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転生勇者(♀)の異世界旅行記《トラヴェローグ》  作者: 青咲凛
第1章 地下水道の幽霊

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14. 横取り?


 掲示板から依頼を引っぺがして受付嬢に持っていけば依頼が受けられる。

 そういう話を昨日のうちにアイザックから聞いていた私は、何かいい仕事がないかと掲示板の前に突っ立っていた。


「うぅん、あんまり冒険者らしい仕事が残ってないなぁ……」


 貼られているのは迷子の猫探しや地下水道の掃除、土木作業の手伝い、露店の護衛などである。

 冒険者らしい採取依頼や討伐依頼がまるで少ないことに、私は不満げに頬を膨らませ──ふと、地下水道の掃除依頼の裏に、もう1枚依頼書が隠れているのを見つけた。


 結構乱雑に掲示されているものだから、きっと埋もれてしまってそのままだったのだろう。


(こういうところに、大体面白そうな出会いが隠れてるんだよねぇ)


 ラノベとか漫画とか、そういうものだと結構ありがちな奴だ。

 ただのボロボロの剣だと思っていたら実は聖剣とか魔剣だったりするし、埋もれてだれも手に取らない、特に何の変哲もない依頼だと思っていたら、その後ろに何か大きな事件が待っていたり。


 私は、そういう出会いを期待しながら、隠れていた依頼書を引っぺがしてみた。


 依頼の内容は──


「『地下水道の幽霊退治』……?」


 驚きのあまり、思わず読み上げてしまう。


(まあ、異世界だしアストラル系のモンスターくらいいるよね……)


 一瞬、お化けなんているの!? と思ってしまったが、ここは前世の地球とは全く異なる世界だ。

 幽霊、なんて翻訳されているが、実際は幽霊っぽい見た目の魔物のことか、あるいは幽霊と見間違えてしまった何か別の魔物という方が現実的だろう。


(ちょっと面白そう)


 依頼人の名前はホーフ。

 地下水路の管理をしているいわゆる市役所の役員みたいな人らしい。

 話によれば、何か月か前から地下水路の点検に向かったチームのうち1人が行方不明になっているのだという。

 よくあることなので、チームの別動隊が捜索に入ったら、行方不明者はちゃんと見つかったのだとか。

 問題はそのあと。

 見つかった行方不明者が、もう二度と地下水道には入りたくないという。

 理由を聞けば、幽霊を見たとか。

 それが怖くて、暗いところにも行けなくなったらしい。

 そういうのが数ヵ月続いていて事業に支障が出ているので、幽霊を発見して報告、できれば討伐してほしいという。


「報酬は……」


 視線を移すと、もともと大銀貨1枚と書いてあった場所に2回も修正印が押され、最終的に大銀貨2枚と大銅貨30枚に吊り上がっていた。


「2.5倍……」


 インクのカスレ具合から推察して、依頼自体は埋もれていたみたいだが、忘れられていたわけではないみたいだ。

 なのにあえてこんな分かりづらいところに隠しているというのは……何か裏があるのだろうか?

 例えばギルド側がこの依頼を、あまりやらせたくないと思っているとか?

 だけど被害が出て仕事にならないから役所は報酬を上乗せしてて、それでも人が来ないから地下水道の掃除という形で新たに募集した……。


 改めて地下水道の清掃依頼と報酬金額を比べてみると、こちらの方は大銀貨2枚と少し少なめの設定。

 他の余っている依頼が大体大銅貨30枚からなのを考慮すると4倍と破格の金額で、私の推理をさらに裏付けさせる。


「よし、これにしよう」


 家を建てるならそれなりにお金も必要だしね。


 私は依頼書を引っぺがすと意気揚々と受付嬢のもとへ足を運んだ──が。


「申し訳ありません、ユーリさん。

 こちらの依頼は推奨攻略人数が3人以上と設定されておりまして……」

「あ……そ、そうですか……」


 申し訳なさそうに依頼書を引っ込める受付嬢に、がっくりと肩を下ろす。

 せっかくなんだかおもしろそうな依頼だと思ったのに。


「もしよろしければ、パーティを募集なさいますか?」

「えっ」


 冒険者ギルドってそんなことまでしてくれるんだ、と少し驚き、彼女の顔を見上げた。

 営業スマイルが少し目に痛い。


「紹介……ですか」

「ええ、手が空いている冒険者の方をこちらで募集させていただきます。

 制度上、1人当たり銀貨1枚を徴収させていただくことにはなりますが、その分トラブル等が発生した場合はギルドが責任もって仲裁させていただきますよ」


 彼女の言葉に、私は難しい顔をした。


 1人当たり銀貨1枚。

 この依頼だと推奨は3人だから、募集するとなると銀貨2枚かかることになる。

 依頼の報酬を考えると、まるで割に合わない料金だ。


 今回は申し訳ないが、別の依頼を受けることにしよう。

 そう思って口を開こうとした時だった。

 背後から、聞き覚えのある声が飛んできたのは。


「その必要はないわ!」


 私を押し退けて、カウンターに身を乗り出す金髪の少女。

 その腰にはレイピアとマン・ゴーシュが吊り下げられている。


 たしか、名前はジュン・アラストールだったか。


「勘違いしないでほしいのだけれど、この子とパーティを組みたいと言っているわけじゃないわ。

 生憎、お荷物を同行させられるほど私も強くないもの」


 キッ、とこちらを睨むように見下ろす少女に、私は思わずうろたえる。


「私のパーティが、代わりに受けてあげると言っているのよ」

「ジュンさん、依頼の横取りは規則違反です」

「あら? 貴女まさか受けるつもりだったの?」


 受付嬢の指摘に、ジュンが鼻を鳴らす。


「貴女みたいな弱い子に、勤まる依頼じゃないと思うのだけれど」


 カウンター越しに依頼書をひったくって中身を確認しながら言う。


「思った通り、例の依頼だったわね。

 余り物で推奨3人なんてこれくらいしかないもの」

「まさか、すべての依頼を暗記していたんですか?」

「いいえ、ただずっと前から狙ってたってだけよ。面白そうだもの、これ」


 驚く受付嬢に、ジュンは肩をすくめて依頼書を突き返した。


「それで、あなたこの依頼受けるの?

 うまみはないと思うけれど」


 鋭い眼光でこちらを見下ろす彼女。

 昔なら怖くてひるんでいたかもしれなかったけど──なんでだろう、今は不思議と、あまり怖くない。


(あ、〈恐怖耐性〉があるからか)


「あー、えっと、そうですね。

 おっしゃる通り割に合わないので、今回は辞退します」

「そ、ならありがたく受けさせてもらうわね」


 ニコリ、と笑みを浮かべるジュンに、私は愛想笑いを返しながら身を引く。


 ……どうやら冒険者というのは、一筋縄ではいかないらしい。


 私は小さくため息を吐くと、代わりに迷子の猫探し依頼の書類を引っぺがして、別の受付嬢のところへ持っていった。


読んでいただきありがとうございました!

次回もよろしくお願いいたします!


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