三月(3-4)
三月(3)
魔王ダークエンドは、『破壊と再生』の概念が実体化した最悪の存在だ。
すべてを無かったことにして、初めからやり直しを強要される。
それは、世界の終わりに出現する、バッドエンドとも呼ばれる魔王だった。
どろりとした闇色の粒子を滴らせた、人々の思い描く邪悪な怪物だった。
体長、約十メートル。
背中から尾にかけてギザギザの鋭い棘が生えている。
金の瞳に鋭い牙、強靭そうな顎。
側頭部からはねじくれた四本の角が伸びている。
体表は漆黒の鱗に覆われている。
背にはこうもりめいた被膜のある黒い翼。
誰かが言った。
「魔王ダークエンド。本当に存在したのか……」
アーサー様やランスロット様をはじめとした、男性たちが震えている。
主人公マリア嬢やディアナ嬢も蒼白な顔で硬直している。
まさに、魔王ダークエンドは恐怖の象徴だった。
だが、勇者ユーリが立ち上がった。
「よし、今度のレイドボスは強そうだな!」
ちょ、ちょっと待って、ユーリ君!
魔王ダークエンドは、そんじょそこらのラスボスとは違うのよ!
そもそも、イベントシーンなのに、普通に殴ろうとしないでくれるかしら!
そして、アーサー様の親友ケイが立ち上がった。
「あー、俺はラノベの主人公ほど強くないぞ」
ラノベって……。
ケイ、そしてユーリ君は、異世界転生者で中身は日本人で確定ね。
あぁ、異世界転生者は私だけで無かったのね。
そう思ったら、少し気持ちが楽になってきた。
ならば、流れに乗りましょう。
「皆さん。魔眼の魔女の手助けは必要かしら?」
魔女の私と出会ったことを忘れているアーサー様とロイド様が驚いている。
そしてランスロット様が、蒼い顔で私を見詰めていた。
今まで本当の事が言えなくてごめんなさい。
でも、今は私の力が必要でしょう?
魔王の恐怖を祓うには、『魔眼:人心操作』の力が必要だ。
『皆さん聞いて下さい。「大事な人を護りたい」そう思う心があれば、魔王ダークエンドは倒せます。絶望のバッドエンドを乗り越えるため、皆さんのお力を貸して下さい』
私は、魔眼を発動した。
『魔眼:人心操作』は、非常に使いづらい能力だ。
私にできることは、人の欲望や感情を増幅して、そっと背中を押すだけなのだ。
「グインネヴィア嬢。今は、礼を言おう」
ランスロット様が立ち上がった。
「これが魔眼の魔女の祝福か……」
そして、アーサー様をはじめとした人たちが、魔眼の効果と『大事な人を護りたい』という心によって、魔王に対する恐怖心に打ち勝ったのであった。
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三月(4)
私は、このゲームをプレイした記憶の中で、魔王ダークエンドを倒したことは一度も無い。
そもそも、『イベントシーンのラスボスを倒す』と、いう発想すら無かったからだ。
ならば、やってみる価値はある。
私は、祈祷と呪いを得意とする、強化と弱体化の魔術師だ。
「先制攻撃は私が貰います『ディスペルマジック』」
私は、魔王ダークエンドを対象に魔法解除を詠唱した。
そのような翼で、十メートル級の巨体を浮かせることができるはずが無い。
両翼から発生していた浮遊の魔法が解除されて、魔王ダークエンドが落下した。
次いで、複数の支援魔術を同時に詠唱した。
『アーマー』
『シールド』
『ヘイスト』
『ストレングス』
「ナイスアシスト!」
いつの間にか魔王の足元に走りこんでいた勇者ユーリが、支援魔術で加速した魔法剣で魔王の片翼を斬り落とした。
「魔王に挑むは騎士の誉れ。騎士たるもの、勇敢であるべし!」
そう言って、魔王に駆け寄ったのは、ランスロット様だ。
水属性の魔法剣で残った翼を傷つけた。
これで、もう魔王ダークエンドは飛行できない。
ロイド王子とディアナ嬢が攻撃魔術を詠唱して、魔王ダークエンドに着実にダメージを与えている。
最後に、アーサー様が少年の頃にうっかり引き抜いてしまった聖剣を呼び出した。
「選定剣よ、 邪悪を断て! 」
選定剣から発せられた光が、魔王ダークエンドに直撃した。
魔王は光に包まれて消滅した。
そして、逆回しに再生する。
「魔王が復活した!?」
魔王ダークエンドは、倒せることがわかった。
でも魔王は『破壊と再生』の概念が実体化した存在だ。
おそらく、何度でも再生する。
どうしよう。
一体、どうしたら魔王ダークエンドを完全に討伐できるの?




