12. 弟子入り?
油断なくブロードソードを構えるアイザックを前にして、私はどう切り込むべきか迷っていた。
デバフ系──例えば認識阻害や気配隠蔽は、格上相手には通用しない可能性が高いことは、神殿でアンジェロに呼び止められたことからなんとなく察しがついている。
スキル欄の説明には特に、格上相手には効かない、などという文言こそなかったが、元とはいえAランクなのだ。小手先の技に対する対処を持っていないわけがない。
──ならば、スキルに頼らない手で崩すしかない。
じり、じり、と剣を構えながら、私はアイザックの背後へ回り込むように歩を進める。
しかし当然、彼もそれに合わせて向きを変える。
距離も角度も、常に正面に保たれている。
でも、それでいい。
──影の向き。
──ブレードの反射光。
──重心の乗り方。
──わずかな視線の揺れと、呼吸の間。
それらを一つずつ拾い上げながら、私は機を待つ。
そして──その瞬間が来た。
「……ッ!」
刀身をわずかに傾ける。
跳ねた日光が、鋭く彼の視界へと差し込んだ。
「ぬッ!?」
反射的に視界を閉ざすアイザック。
彼の視界を奪った──その確信とともに私は懐へ飛び込んだ。
〈気配隠蔽〉〈認識阻害〉〈忍足〉を同時に走らせ、眼帯側の死角へ滑り込む。
低く潜り込み、下段から袈裟へとショートソードを振り上げる。
『剣術スキル関連アーツ〈偃月殺法〉を獲得しました』
──取った。
刃は、確実に届く軌道を描いていた。
「ッ!?」
次の瞬間、重い衝撃が刀身から伝わってきて体勢を崩す。
まるで、急に膝の力が抜けたようになって、地面の感覚があやふやになるような──。
「んッの!」
寸でのところで〈転倒耐性〉が働き、私の両足が地面を掴む。
私はそのまま後方に飛びのいて態勢を整えると、切っ先を彼の方に向けて警戒の姿勢をとった。
先ほどまで私がいた場所には、抜き身のブロードソードが突き立てられている。
背筋に冷や汗が伝う。
「ふふ、これはこれは……なかなかやるではないか」
アイザックはゆっくりと剣を引き抜き、こちらを見て笑った。
「今のは……目潰しか。光の使い方も悪くない」
「あ、ありがとうございます……」
何が起きたのか、正直分からなかった。
背骨ごと持っていかれそうな重い衝撃……。
ただの打ち払いだけで体幹を崩されたというには、不可解な衝撃の伝わり方だった。
「〈偃月殺法〉なんて、よく知っていたな」
「じ、時代劇でやっていたのを思い出したんです。これならいけるかなって思って……」
「見よう見まねであそこまで形にするか。大したものだ……」
アイザックはニッと笑みを浮かべる。
「視覚を潰し、さらに気配もぼかす。発想としては悪くない」
「ありがとうございます!」
思わず顔がほころぶ。
「だが、君の攻撃は狙いが正直すぎる。
それでは近所の悪ガキならともかく、魔物や山賊には通用しないぞ?」
「ぐぬぬ……」
上げて落とすなんて卑怯な、と思わず彼を睨みつけてしまう。
「じゃあ、どうすればよかったんですか」
「ブラフを混ぜるんだ。
ほら、よく言うだろう?
全てが嘘のものは見破られやすいが、一抹の真実を混ぜると人は信じやすくなる」
肩をすくめて見せる彼に、私はなるほどと納得する。
「まあ、言うは易し、為すは難しだ。
実際にやって見せるから覚えなさい。今日はそれができるまで帰さないから覚悟しろ」
言って、アイザックは低く重心を落とし、地面を蹴った。
肉薄する巨漢が剣を振り上げる。
右からの水平切り──。
私は咄嗟に後方へ跳ぼうとして──
「ッ!?」
足に鈍い衝撃。
(踏まれた!?)
回避の起点を潰される。
体勢を立て直そうと剣を構え直した瞬間──
「ガハッ!?」
腹部に叩き込まれた蹴りで、呼吸が止まる。
そのまま踏み込むようにして地面に縫い付けられ、逃げ場を完全に封じられた。
(この至近距離で……!?)
冷たい剣の腹が、頬を軽く叩く。
もしこれが実戦なら、今ので私の首は胴体とおさらばしていただろう。
桁違いの実力。
スキルによらない、技の妙技──。
「どうだ?
斬られると思っただろう?」
「ぐ……は、はい……」
アイザックは足をどかし、愉快そうに笑う。
「これがブラフだ。
斬ると見せて、別の手で潰す」
私は荒い息を整えながら、ゆっくりと体を起こした。
〈自動回復〉がじわりと痛みを消していく。
「全部の気配を消す必要はない。
むしろ一つは見せろ。相手に読ませるための餌だ。
こういうのを陰中の陽と呼ぶわけだが、まあ詳しい話は追々してやろう」
「餌……」
アイザックの言葉を咀嚼するように繰り返す。
繰り返して、ふと続けられた言葉に思わず頭を上げた。
「追々?」
「ああ。
お前さえよければ、弟子にしてやりたくてな。才能もあるし、教え甲斐がある。
いい暇つぶしにはなるだろう」
ぱくぱく、と何かを言おうとしては言葉にならずに無音だけが零れ落ちる。
言葉にならない何かの衝撃が、まるで私を餌を待つ鯉のように困惑させたのだ。
これも、ブラフという奴だろうか?
