表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者(♀)の異世界旅行記《トラヴェローグ》  作者: 青咲凛
第1章 地下水道の幽霊

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/43

20. アミダーニョ?


「すまないが、奴隷を置く部屋はうちにはないよ」


 いつもの宿のおかみさんは、マーリンの方を一瞥すると、やや語気を荒げてそんな風に返した。


「そこを、何とかなりませんか?」

「だめだよ。荷物を置くためだけに部屋を取られちゃあ、他のお客に迷惑がかかるでしょうが」


 荷物。

 その言葉に、私はなるほどと考えを改めた。

 どうやらこの国では、奴隷は人間というよりもペットか、あるいは家財道具などのような認識でいるらしい。

 そう考えるとあの奴隷商人が言っていた、奴隷の基本的人権というものについての解釈も少し見直さなければなるまい。


 要するに、この世界は思っているよりも人間の命の値段というか、人間そのものの価値がかなり安いのだ。

 しかもそもそもの問題として、人間が人間としての尊厳を守るのには、受動的な態度ではなく──つまり現代日本のように、人権が誰かから与えられているものだというのではなくて、自ら主張しなければ一気にその価値はモノ同然に落ちてしまうのである。

 下手をすれば、マーリンのように下着と同じ値段的価値になる。


 思ってたより過酷だなぁ、この世界……。


「わかりました。

 では、私と同じ部屋に入れるのは構いませんね? 値段は1人分で」

「ああ、そうしてくれ」


 宿代が1人分浮いてくれたのは運がいいと、そう思うことにしよう。


 ***


「なぁ、ご主人様。

 いくつか聞いていいか?」

「どうしたの?」


 部屋に鍵をかけて食事の準備をすべく机にストレージから出した料理を並べ始めた時だった。

 マーリンは床に腰を下ろしながらこちらを見上げた。


「なんで、俺のためにもう一つ部屋を用意してくれようとしたんだ?」

「……あぁ、そういうこと」


 現代日本人としての感覚なら、男女が別々の部屋に泊まるというのはごく当たり前のことだ。

 しかし彼は奴隷。要するにこの世界では人型の家財道具に等しく、そこに「人間としての扱い」は存在しない。

 だれも、自分のリュックサックを人間のように扱って個室とかベッドを与えないのと同様の感覚である。

 言ってしまえばマーリンから見れば、私はそういうことをするような変人に映っているのだろう。


「私は、マーリンのことを人として扱ってるからだよ」


 だから、自然とそんな回答が選ばれた。


「人として?」

「そう、人として」


 席に着き、同時にマーリンにも向かいの椅子に座るように指示する。


「座って。一緒に食べようよ」

「いや、奴隷が主人と一緒に食事するのは──」


 目を伏せるマーリン。

 まただ。

 妙なところで、彼は奴隷としてのポーズをとろうとする。

 さっきは外で、人の視線が合ったからかな、とは思ったけど、どうやら違うみたいだ。


 ……まぁ、これについては追々考えることにしよう。

 直感だけど、これはそう簡単に治るものじゃない。

 多分、一種のトラウマに近い条件反射なのかも。


「──私がそうしたいんだ。

 一緒に食べる人がいた方が、食事はおいしいしね」


 この世界に転生してから今日まで、私は1人で食事をしていた。


 前世ではむしろ気にならなかった。

 自分の部屋に閉じこもって、誰にも干渉されないで、自分の好きな時間を過ごす。

 それは満たされた時間だった。

 具体的には、現実逃避できる様々なものに。


 でもこの世界に来てからは、どこかで寂しさを覚えていたような気がする。

 今回のミネルバとジルバの件で、その寂しさへの自覚がより明確になった。


 私は……どうしてもっと、家族と一緒にいるという選択をしなかったんだろうか。


「……わかった」


 しぶしぶ、といった様子で席に着くマーリン。

 その姿は少し怯えているようにも見えたが、席に腰を下ろしても私が特に何もしないとわかると、彼はほっと肩の力を抜いた。


「じゃ、食べようか。

 いただきます」

「……いただきます?」


 聞きなれない言葉に、マーリンが首を傾げた。


 その姿に、私は思わず感動する。


 いや、異世界もののテンプレートではあるけど、ホントにやるんだな、これ。


「私の故郷の、食前の言葉だよ。

 料理を用意してくれた人、それからこれから自分の糧になってくれる動植物たちの命への感謝を込めた言葉。

 このパン1つ取ったって、これを作ってるパン職人1人、小麦農家1人、土地の管理者1人いなかったら、ここにはないわけだからね」


 パンだけじゃない。

 スープの中のベーコンやジャガイモ、主菜のステーキだって、それを準備してくれた人がいたからここにある。

 思い返せば、それは私自身にも言えることだ。


 この今という時間は、あの日車に牽かれなければやってはこなかった。

 そういう意味では、あれに感謝してもいいと今では思える。


「そういったすべての、この食事をここに持ってきてくれた縁に対して感謝する言葉なんだ」

「……縁か。

 いい概念だな。つまりそれってこういうことだろう?

 俺は今、ご主人様が買ってくれてなかったらここにはいなかった。そういうのも含まれるわけだ」


 マーリンは感心したようにしげしげとパンを眺めた。

 眺めてしばらくして、彼の手が止まった。


「……なぁ、ってことはさ。

 究極的にいうならそれってもしかして、俺たち自身に自由意思とか実は存在しないってことにならないか?」

「ぶふっ!?」


 唐突にはじき出された彼の疑問に、私は思わず口に含んでいたスープを吹き出しかけた。


「な、なんだよ汚ねぇな……。そんな驚くことかよ?」


 何でもないという風に、眉根を寄せるマーリン。


「だってそうだろ?

 論理的に考えてみろよ。俺が今ここにいるのはご主人様のおかげ。そうなるには俺が奴隷として売られることと、夢魔の子だってうわさが広がっているっていう前提条件が必要ってことだろ?

