16. 追跡?
ミネルバ宅を後にした私は、路地裏に場所を移してマップ画面を開いていた。
「さて、どこから探そう……」
どこかでジルバの姿を見なかったか、なんて人に聞いて回ることは私にはできない。
それにたぶん、聞いて回るくらいは彼女だってしているはず。
依頼するにもお金がかかるんだ、事前にできる限りのことはしているだろう。
となれば、聞き込みはあまり意味がない。
ミネルバから聞いた話によれば、ジルバは高いところが好きという。
ゲーム的にも、おそらくそれがヒントになっているはずだ。
ならばこの依頼のコンセプトから逆手にとって、高いところから探してみるのがいい気がする。
「だとすると、この近辺だとまずは時計塔かな……」
すっくと立ちあがって、マップの案内に従って時計塔を目指した──が。
「そう簡単には見つからないかぁ」
塔の最上階。
巨大な鐘が吊り下げられた鐘室から地上の景色を見下ろしながらため息を吐く。
ここに上ってくるまでに、内部の機械室から順番に隈なく探してみたが、それらしい痕跡は全く見つからなかった。
というかそもそも、外から入り込む余地はほとんどない。
入り口は関係者以外立ち入り禁止の鉄門扉。
ドアノブにも扉の角にも、猫が引っ掻いた後みたいなのは見つからなかったし、飛び移れそうな窓も一階付近にはなかった。
もし入ることがあったとしたら、管理人が扉を開けた隙に滑り込むくらいしかないだろうし、もしそういうことで入り口に痕跡がなかったとしても、猫が好きそうなルートには爪痕なりなんなりが残っているはず。
それが全く見当たらなかった。
管理者の人に聞いても、中で猫の声を聞いたり姿を見たという人はいないみたいだったし……外れか。
『スキル〈遠見〉を獲得しました』
しばらく考え事をしながら遠くを眺めていると、不意にそんな通知が視界の隅を掠めた。
調べてみると、どうやら遠視力を強化するパッシブスキルらしい。
多少強化されたところで、ここから見渡して見えるとは思えないけど──一応試してみようかな。
「アクティベート」
瞬間、眼下に広がる景色がより精細に映し出され、ぼやけてよく見えなかった人の顔がくっきりと見えるまでになった。
地面に敷き詰められた煉瓦タイルの溝まで見える。
「おぉ、50mくらいの高さでも人の顔見えるのってなんか気持ち悪いな……」
想像してみてほしい。
人差し指の関節くらいのサイズの人影をみて、その人物の顔がわかるという状態を。
なんだかうじゃうじゃしていて気持ち悪い感覚に襲われるのは分からなくもないはずだ。
あと普通に眩しい。
多分目に入ってくる光の量が増えたせいだろうな……などと思っていると、〈閃光耐性〉のスキルを取得した通知が視界の端に流れ、眩しさが軽減された。
まったく便利な体だ。
「ここからジルバを探すのは……できなくはないだろうけど時間がかかりそうだね……」
とは言いつつもざっと屋根の上とかを観察して、特にそれらしい影がないのを確認する。
猫が集会してるところを見つけられたりすればよかったが、見える範囲にはそういうものは無いようだった。
私は軽く目頭を揉むと、スキルをイナクティベートして鐘室を降りた。
「もうよろしいんですか?」
「はい、帰ります」
ここまで付き添ってくれていた管理者の男性に、小さく笑みを向けながら階段を下る。
「ご協力ありがとうございます」
「いえ、お力になれたようで何よりです」
時計塔の出口で軽く言葉を交わしてその場を後にする。
悔しいが手掛かりは何も得られなかった。
「となると後考えられるところは……」
ミネルバからもらったヒントを思い返す。
ジルバは高いところが好き。
昼まで寝てて、夕飯ごろには帰ってくる。
それから冒険者だった旦那さんの相棒でもあって頭もいい。
見た目は普通の毛が長い白猫で、青と黄色のオッドアイ。
鼻がピンクだけど、黒いぶち模様がある。
その詳しい外見は彼女がジルバの抜け毛で作った人形の通り。
……抜け毛?
……異世界ものの設定って、生きている者には皆魔力があるっていうパターンと、貴族とか特別な人にしか魔力がないパターンの2種類あるんだよな。
この世界がどっちかはわからないけど、もし仮に魔力自体は誰にでもあるパターンなんだとしたら、ジルバの抜け毛で作った人形には、ジルバの魔力が残っている可能性があったりしないか?
だとしたら〈魔力感知〉で追跡できたりしないだろうか?
