを踏んで回避した──が、正面の野犬が受け流された鉤爪を即座に回避。
壁を走って背後に回り込むと、一言吼えた。
魔力の波──。
それを視認した瞬間、私は刀を側面に向かって振り抜いた。
「危な!?」
硬い手ごたえがして、足元に鋭い石の礫が転がるのを視界の端にとらえる。
まさかこのタイミングで魔法を使ってくるなんて想定外だ。
〈先の先〉と〈不意打ち耐性〉があったから何とか反応できたものの、初見殺しもいいところである。
私はすかさず背後から噛みついてくるのを手斧で殴って壁に叩きつけると、今度は無数にも思える礫弾を浴びせんと魔力を練り始める野犬を捉えた。
この間合いでは突っ込んで斬りつけるのでは間に合わない。
薄紫色の障壁が展開し礫弾を弾き返す──が、廊下全体をふさぐほどとなると魔力消費が大きすぎる。
私は手のひらより一回り大きめにサイズを絞り、その分硬度を上げて〈障壁〉を展開。
マシンガンのごとく叩きつけられる礫の集中砲火を、ピンポイントに防いでいく。
とはいえ、途中で出したり消したりすると魔力消費の効率が悪いから、出した〈障壁〉はそのままに、礫弾に合わせて移動させながら弾いていく。
「魔物でも、視線を読めば大体どこ狙ってるか丸わかりだな」
正面では礫弾を相手にしながら、同時に背後では野犬を宙に浮かばせた手斧で相手をする。
手斧の操作は見なくても、野犬の気配だけで充分に相手取れた。
問題は、視認しているときほど、次の動きを読めないところだが──
ストレージから手斧をもう一振り引っ張り出して、背後の野犬に突撃させる。
こうして2つ使えば、動きの誘導くらいはできる。
私は手斧で野犬を追い込みながら、正面の野犬の態度が一瞬切り替わるのを目視した。
そろそろ礫弾も終わるか。
足に力が籠められ、石畳を蹴り始める、その一瞬手前の気配に合わせ、ストレージから3本目の手斧を射出した。
「キャウゥン!?」
出だしの1歩を、低く滑るように飛び出した手斧によって斬り飛ばされ、前のめりに崩れ落ちる野犬。
同時に、背後の野犬が壁に追い詰められる。
「チェックメイト」
背後の野犬の首が裂かれ、心臓が貫かれると同時に、正面で足を失った野犬が手斧に脳天を割られ、煙となって姿を消した。
『スキル〈高速思考〉がレベル3に上がりました』
『高速思考スキル関連アーツ〈並列思考〉のレベルが2に上がりました』
『スキル〈障壁〉のレベルが2に上がりました』
『ステータスレベルが9に上がりました』
***
それからどれほど経っただろうか。
小さな部屋を見つけた私は、内側に魔物の気配がないのを確認して中に入ると、ストレージから松の木を出して入り口を塞ぎ、壁にもたれかかるようにして床に腰を下ろした。
「ふぅ……お腹すいた……」
スマホの時計を確認してみると、意外にもまだ12時を少し過ぎたあたりだった。
もう何時間も潜っている気分だっただけに、どっと疲労感が湧いてくる。
今頃、マーリンは街でお昼を食べていることだろう。
私も、そろそろお昼を食べるとするか。
ショップ画面を開き、適当に総菜パンを購入する。
いつもの料理はさらに乗って出てくるが、今回は個包装されている玉子サンドを選んだ。
お皿なんて出されたって、机も椅子もないからね。
「帰ったらお風呂設置して、2階を増築して……」
〈障壁〉を適当にこねくり回し、簡易的な立体図面として見立てながら、増築予定の2階部分の間取りを想像する。
今のままでも、充分2人で住もうと思えば済むことはできる。
ダイニングもキッチンもリビングもあるし、私とマーリンでそれぞれ個室を持てる。
お風呂だって問題ない。
ただ、私が2階部分を増築しようとしているのは、ただ大きな家に住みたいという願望からではなく、今後マーリンが友達を連れてきてお泊り会なんかをしたいと言い出した時に、泊めてあげるための部屋を用意しておきたいと思ったからだった。
……いや、それが根本的な理由ではないかもしれない。
もっと、自分勝手な願望。
彼は、私の奴隷だから一緒にいるのであって、もしそうでなければ私の手なんか離れて好きなところへ行ってしまうだろう。
それは、個人的にちょっと寂しい。
そうならないために、彼にとって私のそばがかけがえのない居心地のいい場所にしたいのである。
「……」
頭の中に、自己中という単語が浮上する。
子供は自由でなくてはならないと言っておきながら、その実所有物のように扱って、生きる場所を制限している。
奴隷ではなく人として扱いたいと言っておきながら、実際には──
「──あー、やめやめ!
