21. ベッドシーン?
「──つまり、術式っていうのは魔法を扱う際のイメージを圧縮させた記号という理解が正確なんだ。
この意味では、東方や北方で使われる象形文字や表意文字が近いかな。だから人によって、同じ術式を使っていても解釈によって効果が変わることがあるんだ」
「なるほどね……」
──食後。
あれからマーリンに軽く魔法についてのレクチャーを受けていた私は、彼から聞いた話をまとめたノートを見返して、ぐっと伸びをする。
空はすでに星の瞬きを湛えるほどで、部屋の灯りにともしていた蝋燭も、今や肥えた老婆のように燭台に身をうずめている。
宿についた時はまだギリギリ空が茜色に染まっていたが、時間が過ぎるのは早いものだ。
(いつもなら、もう寝始めてる時間だなぁ……)
あくびをしながら、ここのところの生活を思い返す。
日本にいたころはあり得なかったが、こっちの世界じゃ夜になってももはややることがない。
そのせいか、暗くなったら眠りにつくことが習慣化されてきていて、身体もそれを覚えたのか、だんだんと眠くなってきて──
「あ」
「どうした?」
伸びをしたままの姿勢で固まった私に、マーリンが怪訝そうに話しかける。
「しまった。
マーリンの寝るところがない」
この部屋は1人部屋。
したがってベッドは1つしかない。
幸いにも小柄な私の体を考慮するなら、身長が同じくらいのマーリンと2人で使う分にはぎりぎり問題ない大きさではある。
しかし、それは私の中のポリシーが許さない。
「いいよ、俺は床で寝るから。
硬いところで寝るのは慣れてる」
言って、部屋の隅に腰を下ろすマーリン。
だがそれは個人的に受け入れられないから却下だ。
子供が大人である私に遠慮して床で寝るなんてあってはならない。
子供というのはもっとこう、のびのび生きてもらわないと私の心がなんというか申し訳なさでいっぱいになって耐えられないのである。
視界に入る範囲にいる、しかも自分の所有物になってしまった彼には特に。
「ダメだよ。
いくら慣れてるって言っても、ダメージは蓄積されていくんだから。
子供はベッドで寝なさい。私が代わりに床で寝ます」
「いやあんたも子供だろうが!? というより、奴隷が主人を差し置いてベッドで寝ることの方がありえないだろ!」
「子供ちゃうわ! 私は立派なお姉さんです! 成人した立派な大人のレディです!
なので子供のマーリンには保護者である私に従う義務があります!」
「いや、だとしてもそれは──っだぁあ! もう! じゃあそんなに言うなら一緒に寝ればいいんじゃねぇのか!?」
「それはだめ」
「なんでだよ?」
「ショタには触らない。これ、私の掟」
「誰だよショタって……」
呆れたように額を押さえ、マーリンは大きくため息を吐いた。
「じゃあ証明してみろよ」
「……は?」
「大人なんだろ。保護者なんだろ。だったら、そのくらいで慌てるなよ」
そう言って、マーリンは半ば意地のように立ち上がると、ずい、とこちらに距離を詰めてきた。
思わず一歩後ずさる。
けれど、すぐにベッドの縁にぶつかって、それ以上逃げられなかった。
「ちょ、ちょっと待って」
「待たない」
細いくせに意外と力のある手が、私の肩を押す。
「きゃっ!?」
そのままバランスを崩して、私はベッドの上に倒れ込んだ。
薄暗い蝋燭の灯りの中で、マーリンの蒼い瞳が私を覗き込む。
「なんだよ、俺より力ないんじゃねぇの?」
口元だけ、少しだけ悪戯っぽく笑っている。
「そんなんでホントに大人って言えるのか、はなはだ疑問だな」
「……っ」
ぐ、と言葉に詰まる。
悔しいけれど、反論できない。
というか近い。顔が近い。普通に近い。
汗に濡れた銀髪から落ちた雫が、ぽたりと私の頬に落ちた。
──心臓に悪い。
「ほら、大人なんだろ?」
「う、うるさいな……」
思わず顔を逸らすと、マーリンはくすりと小さく笑った。
──あ、こいつ、完全に面白がってるな?
