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転生勇者(♀)の異世界旅行記《トラヴェローグ》  作者: 青咲凛
第2章 ナザレの夢魔

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33. 夢のマイホーム?


 始まりの街から北西に延びる川沿いの街道。

 そこを2~3kmほど道なりに進んだところにある大きな丘を囲うようにして、例の牧場はあった。


「思ったより遠いね」

「ああ、街との行き来もそうだが、森までもかなり距離がある」

「馬車は必須だね……」


 とはいえ──。

 ここまでは不動産屋が保有する馬車に乗ってやってきたが、その振動たるや腰に響いて仕方がない。

 短時間ならまだしも、これから何度も往復するとなると馬車よりも自転車の方が欲しくなる。


 あるいは、車かバイクか……乗ったことないけど。


(長期的なことを考えると、車の方がいいかもしれないけど……そうなると目立つよなぁ……)


 作れるかどうかはさておき、何かしらの移動手段は考えておいた方がいいかもしれない。


 牧場の周りは、背の低い石垣に囲まれていた。

 平らな石を積み重ね、モルタルで接着した簡易的なものだった。


 牧場と聞いて牛か馬を育てていたものだと思っていたから、てっきり木の柵だと思っていたけど……ここは何を育てていたんだろうか?


 門を開けて中に入ると、奥に見える石造りの平屋から、1人の金髪の青年が姿を現した。

 頭には麦わら帽子をかぶり、よれよれの麻布のワンピースを着ていて、あごには茶色いひげが蓄えられている奴隷である。


「フライデー」


 不動産屋が名前を呼んだ。


「本日のお客様でございますね?」

「ああ、中をご案内差し上げたいが、今大丈夫かね?」

「ええ、早馬の連絡を受けて、十分に整えてございます」


 彼は丁寧にお辞儀を返すと、私たちを連れてさっそく住居の案内を始めた。


「まずはせっかくですので、広い庭から参りましょうか」


 平屋を迂回して、その後ろに広がる大きな丘へ移動する。

 緩やかな傾斜。

 しかし頂上まではそれなりに高く、昔の私なら息を切らしていたかもしれない。


「もともと、こちらでは乳牛と馬車馬──種は、たしか牛はグヌート丘牛、馬の方はオッカヒンバを飼育していたと伝え聞いております。

 ですので丘に生えている植物は基本的にはほとんど、飼葉となるチモ柴やオッツ草になっております。

 お客様のご要望通り、放し飼いにしても基本的な栄養素が不足するということは無いでしょう」

「……なるほど?」


 専門用語的なものが羅列してわからなかったので、思わずマーリンの方を見やるが、どうやら彼も同じ感想の様だ。

 まぁ、とりあえず放し飼いしても大丈夫らしいことだけは知れてよかった。


「マーリン、牛と馬の種類覚えといて」

「わかってる」


 とりあえず小声でそう言って、続くフライデーの説明に耳を傾けた。


 元牧場となっていた広い庭の説明が終わり、今度は厩舎跡を見に行く。

 なかなか広い厩舎の様で、彼の説明によれば、それぞれ5頭は同時に飼えるほどの広さだという。


「もし馬などを飼育なさるのでしたら、厩舎には土足で入らないことをお勧めいたします。

 専用の長靴をあつらえておくとよろしいでしょう。それから──」


 とりあえず、この説明もちょっと専門用語が多かったので、基本的な飼い方だけ覚えておく。

 細かいことは──あとで本を買うなりして調べよう。


 それから私たちは井戸の場所や排水設備、あとトイレの場所なども教えてもらい、平屋をぐるりと一周して最初の玄関に戻ってきた。


 入り口は木製の押し戸だった。

 アーチ型の枠に長方形の扉、その上に採光用の網戸がついている。


「こちらが玄関になります。

 鍵は、今はこちらの木製の錠前ですが、少々古いので作り替えた方がよろしいかもしれませんね」


 玄関扉を開けて中に入ると、すぐそこに土間が広がっていた。

 入って左脇すぐのところに調理場があり、大きめの、ピザ屋とかでしか見たことがない竈と、レンガを箱型に積んだ、簡易的なコンロが2口ついているのが見える。


「コンロの使用方法はご存じで?」


 フライデーが尋ねるのに、2人して首を横に振る。


「簡単ですので、覚えていただきましょう」


 彼はそう言うと、箱型に積んだ煉瓦に取り付けられた、建付けの悪い鉄製の小さな扉を開いた。

 中にはうっすらと灰が積もっている。


「こちらに、薪を入れて着火し、あとは扉を閉じるだけでございます。

 そうすると、箱の上部の隙間から火が出ますので、そこに鍋なりなんなりを置いて調理するのがこちらのコンロの使い方にございます」


 言われて、箱の上部を覗き込んでみる。

 すると確かに、煉瓦と煉瓦の間に隙間があるのが見えた。


(そっか、こっちの世界に五徳は無いのか)


 五徳がないと、中華鍋とか使いづらそうだなぁ、と思うが基本食事は出来合いのものをショップで買っていたので、わざわざ料理する必要もないしあんまり考えなくてもいいか、と思い直す。


 キッチンの説明を受けると、次はそこから奥に続く廊下に移動した。

 木製の廊下に、土足で侵入。

 宿にいた時も土足ではあったけど、これから自分たちが住む家と思うと、土足で暮らすのは少しためらわれた。


「どうした?」

「いや……これから掃除とかはちゃんとしないとな、って思っただけだよ」


 前世では掃除とかめんどくさくて、半年に1回するかどうかだったからな……。


(ロボット掃除機でも仕入れるか?