私は、ストレージから人形を引っ張り出すと、まずは鑑定画面を開いて魔力の有無を確認してみることにした。
+++
アイテム名:妖精猫のフェルト人形
分類:芸術品
性能品質:粗悪品
芸術品質:中品質
耐久値:22/25
魔力量:8/10
潜在力:0/0
強化率:0%
追加効果:軽量化(0.0001%)
売値:非売品
かつて冒険者と行動を共にした妖精猫の毛でできたフェルト人形。
+++
「やっぱり!」
どうやら私の想像は正しかったようだ。
「……というかジルバって普通の猫じゃなかったんだね」
私はさらに〈魔力感知〉を使って内部の魔力に焦点を当てて、再度鑑定画面を開く。
『魔力の成分データを抽出しました。
マップと連携して魔力残滓を表示します。追跡しますか?』
「そんなことができるんだ……」
追跡できるというのなら是非もない。
私は『実行』と書かれたボタンをタップすると、同時に現れたマップ画面を頼りにジルバの行方を辿った。
『称号〈追跡者〉を獲得しました』
***
便利なことに、マップに表示された魔力残滓からは、さらに鑑定を重ねることで、いつ頃ジルバがそこを通ったかという時系列データまで取得することができた。
「それにしてもさすが猫。
道路とかお構いなしだね……」
喫茶店で少し早いお昼ごはんを楽しみながら、ジルバの足取りを追う。
ちなみに頼んだのはオムレツだ。
日本だとオムライスなら食べたことがあるけど、よくよく思い返すとオムレツって人生で初めて食べたかもしれない。
コーヒーソースがかかった、少し苦みのある料理。
卵に包まれたひき肉の淡白な甘味と合わさってなかなかおいしい。
料理は苦手だけど、これなら私にも作れそうな気がする。
(目玉焼きとかスクランブルエッグくらいなら作れるし、意外とこういうのも何とかなりそう)
それに今の私にはスキルをバンバン取得できるチートがある。
それさえあればきっと問題ないだろう。
たぶん。
「……見つけた」
オムレツを半分ほど食べ終えたころだった。
ある場所でジルバの魔力が一切動かなくなっているのを見つけて、私はぽつりとつぶやいた。
高いところが好きと言っていたくせに、ずいぶんと路地裏を行ったり来たりしていたんだな、なんて思っていたが、昨夜のあたりでとある倉庫の中に入ったきり、ほとんどその場から動いていないことに違和感を覚える。
「変だな……」
コーヒーに口をつけながら移動履歴を睨み──違和感の正体はすぐにわかった。
ジルバがいなくなった日の午後に差し掛かったあたりから、その移動速度が異常に速くなっている。
それが昨日の昼辺りになって急におとなしくなって、かと思えばこれまでと違って路地裏の地面を中心に移動。
ここから導き出される予想としては、ジルバはおそらく、誰かに追い詰められた末に捕まって、あの場所に留められているのだろう、ということに他ならなかった。
『スキル〈洞察〉のレベルが2に上がりました』
『洞察スキル関連アーツ〈名推理〉を獲得しました』
現在の悠里のステータス
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■ステータス■
名前:鑑 悠里 Lv.1
性別:女
種族:異世界人 Lv.1
職業:ノービス Lv.1
称号:〈異世界人〉Lv.1
〈臆病者〉Lv.2
〈何にも束縛されない〉Lv.1
〈無謀な挑戦者〉Lv.1
〈導師見習い〉Lv.1
〈追跡者〉Lv.1
HP:10/10
MP:10/10
SP:20/20
筋力:5
活力:1
速度:1
知能:1
感覚:1
残りステータスポイント:5
■スキル■
◇武術系◇
〈剣術〉Lv.4
└〈偃月殺法〉Lv.1
◇魔術系◇
〈呪詛〉Lv.1
└〈隷属の首輪〉Lv.1
〈契約の呪詛〉Lv.1
〈制限の呪詛〉Lv.1
〈洗脳〉Lv.1
〈幻惑〉Lv.1
〈認識阻害〉Lv.2
〈夢の檻〉Lv.1
〈金縛り〉Lv.1
〈蝕む痣〉Lv.1
〈服従の呪詛〉Lv.1
◇身体操作系◇
〈跳躍〉Lv.1
〈咆哮〉Lv.1
〈疾走〉Lv.1
〈パルクール〉Lv.1
◇防御・回復系◇
〈自動回復〉Lv.2
〈食い縛り〉Lv.1
◇耐性系◇
〈驚愕耐性〉Lv.1
〈痛覚耐性〉Lv.1
〈負傷耐性〉Lv.2
〈転倒耐性〉Lv.1
〈気絶耐性〉Lv.2
〈トラウマ耐性〉Lv.1
〈脱水症耐性〉Lv.1
〈熱中症耐性〉Lv.1
〈精神攻撃耐性〉Lv.1
〈拘束耐性〉Lv.1
〈呪詛耐性〉Lv.4
〈隷属無効〉Lv.1
〈恐怖耐性〉Lv.1
〈不意打ち耐性〉Lv.1
〈閃光耐性〉Lv.1
◇隠遁系◇
〈忍足〉Lv.2
〈気配隠蔽〉Lv.2
◇感知系◇
〈洞察〉Lv.2
└〈名推理〉Lv.1
〈気配察知〉Lv.1
〈魔力感知〉Lv.1
〈遠見〉Lv.1
◇生活系◇
〈交渉〉Lv.1
〈高速思考〉Lv.1
◇ギフト系◇
〈水神の加護〉Lv.1
└〈水中呼吸〉Lv.1
〈水上歩行〉Lv.1
〈水袋勁〉Lv.1
〈木神の加護〉Lv.1
└〈成長促進〉Lv.1
〈効力増強〉Lv.1
〈笑桜勁〉Lv.1
〈火神の加護〉Lv.1
└〈二段跳び〉Lv.1
〈燃焼無効〉Lv.1
〈火鳥勁〉Lv.1
〈土神の加護〉Lv.1
└〈障壁〉Lv.1
〈土圧無効〉Lv.1
〈捻央勁〉Lv.1
〈金神の加護〉Lv.1
└〈金属操作〉Lv.1
〈即死耐性〉Lv.1
〈拡金勁〉Lv.1
〈五行神の加護〉Lv.1
└〈気功法〉Lv.1
└〈遠当て〉Lv.1
〈沈墜勁〉Lv.1
〈纏絲勁〉Lv.1
〈十字勁〉Lv.1
残りスキルポイント:0
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次回もよろしくお願いいたします!