しかもたぶん、私がこういう距離感に弱いってことをもう見抜いている。
それにこれは、揶揄っているというのもあるだろうけど、たぶんその本心はどちらかといえば自分を奴隷として扱わない私が、どれだけ本気で彼を人として扱おうとしているかっていうのを見極めようともしているのだろう。
これはそういう目だ。
間違いない。
私の顔色を窺う天性の特技がそう告げている。
年下のくせに。
生意気な奴め。
「どうした、ご主人様。顔が赤いぞ?」
わざとらしくそんなことを言いながら、マーリンの指先が私の顎をそっと持ち上げた。
反則だろ、それは。
顔がいいやつが距離を詰めてくるの、普通に心臓に悪い。
まあ、顔の良し悪しなんて私にはわからないんだけど。
というか待って。
これ、このままだと流れ的に完全によろしくない方向に行くやつでは?
いや、落ち着け私。
相手はショタだ。
私はイエスショタノータッチ。
掟は絶対である。
「まさか、この期に及んでビビってんじゃないよな?」
──少年特有の、声変わり直後の低くなり始めた声が鼓膜を揺らす。
その衝撃の何と甘美たることや。
私は大きく息を吸うと、覚悟を決めて口を開いた。
「……そこまで言うなら、私が大人だってことを見せてあげる」
覆いかぶさってきた彼の首に腕を回す。
日に焼けて赤らんだ、細い首筋。
うっすらと浮かぶ僧帽筋の筋と鎖骨の感触が、1枚の布を隔てて私の上腕に触れる。
「せいぜい、自分がまだ子供だったってことを身に染みて理解しろ」
「え?」
私は素っ頓狂な声を上げるマーリンを抱きしめると、そんな風に耳元で囁いた
──直後だった。
私は一気に彼の首を締めあげ、首筋の大動脈を極め始めた。
「……ッ!? え、ちょ、まっ──!?」
さっきまで余裕ぶっていた顔が一瞬で引きつる。
腕の中でじたばたと暴れ、ベッドのシーツをばんばん叩いて抗議してくるが、もう遅い。
「大人を証明して見せろって言ったの、そっちだからね……っ!」
「ん゛ッ、ふ、ざけ……ッ!」
足をばたつかせ、なんとか逃れようと身体を捩るマーリン。
けれど完全に極まった締め技というものは、本来解除が不可能なものである。
柔道の選手だって、極まる前に抜け出して対策をとるのだ。
つまり──今彼がどれだけあがいたところでもう遅いのである。
やがて抵抗が弱くなり、叩いていた手がだんだんと力を失っていく。
「ご、ごしゅ……ッ、ま……」
「はい、おやすみ~」
最後にか細いタップが2回。
私は彼がしっかり気絶するのを見届けると、拘束を解いてベッドに寝転がせた。
「ふぅ、危なかった……」
あのまま続けていたら、理性が耐えられなかった。
絞め落としたのは悪いとは思うけど、こうする他、あのマーリンを止める術を思いつかなかったのである。
……とはいえ、彼の貞操を護ることにはとりあえず成功したわけだ。
念のため鑑定してステータスをチェックしてみたが、特に命に関しては別条がないらしく、ただ気絶しているだけのようだ。
この気絶も、鑑定画面によればあと30分くらいは続く見込みらしい。
これだけあれば、私が寝るまでの間に目を覚ますことは無いだろう。
私はほっと胸をなでおろすと、彼をベッドの壁際に転がして、その隣に自分の身も横たわらせた。
