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転生勇者(♀)の異世界旅行記《トラヴェローグ》  作者: 青咲凛
第1章 地下水道の幽霊

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30/49

30. 不意打ち?


 ──刀には、投げ抜きという抜き方がある。


 動画で何度か見て知っているだけの技法だったが、要するに鞘から刀を投げ出すことで、柄に手をかけた時にはすでに刀身が半分抜けているという状態を作るというのがこの技の理合である。

 これによって通常の抜刀よりも素早く抜くことができるのである。


 ……まぁ、私がこの居合抜きを選んだのは、それだけがすべてではないんだけどね。


 レベルアップで入手したスキルポイントを割り振って、何度か練習したことで感覚をつかんだこの技でまずは彼女の初手を奪う──


「──いざ尋常に、開始!」


 介添人の掛け声とともに、ジュンのレイピアが鋭く突き刺すべく動いた。

 しかしその時にはすでに私の刀は抜けていて、〈認識阻害〉によって作り出した残像を囮に、低く深く踏み込んだ私の刀は、彼女の懐へ迫っていた。


「──ッ!?」


 重心の乗った突きだ。

 そうすぐに止められるものではないはずである。


 そもそも、彼女のあの様子からして居合──それに伴う、予想される軌道を知っているはずがないのだ。

 運が良ければこれで私の勝ち。


 そう思っていたが、どうやらその見込みは甘かったようだ。


「なるほど……なかなかやるじゃない……」


 前転の要領で何とかぎりぎり回避することに間に合ったジュンが、冷や汗をかきながら呟いた。


(あれを躱すなんて、なんて反射神経だよ……)


 普通なら知っていないと避けられないと思っていたが……どうやら、あの時の彼女は別に慢心していたというわけでもないらしい。


(評価を改めないとな……)


 相応の実力があると踏んでいたから、あの地下水道の依頼に踏み込んだ。

 今回のゲシュペンストの件は、はっきり言うとただ単に相性が悪かっただけなのだろう。


「そっちこそ」

「抜かすわね……」


 ジュンがこめかみに青筋を立てながらレイピアを構えなおすのを見て、私も刀を構えなおす。


「今度は鞘に納めなくていいのかしら?」

「さっきのはいわゆる初見殺しの技だっ……でしたし、二度も通用すると思うほど馬鹿じゃないので」

「あっそ」


 ジュンの視線が一段と鋭くなる。

 私は中段に構えた刀で、油断なくタイミングを計った──動く気配、その、前兆。


「なッ!?」


 起こりを邪魔された彼女が、一瞬戸惑ったように動きを止める。

 私はその隙に深く潜りこみながら、彼女のマン・ゴーシュを刀で押さえつけるように叩き落とした。


「この!」


 外向きに回転するようにしてレイピアを撓らせ、私の右側面から刺突を狙う──が


(来た、フリック──)


 撓るブレードが鞭のように弧を描いて、私の左肩を狙って突き刺してくる。


 しかしこちらには〈高速思考〉というスキルがある。

 副次的な効果ではあるが、加速した思考の中ではすべての動きが緩慢になる。


(あいつの鎌捌きの方がまだ早かったな)