 いや、土とか砂とか噛みそうだしな……あとで考えよ)


 木製の廊下を挟むように、右側に3部屋、左側に2部屋見える。

 フライデーの説明によると、手前側から右側がダイニングで左側がリビング。

 奥の3部屋は個室となっていて、廊下の突き当りが裏口らしい。

 彼の話によれば、裏口は二重扉になっていて、すぐ外には井戸と、前の持ち主が趣味で使っていた薬草園があるらしい。


 厩舎は、そこから少し歩いたところにある小さめの蔵を隔てた向こう側にあるので、臭いが直接的に部屋に流れ込んでくる心配はいらないようだった。


「ダイニングには机と椅子が備え付けてあり、リビングには暖炉が設置されております。

 キッチンの竈に関してもですが、定期的に煙突内の清掃をなさるようにしてくださいね」

「はい……」


 さっき掃除が面倒だと思ったところだったのに、と肩をすくめる。


 とはいえ、暖炉があるというのはロマンがある。

 ただのリビングとして使うだけじゃなくて応接室として使ってもいいし、寒い雪の日には暖炉の近くで編み物をするというのも正直言ってエモい。


 編み物なんてできないけど。


 それから私たちは、フライデーから暖炉の管理の仕方についての説明を受けて──この家を買うかどうか、その決断を迫られることになった。


「どうなさいますか?」


 ダイニング──。

 その備え付けられた椅子に腰を下ろし、不動産屋が淡々とした態度で尋ねる。


 この広さで、且つこの設備で大金貨2枚。

 今なら即決で購入できる。

 私も気に入ってしまったし、買うこと自体に問題はない。


 そう思って購入する旨を即答しようとした──のを、マーリンが遮った。


「その前に一つ確かめておきたいのですが」

「マーリン?」


 彼の真剣な眼差しに、何かに気づいたのだろうかと尋ねる。


「なんでしょう」

「この家を買ったことで支払わなければならない金額は、本当にその大金貨2枚だけですか?」


 彼の問いに、私は眉を顰めた。


「どういう意味でしょうか」

「税金の話ですよ、固定資産税。

 まだそっちの話を聞いてません。いつになったらその話を始めるのかと思っていたんですが、まさか、黙っていようなんてことは、考えていませんでしたよね?」


 ……そういえば。

 前世でも、家を買う時に本体価格だけ見て後で泣く人がいると、どこかで聞いたことがあった。


 こっちは日本じゃないし、その辺の仕組みがどうなっているのか、そういえば全く確かめもしていなかったな、と少し反省しつつ、マーリンがいてくれて助かったとほっと胸をなでおろす。


「……失敬、失念しておりました」


 ずれかけた片眼鏡を戻して、不動産屋が口を開く。


「土地の広さが──ですので、年間の固定資産税は、大金貨1枚。

 徴収は半年区切ですので、今から6か月後に金貨6枚と大銀貨14枚の徴収に応じていただく必要がございます」

「……」


 高い。

 家の値段の半分も、毎年納めなければいけないのか。


(いや、でも考えてみればそうだよな……)


 家屋が占有している面積に対して、牧場──庭の面積が広すぎる。

 敷地の9割9分9厘が庭と言っても過言ではないのだ。


 唖然──と私はマーリンの顔を伺いみた。

 最低でも1か月のうちに金貨1枚以上は貯金しなければならないショックに、一瞬、1人分の脳みそでは耐えられなかったのである。


 家を買えば家賃を支払う必要がないと思っていただけに、少しショックを覚える。

 是ならまだ宿代の方が安かったのではないだろうか?


 いや、しかし。


(金策……)


 少し考えて、異世界もののラノベでよくやっている金策について候補をいくつか頭の中に羅列させる。


 たしか、この辺りは塩はかなり高価で取引されていた。

 なら塩の売買はどうだ?

 仕入れ先を疑われる可能性は?

 それなら岩塩は?

 いや、岩塩が流通してるなら塩の値段はもっと安いはず。

 塩はリスキーだ。

 それなら胡椒……も同じ内容で無理。

 だとしたら残っているのは──。


 ちらり、とマーリンの顔を見やる。

 なんだか渋い顔をしている。

 きっと、私が何を考えているのか察したのだろう。


 私はにやりと笑みを浮かべると、不動産屋に向き直った。


「ええ、大丈夫ですよ」


 背後からマーリンの疑わし気な気配が伝わってくるが、まあいい。


 月に最低、金貨1枚以上の貯金。

 決して安い金額ではないし、昔の私ならやっぱり無理でしたと諦めていたかもしれない。


 でも、ここに住むと決めた以上は腹をくくらなければなるまい。


(こっちの世界に来てから、覚悟を極めなきゃいけない時が多くなった気がするなぁ……)


 でも、一応作戦はある。


 それに私には頼りになる相棒がいるのだ。

 私の今後の異世界ライフのためにも、そして何より彼のためにも、この家は何としてでも──欲しい。


 こうして、私は不動産屋に一括で大金貨2枚を支払い、契約書を交わしたのだった。


読んでいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いいたします!


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