「さ、その話はまた今度だ。
陰中の陽、体得するまで帰さんから覚悟しろよ?」
それから私は、その日数時間にわたって彼の剣を叩きこまれたのだった。
『スキル〈剣術〉のレベルが4に上がりました』
『スキル〈気配隠蔽〉のレベルが2に上がりました』
『スキル〈忍足〉のレベルが2に上がりました』
『呪詛スキル関連アーツ〈認識阻害〉のレベルが2に上がりました』
***
「つかれたぁ……」
ふらふらと宿に戻ってきた私は、思わずベッドの上に倒れ伏した。
初心者講習は思っていたよりハードで前世の私なら全身筋肉痛に襲われても仕方のないほどだった。
幸いなのは、〈自動回復〉のおかげでそれが起こらないということだろうか。
おかげさまで体力だけはばっちり回復していて、残っているのは精神的な疲労ばかりである。
「デイリークエストしなきゃ……」
幸い、5km走るという項目は今日の講習で何とか達成していた。
5kmどころかその倍くらいは走らされた気がする。
おかげで今ではスタミナが20もある。
昨日よりさらに健康になった気分だ。
まあ、普段しない運動ばかりさせられているから当たり前と言えば当たり前なんだろうけど。
私はもそもそと起き上がると、筋トレを始めた。
腕立て20回。
腹筋20回。
スクワット20回。
なんだか昨日より、少し楽にこなせている気がする。
筋力のステータスが上がったからだろうか?
報酬を受け取り、確認がてらもう一回やってみると、確かにさっきよりかなり楽にこなせている気がする。
『追加報酬クエスト開示の条件が達成されました。
追加報酬クエストを確認しますか?』
次の瞬間だった。
不意に目の前に開いたメッセージウィンドウに、私は思わず動きを止めた。
「追加報酬……?」
現在の悠里のステータス
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■ステータス■
名前:鑑 悠里 Lv.1
性別:女
種族:異世界人 Lv.1
職業:ノービス Lv.1
称号:〈異世界人〉Lv.1
〈臆病者〉Lv.2
〈何にも束縛されない〉Lv.1
〈無謀な挑戦者〉Lv.1
〈導師見習い〉Lv.1
HP:10/10
MP:10/10
SP:20/20
筋力:5
活力:1
速度:1
知能:1
感覚:1
残りステータスポイント:0
■スキル■
◇武術系◇
〈剣術〉Lv.4
└〈偃月殺法〉Lv.1
◇魔術系◇
〈呪詛〉Lv.1
└〈隷属の首輪〉Lv.1
〈契約の呪詛〉Lv.1
〈制限の呪詛〉Lv.1
〈洗脳〉Lv.1
〈幻惑〉Lv.1
〈認識阻害〉Lv.2
〈夢の檻〉Lv.1
〈金縛り〉Lv.1
〈蝕む痣〉Lv.1
〈服従の呪詛〉Lv.1
◇身体操作系◇
〈跳躍〉Lv.1
〈咆哮〉Lv.1
〈疾走〉Lv.1
〈パルクール〉Lv.1
◇防御・回復系◇
〈自動回復〉Lv.2
〈食い縛り〉Lv.1
◇耐性系◇
〈驚愕耐性〉Lv.1
〈痛覚耐性〉Lv.1
〈負傷耐性〉Lv.2
〈転倒耐性〉Lv.1
〈気絶耐性〉Lv.2
〈トラウマ耐性〉Lv.1
〈脱水症耐性〉Lv.1
〈熱中症耐性〉Lv.1
〈精神攻撃耐性〉Lv.1
〈拘束耐性〉Lv.1
〈呪詛耐性〉Lv.4
〈隷属無効〉Lv.1
〈恐怖耐性〉Lv.1
〈不意打ち耐性〉Lv.1
◇隠遁系◇
〈忍足〉Lv.2
〈気配隠蔽〉Lv.2
◇感知系◇
〈洞察〉Lv.1
〈気配察知〉Lv.1
〈魔力感知〉Lv.1
◇生活系◇
〈交渉〉Lv.1
〈高速思考〉Lv.1
◇ギフト系◇
〈水神の加護〉Lv.1
└〈水中呼吸〉Lv.1
〈水上歩行〉Lv.1
〈水袋勁〉Lv.1
〈木神の加護〉Lv.1
└〈成長促進〉Lv.1
〈効力増強〉Lv.1
〈笑桜勁〉Lv.1
〈火神の加護〉Lv.1
└〈二段跳び〉Lv.1
〈燃焼無効〉Lv.1
〈火鳥勁〉Lv.1
〈土神の加護〉Lv.1
└〈障壁〉Lv.1
〈土圧無効〉Lv.1
〈捻央勁〉Lv.1
〈金神の加護〉Lv.1
└〈金属操作〉Lv.1
〈即死耐性〉Lv.1
〈拡金勁〉Lv.1
〈五行神の加護〉Lv.1
└〈気功法〉Lv.1
└〈遠当て〉Lv.1
〈沈墜勁〉Lv.1
〈纏絲勁〉Lv.1
〈十字勁〉Lv.1
残りスキルポイント:0
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読んでいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いいたします!




