一方、外出組では、
翼のある大きなヘビの頭に何本かの細い魔法の線が吸い込まれる。キャラバンのメンバーが起き出す前に出発した素材採集組の3人。今日は何日目だろうか。本日、何回目かの魔獣との戦い。
「あいかわらずえげつないなあ。」
つぶやくとニクスがすかさず解体を始める。
「割と価値のありそうな個体だからいつもより丁寧に解体したほうがいいかも。」
後ろから声をかけるシーラ
「詳しいのは草だけじゃなかったのかよ。」
何故かボヤくニクス、
そんなやり取りに少し離れた場所にいるカナタが声をかける、
「終わったら昼にしようか。」
このヘビは血液も素材になる。仮の器から蓋付きの器に血液を移すなどの細かいところはカナタも手伝って翼の有るヘビの解体を終える。
手ぶらに見える一行には不釣り合いなテーブルと椅子に炊事道具が並ぶ。見た目はまるでピクニック。誰一人武器すら持っていない。なんなら3人とも着ているものの見かけも街中の普段着だ。実はヘタな中級冒険者の本気な勝負装備より防御力が高かったりするが。
今回の道具はすべてシーラのマジックバッグに仕舞われていたもの。彼女の趣味でオシャレに配置されている。さらにシーラはマジックバッグバッグからロザンに作ってもらったお弁当を取り出す。何日経っても食べごろのまま保存される優れもののマジックバッグ。キャラバンのメンバーに一人一個の支給品。今日のお湯を沸かす係はカナタのようだ。すでに沸いているお湯を茶葉に注ぐ。せっかく出した炊事道具の使い道はこれくらいしか無かったのは誰も突っ込まない。
「あのぉ〜、少しは俺の見せ場を作ってくてもいいんじゃないかなあと、」
食事を頬張りながらニクスは言う。出発時からまったく戦闘をさせてもらえない欲求不満のニクスの不平に、シーラは答えて、
「勇者様があんなのいくら倒したって経験値の足しにならないでしょ。」
わきまえているシーラはよほどのことがない限りニクスをキャラバン内でも勇者と呼ばない。ここなら聞くとも無しに聞いているような″世間の耳″すらも無いだろうからの言葉。なにせニクスはその時代時代ににただ一人しか存在しないという勇者だから。奴隷で有るニクスの所有権はカナタにあるし譲渡の絶対拒否は王様に対してでも認められると国際法にも明記されているが、それでもなお入ってくる横槍はうっとおしいし王様なんかに拒否権を使ったらロクなことにならない。そして、マスターもキャラバンも気に入っているニクスからしたら他所に売り込む気はさらさら無いから自分から口にすることもめったにない。結局、生涯未公表のままだったから後の歴史書にも御伽噺にも勇者としてのニクスの名前は記されなかった。
「ヘイヘイ、その勇者様がカーストで下から数えたほうが早いなんてうちのキャラバンは…、」
スネた時の勇者様のいつものグチである。
「そろそろかたづけて午後の部としようか。」
毎度のことなのでグチには無反応にカナタが言う。
「あーあ、今回はお子様の付き添いで終わりかよ。」
なおもぼやきながらもしっかりと出発の準備を始めるニクス。
「ドウドウ、」
手慣れたシーラのニクスへの扱いは容赦無い。
「はー、」
ニクスはすかさず肩を落とす。
そしてたどり着いた森の中の開けた場。泉が有り、まわりには大きな木の生えていない草原なんだろうか花畑なんだろうか。
「あっちに珍しいものが有りそう、」
そう言いながら小走りになるシーラ。
なんだか向かう先に指を指している小さな妖精さんが何人か見えるような見えないような。何回も目にした後景だが何回見ても慣れないなあ。いつかは慣れるんだろうかなどと考えながらそちらの方向に、こちらはゆっくり歩いて向かうニクス。
当たり前との態度でついて行くカナタ。
「これはまた。こんなんこれだけの量が有ったら今度の街の滞在費くらいにはなるね。」
視線の先には貴重な錬金素材になる植物が。
これなら俺も知っている。えーと、なんの材料だっけなどと考えているニクスの視界にはまだぼんやりと妖精さんが見えるような見えないような。なんか、自分に向かって微笑んでるようにも見えるような見えないような。
まったく素敵な場所である。滞在中にもう一回くらいここにこようかなどと考えながらカナタは採集をつづける。中央の泉の水さえ何かの効果が有りそうなのでそれなりの量を入れ物に詰めていく。一人につき大容量のマジックバッグを1個支給しているのでこれくらいで容量はびくともしない。
ああ、この芋虫はあれの材料になるなあ。あ、この石は、石すらお宝かよなどと暗くなるのも忘れて材料採集中のカナタ。それを見て今日の寝場所はここになるのかなとテントその他の野営準備を始めるシーラとニクス。
と、不意に目に見えない緊張感が走る。いやぼゃっと姿見えるか見えないかの妖精さん達がなんだかとっても真剣な表情でニクスに向けて一点を指差しているように見える。
「ねえねえ、大将、なんかがこっちに向かってるみたいなんだが。」
ニクスが声をかけると、
「さすがにニクスの出番かな。でも、アレなら一人でいけるでしょ。」
カナタの返事に
「待ってました、」
いつの間にか手には剣が握られている。今回の採集で仕舞いっぱなしで一回もマジックバッグから出さなかった剣が。そういや今回だけじゃないな、剣なんか出すのはいつぶりだろうなんて余裕でゆっくりと森の奥に向かっていく。
三日間ぶりに正門前の前に立つ3人。夕飯は残っているんだろうか、ロンザのことだから残って無くてもなんか出してくれるだろう。なんて考えながら正門を潜る。
街にはゆうげの香りが漂い始めて、暗くなるには少しだけ早い空には気の早い星が瞬いている。