 さらに姿勢を低く落としながらのバックステップでかいくぐるように回避しつつ、続く回し蹴りをさらに低い位置からの回し蹴りで受け流す。


『体術スキル関連アーツ〈卍蹴り〉を獲得しました』


 できると思ってなかったけど、案外やってみればできるものなんだな……。


「あの状態から──!?」


 驚く彼女から距離を取って、刀を腰だめに構えなおす。

 しかしジュンはこちらの動きを警戒してか、すぐに次の技を繰り出してはこなかった。


「「……」」


 2人の間に、しばらく沈黙が流れる。

 互いにここからどうするか、攻めあぐねているのだ。


 ……これが、相手が魔物だというのならいくらでもやりようがあった。

 例えばいつもみたいに〈金属操作〉で武器を奪って仕留めるとか。


 でも今回の場合、それでは相手が納得しないだろう。

 この決闘は勝ち負けというよりも彼女が納得するかどうかの方が重要なのだから。


 照りつける陽光。

 お互いの肌を汗が伝う。

 武器を握る手に汗が染みて、私は刀を握りなおした──その、一瞬の意識の揺らぎを、ジュンは見逃さなかった。


「フ──ッ!」


 地面を蹴るジュン。

 鋭い刺突を、敢えて前傾して突っ込むことで回避する──と、目の前にマン・ゴーシュの切っ先が現れた。


「ッ!?」


 慌てて横に転がって回避すると、上段からの斬り落としが私の脳天に迫る。


 更に転がって距離を取って回避するが、彼女の猛攻は止まらない。

 突き、突き、突き、突き、突き──。

 まるで何かに怒っていて、その八つ当たりをしているような、力強い連撃。


 そんな頭上からの遠慮のない刺突を、転がりまわりながら何とか姿勢を立て直しつつ回避しながら、反撃の機会をうかがう。


「そこ──!」


 スタミナが切れたのか、刺突の速度が遅くなった瞬間に合わせてレイピアを巻き上げた。


「ッ!」


 続く横薙ぎの一閃をマン・ゴーシュが防ぐ。

 私はその反動を利用して距離を取ると、宙を舞っていたレイピアを〈金属操作〉で手元に引き寄せた。


「……なんで」


 ジュンが、俯いたままぽつりと呟いた。


「なんでよ……」


 マン・ゴーシュを握る手が、小さく震えている。


「なんで、避けるのよ……!

 ちゃんと相手しなさいよ……!」


 顔を上げた彼女の瞳には、うっすら涙が滲んでいた。


「プライドを賭けた決闘で……こんな風に見下されるなんて……っ!」

「い、いや見下してなんかいませんよ!?」


 キッ、と鋭い眼差しで睨みつけてくる彼女に、私は思わず動揺して両手を差し出した。

 しかし、今の彼女にそんな言い分は通じないらしい。


「その言葉遣いも腹立つのよ……」


 無造作にずんずんと歩み寄ってくるジュン。


「私は別に気にしてません見たいなその態度とか」


 剣の間合いまで押し入ってくるが関係なし。


「その気になればどうにでもできるとでも言いたげなその見下した目つきとか」


 武器を持った手をマン・ゴーシュで払いのけながらぐいっと顔を覗き込むようにして、目と鼻の先まで来て──


「本当にむかつく!」


 直後、大声で叫びながら私の腹に鋭い膝蹴りを打ち込んできた──


「あっぶな!?」


 ──しかも、マン・ゴーシュを添えた、文字通りに鋭い膝を。


「チッ」


 間一髪で回避した私に、舌打ちをして見せるジュン・アラストール。

 私に〈不意打ち耐性〉のスキルがなかったら今のは絶対にくらっていたに違いなかった。


「今のは反則じゃない!?」


 思わず抗議の声を上げると、彼女はそっぽを向いて言い分を口にした。


「そんなルールはないわ。

 禁止されているのは殺すことと、後遺症が残るような魔法だけだもの」

「でもそれとこれとは違うでしょ!?」

「フン、こんなのよくある話術よ。

 この程度の不意打ちでギャーギャー騒ぐんじゃないわよ」

「な……ッ、こいつ……!?」


 どうやら、さっきの一連の涙は演技だったらしい。

 純粋な剣術勝負では勝ち目がないと悟っとからとはいえ、こんな卑怯な手で攻めてくるなんて……。


(顔色を窺って頭の中を見透かすのが私の特技だと思ってたけど……)