これにて一件落着。
私は目を閉じると、やってきた睡魔に身を任せて夢の世界へと旅立つことにしたのだった。
『体術スキル関連アーツ〈チョークスリーパー〉を獲得しました』
現在の悠里のステータス
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■ステータス■
名前:鑑 悠里 Lv.1
性別:女
種族:異世界人 Lv.1
職業:ノービス Lv.1
称号:〈異世界人〉Lv.1
〈臆病者〉Lv.2
〈何にも束縛されない〉Lv.1
〈無謀な挑戦者〉Lv.1
〈導師見習い〉Lv.1
〈追跡者〉Lv.1
〈暗がりに潜む者〉Lv.1
HP:10/10
MP:10/10
SP:30/30
筋力:10
活力:1
速度:1
知能:1
感覚:8
残りステータスポイント:0
■スキル■
◇武術系◇
〈剣術〉Lv.4
└〈偃月殺法〉Lv.1
〈体術〉Lv.1
└〈空気投げ〉Lv.1
〈チョークスリーパー〉Lv.1
◇魔術系◇
〈呪詛〉Lv.1
└〈隷属の首輪〉Lv.1
〈契約の呪詛〉Lv.1
〈制限の呪詛〉Lv.1
〈洗脳〉Lv.1
〈幻惑〉Lv.1
〈認識阻害〉Lv.3
〈夢の檻〉Lv.1
〈金縛り〉Lv.1
〈蝕む痣〉Lv.1
〈服従の呪詛〉Lv.1
〈魔法〉Lv.1
└〈術式理解I〉Lv.1
◇身体操作系◇
〈跳躍〉Lv.1
〈咆哮〉Lv.1
〈疾走〉Lv.1
〈パルクール〉Lv.1
◇防御・回復系◇
〈自動回復〉Lv.2
〈食い縛り〉Lv.1
◇耐性系◇
〈驚愕耐性〉Lv.1
〈痛覚耐性〉Lv.1
〈負傷耐性〉Lv.2
〈転倒耐性〉Lv.1
〈気絶耐性〉Lv.2
〈トラウマ耐性〉Lv.1
〈脱水症耐性〉Lv.1
〈熱中症耐性〉Lv.1
〈精神攻撃耐性〉Lv.1
〈拘束耐性〉Lv.1
〈呪詛耐性〉Lv.4
〈隷属無効〉Lv.1
〈恐怖耐性〉Lv.1
〈不意打ち耐性〉Lv.1
〈閃光耐性〉Lv.1
〈麻痺耐性〉Lv.1
◇隠遁系◇
〈忍足〉Lv.2
〈気配隠蔽〉Lv.2
◇感知系◇
〈洞察〉Lv.2
└〈名推理〉Lv.1
〈気配察知〉Lv.1
〈魔力感知〉Lv.1
〈遠見〉Lv.1
〈暗視〉Lv.1
◇生活系◇
〈交渉〉Lv.1
〈高速思考〉Lv.1
◇ギフト系◇
〈水神の加護〉Lv.1
└〈水中呼吸〉Lv.1
〈水上歩行〉Lv.1
〈水袋勁〉Lv.1
〈木神の加護〉Lv.1
└〈成長促進〉Lv.1
〈効力増強〉Lv.1
〈笑桜勁〉Lv.1
〈火神の加護〉Lv.1
└〈二段跳び〉Lv.1
〈燃焼無効〉Lv.1
〈火鳥勁〉Lv.1
〈土神の加護〉Lv.1
└〈障壁〉Lv.1
〈土圧無効〉Lv.1
〈捻央勁〉Lv.1
〈金神の加護〉Lv.1
└〈金属操作〉Lv.2
〈即死耐性〉Lv.1
〈拡金勁〉Lv.1
〈五行神の加護〉Lv.1
└〈気功法〉Lv.1
└〈遠当て〉Lv.1
〈沈墜勁〉Lv.1
〈纏絲勁〉Lv.1
〈十字勁〉Lv.1
残りスキルポイント:0
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次回もよろしくお願いいたします!