 要するに、現在の状態は未来につながるための前提条件、いうなれば小説で言うところの伏線と同じ構造に近い。

 ということは、現在の状況は過去の無数の状態が作り出してるってことになるから、結局のところ俺たちは何一つ自分の意思で選んでいることにはならない」


 今しがた閃いたとばかりに語る彼に、私はあっけにとられながら口元をぬぐった。


「いや、縁起の話をしただけで、まさかこの短時間で阿弥陀如来の妙に気づく人初めて見たから……。

 それ、日本人でもなかなか知ってる人いないんだよ?」

「アミダニョライ?」

「さっき言ってた現象を擬人化したようなものとでもいえばいいかな……。

 私もあんまり詳しくは知らないんだけど」


 こぼしたスープを、ストレージから出した布巾で拭いながら軽く説明する。


「それでいいから、説明してくれないか?」

「好奇心旺盛だね、君。もしかしてこういう話結構好き?」


 布巾をストレージに戻して洗濯にかけ、私は彼の目を覗き込んだ。

 銀色の細い髪の毛の下で、蒼い瞳が宝石のように輝いている。


「これでも魔法使いだからな」

「それとこれに何の関係があるのさ?」


 ステーキを切り分け、口に運ぶ。

 うん、今日も肉厚でジューシーだ。


「術式の改良が見込めるんだよ。

 うまくやればそのアミダーニョのなんとかを使えば、魔法の自動制御術式を作れるかもしれなくて」

「阿弥陀如来ね」

「そう、それ」


 術式……。

 そういえば神殿であのイケメンも言ってたな。

 魔法を使うには術式が必要だとかなんだとか。

 仕組みの方はさっぱりわからんが。


 ……時間があったら、ギルドの図書館で勉強してみようかな、なんて思ってたけど。


 子供のように輝く瞳を向けてくる少年に、私はにやりと笑みを浮かべる。


 どうやら、もうその必要はないみたいだな。


「わかった。

 じゃあ、私が阿弥陀如来の妙について知ってるだけ教えるから、マーリンは代わりに、私に魔法を教えて。手始めに術式とは何かってところからだと嬉しいかな」

「いいぜ、交渉成立だな!」


 こうして、私はその日からマーリンによる魔法講座を受けることになった。


『スキル〈魔法〉を獲得しました』

『魔法スキル関連アーツ〈術式理解I〉を獲得しました』


現在の悠里のステータス


 +++


■ステータス■

 名前:鑑 悠里 Lv.1

 性別:女

 種族:異世界人 Lv.1

 職業:ノービス Lv.1

 称号:〈異世界人〉Lv.1

    〈臆病者〉Lv.2

    〈何にも束縛されない〉Lv.1

    〈無謀な挑戦者〉Lv.1

    〈導師見習い〉Lv.1

    〈追跡者〉Lv.1

    〈暗がりに潜む者〉Lv.1


 HP:10/10

 MP:10/10

 SP:30/30


 筋力:10