 どうやら、本気の感情を少しでも混ぜられると、見分けがつかなくなるらしい。


 私は、目の前でフン、と鼻を鳴らしながら拗ねたように唇を尖らせる彼女に、心の底からため息を吐いた。


「……じゃあ、今回の決闘は、私の勝ちってことでいいんですね?」


 肩をすくめて、言質をとるべくレイピアを返しながら尋ねる。


「……その口調……」

「え?」


 最後まで聞き取れず、思わず聞き返す。

 するとジュンは悔しそうに唇を噛んで、ぐいっと私の胸ぐらを掴んだ。


「その敬語よ!」


 涙の跡が残る目で、真っ直ぐ睨みつけてくる。


「強いくせに、余裕ぶって……年上みたいな顔して……!」

「いや、実際私の方が年上──」

「──そういうところが腹立つのよ!」

「そんな横暴な!?」


 ぐっと胸ぐらを引き寄せられる。


「今回!」


 強調するように、ジュンは語気を強めた。


「……助けられたのは認めるわ。

 それから……決闘に負けたのも、まあ仕方がないから認めてあげる」


 一拍置いて、彼女は顔を赤くしながらそっぽを向く。


「……だからせめて、対等に話しなさいよ」

「……」


 ぽつり、とこぼすように呟かれた彼女の言葉に、思わず閉口する。


 ──対等に。

 その言葉の持つ重さに、私は思わず訓練場の隅でこちらを見守るマーリンを視界に収めた。


「今後、私に敬語使うのは禁止よ。

 それが守れるのなら……認めてあげなくもないわ」


 彼女はそう言うと、掠め取るようにレイピアを回収して訓練場を後にした。


「……え、えぇっと、挑戦者ジュン・アラストールの宣言により、今決闘の勝者をユーリさんに決定いたします……?」


 最後には、微妙な空気の中でもなんとか介添人としての仕事をこなそうとするエミリーの戸惑った声だけが、訓練場に残った。


現在の悠里のステータス


 +++


■ステータス■

 名前:鑑 悠里 Lv.8

 性別:女

 種族:異世界人 Lv.1

 職業:ノービス Lv.1

 称号:〈異世界人〉Lv.1

    〈臆病者〉Lv.2

    〈何にも束縛されない〉Lv.2

    〈無謀な挑戦者〉Lv.2

    〈導師見習い〉Lv.1

    〈追跡者〉Lv.1

    〈暗がりに潜む者〉Lv.1

    〈呪術医見習い〉Lv.1


 HP:80/80

 MP:80/80

 SP:110/110


 筋力:25

 活力:9

 速度:9

 知能:9

 感覚:15


 残りステータスポイント:0


■スキル■

◇武術系◇

 〈剣術〉Lv.5

  └〈偃月殺法〉Lv.1

   〈聖柄の太刀〉Lv.1

   〈居合抜き〉Lv.3

 〈体術〉Lv.1

  └〈空気投げ〉Lv.1

   〈投擲〉Lv.1

   〈卍蹴り〉Lv.1


◇魔術系◇

 〈呪詛マスタリ〉Lv.1

 〈魔法〉Lv.1

  └〈術式理解I〉Lv.1

 〈結界〉Lv.1

  └〈反転結界〉Lv.1


◇身体操作系◇

 〈身体操作マスタリ〉Lv.1


◇防御・回復系◇

 〈自動回復〉Lv.2

 〈食い縛り〉Lv.1


◇耐性系◇

 〈驚愕耐性〉Lv.1

 〈痛覚耐性〉Lv.1

 〈負傷耐性〉Lv.2

 〈転倒耐性〉Lv.1

 〈気絶耐性〉Lv.2

 〈トラウマ耐性〉Lv.1

 〈脱水症耐性〉Lv.1

 〈熱中症耐性〉Lv.1

 〈精神攻撃耐性〉Lv.1

 〈拘束耐性〉Lv.1

 〈呪詛耐性〉Lv.4

 〈隷属無効〉Lv.1

 〈恐怖耐性〉Lv.3

 〈不意打ち耐性〉Lv.1

 〈閃光耐性〉Lv.2

 〈麻痺耐性〉Lv.1


◇隠遁系◇

 〈忍足〉Lv.2

 〈気配隠蔽〉Lv.2


◇感知系◇

 〈洞察〉Lv.2

  └〈名推理〉Lv.1

 〈気配察知〉Lv.5

  └〈霊感〉Lv.1

   〈先の先〉Lv.1

 〈魔力感知〉Lv.1

 〈遠見〉Lv.1

 〈暗視〉Lv.1


◇生活系◇

 〈交渉〉Lv.1

 〈高速思考〉Lv.2


◇ギフト系◇

 〈水神の加護〉Lv.1

  └〈水中呼吸〉Lv.1

   〈水上歩行〉Lv.1

   〈水袋勁〉Lv.1


 〈木神の加護〉Lv.1

  └〈成長促進〉Lv.1

   〈効力増強〉Lv.1

   〈笑桜勁〉Lv.1


 〈火神の加護〉Lv.1

  └〈二段跳び〉Lv.1

   〈燃焼無効〉Lv.1

   〈火鳥勁〉Lv.1


 〈土神の加護〉Lv.1

  └〈障壁〉Lv.1

   〈土圧無効〉Lv.1

   〈捻央勁〉Lv.1


 〈金神の加護〉Lv.1

  └〈金属操作〉Lv.2

   〈即死耐性〉Lv.1

   〈拡金勁〉Lv.1


 〈五行神の加護〉Lv.1

  └〈気功法〉Lv.1

    └〈遠当て〉Lv.1

     〈沈墜勁〉Lv.1

     〈纏絲勁〉Lv.1

     〈十字勁〉Lv.1


 残りスキルポイント:0


 +++



読んでいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いいたします!


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