朝なんとか
まだ薄暗いなかでひとり掃き掃除をしているクオン。クオンはいつも早起きだ。
「おはよう、お嬢ちゃんもこのキャラバンの人かな?」
声をかけて来たのは隣の区画にテントを張る行商人。
「おはよう。……、そうだよ。」
答えるクオンにさらにお隣りさん、
「そっちもしばらくここにいるようだしお隣りさんどうしよろしく頼むよ。」
クオンは
「うん、よろしく。 ところで朝食はいかが?」
暗くて気がつかなかったがすでにテーブルがいくつか出されていて、食べ追わった食器が置きっぱなしで乗っているテーブルまである。
「こんな早くに商売を始めているのか?」
いかにもあたりまえのように返すクオン
「そうだよ、」
少し考えてからお隣りさん、
「昨日のお茶も出てくるのか。ひとつ頼もうか。」
「昨日のお茶がどれだかわからないけど……、」
などと言いながら準備を始めるクオン。近くに停めてある荷車に商売用のキッチンセットが載せられている。空いているスペースにはセーラが丸まって寝ている。作業の物音にまったく反応しない。微動だにしない。
出された朝食を食べ始めたお隣りさん
「こりゃうめえな、ここに居る間は他に行けなくなるな。」
「うちのコックは世界一。」
「コック?」
「うん、なんだかわからないけど、みんな、ケイコクだったかな、言ってる。」
「確かに美味えな。金と時間が有ったらやられてるかもしれねえ。」
は、お隣さんの独り言。 、なのか、頭のなかで考えただけなのか。
それでも表情にはあからさまに出ているわけで、それを感じとって、ふんすっ、と音がでそうな勢いでクオンが答える。
そうこうしているうちにメンバーがぼちぼちとテントや馬車から出てくる。
「あいかわらずクオンは早いな。」
声をかけてきたのは料理人のロンザ。
「おはよう。ニクスはマスターとシーラについて行ったから作る量を減らしたほうがいい。」
とのクオンの報告に
「結局、ついて行っちまったのか。あいつは食うからなあ。教えてくれて助かるよ。」
それには答えず、
「姫がまだみたいだからエサやってくる。」
騎獣のもとに向かうクオン。
「みんな起き出したみたいだし客が来たら誰かが店は見るだろ。」
クオンに言っているのか独り言なのかロンザ、
ポツリとお隣りさん、
「いい子だなあ。」
すっかり居着いてしまったのか食事が終わっても席を立つ気が無いようにくつろぐお隣りさん。
「……、」
無言のロンザにお隣りさん、
「そういや昨日の娘が見えないようだが、お姫さんのほうじゃなくてあの娘より少し上くらいの。」
「昨日の今日でずいぶんうちのメンバーに詳しいようだが。シーラなら2、3日帰らないぞ。外に薬草を採りに行った。」
ロンザの答えに驚いたように
「へー、あんな小さいのに大丈夫なのか。」
「うちは薬品も扱うからな。植物はあの娘が一番くわしい。あの娘は森が友達だ。それに大人もついて行ったから大丈夫だよ。」
「そういう問題でも無いと思うんだがなあ。」
とぼやくお隣りさん、
そうこうしているうちにキャラバンのメンバーが動きだす。
ごっついマキシムが飲食コーナーの後片付け。食器がとても小さく見えるがそれを器用に洗っていく、人一人分の茶碗か小指一本で磨いても力だけでくずれそうなわりに原形をとどめた上での仕上がりがとてもきれいだ。
今日は姫ことティーナが寝坊をしているから彼女がいつもやっている餌やりにクオンがまわっている。ああ見えてもいつものティーナは2番目くらいの早起きだがたまに限度を超えた朝寝坊はするが。だからいつもより餌やりがかなり遅れている。他の誰かがやってもいいところだがみんな起きぬけでまだ家畜にまで気がまわらない。みんなお腹をすかせているだろうから早くやらなきゃと。クオンはいい子だ。
ロザンも馬に飼い葉をやりに加わって。小さなクオンに大きなウォーホースはさすがに手にあまる。決して危ないという意味ではないし言うことはよく聞く。魔獣だから気性が荒いと言われているわりにここの子達はみんないい子だ。さらにクオンとティーナには輪をかけて当たりがいい。しかし、クオンにはいくらなんでもちとデカい。
いつまで居座るのかとの視線の先にはいまだに飲食コーナーでくつろぐお隣りさん。追加注文は一切無い。彼の後にお客は一組も来ていないから誰も文句は言わないが。
そんな視線を知ってか知らずかお隣りさんはどこ吹く風と口を開く
「昨日のお茶も美味かったが、今日のもなかなかだな。良かったら仕入先を教えて欲しいんだが。」
「遠いですよ。」
と答えるのはメアリー。
「こっちもかよ。」
などとのやりとりをしていると、何やら向こうのほうがが少し騒がしい。何かのトラブルだろうか。
当の騒ぎの場所では、何やらチンピラが二人で食べ物売りに因縁をつけているようだ。そこに割って入って来たのは小さな小さなクオン。
「お嬢ちゃん、どうしたのかなあ。」
「あぶないからあっちに行ってようね。」
小さな娘と凄むチンピラ二人にクオンはボソッと
「弱いものいじめは良くない。」
クオンの言葉にチンビラは、
「あのね、子供だからって……、」
子供相手にさらに凄もうとするチンピラの声が止まる。クオンの後ろに無言のプレッシャーが、
執事服をまとったイケオジが、いやまだまだオジの年齢では無いウイルが無言で直立している。穏やかめな表情なのに何故だかとてもおっかない雰囲気が流れ出ている。
「……、」
「まあ、なんだ、そろそろ行こうかな、」
捨て台詞も忘れて立ち去って行くチンピラふたり。
「ありがとうね。」
しゃがんで目を合わせてお礼を言うのは露店の店主。
「ホットドッグのお返し、美味しかったから。」
その後、ひと通りのやり取りを終えて自分たちのキャラバンに向かうクオンとウイル、
「いつの間に知り合ったのですか。」
ウイルの質問に、
「今朝ホットドッグをもらった。あそこのは美味しい。それに、この街で一番最初のお客さん。」
「早起きはなんとやらですね。」
にこやかに答えるウイル、
二人が向かうキャラバンには誰が準備したのかゴザの上に商品が並び始めている。
お隣りさんはまだくつろいでいる。
ロンザの作る朝食の臭いが流れてくる。
ティーナがやっと馬車から出てき。まだ身支度が出来ていないようだ。寝癖が、
馬車のうえには大の字のケール。
あたりはすっかり明るくなってキャラバンの一日が始まる。