 活力:1

 速度:1

 知能:1

 感覚:8


 残りステータスポイント:0


■スキル■

◇武術系◇

 〈剣術〉Lv.4

  └〈偃月殺法〉Lv.1

 〈体術〉Lv.1

  └〈空気投げ〉Lv.1


◇魔術系◇

 〈呪詛〉Lv.1

  └〈隷属の首輪〉Lv.1

   〈契約の呪詛〉Lv.1

   〈制限の呪詛〉Lv.1

   〈洗脳〉Lv.1

   〈幻惑〉Lv.1

   〈認識阻害〉Lv.3

   〈夢の檻〉Lv.1

   〈金縛り〉Lv.1

   〈蝕む痣〉Lv.1

   〈服従の呪詛〉Lv.1

 〈魔法〉Lv.1

  └〈術式理解I〉Lv.1


◇身体操作系◇

 〈跳躍〉Lv.1

 〈咆哮〉Lv.1

 〈疾走〉Lv.1

 〈パルクール〉Lv.1


◇防御・回復系◇

 〈自動回復〉Lv.2

 〈食い縛り〉Lv.1


◇耐性系◇

 〈驚愕耐性〉Lv.1

 〈痛覚耐性〉Lv.1

 〈負傷耐性〉Lv.2

 〈転倒耐性〉Lv.1

 〈気絶耐性〉Lv.2

 〈トラウマ耐性〉Lv.1

 〈脱水症耐性〉Lv.1

 〈熱中症耐性〉Lv.1

 〈精神攻撃耐性〉Lv.1

 〈拘束耐性〉Lv.1

 〈呪詛耐性〉Lv.4

 〈隷属無効〉Lv.1

 〈恐怖耐性〉Lv.1

 〈不意打ち耐性〉Lv.1

 〈閃光耐性〉Lv.1

 〈麻痺耐性〉Lv.1


◇隠遁系◇

 〈忍足〉Lv.2

 〈気配隠蔽〉Lv.2


◇感知系◇

 〈洞察〉Lv.2

  └〈名推理〉Lv.1

 〈気配察知〉Lv.1

 〈魔力感知〉Lv.1

 〈遠見〉Lv.1

 〈暗視〉Lv.1


◇生活系◇

 〈交渉〉Lv.1

 〈高速思考〉Lv.1


◇ギフト系◇

 〈水神の加護〉Lv.1

  └〈水中呼吸〉Lv.1

   〈水上歩行〉Lv.1

   〈水袋勁〉Lv.1


 〈木神の加護〉Lv.1

  └〈成長促進〉Lv.1

   〈効力増強〉Lv.1

   〈笑桜勁〉Lv.1


 〈火神の加護〉Lv.1

  └〈二段跳び〉Lv.1

   〈燃焼無効〉Lv.1

   〈火鳥勁〉Lv.1


 〈土神の加護〉Lv.1

  └〈障壁〉Lv.1

   〈土圧無効〉Lv.1

   〈捻央勁〉Lv.1


 〈金神の加護〉Lv.1

  └〈金属操作〉Lv.2

   〈即死耐性〉Lv.1

   〈拡金勁〉Lv.1


 〈五行神の加護〉Lv.1

  └〈気功法〉Lv.1

    └〈遠当て〉Lv.1

     〈沈墜勁〉Lv.1

     〈纏絲勁〉Lv.1

     〈十字勁〉Lv.1


 残りスキルポイント:0


 +++



読んでいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