11. 開幕?
準備を終えて訓練場に戻ってくると、スキンヘッドに眼帯をしたおじさん──アイザックが待って居た。
相変わらず恐ろしい風貌をしている。
ドウェ〇ン・ジョンソンがマフィアの役をやったらこんな感じになるのではないだろうか?
まぁ、私には人の顔の違いなんてよく分からないんだけど。
昔から人の顔なんて見てなかったからね。
動きの癖とか髪型とかでしか判別できないんだよなぁ。
外国人になるともう一層わからなくなる。
「恐ろしく速い復帰だな。怪我はもういいのか?」
「あ、はい。もう全然、大丈夫です」
「お前は本当に何者なんだ……。
強いのかと思えば一瞬で気絶して神殿送りになるし、かと思えば一時間足らずで復帰しやがって」
やれやれ、と肩をすくめるドウェ〇ンもといアイザック。
「す、すみません……」
「いや、誇っていいぞ。
何にせよ、冒険者っていうのは体が資本だからな。頑丈であることはいいことだ」
「はい……」
確かに、スピードアタッカーとしてやっていく上で、この復帰力の速さは捨てがたい。
〈剣術〉スキルもあとレベル2個あげればカンストするし、次は〈自動回復〉を育てていこう。
「さて、聞いていると思うが、お前はまだ初心者講習を修了していない。
だが、さっきの講習で君たちに使ったオーガはしばらく動けない。
そこで、今回は特別に、私が直々に君に戦い方というものを教えてやろう」
「あ、ありがとうございます」
つまり、やっぱり彼と模擬戦をしなきゃいけないってことなんだよね?
あの巨大な魔物を相手にするよりは断然いいかもしれないけど……人を相手にすると思うと、少し落ち着かない。
「ユーリは、魔物と戦ったことはあるかね?」
「えっと……ないです」
アルミラージに追いかけまわされたことはあるけど、あれは流石に戦ったとはカウントできないだろう。
あとは初心者講習のオーガだけど……後ろに回り込んだら弾き飛ばされて気絶しただけだしなぁ……。
「人間と魔物の戦い方は、基本的に同じだ。
相手の動きをよく見て、予備動作から次の攻撃を推察し、対処する。
互いにその読み合いで構成される。
魔物は、普通の動物と違って頭がいいからな。
だが、魔物が動物と異なる部分は他にもある」
言って、アイザックは懐から親指の爪ほどのサイズの石を取り出した。
「これはアルミラージの魔石──言うなれば魔物の心臓だ。
今は私のスキルで拘束しているが、この拘束を解けば内側に込められた魔力を使ってすぐさま元の姿に再生するだろう。
持ってみろ」
手を差し出すと、その暗い青紫色の石を両手に置いた。
重い。
そして心臓のように脈打っている。
「あ、あったかいんですね」
「ああ、それはずっと私の懐に入れていたからだな。
本来は冷たい」
「……」
思わず、お前の体温かよ! と叫びそうになったのをぐっとこらえる。
「魔物は他の動物と違って、その構成材料は肉と骨というより魔力の塊と考えた方がいい。
だから繁殖の必要もないし、エサを食べる必要もない」
「……じゃあ、なぜ人を襲うんですか?」
「知らん。が、一説によれば、それは自然と人類のバランスをとるために、神がそう仕組んだのだと言われている」
言われて、頭に浮かんだのは前世の地球の総人口と自然破壊の実情だった。
人間は増えすぎた。
住む場所も資源も限られる中で、文明だけが発達し、本来ならば淘汰されるべき私のような社会的弱者まで生き残ってしまった。
結果、土地や資源の奪い合いが起きている。
──魔物は、それを防ぐために仕込まれた、人間の天敵ということなのだろうか。
だとしたら、その在り方はあまりにも──。
「というわけで、魔物を殺すためには魔石を破壊する必要がある。
それができなければ、魔石から魔力がなくなるまで殺し続けるかだな
わかったか?」
「はい、わかりました」
アイザックが魔石を懐に戻す。
「よし、ならば堅苦しい講義は終わりだ」
アイザックが腰のブロードソードを抜く。
中天に差し掛かった太陽の光が、ぬらりとそのブレードを濡らした。
まるで、その刃の輝きを確かめるように。
「武器を持って構えろ──と言いたいところだがその前に確認だ」
彼が剣を抜くのを見て自分も腰のショートソードに手をかけた時だった。
アイザックはそんな風に言葉を投げかけて、私の動きを止めた。
「戦いは、頭で考える前に体が動くようにならなくては話にならん。
魔物との戦いも、人間との戦いも、だ」
──違和感。
彼の声が、さっきまでと比べて少し、暗く、重くなっている気がする。
というか、なんだろう。
話しながら、徐々に重心を落としているような……?
「つまり……ちゃんと避けろよ?」
思考よりも先に、足が後ろへ退いた。
同時に、柄にかけた手が剣を引き抜く──が、間に合いそうにない。
加速した思考が、世界をゆっくりとコマ送りにしていく。
振り下ろされるブロードソード。
剣を引き抜くには時間が足りない──ならば。
「──ッ!」
空中で、鞘を後ろに引きながら抜きかけの剣を前に押し出した。
わずかに閃いた刀身の根元で、その衝撃を受け止める。
重い──ッ!
私はその衝撃を利用して、より間合いを取るように腕を突き出した。
(あ……っぶなあ!?)
ドクドクと早鐘を打つ心臓。
突然の一撃に驚きはしたものの、私は冷静に剣を構えて見せた。
不思議と恐怖心はなかった。
ただ、頭の中は驚くほどにクリアで、むしろ握ったこともない剣の扱いが何となく自然と理解できることの方に驚いていた。
そしてそれは同時に、彼の剣の技量も可視化させているかのような感覚を与えた。
「驚いた」
息を整える間もなく視線を上げると、アイザックはこちらを見下ろしながら目を細めて言った。
「剣はどこで習った?」
「えっと、独学で」
答えにはなっていなかったが、多分嘘はついていない。
ごまかしたような笑みを浮かべて返すと、アイザックは『そうか』と呟いてにやりと笑みを浮かべた。
「そうか、独学であの防御を思いつくか」
ケラケラと笑うアイザックに、私は怪訝な顔を浮かべる。
「普通はな。みんな、剣を抜いてから防ごうと考えるんだ。
だが君は、半ば鞘に納めながら防いだ。
これがどういうことかわかるか?」
「……もし片手だったら、防げなかった?」
そう、たとえるなら暖簾に手をかけるように。
衝撃で私の剣は押しやられ、アイザックの剣だけが私の体を斬り裂いていたかもしれない。
でも私は剣を抜き切らなかった。
咄嗟のことで抜ききる暇がなかったからというのが大きいが、結果的には両手でしっかりと防ぐことにつながったのだ。
「本来なら防いだところで回り込んで斬ることも可能だったんだがな。
だから避けろと言ったんだが……今回はサービスだ」
肩に剣を担ぐアイザックに、私はなるほどと頷いた。
そんなこと言われたって、防御しないと避けたところでもう一歩踏み込まれて斬られていたのだろうが。
「というわけだ。
お前の剣の腕を見てやる。まずは自由に打ってこい。少しは使えるようにしてやろう」
私は、楽しそうに笑うアイザックを見て、考えを改めた。
そうだ。
これは初心者講習。
失敗したって殺されるわけじゃない。
それなら──目いっぱい、彼の胸を借りよう。
「……よろしくお願いします!」
『スキル〈不意打ち耐性〉を獲得しました』
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