1人になるとこういうことばっかり考えちゃうなぁ、私……」
肩をすくめて、玉子サンドを頬張った。
口の中に、柔らかい食パンの食感と潰した茹と玉子とマヨネーズの風味、それからバジルの香りがふわりと鼻を抜ける。
やはり、1人でいると考えすぎる。
考えなさすぎもよくないが、考えるべきことの優先順位はちゃんとしなければ。
ここはまだダンジョン、魔物の腹の中だ。
休憩するにしても気を抜きすぎるのはいけない。
「さっきの戦闘、軽くおさらいしておくか」
私は家型に形作った〈障壁〉をかき消すと、先ほどの野犬との戦闘を振り返りながら最適な戦闘スタイルを考え直すことにした。
現在の悠里のステータス
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■ステータス■
名前:鑑 悠里 Lv.9
性別:女
種族:異世界人 Lv.1
職業:ノービス Lv.1
称号:〈異世界人〉Lv.1
〈臆病者〉Lv.2
〈何にも束縛されない〉Lv.2
〈無謀な挑戦者〉Lv.2
〈導師見習い〉Lv.1
〈追跡者〉Lv.1
〈暗がりに潜む者〉Lv.1
〈呪術医見習い〉Lv.1
〈樵見習い〉Lv.1
HP:90/90
MP:90/90
SP:120/120
筋力:26
活力:10
速度:10
知能:10
感覚:16
残りステータスポイント:0
■スキル■
◇武術系◇
〈剣術〉Lv.5
└〈偃月殺法〉Lv.1
〈聖柄の太刀〉Lv.1
〈居合抜き〉Lv.3
〈鎧徹し〉Lv.1
〈体術〉Lv.1
└〈空気投げ〉Lv.1
〈投擲〉Lv.1
〈卍蹴り〉Lv.1
〈蝦蹴り〉Lv.1
◇魔術系◇
〈呪詛マスタリ〉Lv.1
〈魔法〉Lv.1
└〈術式理解I〉Lv.1
〈結界〉Lv.1
└〈反転結界〉Lv.1
◇身体操作系◇
〈身体操作マスタリ〉Lv.1
◇防御・回復系◇
〈自動回復〉Lv.2
〈食い縛り〉Lv.1
◇耐性系◇
〈驚愕耐性〉Lv.1
〈痛覚耐性〉Lv.1
〈負傷耐性〉Lv.2
〈転倒耐性〉Lv.1
〈気絶耐性〉Lv.2
〈トラウマ耐性〉Lv.1
〈脱水症耐性〉Lv.1
〈熱中症耐性〉Lv.1
〈精神攻撃耐性〉Lv.1
〈拘束耐性〉Lv.1
〈呪詛耐性〉Lv.4
〈隷属無効〉Lv.1
〈恐怖耐性〉Lv.3
〈不意打ち耐性〉Lv.1
〈閃光耐性〉Lv.2
〈麻痺耐性〉Lv.1
◇隠遁系◇
〈忍足〉Lv.2
〈気配隠蔽〉Lv.2
◇感知系◇
〈洞察〉Lv.2
└〈名推理〉Lv.1
〈気配察知〉Lv.5
└〈霊感〉Lv.1
〈先の先〉Lv.1
〈魔力感知〉Lv.1
〈遠見〉Lv.1
〈暗視〉Lv.1
◇生活系◇
〈交渉〉Lv.1
〈高速思考〉Lv.3
└〈並列思考〉Lv.2
◇ギフト系◇
〈水神の加護〉Lv.1
└〈水中呼吸〉Lv.1
〈水上歩行〉Lv.1
〈水袋勁〉Lv.1
〈木神の加護〉Lv.1
└〈成長促進〉Lv.1
〈効力増強〉Lv.1
〈笑桜勁〉Lv.1
〈火神の加護〉Lv.1
└〈二段跳び〉Lv.1
〈燃焼無効〉Lv.1
〈火鳥勁〉Lv.1
〈土神の加護〉Lv.1
└〈障壁〉Lv.2
〈土圧無効〉Lv.1
〈捻央勁〉Lv.1
〈金神の加護〉Lv.1
└〈金属操作〉Lv.3
〈即死耐性〉Lv.1
〈拡金勁〉Lv.1
〈五行神の加護〉Lv.1
└〈気功法〉Lv.1
└〈遠当て〉Lv.1
〈沈墜勁〉Lv.1
〈纏絲勁〉Lv.1
〈十字勁〉Lv.1
残りスキルポイント:1
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読んでいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いいたします!




